AV Watchアワード受賞!「BRAVIA 9」
って
“令和の
PROFEEL PRO”
なんじゃね?
- XRバックライトマスタードライブで、
ロスレスな映像表現を実現 - ソニー・マスターモニターは
映像業界の基準器 - XRプロセッサーとBMDの進化によって、
ブラビアはマスモニレベルへ近づいた - マスモニ志向のBRAVIA 9に相応しい機能
「Studio Calibrated」 - BRAVIA 9は
“令和のPROFEEL PRO”なんだ!
文/ 秋山 真
2024年のAV Watchアワード 液晶テレビ部門には、BRAVIA 9こと「K-65XR90」が大賞に輝き、昨年の「XRJ-65X95L」に続いて、液晶ブラビアの2連覇となった。しかし、昨年と今年では“大賞”の意味合いが全く異なる。今年は有機ELテレビ部門を含めた全エントリーの中でBRAVIA 9が総合得点トップに躍り出たのだ。
昨年のアワードの結論が、「Mini LEDテレビはたしかに明るいけれど、本質的な画質ではまだまだ有機ELテレビには及ばない」というものだっただけに、その状況を一変させるモンスターテレビの出現に、我々は衝撃を受けると同時に、大いに沸き立った。
アワードの記事でも書いた通り、正直なところ、他のMini LEDテレビとは比較にならないほどの完成度であり、有機ELテレビの得点を上回ったのもBRAVIA 9だけ。液晶テレビ部門では、この先しばらく敵なしの状態が続くのではないか? と感じさせるほどの圧勝劇を見せた。
中でも印象的だったのは、BRAVIA 9の「プロフェッショナル」モードの画が、シュートアウトのリファレンスモニターとして設置していた業務用マスターモニター「BVM-HX3110」と非常に似ていることだった。そこで今回、再び比較視聴の場を設け、HX3110とじっくり比較しながら、BRAVIA 9の魅力を掘り下げてみることにした。
そこで気づかされたのは、独自の映画モードである「シネマ」の描写もまた、伝説のディスプレイ“PROFEEL PRO(プロフィール・プロ)”を彷彿とさせるものだったということだ。
熱心なオーディオ・ビジュアルファンであれば、PROFEEL PROの名を知らないものはいないだろう。PROFEEL PROはかつて、ソニートリニトロン管の最高峰ブランドとして君臨。最新の高画質技術と家庭用ディスプレイの領域を超えた表示性能は多くのユーザーを虜にし、今も復活を熱望するファンが多い。
本稿では、BRAVIA 9がいかにしてBVMやPROFEEL PROに迫る画質を実現したのか? その秘密を紐解いていこう。
XRバックライト
マスタードライブで、
ロスレスな映像表現を実現
ブラビアの画質を司っているのが、プロセッサーの「XR」だ。映像処理は「XR Picture」と総称されており、内部は「XR Color」「XR Contrast」「XR Clarity」「XR Motion」に細分化され、毎年改良が重ねられている。
BRAVIA 9の“液晶離れ”した黒の締まりと、残像感が少ないキレのある映像は、まさにこの映像エンジンの賜物であり、「放送」「配信」「ブルーレイ」といったアワードでの審査項目を、終始安定した画質で次々とクリアしていった。
しかし、有機EL超えの一番の立役者は、BRAVIA 9のために大幅強化された「XRバックライトマスタードライブ(BMD)」だろう。
元々ブラビアのフルアレイローカルディミング(FALD)技術は、バックライトの濃淡だけで画面に何が映っているのか分かるほど、その精度には定評があったが、BRAVIA 9では新たにソニーセミコンダクタと共同開発した超小型LEDドライバー(マイクロIC)が実装されたことで、昨年モデルの「X95L」比で、ピーク輝度1.5倍、エリア分割数3倍超と一気にジャンプアップを果たした。
その威力は絶大で、我々が独自に行なった輝度測定でも、APL10%で3,114nit、全白で925nit(いずれもスタンダードモード)という、今年審査した11機種の中でナンバーワンの数値を叩き出しただけでなく、22bit制御という高精度なエリア駆動によって、バックライト方式の弱点であるハローを激減させ、自発光デバイスに迫る局所コントラストを実現している。
ソニーから提供された4,000nitでグレーディングされたサンプル映像を観ても、3,000nit付近まで明部階調がしっかり残っているのが確認できた。これは昨今の高輝度化が著しい有機ELテレビであってもまだまだ到達できない領域であり、そこに色変換効率に優れ、純度の高い波長が得られる量子ドットシートを組み合わせることで、超高輝度でも色褪せることのないロスレスな映像表現が可能となっている。これはWOLED方式に対しての絶対的なアドバンテージだ。
これまではMini LEDのXL95シリーズとQD-OLEDのA95シリーズを両ハイエンドモデルと定義していたソニーも、2024年は「Mini LEDは有機ELを超えるポテンシャルを持つデバイスであり、ブラビアのフラッグシップモデルはBRAVIA 9」とハッキリ明言。それだけBRAVIA 9の画質には自信があるのだろうし、現に我々のアワードでも有機ELを超える高得点をマークしたのだから一定の説得力はある。
しかし、QD-OLEDやMLA-OLEDテレビも日々進化している状況で、この将来まで見据えた発言の拠り所はどこにあるのか? 私はその1つが、ソニーが世界に誇るマスターモニター「BVM(Broadcast Video Monitor)」の存在だと考えている。
ソニー・マスターモニターは
映像業界の基準器
マスターモニターとは、入力された映像信号をありのままに表示し、色域・色温度・輝度・ガンマといった各種パラメータが規格内に収まっているか、クリエイターによる演出や効果が意図通りに表現できているかを確認するための、“基準器”かつ“測定器”となるプロ用モニターであり、主にカラーグレーディングや撮影、編集、品質管理、研究開発、医療、デザインなどの現場で使われている。なかでもBVMの画質には世界中から絶大な信頼が寄せられており、「マスモニ=BVM」というイメージが定着するほど、業界のデファクトスタンダードになっている。
そんなBVMには、1979年のトリニトロン方式のブラウン管を皮切りに、その時代において最適と判断された映像デバイスを採用してきた歴史がある。
例えば、2014年に登場し、エミー賞も受賞した伝説の名機「BVM-X300」には、自社開発のスーパートップエミッション方式の有機ELパネルが搭載され、その神々しい画質でHDR時代の到来を高らかに宣言してみせた。ところが、2018年の「BVM-HX310」では一転、液晶パネルが選ばれることになる。その理由はやはり輝度だった。
BVM-X300もピーク輝度は1,000nitまで出ていたが、それが一定の面積を超えた場合、パネル保護のために光量を強制的に下げる必要があり、全白では150nit程度が限界。そのため制作現場からは、「ピーク輝度のエリア制限を無くして欲しい」という要望が数多く寄せられていたのだ。
とはいえ、通常の液晶パネルでは、輝度は上げられても、有機ELと同じ100万:1というコントラストを確保するのは到底無理な話である。しかもBVM-X300の後継機である以上、1ミリのハローも許されない。そんな無理難題を解決したのが、バックライトと表示セルの間に、調光専用のセル(モノクロ)を挟み込むというアイデアだった。いわば、液晶の2枚重ねである。
この一見、力技ともいえる技術によって、BVM-HX310は全白1,000nit、コントラスト100万:1を見事に達成。何より驚かされるのは、バックライトが常にフルパワー状態で焚かれているにも関わらず、0%ブラックの画面で1画素だけを1,000nitで光らせてみても、その周りにハローが全く発生しないことだ。調光専用セル、恐るべし。
2023年には、バックライトをローカルディミング制御することで、ピーク輝度を4,000nitまで伸ばし、さらには液晶の泣き所だった動画応答性能にもメスが入った上位機「BVM-HX3110」が登場。約10年かかったが、こうしてBVMは名実ともに有機EL超えを果たしたのだ。
BVMの雰囲気に
最も近いのは、
間違いなくBRAVIA 9
AV Watchアワードでも、昨年はBVM-HX310、今年はBVM-HX3110を、液晶テレビ部門はもちろん、有機ELテレビ部門においてもリファレンスモニターとして採用している。審査は各社のテレビをシュートアウトしながらBVMと見較べていくのだが、途中で我々が何度も口にしたのが、「今年もやっぱり液晶ブラビアが一番マスモニっぽいなぁ」という言葉だった。
ただ、テストパターンを用いたグレースケールの測定結果を見てみると、BRAVIA 9のデルタEの値は平均4.3(シネマモード時)で、必ずしもBVM-HX3110と完全一致しているわけではない(測定上は数値が小さいほどマスモニに近く、一般的に3以下になると人間の眼では判別がつかないとされる)。今年エントリーした有機ELテレビの中には平均1.2を記録したモデルもあっただけに、意外に思われる読者もいるだろう。
しかし、液晶テレビにとって天敵とも言える映画『マリアンヌ』のナイトシーンをUHD BDで再生してみると、たしかに黒の沈み込みや、ネオンサインの輝きなどは有機ELに分があるものの、いざ俯瞰で見てみると、BVMの雰囲気に最も近いのは、間違いなくBRAVIA 9なのである。これこそがテストパターンで判断するセンサーの眼と、実際の映像で判断する人間の眼の違いであり、AV Watchアワードが「測定結果」と「主観評価」の両方を重視する理由でもある。
XRプロセッサーと
BMDの進化によって、
ブラビアは
マスモニレベルへ近づいた
今回、本稿を書くにあたり、改めてBRAVIA 9とBVM-HX3110をお借りすることができたので、BRAVIA 9の映像モードを、よりマスモニライクな「プロフェショナル」に設定し、新たな比較動画を撮影した。是非ご自身の眼でその真偽をお確かめいただきたい。
※アワードでも同様の動画をアップしているが、その時は他のテレビと条件を揃えるため「シネマ」に設定していた
マスターモニターとの映像比較【要HDR再生環境】
いかがだろうか? 同じソニーなんだから、似ていて当たり前じゃないかという声もあるかもしれないが、筆者としてはブラビアがBVMの画質を意識し始めたのは、ここ最近のことではないかと考えている。
私は前職で、10数年に渡ってDVDやブルーレイのビデオエンコードに携わってきた。その際、傍らでいつも仕事を支えてくれたのがBVMだった。もちろんユーザーはテレビやプロジェクターで鑑賞するわけだが、一切の脚色を廃したBVMで美しく見えなければ、それは真の高画質ではない。そう信じて、最終チェックには必ずBVMを使ってきた。
ところが、完成したディスクを以前のブラビアで観てみると、指の皮1枚レベルの調整を施したはずの映像が、意図通りに再生されないということが何度もあった。もちろん、これはブラビアに限った話ではないのだが、そうした経験があっただけに、私は長年ブラビアに対し、「同じソニーなのに、なぜこんなにもBVMと画作りが違うのか」と苦言を呈してきた。
今になって思えば、当時のパネル性能ではBVMのモノマネをすることさえ出来なかったのだろう。それが前述したXRプロセッサーとBMDの進化によって、ようやく横並びでも恥ずかしくないレベルの画質にまで引き上げられたのである。
その兆しは昨年のX95LとBVM-HX310の比較でも感じられたが、なんと今年は“元信号を忠実に再現することを重視した”映像モードの名称を、「カスタム」から「プロフェショナル」に変更。これってブラビア開発部隊からBVM開発部隊への挑戦状ではないのか!?
というのは冗談で、最近は両部隊の間で技術交流が活発に行なわれているそうだ。例えば、BVM-HX3110の4,000nitという超高輝度を実現したフルアレイローカルディミング(FALD)も、じつはブラビアで開発された技術が元になっている。これぞまさにOne Sony!! 今後はINZONE開発部隊とも技術交流を行なうことで、ゲーミング性能の向上が図られることにも期待したいところだ。
マスモニ志向の
BRAVIA 9に相応しい機能
「Studio Calibrated」
加えて、ソニーとVODサービス会社の協業により開発された「Studio Calibrated」も、マスモニ志向のBRAVIA 9に相応しい機能となっている。
2024年モデルでは「Netflix画質モード」「Prime Video画質モード」「SONY PICTURE CORE画質モード(IMAX Enhanced)」が用意され、それぞれのVODコンテンツ視聴時に、部屋の環境に合わせた最適な画質に自動調整してくれるという。
実際に試してみると、「Netflix画質モード」でドルビービジョン作品を視聴した場合には「ドルビービジョンダーク」と同等の画質に、「Prime Video画質モード」では全ての項目がグレーアウトしていて詳細を確認できないが、映画作品を視聴した場合には「プロフェッショナル」と同等の画質になるようだ。「SONY PICTURE CORE画質モード(IMAX Enhanced)」については、設定画面上では「シネマ」と同じ値になっていることが確認できた。
リモコンからのON/OFFが可能だが、いずれのモードも各VODサービス会社が所有しているリファレンスモニターがターゲットになっていると思われるため、ディレクターズインテントを重視するユーザーならば基本ONのままで問題ないだろう。
BRAVIA 9は
“令和のPROFEEL PRO”
なんだ!
ちなみに、説明が後回しになってしまったが、「プロフェッショナル」から「黒伸長」を切→中、「ライブカラー」を切→弱、「モーションフロー」を最小→1に変更したのが、BRAVIA 9における「シネマ」の設定値だ。つまり、マスモニをベースに、少しだけ明暗のメリハリを付け、少しだけ記憶色寄りにし、少しだけジャダーを低減した映像が、ソニーが考える“ご家庭での映画鑑賞に適した”画質ということになる。
「プロフェッショナル」の完成度の高さは、先程のYouTube動画で十分に伝わったと思うが、指の皮1枚レベルの薄化粧が施された「シネマ」の画作りにも、私はすっかり魅了されてしまった。ところが、同時に不思議な感覚にも囚われた。
この画、どこかで見た記憶があるぞ。
そうだ、これは「PROFEEL PRO(プロフィール・プロ)」だ。
トリニトロン管が全盛期だった1980〜90年代に、斬新なキュービックデザインと、BVM/PVM譲りの高品位な映像で一世を風靡した「PROFEEL PRO」は、当時のプレスリリースにも「家庭用として最高の画質(当社比)を実現したトリニトロンカラーモニター」と明記されるほど、誰もが一度は憧れた、制作現場と視聴者を繋ぐ架け橋のような存在だった。高価ではあったが、頑張れば手の届く価格であり、何よりマスモニよりも画面が大きいのが良かった。
でも、それってBRAVIA 9も同じじゃないか?
……そうか、BRAVIA 9は“令和のPROFEEL PRO”なんだ!
BRAVIA 9の出現はフラットテレビの歴史の転換点ともなりうる大事件なのである。
PROFILE秋山真
20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫の世話と、愛車のローン返済に追われる日々。