琉球放送株式会社様は、同社の主力業務の一つであるスポーツ中継・収録用に、新たにマルチフォーマットポータブルカメラHDC-4300、ベースバンドプロセッサーユニットBPU-4000によるカメラシステムを2式と、リプレイシステムにマルチポートAVストレージユニットPWS-4500を導入され、2016年3月より幅広いスポーツ中継に本格運用を開始されました。
同社 テレビ本部 技術局 技術部 部長 大城宏幸様、技術部 池田龍丙様に、今回のシステム導入の経緯やコンセプト、機種選定の決め手、運用状況と成果などを伺いました。
なお、記事は9月下旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。
HDC-4300とBPU-4000を2式導入。HD中型中継車に搭載のカメラコントロールユニットHDCU-2500と接続することでバスケットボール、ゴルフ、野球、サッカーなどのライブ撮影に本格運用中です。
スポーツ番組の制作は、当社の主力業務の一つとなっており、近年ますます増えていく傾向にあります。これまでマルチフォーマットスイッチャーMVS-8000やマルチフォーマットポータブルカメラHDC-1000 / 1500を搭載したHD中型中継車を使用し、スポーツ中継で欠かせないリプレイシステムにはHDCAMやXDCAMを使用してきましたが、昨今、オペレートのしやすさや現場での簡易編集が可能なことなどからサーバー運用が主流となってきましたので、当社でもサーバーによるリプレイシステムへの更新を検討することにしました。
また、地上波放送では直近の課題ではありませんが、2020年に向けて本格化すると想定される4K制作も対応可能なシステム構築が必要との考えから、従来のHD制作を継承しつつ4K制作にも対応できるカメラシステム、リプレイシステムを選定条件としました。
そうした条件を満たしてくれると評価したのが、ソニーのシステムでした。HDC-4300+BPU-4000のカメラシステムとPWS-4500による収録・リプレイシステムは、主力であるスポーツ中継・収録に威力を発揮してくれるという期待感がありました。たとえば、HDC-4300はB4マウントレンズ対応なので従来からのレンズ等の機材をそのまま運用できますし、HD中型中継車に搭載したカメラコントロールユニットHDCU-2500を接続してシステムカメラ運用も行うことが可能です。
さらに、PWS-4500との連携でHD最大8倍速のスーパースロー映像が可能になる点も非常に魅力的でした。これまでにない迫力と臨場感に富んだスローリプレイが可能になると評価しました。
また、PWS-4500については4K/HD制作のスタンダードフォーマットとして普及しているXAVCフォーマット採用という信頼感もあります。プロダクションコントロールステーションPWS-100PR1との組み合わせで幅広い4K/HDライブ制作をサポートするサーバーシステムとなっている点も採用の決め手の一つになっています。
スロー運用で使用するUSBコントールデバイスPWSK-4403もこれまでHDCAM運用で使用してきたダイナミックモーションコントローラーDTR-3000と同様の操作性、使い勝手を継承しており、ストレスを感じることなく運用できる点は魅力でした。
収録、リプレイシステムにPWS-4500とPWS-100PR1、PWSK-4403を採用。幅広いスポーツのHDライブ制作をサポートするリプレイシステムです。
今回導入したシステムは、2016年3月から本格運用を開始しました。半年余りの期間でバスケットボール、ゴルフ、野球、サッカーなど8件のスポーツ中継・収録に運用しています。HDC-4300の高感度、低ノイズ、広色域のハイクオリティーな映像、すみずみまで映し出す深い被写界深度はスポーツの撮影に適しています。また、屋内競技で倍速撮影する際にゲインアップしなくても光量が落ちない点も魅力です。
そして、これまでの運用で最も好評なのが最大8倍速撮影が可能なHDスーパースローモーションです。バスケットボールではロングレンジでのシュートリリースにおける指先のかかり具合やダンクシュートのパワフルな映像、ゴルフではバンカーショット時の砂が舞う瞬間、野球ではピッチャーの投げる球種による球筋、回転の様子や捕球時の瞬間など、一瞬一瞬を高精細に滑らかにリプレイすることができます。このリアルで迫力に富んだリプレイ映像はこれまでに体験したことがないものでした。
また、PWSK-4403を2台使用することで、より柔軟なスローリプレイ運用ができることもスポーツ中継では威力を発揮していると感じました。さらに、スポーツ中継で欠かせないハイライト編集もこれまでは本社で行っていましたが、中継現場でできるようになりました。より臨場感に富んだハイライト映像をタイミングよく送出できるようになった点は、番組の魅力向上やワークフローの改善に貢献していると実感しています。
持ち出し運用時のオペレーション風景。PWSK-4403による柔軟なスロー運用、監視・管理が可能なこと、さらにスポーツ中継などで欠かせないハイライト編集が撮影・収録現場で行える点などもコンテンツ制作に威力を発揮しています。
運用はこれまでと同様にHD中型中継車に搭載しての持ち出しです。2台のHDC-4300と従来のHDC-1000 / 1500との連携で最大13台のカメラシステムを使ったケースもありますが、大きなトラブルもなく安定した運用ができています。操作性の継承も含めて、スタッフ、オペレーターがストレスを感じることなく運用できている点も好評です。
今後、空手などの競技を含めてスポーツ番組の中継・収録が増えていく予定なので、その魅力を高精細なスローリプレイ映像で伝えていきたいと思っています。
今回導入したカメラシステム、収録・リプレイシステムは、今後もスポーツのHD制作に運用していく予定ですが、運用を通して制作の幅を広げていくことを考えています。たとえば、イベントなどでのVTR送出に活用していくことが想定されますが、そのためには収録素材を効率的に吐き出すための仕組みづくりを進めていく必要があると考えています。
また、4K制作への取り組みも今後の重要課題となります。地上波放送では今後のテーマですが、すでにCS放送やケーブルテレビ、ネット配信、さらに各種イベントでの展示映像などで4K制作のみならず4K HDR(ハイダイナミックレンジ)制作も行われるようになっています。
当社でも、まだ1件だけですがネット配信事業者から委託を受けて沖縄伝統の染色織物をテーマに4K制作しており、2016年10月にも新たに4K制作を行う予定でいます。こうした経緯から、今回新たに導入したシステムを活用して、4K、さらには4K HDRならではの魅力を提供していくことを検討していかなければならないと思っています。スポーツはもちろんですが、沖縄ならではの美しい景観、歴史文化遺産、祭事などの魅力を伝える上で4Kや4K HDRは威力を発揮してくれるのではないかと期待しています。
もちろん、それを実現していく上では対応の機器やシステムを装備するだけでなく、制作を担当するスタッフの技術習得、ノウハウの蓄積が不可欠となります。そのためには、今回導入したシステムを使ってより多くの4K制作に挑戦していく必要があると思っています。もちろん、本格的な取り組みには4K中継車などの検討も必要になるなど簡単ではありませんが、今回導入したシステムを活用して4Kの魅力を体感しておくことは非常に重要だと思っています。
ソニーには、4K、HDR制作をサポートするシステムラインアップの拡充とともに、音声編集やマルチ画面のレイアウト、コントロールデバイスの一層の操作性向上など、スポーツ中継現場の要望に、より柔軟に対応していただくことを期待しています。