LSPX-S1をもっと知る
夢をかたちにするまでの物語。
グラスサウンドスピーカーのデザインに
込めた想いとは。
グラスサウンドスピーカーでどのような世界を実現したかったのか。
この商品のデザイナーである塩野 大輔氏に、デザインという視点で語っていただきました。
─デザインへのこだわりとか、常に意識していることとかありますか?
塩野:意識していることといえば、お客さまが買ったときにどう使われるかな?をいつも想像しながらデザインを考えています。据え置き商品だったら、家のどういうところに置くのかな?とか、何をしながら使うのかなとか。そういう想像をしながらデザインしていくプロセスを楽しんでいる感じです。またアイディアの源としては国内外のいろいろな分野の展覧会や建築空間を訪ねたりして、デザインの刺激を常に得ることを心掛けています。
─今回グラスサウンドスピーカーをデザインするにあたって、発想の原点となったのは何でしょうか?
塩野:北欧の国々を訪れた時に感じた灯りの表現ですね。
北欧は冬が長かったり日が短い影響でしょうか、光で空間を変えていくとか、光を窓際に置くと町の風景までも変えられるとか、そういう光の表現方法がすごく印象的でした。光ってそのものには形がないのに、周りを照らすことで暖かみを出したり影を出したりというコントロールができて場が作れる。ソニーはこれまで照明機器を作ってこなかったのでなかなかその機会に出会えませんでしたが、いつか灯りの表現ができるような商品をデザインしてみたいというのが原点としてありましたね。
─商品全体的にスピーカーをデザインするときに、どういう存在の商品になってほしいと思いましたか?
塩野:スピーカーでもあるし、灯りでもあるんですけど、ある意味そのどちらでもないオブジェクトにしたかったんです。これを置くと自然と会話が始まる、そういうサインになるような存在となるように意識してデザインしました。
生活を変えるというより、その場にいる人と人をつなぐという感覚。たとえばピクニックにいって芝生の上に敷物を広げると、じゃあそこで休んでって、ちょっとお話ししようかとなるじゃないですか、そんな風に場を作る、何かが始まるきっかけづくりになるものにしたかったのです。要は「かたち」を作るより「空気」を作りたかった。
─ボディーの素材としてこだわった部分はありますか?
塩野:ガラスとかアルミは、高音質にこだわる素材としては最高なのですが、デザイン的な感覚でみると冷たくて堅いイメージなので、温かみを付け加えるために生のシルバーではなく、リッチで豊かな雰囲気が出せるペールゴールドにしました。
また合成レザー素材は手にあたるところなので手に持った時も優しく、テーブルに置くときもカツンという音がせず優しく置けたりと、使ってみて初めてわかる価値だと思いますが、そういった人が直接触れて感じる部分を大切にしています。
─光に関してはどうですか?LEDの素材やデザインに関してこだわった部分や苦労したことは?
塩野:実は光源になにかをかぶせると電球っぽくなるので、裸(素)のLEDの状態で表現するということにとてもこだわりました。このスピーカーの音質自体が「素の音」をものすごくリアルに再現できるので、光も素の良さを引き出したいと思ったのです。また光で暖かさを表現したかったのですが、LEDでその色温度を再現するのはかなり大変でした。細くてなおかつ色温度の低いLEDというものがなかなかなくて、設計者にお願いして世界中のメーカーを探してもらったりしましたね。
光に関しては、つき方や消え方にまで徹底してこだわりました。設計者と何秒かけて消えるのがいいのか、一番心地いい秒数でついたり消えたりするようにタイミングを調整しました。こういうのって数字では言い表せないものなので、「無意識になんだか心地いい」という要素は絶対加えたかったのです。
─音との兼ね合いという意味ではどうでしたか?
塩野:それが一番苦労した部分ですね。言うまでもなくスピーカーとしての命は音質です。形状を変にデザインすると音が悪くなってしまうので、楽器をデザインしているような感覚で進めました。私は当然デザインのこだわりが強かったですが、音響設計者のこだわりも素晴らしくて、お互いいい意味でぶつかりあってどうやってマリアージュさせるのかを探り合う日々でしたね。たとえば下の4本の柱で支えている部分は、私は照明器具に近づけたくて最初はカバーしたかったんですけど、音響設計的にはオープンにしたい。さんざんやりあった結果、双方のこだわりとこだわりが合わさって「スピーカーには見えないデザイン」が実現したように思います。
─音響設計とのやりとりの部分。互いに譲らぬこだわりがぶつかりあって商品ができるってリアルでわくわくしますね(笑)。ぶつかりあうことで新たな発見をしたことってありますか?
塩野:一番上の天板の部分に低音を出すパッシブラジエーターを持ってきたことで、この筒に蓋をする形になったことですね。私は最初は天板部をオープンにしたかったのですが、音響設計としてはスピーカーのエンクロージャーの役目としてどうしても蓋をしたかった。ただ、モックアップ(模型)を実際に作って見てみると、蓋をすることのデザイン的な意味性をだんだん見出すことができたんです。
たとえばボトルシップって、密閉された瓶の中に別の世界がありますよね。ここは海のないところだけど、中では大海原を悠々と走る船、という別の世界があって、瓶の中の空気と瓶の外の空気って、実際は同じ空気だけど、別の世界を作り上げている。これは瓶が密閉されているから表現できる感覚です。今回のグラスサウンドスピーカーでは、そういった感覚のガラスの筒に封じ込まれた別の世界を作り、そこに触ると壊れてしまうような線細工のようなLEDがすくっと立っていることで、再生される音のキャラクターにも通じる繊細なひとつの世界観を創りだせたのかなと考えています。