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商品情報・ストアコンポーネントオーディオSS-NA2ES 開発者インタビュー

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SS-NA2ES 開発者インタビュー | 2006年に「SS-AR1」、続いて2008年には「SS-AR2」が発売された「ARシリーズ」。その音楽性豊かな音色は、多方面から評価を得た。そして、その設計思想を受継いで2010年12月に登場したのが3ウェイ・スピーカーシステム「SS-NA2ES」。深い満足と感動を与える音質はそのままに、幅広い人に気軽に楽しんでもらえることを目指した開発者の加来に話を聞いた。

01 ソニーのスピーカー設計者に自然と受け継がれている「心地よい音」

音楽への強い思いからオーディオ設計へ転換

質問

まず、初めに。スピーカーの設計をしたくて、ソニーに入社したのでしょうか?

アコースティックマネージャー | 加来欣志
アコースティックマネージャー
加来欣志

加来

いいえ違います。半導体のエンジニアとして入社しました。大学では物理を専攻していたのですが、元来、音楽が好きで、就職時期に「オーディオの設計をやりたい」と周囲に相談したところ「仕事と趣味は分けた方がよい」「せっかく学んだことを活かせる仕事をするべき」とアドバイスされ、半導体の技術者として入社しました。ですが、どうしてもオーディオの設計がしたくて、数年後にスピーカーの設計部門に異動する機会を得たんです。

質問

その頃、ソニーはどんなスピーカーをつくっていたのでしょうか?

加来

当時の代表的なスピーカーとしては「LA Voce(ラ・ヴォーチェ)」(直訳で「人の声」)があります。「ラ・ヴォーチェ」は私の大先輩がリーダーとなり設計をしていました。わたしはそのメンバーに加わりましたが、当然スピーカーの"いろは"も分からない状態でしたし、技術的な貢献は出来ませんでしたが、試聴会でユニットの素材を変えたり、形状を少し変えたり、エンクロージャーの木材の種類や組み方を変えると、音がどんどん変わってくのが分かり、とても面白くてスピーカー造りの面白さにのめり込んでいきました。

「AR」─ "心地よい音"を受け継いだスピーカー

質問

「AR」は、その「ラ・ヴォーチェ」の思想を受継いだスピーカーなのでしょうか?

加来

技術的アプローチは違いますが、「AR」で目指した「心地よい音」は、当時の「ラ・ヴォーチェ」の広告メッセージにすでにありました。「私たちは何よりも、心地よい音を目指しました」「自然で、潤いがあって、長く聴いても疲れない音」とあります。この想いは一緒なのだと思います。「AR」で「ラ・ヴォーチェ」を意識したわけではないのですが、「心地よい音」は、ソニーのスピーカー設計者に自然に受継がれている普遍的なテーマなのかもしれません。私も自然と諸先輩方から影響を受けているのだと思います。

質問

それでは、目指す理想の音とは、どんな音ですか?

加来

皆さんも、コンサートホールに行かれたことがあると思いますが、ホールには独特な感じがありますよね。コンサートホールに一歩足を踏み入れた瞬間の、あの、ホール感。タクトを振り下ろす瞬間の息を呑む静けさ。大音響の"Tutti"(トゥティ)、鳴り止まぬ拍手。このコンサートホールで体験できる音楽、感覚を家庭で再現するスピーカーがつくりたいのです。

質問

言葉で言うのは簡単ですが、実際につくるのでは、かなり難しそうですね。

加来

そうですね、実際、「SS-AL5」(1996年発売)から、「AR」につながる色々な試行錯誤をしてきました。同じ部門の設計者が1年単位で商品開発をしているなか、数年単位でじっくり商品設計することに申し訳なさを感じることも正直ありましたが、「継続的に基礎的な開発をすることやそれを活かす商品を生み出すことも必要な仕事だ」という当時の上司の言葉は励みになりましたし、それなくして「AR」は無なかったかも知れません。

"響きのコントロール"のためにこだわった、材料と技術

質問

そんな周囲の応援や協力が「AR」につながっているんですね。実際には、どんなアプローチをされたのでしょうか?

澄んだ音質を実現するエンクロージャーの内部構造(写真はSS-AR1)
澄んだ音質を実現するエンクロージャーの内部構造(写真はSS-AR1)

SS-AR1

加来

先ほどお話ししたように、1996年に発売した「SS-AL5」から「心地よい音」に向けた開発は続いています。もっと言えば、「ラ・ヴォーチェ」の頃からとも言えるかもしれません。「ラ・ヴォーチェ」は箱を盛大に鳴らすタイプのスピーカーで、美しい響きを積極的に音楽に付加していきます。少しやりすぎの感もありますが、声を美しく心地よく再現するアプローチです。一方、「AR」は剛性の高い、響きを最大限に押さえた箱だといえます。スピーカーのエンクロージャーとしての"剛性"と"響きのコントロール"は、スピーカー造りの根幹を成しますが、しかしどんなに剛性が高くても、エンクロージャーは振動し響きを伴います。それは容易に測定できるものではありませんが、人の耳はその微小な響きの差を感じとることができます。その微小な変化を無視しないで、積極的に響きをコントロールすることで心地よい音を実現するアプローチです。エンクロージャーの響きを、人が美しいと感じる響きとするか、不要なノイズとするかで、感じられる再生音に大きな差が生じます。測定器を作っているのではないので、人の感じる感覚をとても大切にしたいのです。

質問

"響きのコントロール"には、さまざまな材料から吟味することは欠かせなかったのですね?

加来

吟味した材料も勘合精度が悪いと、響きをコントロールすることができなくなってしまいますので、日本の最高の技術をもった木工職人さんに加工をお願いしています。スピーカー・ユニットについても、私のリクエストに応えていただけるユニットメーカーにお願いし、最後は、ソニー木更津工場で組み上げています。私の役割は、たとえて言うなら最良の素材(材料と技術)を求める料理人に似ていると思うことがあります。「美味しい料理は良い食材選びから!」です。

質問

材質以外の、こだわった部分を教えてください

加来

はい、「AR」では「心地よい音」を具現化するため、さまざまなアプローチをしましたが、大きな特長の一つが、材質へのこだわりです。木材だけではなく、金属材料も含めていろいろな材料を試した。試作をして音を聴く繰り返しです。試行錯誤の末にたどり着いたのが楽器にも使われている楓(カエデ)材でした。でも、木は工業製品ではなく生き物ですから、産地や伐採時期で響きが異なります。そこで産地をも限定しました。11月に伐採した北海道のある山の楓(カエデ)材に限定することで、想い通りの響きを得る事ことが出来できました。

 

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