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「私説・大磯百景 撮影録」
一月

「写真を撮ると何が写るか。」この問いに対する答えは、その人がどれくらい写真を撮ってきたか、写真というものにどれくらい造詣が深いか、または、どれくらいマジに写真を撮っているか、によって違うと思います。初心者の方や、気軽にスマホで記念写真を撮っている方にとっては、写真を撮ると写るものは、そのとき目の前にあったものでしょう。しかしこの連載の対象としている中級クラス以上も方にとっては、次の言葉がわかっていらっしゃると思います。

「写真を撮ると自分自身が写る。」

写真を撮るとそこには、撮った人の美意識、興味を持っているもの、興味の持ち様、伝えたいこと、伝え方、などなど、撮った人が丸ごと写っていると言えると思います。同じものを撮っても撮る人が違えば写真は同じものにならない。同じものになってはいけないのです。また違った意味でも、たとえばここに信号待ちをしている小学生がいるとして、小澤の様なジジイが撮るのと、若くて綺麗な女性がカメラを構えるのとでは、その小学生の表情が違う。そういった意味でも写真に写っているのはその小学生だけれども、その表情の中に写真を撮った人というものが写り込んでいると言えますね。

写真は撮る人を写す。これは実はさっき話に出した初心者の方でも、同じなのですが、それに気づいていない、というだけなのですね。しかしそこが写真の一番面白いところだと小澤は思うわけです。

逆に言うと、自分が現れないものを撮ってもしょうがない、ということです。今流行っているから、こういう写真がウケがいいから、という理由では自分は現れない。いや全く現れないというわけではなく、イヂワルに言えば、ただウケたがっている自分というものが写っているわけですが。。。写真を撮り始めて、みんなにうまいですねと言われるようになったら、そしてそこから先に行くのにちょっと壁を感じているなら、まず何を撮るか、それが自分の現れか、ということをもう一度考えなおしてみるといいかもしれないと思うわけです。

今年も一年が始まります。今年一年かけて撮る写真のモティーフを考えてみるといいかもしれないですね。

「大雪の大磯駅」

ほとんど雪などと縁のない大磯町だが、それでも何年かに一度大雪の日がある。いつもは穏やかで日当りのいい町が、降りしきる雪と地表近くの強風で、地吹雪に顔を上げる事も難しい北の国のようになる。まあ本格的な雪国の人には珍しくもないだろうが、3センチ降ってもうろたえる土地柄でこれはきつい。しかしこんな日こそカメラを持って飛び出していくのが写真屋というものなのだった。駅前に出るといつもと全く違う光景があった。この写真は明るくなりすぎないように撮ったが、それはドキュメンタリー性を重視したからだ。もし雪のファンタジーが撮りたいなら、もっと明るくとった方がいいかもしれない。いつも写真にセオリーはない。正しい露出などというものはないのだ。何を表したいかで露出は変わる。構図や画角内に入るオブジェクトも何を表したいかで変わる。どのような物語の配置で写真にするか。人物を入れた方がいいか、どこに入れるか、どんな人が来るまで待つか。そして結局どのような明るさにするか。考えなくてはいけない。

α7R FE 24-70mm F4 ZA OSS 1/125sec F 5.6 ISO 200

「大磯・鴫立庵の雪」

鴫立庵(しぎたちあん)というのは大磯駅から坂道を下り、国道一号線に出たところ、つまり昔の東海道沿いにある茅葺屋根の古い家で、俳句、和歌の聖地として全国に知られた場所だ。平安末期の歌人・西行法師が大磯吟遊の折、「心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立沢の 秋の夕暮」と詠んだと言われ、それにちなんで江戸時代初期、この辺りを「鴫立沢」と名付け、ここに庵(いおり)を結んだのが始まりとされる。普段は気候温暖な大磯の緑に囲まれた庵だが、雪の降る日にはまた違った風情を見せていた。この写真では階段から小さな橋を渡る道をむしろ主人公として、庵は雪化粧した屋根を見せるのみとした。小道には足跡もなく人影もない。それでも人の気配がある。小道にはそういった「不在の在」を表す力がある。今の人でもいい、昔の人でもいい、写真を見る人にこの小道を歩く人影を想像する楽しみを残しておきたいのだ。

α7R Elmarit-M 21mm 1/160 sec F 8 ISO 200

「こゆるぎ浜・雪の残した道」

こんな風になっているだろうと思って浜に出ると、やっぱり白い世界に黒い道が出来ていた。浜は砂や小石なので雪が積もりやすい。そこを白く泡立つ波が洗い、引いてまた打ち寄せる少しの時間に、波寄せ側にどこまでも続く黒い道ができる。遠くは降る雪にかすみ、白い中に道は何キロも先で消えていく。幽玄であった。長野県の諏訪湖に冬、湖面に張った氷がまるで何かが通ったかのように遠くまで割れて盛り上がり、それが神が渡った道のように思える「神渡り」というものがあるが、ここ大磯の雪の日の、これも静かな「神渡り」を見たような、不思議な気持ちになる現象だった。

α7R Elmarit-M 21mm 1/80 sec F8 ISO 200

「西小磯・地吹雪と人」

広い畑の続く西小磯の調整地にいたら、人が通りかかった。深い傘の中、防寒の厚着の中で性別も歳の頃もよくわからない。小澤も降りしきる雪からカメラとバッグを守るので手一杯で挨拶もできなかったので、ますます何の手がかりもない人になった。しかし普段なら気づかなかっただろうこんな日の赤い色の印象深さ。それはその人が、カメラバッグの上にうずくまる小澤の前を過ぎ、後ろ姿になった瞬間に目の中に焼きついた。それでカメラバッグは雪の中にほっておき、すぐ立ち上がって、その印象を撮影した。ワイドレンズはF8も絞ればほぼパンフォーカスだ。カメラを構えてすぐ撮れる。ピントのことは考えなくてもAFより早く撮れる。考えるのは、遠くに見える雪に霞んだ家々の様子と、赤い人のバランス。立ち上がる街灯とコンクリの壁の分量。白く広い畑。そのベストの感じをこの人が目の前にいるうちに写真にすること。それを一瞬でキメなくてはいけない。報告写真でも報道写真でもない自分とその場所との交感の現れた写真を。

α7R Elmarit-M 21mm 1/100 sec F 8 ISO 200

「雪の東海道線」

降りしきる雪を蹴立てて走るなんて、思ってもみなかっただろう東海道線のいつもの列車。これはいつものんびり走っているように見える我が東海道線の雄姿ということで、金網フェンスの間からレンズを入れて撮らせていただきました。構内に入ったりはしていません。ちょうど金網の継ぎ目で支柱がずれているのでこんな風に見えるんですね。こんな写真はルール違反にならないように気をつけて撮りましょう。

α7R FE 24-70mm F4 ZA OSS 1/160sec F 5.6 ISO 200

では今月はここまで。また来月まで楽しく写真しましょう。^^

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