事例紹介
株式会社権四郎 様
株式会社権四郎様は、音楽コンサートの収録・中継の用途に向けたリモートコントロールカメラシステムとして、Cinema Lineカメラ『FR7』とリモートコントローラー『RM-IP500』を2022年12月に導入されました。『FR7』を採用することにより、従来の悩みをどのように解決に導いたのか。同社チーフVE 奥 祐貴 様にお話を伺いました。
当社では、音楽コンサートを中心として、ステージ演出用に使用される大型スクリーンへの映像送出や、DVD・Blu-ray制作のためのライブ収録、生中継・生配信等の制作技術を主力業務にしています。平均で年間300公演ほどを手掛けており、収録から送出までの一貫した対応を強みにしています。もちろん、送出や収録単体の仕事もあります。私はチーフVEとして、それらの技術関係を主に見ています。
今までは、ステージ上に配置するカメラとして、XDCAMメモリーカムコーダー『PXW-Z90』やCinema Lineカメラ『FX3』を使っていました。『PXW-Z90』ではリモートコントロールユニット『RM-30BP』を使うことにより、ズームやフォーカスが遠隔制御できます。しかし、メインで使っているシステムカメラとカムコーダーでは映像の色味が異なるので、改善したいと思っていました。一方、Log撮影やLUT OUTを行うことで他のカメラに色を合わせやすい『FX3』では、カメラマンが入れない場合にはカメラワークが制限されて自分が望む映像表現ができず、悩んでいました。レンズやパン/チルトをコントロールできるカメラとして、従来型のリモートコントロールカメラを使うこともありましたが、カメラとしての画質のほか、レンズ周辺部のキレや解像感、感度の低さによる映像の暗さ、S/Nの低さがネックであり、まさに「それしかないから仕方なく使う」そんな感じでした。
『FR7』の登場は、LINEの「Sony | Pro Creator JP」アカウントでのアナウンスで知り、発売日に早速現物を見せてもらいました。初めて現物を見たときには衝撃を受けました。Cinema Lineカメラということで画質は申し分なく、電動雲台を備えてレンズのリモートコントロールもできる、という点で、今までの悩みを一挙に解決してくれる製品だと直感し、即決に近い勢いで購入を決めました。
当社が扱う収録では、カメラ30台以上での撮影というのも多く、ドームクラスでの収録ともなると40台以上のカメラを使用することもあります。そのうち大半のカメラは、高倍率なズームレンズなどを装着できるシステムカメラで、マルチフォーマットポータブルカメラ『HDC-5500』などを中心に使用しています。しかし、最近のトレンドでは臨場感が求められるステージ周辺のカメラや、観客を狙うカメラなどでは、浅い被写界深度で撮影できるラージセンサーを搭載したカメラも求められてきています。
それを踏まえて、最近はSuper35mmサイズのラージセンサーを搭載したシステムカメラである『HDC-F5500』をステージ周辺に配置するようになりました。また、観客を撮影する場面では照明が直接当たらないこともあり、暗い場所でも明るく綺麗に撮ることができる、フルサイズセンサーを搭載したCinema Lineカメラ『FX6』なども使うことが増えました。ステージ上のアーティストの間近に配置するカメラにおいても照明などが当たらない場面や暗いシーンがあるため、高感度性能が求められます。そのため、『FR7』は、フルサイズセンサーを搭載してくれたという点において待望の製品でした。
『FR7』は導入から1ヵ月少々の間に、東京ドームやアリーナクラスの現場を中心に5現場ほどで運用しました。使いどころとしては、専ら人が入ることができないステージ上が中心となります。ドラム横やキーボード横、ストリングス横のほか、天吊りでも使ったことがあります。天吊りでは被写界深度の浅さは活かせませんが、キレの良さは映像でも十分に感じられました。今後はステージ前などでも使ってみたいと考えています。
レンズはリモートコントロールができる『FE PZ 16-35mm F4 G』と『FE PZ 28-135mm F4 G OSS』を中心に、Eマウントレンズを活用しています。パワーズームが搭載されていないレンズの場合はズームのリモートコントロールができないため、焦点距離を固定としたり、全画素超解像ズーム*を組み合わせたりと工夫しています。ほかには、「より被写界深度を浅く」といった場面で『FE 24-70mm F2.8 GM』の明るいレンズを使用することもあります。
『FR7』の「電子式可変NDフィルター」内蔵も素晴らしいです。リモートコントロールカメラで、レンズの絞りを変えずに光量調整ができることは衝撃的でした。基本的には、被写界深度を決める絞りを固定にし、NDフィルターにより露出調整を行っています。これは、Cinema Lineカメラならではの使い方だと思います。
NDフィルターを常時ONにすることで、調整範囲は最低でもNDフィルター 1/4からのスタートとなりますが、『FR7』は他のCinema Lineカメラ同様にCine EIモード撮影時標準の基準感度ISO800と暗所環境用の高感度ISO12800を機能として備えています。高感度ISO12800で運用をすれば、NDフィルター1/4による2絞り分の光量減も全く問題になりません。
*全画素超解像ズーム:本ズームモードとプリセットポジション機能の併用はできません
カメラのリモートコントロールは、舞台下などにベースを構えて行っています。リモートコントロール用にLAN、カメラのメニュー操作を行うためのオンスクリーンメニュー用としてHDMI出力をSDI変換したもの、本線映像としてのSDI出力、さらに電源の4本を配線しています。『FR7』本体はLANケーブルを通じたPoE++規格での給電にも対応しているため、PoE++を使うこともあります。本線映像については、光伝送装置などを経由して中継車などに伝送しています。『FR7』を担当するカメラマンが現場の周辺状況も見られるよう、カメラ設置場所に近いところでオペレーションをするようにしています。
『FR7』のコントロールについては、基本はリモートコントローラー『RM-IP500』で行っています。カメラマンもジョイスティック操作による動き出しが「滑らかで使いやすい」と高評価でした。フォーカスについては、演出的な操作も求められるので、基本的にカメラマンによるマニュアル操作でフォーカス操作を行います。スピードを求められるような場面では、一時的にAFを活用することもあります。
それから、あらかじめ保存をしておいたアングルを瞬時に呼び出せる「プリセットポジション」は頻繁に活用していて、例えば「キーボードの手元」など、撮影監督のリクエストに応じて、事前に打ち合わせておいた画に瞬時に合わせられるのがとても便利です。タブレット端末の併用では、タッチした被写体にフォーカスを合わせ、追従し続けられる「タッチトラッキング」機能も使えますので、今後、積極的な利用を操作オペレーターに働きかけていきたいと思っています。
そのほか、『FR7』がリモートコントロールカメラでありながら、本体収録ができるというのも、とても画期的でした。スイッチングアウトの本線なども収録しますが、ポストプロダクションに備え、全てのカメラをパラ回し(全映像独立収録)も行っています。レコーダーが1台減らせるだけでなく、本体で記録できることで長距離伝送のトラブルにも備えられ、安心感が高まりました。
Cinema Lineとしては、当社では『FX9』のほか、『FX6』、『FX3』を各2台保有しています。今回はここに『FR7』が加わりました。
Cinema Lineが発売される前は、被写界深度が浅く撮れるカメラの選択肢が少なく、従来型のカメラなども使っていました。しかし、従来型のカメラを組み合わせた場合などは、カメラ間での色味やトーンが合わせられず、ポストプロダクションでどうにか調整してもらうことが前提の撮り方しかできませんでした。ソニーのカメラでS-Log3での収録やUser LUTが使えるようになったことで、トーンやカラーをしっかりとマッチさせられるようになりました。
当社の収録では、オリジナルのユーザーガンマやLUTを使って撮影を行うことが多いです。このユーザーガンマやLUTは、ハイライトの伸びはS-Log3並みにキープしつつ、暗部はS-Log3ほどは持ち上がっていないものとなります。音楽系の制作では、ポストプロダクションでカラーグレーディングを行うことが前提になってきていますが、グレーディング耐性を残しながら、作業を簡便・迅速に行えるように作ったものです。ポストプロダクションのカラリストやDIT(Digital Imaging Technician)にも検証を行っていただき、その実用性にお墨付きをもらっており、お客様からもご好評をいただいています。
ソニーのカメラは、ラインアップが豊富であり、機種を跨いでも、しっかりと色味やトーンをマッチングできるというのが他にはない強みだと思います。中でも、Cinema Lineの魅力は、どれもとてもコンパクトなカメラでありながら、ハイライトの伸びがあり、暗部階調がしっかりと残っていて、S/Nも良いことです。カラーグレーディングにもしっかりと耐えてくれます。これがCinema Lineを以前から使ってきている理由です。
『FR7』は感度が高く、画質が良く、作品のクオリティがものすごく上がるカメラだと感じています。イメージしていた通りの素晴らしい映像が撮れています。
当社の代表でもあり撮影監督でもある森原は、これまで、人が入れないステージ上のカメラで、浅い被写界深度の映像リモートでのカメラ・レンズワークができないことに悩みを抱えていました。『FR7』であれば被写界深度も画質も、リモートによるカメラ・レンズワークも全て妥協することなく撮影できます。さらには、LUTも入れられてシステムカメラともトーンが合わせられるようになったことで、権四郎として、全てのカメラで一貫したクオリティの映像が撮れるようになりました。撮れる構図も圧倒的に増え、大きな武器となりました。
ディレクターの方々にはまだ『FR7』は広く知られていません。それもあって、皆さんから「ステージ上のカメラでこんなことができるんだ!」と驚かれ、喜んでもらえます。『FR7』は存在感があるカメラですが、逆にアーティストさんがカメラ目線をくれるといった、想定外のメリットもありました。
ステージ上に3〜4台のカメラというのはごく普通で、最大では8台程度のカメラを使用することもあります。例えば、今後はステージのトラスからのショットやステージ前のダンスフォーメーションなどを『FR7』で撮影したら、かっこよく撮影できそうと考えています。『FR7』は使い方のアイデアが次々と浮かんでくる、可能性を広げるカメラです。これから『FR7』はステージ上のメインとなっていく可能性のあるカメラだと思うので、今後も増備を図っていく予定です。
使用機材紹介
システムカメラを中心に
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【システムカメラ導入事例】
音楽ライブ制作に大きな効果をもたらす HDC-5500 / HDC-F5500
※システムカメラサイトへリンクします。
株式会社権四郎
※本ページ内の記事・画像は2023年1月に行った取材を基に作成しています。
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