多摩美術大学には、学科を問わず利用できる、撮影機材の貸出やスタジオの管理をしている「メディアセンター」という共同施設があります。撮影用のカメラが数多く取り揃えられている中で、2023年4月、新たにソニーのCinema Line カメラ『FX30』を導入しました。どのような基準でカメラを選び、導入したのか、また学生にどのような使い方を期待しているのか、メディアセンターの吉羽 尚人 様と髙田 晴菜 様にお伺いしました。
ー授業課題や自主制作など撮影機材の使用用途は多様
髙田:メディアセンターで貸し出している撮影機材の使用用途はかなり幅広くあります。授業の課題で使う学生もいれば、自主制作で使う学生もいます。いずれもテーマは多様ですから、一概に「このために使う」とは言い切れません。また、表現方法も紙での手描きや静止画、映像を選択できるなど、さまざまです。「大学に入って初めて撮影機材を触る」という学生もいますから、メディアセンターは誰もが気軽に相談や貸し出しができる窓口でありたいと思っています。
ー学生の表現に合う機材を一緒に考える施設
吉羽:授業の課題に加えて学生たちが制作する映像の作品形態もかなり多様なので、撮影機材はどんな要望にも応えられるように揃えています。メインはミラーレス一眼カメラとビデオカメラで、初級者から中級者までが扱いやすいような機材が多いです。上級者の学生にも対応するために、少数ながらも高額な機材や専門性の高い機材も用意しています。基本的には、どんな映像をつくりたいのか、どんな画づくりで思いを伝えたいのかを学生と一緒に考え、「だったら、こういう機能が必要だよね」というところから機材を選んであげるように心がけています。
ープロの映像制作の現場で使われているカメラの要望が高まっていた
吉羽:インターンで映像制作の現場に行く学生たちはシネマカメラでの撮影によく遭遇しています。プロに感化されるかたちで、近年、学生からは、映像制作の現場で使われているカメラの要望が高まっていました。メディアセンターで貸し出している『α6400』を使ってS-Log撮影をし、LUTをあててシネマティックに表現している学生もすでにいましたが、学生たちが自身の卒業制作を考えた時に、やはりシネマティックに表現できる、より専門性の高いカメラを使いたいという声が増えてきました。
髙田:「希望するカメラで撮りたい」という学生に対して「メディアセンターにはない」と答えてしまうのは簡単ですが、その結果、生み出されない作品があると思うと大きな損失です。そうならないためにも、映像制作用カメラ導入の必要性を感じていました。
ー新規導入の基本条件は、学生の利となること
髙田:新たに機材を導入する際、まず予算との兼ね合いを考えます。ただ、予算以上に重要なことは、学生がきちんと借りに来てくれることです。また、最終的に社会での活躍を想定し、そこから逆算して「在学中に触れておくと有意義だろう」と、学生の利となるものを選ぶよう心がけています。『FX30』は映像制作の現場でサブ機材として多く使われていることが導入の大きな決め手になりました。
吉羽:『FX30』はプロの現場でもよく使われている『FX6』と同じワークフローで撮影できるので、在学中に『FX30』での撮影に慣れておけば、社会に出て『FX6』を操作する際にも直感的に扱えると思います。また、学生が作品を制作する際はワンオペレーションでの作業が多いため、一人でも使いやすい機材というのも重要です。プロの現場で活躍する先生たちもワンオペレーションに対応できるおすすめ機種として『FX3』を挙げていたので、メニューやボタンなど操作性の同じ『FX30』を導入したのは、良い選択だったように思います。
ー学生のニーズやトレンドを加味することも大事
吉羽:選定条件に最も欠かせないのが学生たちのニーズと世の中のトレンドです。学生が「使いたい」と言ったものに対しては導入を前向きに検討しますし、最低でもそれに近い機材を導入するようにしています。以前は「シネマティックに撮る」ことがここまで大きなトレンドになっていませんでしたが、今はそれが当たり前。自然と学生から借りたいというニーズが生まれています。トレンドの機材は、YouTubeなどで使い方や、実際に使っているプロのワークフローなど、さまざまな情報を入手しやすいので、学生が独学でも機材を扱うことができるようにもなります。
髙田:すべての学生がカメラ専門の先生に教わっているわけではなく、私たちもすべての学生にレクチャーするには手に余るため、デジタル一眼カメラでの動画撮影に慣れていない、または初めて触れる学生にとっては、手軽に撮影を学べる動画が頼りになる場合があります。このような背景もあり、映像業界の潮流を読みながらトレンドも意識した機材選びをしています。
ー『FX30』はピクチャープロファイルとS-Logが魅力
吉羽:映像制作用カメラは各メーカーが出していますが、『FX30』ではピクチャープロファイルとS-Logに魅力を感じています。ピクチャープロファイルはテンプレートのバリエーションが豊富で、特にPP11の「S-Cinetone」は肌のトーンが柔らかく出るので、後から編集しなくても雰囲気のある作品が撮れます。本当にかっこよく撮れるので、学生たちにとっても使いやすいだろうな、と思っています。
髙田:かっこよく撮れるとモチベーションアップにもつながりますからね。
吉羽:S-Logはカラーグレーディングする際のLUTがたくさんあるので、それを当てるだけで目指す画に近づけることができます。『FX30』ユーザーが独自につくったLUTもあるのでカラーグレーディングは自在ですし、狙いどおりの画づくりができるので学生に響くのではないかと思っています。さらに小型軽量。ワンオペレーションで作品をつくるとなると荷物はコンパクトなほうがよいですし、メディアセンターで貸し出しているジンバルに乗せることもできるので学生の表現の幅も広がると思います。
髙田:『FX30』はスローモーション撮影に関しても性能がいいと思います。通常スピードの映像と繋ぎ合わせても違和感がないので、一つの作品としてまとめる時に重宝します。「違和感が出てしまうのでスローは使えない」ということもありますから。構成を考える際に、スローモーションを使って「時間を操作する」という選択肢が増えるのは大きなメリットだと思います。
ー学生からも大きな反響が
吉羽:『FX30』の本格的な貸し出しはこれからですが、一部の学生に実際に触ってもらって使用感をヒアリングするミーティングを開きました。
髙田:参加者は3年生がメインで、これから卒業制作も考えつつ、独自の画作りを突き詰めたいと考えている学生たちが多く、みんな『FX30』に非常に興味を持っていました。メディアセンターによく来る学生も『FX30』の導入をとても喜んでくれたので、この機種を選んで正解だったと実感しています。
吉羽:自主制作映画をつくっている学生は「使うのが楽しみ」と言っていました。創作意欲をかき立てられているように見えたので、是非さまざまな作品に役立てて欲しいと思います。また、先生たちも『FX30』をサブ機材の候補にしつつ、メディアセンターで実際に触って購入検討をするなど、関心が高いです。
ー「自分が伝えたいもの」を模索する学生の力になりたい
吉羽:今の大学生は小学生の頃にすでにスマートフォンを持ち、映像表現が普通の世代です。そのなかで多摩美術大学の学生は、世にあふれている映像作品とは一線を画したクオリティを追求しています。映像表現の中で「自分が伝えたいものは何なのか」と模索している学生たちにとって、『FX30』は新たな可能性を見出させてくれる映像撮影機材だと思います。
ー常に学生たちをサポートするのがメディアセンターの役割
吉羽:多摩美術大学の方針の1つとして、学生の能動力に制作を委ねるというのがあります。1、2年で基礎過程を学び、3、4年では自主制作に没頭します。ある意味、3、4年時は解き放たれた2年間で、自由に発想して活動できる一方、自分自身で作品を創り上げる必要があります。その創作活動に打ち込む学生たちをしっかりサポートするためにも、ニーズに合う機材を揃え、機材の選定や使い方のアドバイスを通して自由な発想力を育む施設でありたいと思っています。
使用機材紹介
Cinema Line カメラ
FX30
※本ページ内の記事・画像は2023年8月に行った取材を基に作成しています。
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