商品情報・ストアヘッドホン The Headphones Park 開発者インタビュー MDR-XB900 開発者インタビュー PART1

Engineer's Interview MDR-XB900 開発者インタビュー PART1

新EXTRA BASSシリーズは、
空前のヘッドホンブームの真っ只中に満を持して登場した。

取材:大橋 伸太郎

今や世界中の男女、老いも若きも<ヘッドホンに夢中>である。ことに日本では本当に久しぶりにオーディオ機器が時代の寵児になった感がある。iPodを始めとする携帯音楽プレーヤーの普及が背景にあったことは事実だが、それはあくまできっかけにすぎない。今やインドアで音楽を聴くときもヘッドホンがパートナー、というリスニングスタイルが定着しつつあるのだから。ヘッドホンにオーディオの新しいうねりを見るのは筆者だけでないはず。
空前のヘッドホンブームの真っ只中、すでに紹介したインナーイヤー型から遅れること3ヶ月。ソニーの人気機種である重低音ヘッドホンEXTRA BASSシリーズのオーバーヘッドバンドタイプが四年ぶりにモデルチェンジ、フラグシップMDR-XB1000は継続だが、新たにMDR-XB900/600/400が登場する。ソニーはいうまでもなくこの分野で世界のリーディングメーカーの一社であり、オーディオ機器はもちろん、傘下にレコード会社や配信の会社も持つ音の総合メーカーである。そのソニーが満を持して送り出した最新の自信作のうちの一つがMDR-XB900/600/400なのである。新しいEXTRA BASSシリーズの開発ストーリーに「いま、なぜヘッドホンの時代なのか」の秘密が隠されているに違いない。

開発チームへのインタビューに先立って、新EXTRA BASSシリーズのフラグシップMDR-XB900を自宅で試聴した。50mmの振動板口径を前作MDR-XB700から継承してコンパクト化した印象。折り畳めて携帯しやすいことが特長の一つだ。 装着もとても楽。デカ頭の筆者でもスムーズにフィット、しかも耳に優しくフンワリと一体化する感じである。音を出して何より鮮烈だったのは、高域の伸びと透明感。ピアノが粒立ちよく一音一音に切れ味がある。実に汚れのないブリリアントな輝きを放ち、それが厚い低域とコントラストを形作り、スケール豊かな音楽を聞かせる。S/Nのよさも際立っている。密閉型ならではの遮音性のよさもあり音楽に没入させるヘッドホンである。音の小宇宙がここにあるといっていい。大きく、濃く、心地よい音と表現すれば分かるだろうか。

「三年前に初代重低音EXTRA BASSシリーズを始めて発売した時私が音響担当を務め、オーバーヘッド型とインナーイヤー型の両方を手掛けました。」と語るのは、PI&S事業本部PE1部2課の松尾伴大さんだ。

松尾伴大氏

ソニー PI&S事業本部PE1部2課 松尾伴大氏

「EXTRA BASSシリーズの場合オーバーヘッド型もインナーイヤー型も音の狙いは同じです。しかし音質でそれを実現する場合、構造上の違いを設計面で考慮しないといけません。インナーイヤー型は外耳道に挿入するイヤーピースを使うので密閉性が高く、低音を出すのに必要な気密を取りやすいのです。その一方ドライバーユニット(振動板)のサイズに限界があります。オーバーヘッド型は大口径の振動板が使えて余裕の低音再生が出来ますが、装着状態によっては空気の漏洩によってローエンド(低域の下限)が出なくなります。装着を改善して気密をとる工夫をしなければいけません。目指す音は一緒でもそこに向かう道が違う難しさがありました。」

「初代のEXTRA BASSシリーズを作った時、クラブに通うコアなダンスミュージックファン向きの製品というマーケティング企画意図があり、そこに絞った音作りをしたのですが、意外にも一般の音楽ファンのお客様が購入されるケースが多かったのです。それから三、四年が経ち、ヘッドホンユーザーの裾野が広がり、ダンスミュージックの低音ビートを重視した音作りがJ-POPやK-POPに取り入れられるようになりました。
二代目EXTRA BASSシリーズは幅広い層を狙っていますが、初代が目指したコアな音作りとの乖離があるかというとそうでもないのです。コアな音楽に求められている音の質が達成できれば、ポップミュージックに応用されている部分も上手く表現出来ます。今回、コアな音楽での追い込みがポップスにどう生かされるかチェックすることを心掛けました。」
――今回はインナーイヤー型とオーバーヘッド型、別チームでの開発でしたね。
「つねに会話を心がけて音をチェックし合い、双方が目指す所に正しく向かっているかを確認しました。」
――チームが分かれたからには松尾さんにはインナーイヤー型で出来ないことをやってやろう、という気持ちもあったのでは? 語らずもがな、という表情で松尾さんがニッコリ笑って続ける。

オーバーヘッド型

「オーバーヘッド型で狙った一つは低音の重さです。低音のスピード感がEXTRA BASSシリーズ共通のテーマですが、大きな質量が高速で動くずっしりした手応えのスピード感を追いかけました。35Hz以下の帯域で芯のある低音を出す場合、やはり振動板が大きいほど実現しやすいのですが、新しい三機種の中で最大の(50mm)の振動板を搭載したMDR-XB900がやはりそれを一番達成出来ていると思います。 EXTRA BASSシリーズの振動板素材はソニーの主流のPET素材ですが、EXTRA BASS振動板という特殊な振動板形状で、低域の感度を稼ぐことの出来る柔らかくて複雑な曲率の振動板形状です。アドバンスド・ダイレクト・バイブ・ストラクチャーがEXTRA BASSシリーズの技術CIで、インナーイヤー型では高域レスポンス改善のために振動板前面の容積を広げましたが、オーバーヘッド型は低域の高速化を狙い、振動板前後の容積を単純に増やすのでなく最適バランスに再調整しています。量と重さ、それとスピード感を両立させるためにこの容積調整が重要な役割を果たしました。もう一つこだわったのはイヤーパッドです。実は今回のオーバーヘッド型は振動板でもハウジングでもなく、イヤーパッドから設計が始まったのです。」
――エッ、本当ですか? 
「はい、本当です。」
「オーバーヘッド型はイヤーパッドがものすごく重要で、快適性を実現するものであり同時に安定した音質を実現するものです。特に新EXTRA BASSシリーズの超低音域を再生する場合、(イヤーパッドが)いかに耳に対して気密性が取れるかが重要な条件なのです。付け心地がよくて気密性の取れるさまざまなイヤーパッドを試作しました。サイズを変えたり縫製の仕方を変えたりして時間を掛けて現在の形が採用されました。」
ここからPI&S事業本部PE1部2課の金山信介氏へバトンタッチ。

金山信介氏

「今回『EXTRA BASSシリーズをもっとコンパクトにしたい』というミッションがありました。一番難しかったのがそれです。コンパクトなサイズでいかに気密の取れるイヤーパッドが作れるか、この難題をクリアしないと新EXTRA BASSシリーズは誕生しないと悟りました。それでイヤーパッドから設計に着手したのです。」
確かにMDR-XB900の装着感は絶妙といっていい。
――イヤーパッドは一般的なドーナツ型でなくフラットタイプで耳にピッタリ寄り添いますね。 「ドーナツ型も試したのですが、気密性と快適性、そしてコンパクトネスが得られる点で今回の形状を採用しました。」松尾氏が真剣な表情で引き継ぐ。

重低音ヘッドホン

「重低音ヘッドホンは今やソニー以外にも各社が手掛けるようになりました。他社の製品をすべて試聴して分かったことは、きちんと装着が出来た場合には気密が取れて低域の再生が出来ても、装着が不安定なためにほとんど満足な効果が得られない製品が多いことでした。」
MDR-XB900 の高音質の原点は、何とイヤーパッドにあった。ヘッドホンは人間の耳に密着し聴覚と一体になる唯一無比のオーディオだ。その密着の<質>が音質だったのだ。従来のオーディオ機器はリスナーの外側にあって聴覚と対峙するものだった。その存在感や操作感覚がオーディオの官能領域だったが、ヘッドホンは違う。使い手の聴覚にどこまでも寄り添いフュージョンしていく。その親密さがヘッドホンブームを生み出したのかもしれない。

  • 次のページ
  • The Headphones Park Top
  • Engineer's Interview一覧

商品情報

ステレオヘッドホン

MDR-XB900

スケール感あふれる迫力の重低音。新開発50mmドライバーユニットを搭載したオーバーヘッドバンドタイプのEXTRA BASSシリーズヘッドホン

RELATED CONTENTS 関連コンテンツ

  • 月刊 「大人のソニー」
  • ソニーストア
  • Walkman
  • ヘッドホンの歴史
ヘッドホン サイトマップ