さて、この連載も最終回です。この一年、小澤の住んでいる神奈川県湘南、大磯の四季折々の光景をいろいろお見せしてきました。小澤がこの連載でみなさんにお伝えしたかったのは、一番最初の回に書いたように、「遠くに旅に行くのもいいけれど、実は自分の身近な場所に面白い写真の種がいっぱいあるんじゃないか、自分の場所をもう一度よく見てみよう」ということでした。そして、もちろん小澤がこの「私説・大磯百景」シリーズを撮り始めたのは、そういう理由もあったのですが、もう一つの動機を最後に書いておきます。
写真を撮るということは、実は大変複雑で多種のことを同時に行う行為です。気持ちの持って行き方も無論大事ですし、被写体をよく観察すること、光を読むこと、そして当然、ケースによって変わるカメラのオペレーティング。これらを瞬時にやってのけないと、決定的瞬間を写真にすることはできない。そしてそれは、頭で考えたり本で学ぶだけではできるようにならない。たくさん撮って、撮って撮って、やっとやれるようになるわけです。しかも、ここが大事ですが、その身に付いた技術というか、やり口は、たった数日カメラを手にしないだけで確実に衰えていきます。
もうわかりましたね(笑)。 小澤が自分が住んでいるところを撮るのは、仕事での撮影がしばらくない時に、腕が落ちないようにするためのエクササイズでもあるのです。ただ、エクササイズをするだけではつまらないので、というか、練習のための練習では、感覚はやっぱり鈍ってしまうので、エクササイズと言っても、マジに物事に心動かし、マジに想いを持って、それを写真に定着させていきます。カメラが自分の手にしっかりくっつくようになります。手につくだけではない。手のこっちには心がありますからね。手(テクニック)を通して心にくっつけなくちゃいけない。
皆さんも自分の身近なものを写真にすることをしてください。遠くに行かなくても「写真すること」と真摯に向き合うことはできます。それが最初の回に書いた、中級の壁を突破するのにいい方法だと思います。
さて最終回は、「私説・大磯百景」番外編として、夏が近づくと大磯の海岸に出て小澤がやっている「私と小石」シリーズのお話をします。
大磯に住むようになった頃、海岸出ると小石がいっぱいあることが面白かった。この海岸の名を「こゆるぎ浜」というのだが、きっと沢山の小石が波に小さく騒めくことを言った名前だろう。浜を歩きながら気に入った形や色の小石を拾って、なんとかこれを写真にしたいものだと思っていたが、どう撮ったらいいか、なかなか思いつけなかった。
ただ浜にあるままの石を撮るのでは小澤の気は済まない。何かその石に脚光を浴びさせてあげたい。広い空や海や太陽に負けない存在感をもたせてやりたい。そう思うが、じゃあどうするかはなかなか思いつけない。海に出るたびに、どうやって撮ろうかと考えてばかりいました。 小澤は天才肌ではないので、そんなにパッと何かを思いつけるわけではないですが、ある晴れた日に、「投げて撮ろう。宙に浮かそう。小石は宇宙だ。星と同じく天体なのだ。」と思いついたのでした。
それから、小石に水をまとわせ、自分の手も入れて、撮るようになるのはすぐでした。上に書いたように、これはエクササイズでもあるのだから、連写モードではなく一枚ずつ撮る。水を入れたバケツを足元に置き、石を左手でつかんでその中に浸し、右手で構えたカメラの前に浮かすようにほうりあげる。フォーカスはあらかじめ小石を持った左手を前に伸ばして、そこに合わせておく。しかしやってみると、その同じ場所に小石を投げることは難しかったが、暇があれば浜に行き何百枚も撮っているうちに、石は思うところに浮くようになり、シャッターも絶妙のタイミングで落とせるようになり、面白い水の表情も写せるようになった。
小石も天体である。それを撮るために、夜も浜に出た。この写真は、「月」と「冬の大三角形」と「名もない浜の小石」が直列しているもの。夜の浜は真っ暗で月明かりでかろうじて石が見えるくらいだったが、今のカメラはすごい。写真は綺麗に意図したものになった。これは「名もない浜の小石」の宇宙デビューです(笑)。 そうやって小澤は小石と仲良くなったのでした。
さて、もうすぐ湘南大磯の美しい夏が来ます。夏にはまた夏の思いが小澤にも湧いてくるでしょう。それを写真にしていきます。これでこの連載は終わりますが、小澤はこれからも「私説・大磯百景」を撮り続けます。 皆さんも是非写真を楽しんでください。楽しいことは必ず上達します。また、コンテストやSNSなどで、皆さんの写真を見せていただくのを楽しみにしています。 それではひとまずさようなら。ごきげんよう!!
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