「社会でほんとうに役立つ人材を育てる」を教育理念とする、湘北短期大学。2023年4月期からは、さらなる学校教育の質の向上を目指してインストラクショナルデザインの概念を導入したオンデマンド講義を本格スタート。その収録に向けてCinema Line カメラ『FX3』を導入し、コンテンツを制作しています。湘北短期大学 総合ビジネス・情報学科 副学科長 兼 教授 兼 総合研究センター長 内海 太祐 様ならびに、同学科 准教授 高木 亜有子 様に、地域に根ざした高等教育の場から、地域や年齢層の拡大も目指す未来展望、さらにそれを支える『FX3』の役割についてお聞きしました。
目次
―オンデマンド講義の導入背景について教えてください。
内海:本学では、2019年から学校教育における改革プロジェクトの準備を進めていました。その一環として、教育工学の分野で「インストラクショナルデザイン」(以下、ID)と呼ばれる概念を取り入れたオンデマンド講義を2023年度から導入しました。
―従来と異なるオンデマンド講義を導入するにあたっての課題はありましたか?
内海:今の時代の学生は、動画を見慣れていることもあり、教員が90分話しているだけのコンテンツでは、興味を持続させることができず、早回しして見たフリで済ませてしまうなど、教育的効果が薄まってしまうことが課題でした。
また、従来の授業を単に撮影しただけの講義では、学生の年間コースの脱落率や講義中の離脱率が高いことも判明しています。離脱によって単位が取得できなくなると、留年や卒業の遅れにもつながりかねません。また、教員にとっても対面講義では可能な「学生の反応を見ながら理解度に合わせて話を変える」の難しさが懸念でしたが、IDに基づくオンデマンド講義は、そのような対面講義に代わるフィードバックをかけることが可能になります。
―新しいオンデマンド講義を受ける学生のメリットはありますか?
高木:学生によって異なる理解のスピードに寄り添い、一人でも多くの学生を学習目標に確実に到達させることが可能になります。理解の早い学生は早見をすることで退屈することなく学べます。逆に理解に時間がかかってしまう学生は、一時停止や繰り返し視聴をすることで、わからない部分の放置や、聞き逃しをすることなく学べます。これらの対策として、途中で学習成果を確認する仕組みを用意しており、学生は流し見をしただけでは先に進ないようになっています。
―オンデマンド講義用のコンテンツ制作について教えてください。
高木:従来のオンデマンド講義は、ソフトの操作にはじまり、事前に作ったプレゼンテーション資料を投影するのか、あるいは板書を見せるのかなど、準備から講義手法まで全てを各教員に一任し、各教員のPC内蔵カメラで実施していました。
内海:しかし、講義の分野の専門性には長けているものの、教育手法を専門的に学んで来たわけではない大学の教員が、IDに基づいた講義を作ることは困難でした。そこで本学では、IDに基づくコンテンツ制作の基盤となる総合研究センターを2022年に開設し、一元的に制作できる体制を整えました。これは、担当教員と相談しながら、専任者がコンテンツ設計から映像の撮影、編集などをプロデュースする組織になります。担当教員は専任者と下準備を済ませたのち、カメラの前でしゃべるだけで済みます。また、担当教員のコンテンツ制作スキルに依存することなく、かつ教員の負担とならない仕組みでオンデマンド講義の教材を作ることができるようになります。
−オンデマンド講義の収録用に『FX3』を選んでいただいた理由を教えてください
内海:当初は動画ということで、ビデオカメラでの撮影を考えていたのですが、IDに知見をお持ちの協力会社の方とのお話の中で、今は一眼カメラで撮影するのが主流になってきていると伺いました。また、本学の講義は、1つあたり90分×15回で、1講義内に教員が話す時間は各回1時間程度なのですが、その15回分の講義を1日で撮影する想定でいました。そのため、動画撮影に適しているだけでなく、長時間の撮影にも適しているカメラを検討していました。
加えて、オンデマンド講義は、教員の顔が出ていた方が学生の離脱率が低いという調査データが出ていましたので、教員の顔出しがあるコンテンツを制作することになり、見映えも考慮しました。
高木:ある時のオンライン講義で、PC画面に一人ひとりが小さく表示されている際に、画質が明らかに良い学生がいたので理由を尋ねたところ、一眼カメラをWEBカメラとして使っているとのことでした。その時に「オンデマンド講義で顔を出すなら、いい画質にしないとダメだ」と感じました。動画の長時間撮影に適していて、画質も重要。『FX3』は、その条件に最適なカメラでした。
内海:台数としては最低限、教員の引きと寄りを撮る2台は必要でしたが、本学では、保育学科などでピアノを教えるような講義があるため、そのような場面では教員の引きと寄りに加えて手元を撮る1台が必要だと考えました。また、対談のような内容の際は、話者2人にそれぞれ1台、全体の引きに1台必要だろうということで、全ての場面でまかなえるよう計3台を導入することに決めました。
−『FX3』をお使いいただいた感想はいかがですか?
内海:初めてIDに基づくオンデマンド講義の撮影をするにあたり、テストを兼ねて講義2回分を協力会社さんの持ち込み機材で撮影していただきました。後日、その続きを本学に導入した『FX3』を用いて撮影していただいたところ、あまりの画質の違いに驚き、既に撮影済みの2回分を撮り直すことになりました。『FX3』は、カメラが小さい上に画質も良く、撮影を依頼した外部業者さんも「もう戻れなくなった」、「欲しくなった」とおっしゃっていました。また、学外からお招きした先生も「画質がいい」と感想を述べておられました。この時は、撮影場所が通常の教室とは異なり、天井の高い大教室のステージ脇の舞台袖という、照明の位置が遠くて特に暗い場所だったため、暗所での画質を指して述べられたと思います。
高木:収録のために学内でスタジオを用意するというわけでもないので、『FX3』の感度が高いという点はとても良かったと思います。『FX3』が届いてパッケージを開けた時は、思いのほか小さいという印象を受けましたが、このコンパクトさで綺麗な画質が撮れ、液晶モニターの角度を調整できたり、各種アクセサリーを取り付けられたりする構造には感嘆しています。
−オンデマンド講義の今後の展開についてお聞かせください。
内海:今期は約300講義×15回のうち、約20講義×15回のオンデマンド化を予定しています。主に、情報処理系やPCの操作説明など、学生の理解スピードに差が出やすいもの、講義全体が口頭説明中心になるもの、学外の先生方によるプレミアム講義などを、順次オンデマンド化する予定です。より本格的に制作が進めば『FX3』はほぼフル稼働になると思います。
高木:一部の対面講義について「この講義はオンデマンドのほうが良かったのでは?」という提案や「あの講義は後からオンデマンドで見返せたのが良かった」といった声を学生から受けることもありますので活かしていこうと思っています。
−学生と教員の関わり方にも変化の期待はありますか?
内海:本学の強みは学生との距離が近いことです。講義のオンデマンド化はその「距離の近さ」に逆行する取り組みに見えるかもしれませんが、実はIDに基づいたオンデマンド講義は、学生と教員が密に関わる時間を増やすための取り組みです。教員が講義に費やす時間を減らせるため、その時間を演習や質問などの密なフィードバックに割くことができるようになり、好循環が生まれます。また、学生個々のペースに応じた学習を可能にすることで、学生全体の学習成果の向上にもつながります。
−湘北短期大学の展望をお聞かせください。
内海:本学では現在、地元の県央エリアを中心に神奈川県出身の学生で多くを占めていますが、少子化による学生数の減少という課題も抱えています。そこで、オンデマンド制課程の新設や生涯教育などの開講によって、地域軸や年齢軸の観点で学生層の拡大に取り組んでいこうと考えており、今回の取り組みはその切り札となってくれると期待しています。
使用機材紹介
ソニー学園 湘北短期大学
※本ページ内の記事・画像は2023年3月に行った取材を基に作成しています。
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