新潟県中越地区・県央地区を対象に、ケーブルテレビ放送やインターネット通信サービスを提供する株式会社エヌ・シィ・ティ。「越後三大花火」における同時ネット配信の4K化拡大と省人化を目指し、Cinema Line カメラ『FR7』、およびメディア・エッジプロセッサー『NXL-ME80』を導入されました。地域情報部 課長 東條 真一 様と同 地域情報部 チーフリーダー 川上 和良 様に、導入の経緯と成果についてお伺いしました。
ー力を注ぐ、看板番組「長岡花火」とライブ配信の4K化
地域情報部 課長 東條 真一 様
東條:当社事業における中核の1つがケーブルテレビ事業です。その中で最も力を注いでいる番組が、「長岡まつり大花火大会」(通称「長岡花火」)、「ぎおん柏崎まつり 海の大花火大会」(通称「柏崎花火」)、「片貝まつり 浅原神社秋季例大祭 奉納大煙火」の「越後三大花火」の中継です。当社ではこれらの生放送はもちろん、ライブ配信にも長らく取り組んでいます。2023年は初めて4K配信を行いました。今回導入した『FR7』や『NXL-ME80』は、これらの4K配信拡大に向けて導入しました。
ーInter BEE 2023会場で『FR7』と『NXL-ME80』に触れ「これならやれる」
地域情報部 チーフリーダー 川上 和良 様
東條:当社は「花火中継師集団」という自負をもっており、長年の経験で得られた撮影ノウハウの蓄積があります。例えば、花火に寄って撮影してしまうとスケール感が出なくなるため、引きで見せるように心がけています。上がった瞬間から、カメラは追わない・動かさない。最初はカメラアングルが広すぎるように見えても、クライマックスではフレームサイズにぴったり合う、そういった魅せ方を追求し続けています。
2023年の4K配信では「まずはやれるところから」ということで、ケーブルテレビ放送用のHDによる生放送の中継とは別のチームを編成し、4Kカメラ1台のみを設置し現場でエンコードを行い、アナウンスもテロップもなく、直接ライブ配信を行いました。
川上:この4K配信は視聴者のかたから大変ご好評をいただきました。そこで、2024年はもっと本格的にやろうということになりました。システムからオペレーションに至るまでの検討を進める中、そのソリューションを探るべく、Inter BEE 2023の会場を訪れたところ、フルサイズセンサーを搭載したレンズ交換式PTZカメラ『FR7』とメディア・エッジプロセッサー『NXL-ME80』に出会い、「これならやれる」と思いました。タブレットでのプリセットの呼び出しやすさも印象的でした。『FR7』はハードウェアのコントロールパネルも使えますが、「プリセットでの位置登録と簡単な読み出しをしたい」と思い、タブレットを選びました。
ー画角データの蓄積が「プリセット」で活かせる“PTZカメラ”
川上:2023年の4K配信にはいくつかの課題がありました。まず、カメラアングルの調整が難しいことです。越後三大花火は毎年、上がる場所やサイズは一緒です。しかし演目によって、あっちで上がったりこっちで上がったり、タイミングが違います。事前に写真を確認したり、打ち合わせをして「この演目はこの画角で撮って」と伝えるのですが、夜で目印になるものが少なく、カメラマンも正確な位置合わせに苦労していました。そういった課題の対策に、PTZカメラの『FR7』は最適でした。プリセット機能でアングル・画面サイズなどを事前に登録できるため、過去の経験に基づいた、演目ごとの正確なアングルやサイズで花火を待ち構えられます。
ーカメラマンの配置には危険がある高所も“PTZカメラ”なら
川上:加えて、メインカメラを設置している場所は高くて強風の吹く危険な場所です。建物の屋上にある塔屋のさらに上にカメラを設置する場合、カメラマンの安全確保が1つの課題でした。しかしPTZカメラなら、設置や撤収の時に塔屋へ上がるだけで済むため安全性は格段に上がります。
ー高い要求に応える、唯一のPTZカメラ『FR7』
川上:4K対応のPTZカメラは多くの製品がありますので、各社製品の比較検討をしました。求めていた条件は2つです。花火をより美しく撮影できる画質とPTZカメラとしての操作性。結果、当社が求めた条件に適したカメラは『FR7』だけでした。画質面も実際に見比べて検討をしましたが、他には納得できるものがありませんでした。『FR7』はフルサイズのイメージセンサーでレンズ交換式という点で唯一無二でした。ISO12800といった高感度のベースISOを選択できる点でも花火中継向きだと思います。また、ライブ配信で同時に用いていたCinema Lineカメラ『FX6』やXDCAMメモリーカムコーダー『PXW-X400』とも色再現がマッチしてくれました。
ー『NXL-ME80』の決め手は“信頼性”と“多チャンネル伝送”
川上:伝送装置に求めた条件も2つあります。ライブ配信とはいえ「生中継」の伝送用ということで、まずは信頼性。そして、将来を見据えた生放送とライブ配信双方の伝送を複数チャンネル同時に行えることです。『NXL-ME80』はそれらの要求を満たしていました。当社がこれまで使ってきた伝送装置に比べると、1台でエンコードにもデコードにも対応しており、双方向での同時伝送も可能な汎用性の高さも魅力でした。
ー花火撮りは全てフルサイズ、『FR7』はメインカメラに
川上:「長岡花火」では、計6台のカメラを使いました。「花火撮り」は、『FR7』を生放送用とライブ配信共通のメインカメラとして据え、『FX6』2台を加えた計3台。さらに、生放送用の市内からの中継などに使った『PXW-X400』3台が内訳です。
ーカメラの2出力も活用し、4K・HDを複数回線で冗長伝送
川上:花火用に使用したカメラは、12G-SDI出力からの4K映像を本線に、HDMI出力からのHD映像を別回線で伝送しました。ライブ配信用の4Kと生放送用のHDは別系統でスイッチングしました。
ライブ配信用に使用した『FR7』の設置場所には、元々光回線2本と同軸1回線が敷設してあります。そこで、配信用の4K映像は
という3軸で伝送しました。光IP回線については公衆網の形ではなく、同一セグメントの局内LANとして構成しましたので、『FR7』のリモートコントロールも局舎から行えます。
『NXL-ME80』のビットレートは、4Kは60Mbps、HDは25Mbpsに設定しました。この値は回線帯域によるものではなく、出口となる配信や放送でのビットレートを元に「十分な値」ということで決めました。光IP回線自体は10Gbpsですので、帯域は十分でした。
ー『FR7』の高感度で、今まで撮れなかったようなシーンも
川上:『FR7』は大会終了後、夜道を帰路につく観客の皆さんを追うシーンなどにも活用しました。感度を上げても全くノイズ感が出ず、今まで撮れなかった映像が撮れるようになりました。タブレットによる『FR7』のコントロールでは、パン・チルトの速度を調整できます。それを「低速」にすることで、動いているのか動いていないのか分からないくらいのゆっくりした速さでアングルの微調整ができました。これがプリセット時に特に役立ちました。
ー “伝送画質の良さ”がはっきりとわかった『NXL-ME80』
川上:『NXL-ME80』での伝送については、実際に気づくような遅延はなく*、さすがだなと感じました。また、画質の良さも印象的でした。
東條:花火撮影は全体が暗いところから一気に明るくなったりするため、伝送装置のエンコーダーには過酷な条件です。これまで私たちが使ってきたさまざまな伝送装置では、明るくなった瞬間に画面全体にブロックノイズが出てしまったりする場面もありました。しかし、『NXL-ME80』ではまったくそのようなことはありませんでした。映像を見た印象は、「とても鮮明、素直でクリア」です。別カメラで使った他社の伝送装置と比べても、画質の良さを実感しました。
川上:今回、4Kマルチカメラ化した「長岡花火」の配信は、8月2日・3日の両日で100万人を超えるかたがたにご視聴いただきました。視聴者の皆さまからのアンケートも大変好評で、手ごたえを感じています。
*4K 59.94p伝送時、エンコード・デコード合計の処理遅延は約2フレーム(1/30秒)
最終的な映像遅延はネットワーク環境によって変動します。
ー「柏崎花火」では4Kの2カメを『NXL-ME80』で伝送
川上:『FR7』と『NXL-ME80』の初運用の場となった「柏崎花火」は、同ポジションに2台のカメラという機材配置でした。したがって、『NXL-ME80』1台でカメラ2台の4K映像をそのまま局舎に伝送することができました。
東條:加えて、「柏崎花火」では4Kネット配信とHD放送を分けずに4Kでスイッチングし、放送はHDへダウンコンバートして行う形にしました。
川上:2023年まではHD放送用には中継車を持ち込み現場で一旦スイッチングを行っていましたが、2024年からは『NXL-ME80』の導入により局舎側でスイッチングが行えるようになりました。当社では花火大会の時に多元中継をしています。そのため、中継車と多元中継現場からの局舎での2段でのスイッチングになってしまい、オペレーションに負荷がかかっていました。2023年のように4K配信での別チームを編成する必要もなくライブ配信と生放送のチームも統合できたため、体制的にかなりの効率化を図ることができました。
ー カメラマンが立ち入れない絶景ポジションにPTZの『FR7』
東條:今回の「柏崎花火」では、これまで安全性や管理上の問題から、人をアサインできなかった見晴らしの良い場所に『FR7』を設置できました。おかげで画質だけでなく映像表現の面でも、さらなるクオリティーアップを図ることができました。
ー クオリティーアップと省人化を同時に実現した『FR7』と『NXL-ME80』
東條:『FR7』と『NXL-ME80』導入で、4K配信の拡大とクオリティーアップを実現しつつも人員や体制はコンパクトにできました。これは大きな成果です。
川上:当社が実現したかったことが、目論見どおりに実現できたと思います。昨今の「人手不足」問題は当社でも同様で、「従来型」の映像の作り方というのは年々難しくなると感じています。『FR7』や『NXL-ME80』には、大きな可能性を感じています。
ー来年以降はカメラの完全無人化や“オール4K”も
東條:当社には、自社の電柱に取り付けてある「道路情報カメラ」が80台ほどあります。その中には、アマチュアカメラマンなどが大集結する「長岡花火」の絶景スポットも含まれています。道路情報カメラの場所には回線も電源もありますので、今後そのような場所に『FR7』を付けるようなことも考えています。「長岡花火」で『FR7』を設置した場所は、PTZカメラに置き換えても当日の設営や警備の人員までは無くせません。しかし、電柱上のカメラなら完全に無人にもできます。来年の「長岡花火」では、6カメ全てを4Kにしたいと考えています。
使用機材紹介
株式会社エヌ・シィ・ティ
※本ページ内の記事・画像は2024年10月に行った取材を基に作成しています。
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