ZX2 Professional Review
音質に対するあくなき追求、そしてそれを実現するための限りない情熱。開発者インタビューでも明らかになった「NW-ZX2」の想像を絶する音へのこだわりは、どのように聴き手に伝わるのだろうか? 数多くのジャズ、クラシック作品を手掛け、「日本プロ音楽録音賞」でも数々の受賞歴を持つレコーディング&マスタリングエンジニア、鈴木浩二氏がウォークマン(R)「NW-ZX2」を試聴。音楽制作現場の第一線に立つ鈴木氏が、音楽を聴く悦びを拡張する可能性に満ちた、新たなるフラッグシップモデルの魅力に迫る。
音のエネルギー感の違いをはっきりと表現
──鈴木さんはレコーディング/マスタリングエンジニアとして数々の作品に携わっていますが、エンジニアとは普段どのような作業をしておられるのでしょうか?
アーティストのレコーディングに立ち会い、アーティストが意図する音の表現を具現化する手伝いをしています。スタジオで収録した音が最終的にリスナーの耳に届くときにどのように聴こえるか、どのような機器で皆さんがお聴きになるかといったことも踏まえ、さまざまな環境を想定したうえで音作りを行ないます。また最近では、従来のCD音源や圧縮音源だけでなく、ハイレゾが広く浸透してきていますので、ハイレゾが持つ高精細で臨場感あふれるサウンド作りを日々行なっています。
──アーティストが生み出す音に直接触れるレコーディング、マスタリングエンジニアとして、『NW-ZX2』の音はどのように聴こえましたか?
音の奥行きや立体感がこれまでのハイレゾ対応のポータブルプレイヤーよりも、さらに一歩も二歩も踏み込んで進化したようで驚きました。楽器の大きさがわかりやすいですね。弦楽器で言いますとコントラバスはコントラバスらしさ、ヴァイオリンはヴァイオリンらしさが出ている。違う楽器ですので同じ音像ではおかしいわけで、それぞれの音色や持っているエネルギー感の違いをはっきりと受け止めることができます。どんなジャンルの音楽も高品位に再生すると思いますが、特に弦楽器が入っているような落ち着いたタッチの音楽を得意としているように感じました。
──ヴォーカルの表現力についてはいかがでしょうか?
レコーディング・スタジオのコンソールの前で感じるような、あたたかみや張りを再現できていると思います。強弱のニュアンスや息遣い、艶やかさなど、声本来が持つ力をそのままダイレクトに聴き手に届けられると言っていいんじゃないでしょうか。
音が視覚化されるような圧倒的な表現力
──『NW-ZX2』で可逆圧縮、DSD、ハイレゾの3つのフォーマットの音源を試聴していただきましたが、それぞれの印象をお聞かせください。
まず可逆圧縮、CDの音源ですが楽曲全体の重みや質感、空気感が鮮烈ですね。ひとまわり音像が大きくなったような印象を抱きました。ドラムを例にしますと、キックドラムのふくよかさが良く表現できていると思います。音の輪郭が平面ではなく、後ろにも広がっていて、奥行きをしっかりと演出していますね。タムタムの音が流れるように変化する過程も耳を通して、脳内で視覚化されるようです。全体に立体感が出てきますと、おのずと歌や楽器の位置も浮かび上がってきて、演奏者の位置が見えるようになってくるんです。
──その高解像度はまさにDSEE HXの本領発揮と言えそうですね。DSDはいかでしたか?
DSDには“スローロールオフ”と“シャープロールオフ”の2つのデジタルフィルタが用意されているんですね。ウォークマン(R)は誰でもすぐに手軽に音楽が楽しめる汎用性がありますが、こうして好みで音を切り替えられるような拡張性があるのもウォークマン(R)ならではの個性であり、魅力だと思います。DSDならではの空気感や立体感が伝わってくるのはもちろん、力みのない自然な音像が浮かび上がってきますね。アコースティック楽器と歌の組み合わせの音楽ですと、DSDの恩恵を最大に享受することができそうです。“スローロールオフ”は弦楽器などの繊細な表現をうまく引き出していますし、“シャープロールオフ”はキレがあってエネルギッシュな音の鳴りを実現しています。ジャンルによって切り替えて聴くとおもしろいんじゃないでしょうか。
──ハイレゾはまた印象が違いましたか?
高精細でリアルですね。弦楽器の弦がこすれているところまで感じ取ることができますし、定位感もすばらしい。艶やかさのある声ですとハッとさせられます。録音した際、弦楽器や管楽器とマイクとの距離がリアル感を演出するんですが、その臨場感がしっかりと出ている。まさにハイレゾが持つ特色や魅力を余すところなく引き出していると思います。
音質を追求した厳選の素材と開発者の熱意
──『NW-ZX2』では、開発者が相当なこだわりを持って開発をおこなったと聞いています。
そうでしょうね。新規で専用開発された電池パックやアンプ部分の電源強化、素材を厳選したプリント基板、金メッキを施した銅シャーシなど音質を追求した素材を惜しみなく投入したり、構造を追求したりと、想像を絶するこだわりを感じました。銅板やコンデンサを厳選すると、こんなにも音が違ってくるんですね。相当な時間と労力を費やされたことは想像するにたやすいですが、その裏にある熱意が音へと結実していることをあらためて認識しました。
──ハイレゾの配信環境が整ってきたことや、『NW-ZX1』や『NW-ZX2』といったハイエンドクラスのポータブルプレイヤーの登場によって、鈴木さんたちがレコーディング・スタジオで耳にしている音に限りなく近づいてきているのではないでしょうか。
ぼくらはアーティストやプロデューサーと一緒に音を作っていますが決して自己満足ではなく、聴き手の方々にすばらしい感動を届けたいという思いで作っています。音質はその感動に欠かせない要素です。ですのでハイレゾの配信や再生環境が整ってきたことは最高にうれしいですね。アーティストやぼくらがこだわった部分や表現したいことをハイレゾは伝えてくれますし、聴き手との新たなつながりも生んでいると思うんです。
たとえば、CDで持っていてずっと聴いてきた作品をハイレゾで聴き直したら、今まで聴こえなかった音が聴こえてきたりと、新鮮な感動をもたらしてくれる。奥行き感が出たり、高域が伸びたりとマスターに近い音を届けることができるようになったおかげで、また違った表現方法が可能になってきたわけで、わくわくしています。ハイレゾ向けのマスタリングも必要になってきますから、仕事量は増えていますが(笑)。
ハイレゾが可能にした新たなる音の表現
──ハイレゾの登場、普及はそうした音作りの意識の変化ももたらしたと言えそうですね。
ハイレゾで表現可能となった音の広がりを意識しますし、特にマスタリングではリスナーが聴く実際の環境まで考えながら作業を進めています。ですので、狙う音作りが増えたと言えますね。それまではCDフォーマットでいかによく聴こえるかというせめぎ合いと切磋琢磨の日々でした。ハイレゾやDSDで届けたいものがそのまま届くという方向になってきましたが、まだ主流はCDですのでこれまで培ってきたCDでいかに良く聴かせるかというテクニックや手法はこれからも必要となってきます。フォーマットや聴くデバイスやヘッドホン、スピーカーが変わっても、アーティストが意図する音に限りなく近づけるのがぼくたちの仕事ですから。
──今後、マスタリングした音を『NW-ZX2』でチェックすることになりそうでしょうか。
そうなるでしょうね。今も『NW-ZX1』でチェックしていますし、普段でも使っています。『NW-ZX1』の登場でポータブルオーディオプレーヤーに対する印象がガラッと変わりましたが、『NW-ZX2』はその後継モデルというよりはまた別のライン上にあるモデルだと感じました。それぞれ得意とするジャンルがありますし、出る音の好みによって選ぶことをオススメしたいですね。これからも『NW-ZX1』が販売されていくというのは、つまりそういうことだと思います。
──『NW-ZX2』の登場によって、さらにハイレゾ対応のウォークマン(R)のラインナップにさらに幅が出ました。これからハイレゾを楽しんでみたいという方にその魅力をお伝えしてもらえますでしょうか。
ハイレゾが盛り上がり、ラインナップが充実していくに連れて、開発者のみなさんもさらに力、熱が入ってきているなとは感じます。意見を聞かれる機会があった際も、以前よりもより真摯に聞いていただいているなということが伝わってきます。 これからハイレゾの音に触れるという方は、まずアコースティックで楽器の少ない音楽、たとえばジャズのコンボやトリオをおすすめですね。ひとつずつの楽器の表現力がはっきりと描き出されますので。また、悲しい歌ならば悲しみが、元気な歌ならば気持ちも上がっていくとか、そうしたアーティストの思いがリアルに伝わってくるはずです。ぼくらもその思いを聴き手のみなさんにダイレクトに届けられるように日々努力しています。その手段として、ハイレゾやハイレゾ対応の再生機器はもはや欠かせないものとなってきていますので、ひとりでも多くの方に触れてもらいたいですね。
鈴木 浩二 レコーディング&マスタリングエンジニア
1985年、レコーディングエンジニアとしてソニーミュージックに入社。1995年から本格的にマスタリングを始める。現在はアコースティックを中心としたレコーディングを多く手掛けている。マスタリングではチーフエンジニアとして、国内新譜から、ジャズ、クラシックのリマスタリング等、幅広いジャンルで仕事をしている。日本プロ音楽録音賞では最優秀賞・優秀賞を複数回受賞。
ウォークマンZXシリーズ
NW-ZX2
磨き抜かれた、高音質技術の結晶