静止画、動画それぞれの表現のプロフェッショナルが、同じカメラ、同じ場所、同じモチーフを同時に撮影したらどのような作品が生まれるのか。それぞれの視点、それぞれの価値観で切り取られた同じ日常は、異なる「美しい世界」へと変わる。
今回は1.0型センサーを搭載したプレミアムコンパクトデジタルカメラCyber-shot RX0
II(DSC-RX0M2)で、フォトグラファーのクロカワリュートさんと、デジタルライフクリエイターの高澤けーすけさんが、「小型カメラで表現を遊ぶ」をテーマに撮影を実施。自由度の高いカメラでどのような作品が撮れたのか、撮影後に、共に撮影した感想や使用したカメラの魅力について話を聞きました。
クロカワリュートさんの静止画作品
:RX0 II,24mm,F4,1/500秒,ISO125
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO500
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO800
:RX0 II,24mm,F4,1/250秒,ISO1600
:RX0 II,24mm,F4,1/250秒,ISO1600
:RX0 II,24mm,F4,1/250秒,ISO4000
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO800
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO2000
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO1000
:RX0 II,24mm,F4,1/125秒,ISO1600
高澤けーすけさんの動画作品
フリーになって間もないふたりが共演
ともに撮影を楽しみにしていた
まずはおふたりの関係からお聞きしたいのですが、今回の撮影が初対面ですか?
高澤さん(以下敬称略):クロカワさんのSNSは拝見していましたが、お会いするのは今回が初めてです。共通の友人が「この前、話したよ」と言っていたり、SNSでクロカワさんの写真が回ってきたりするので、ニアミスしている感じはありますね。
クロカワさん(以下敬称略):打ち合わせの時が「初めまして」でしたよね。初対面なのにいきなり「さあ、どうしよう?」「なに撮ろう?」みたいな感じで。僕は動画を撮影しないので、動画を撮る人と同じカメラで、同じシチュエーションからスタートすることにとても興味があったので、撮影を楽しみにしていました。
高澤:クロカワさんは仕事で広告やファッションをよく撮られていますよね。
クロカワ:そうですね。スタジオでの撮影がメインなので、ストロボ使うことが多いです。いわゆるナチュラルな感じではなく、つくり込んだライティングでの撮影がほとんど。でも、フリーランスになったのが2019年の6月なので、まだ半年くらいしか経っていない1年生です
クロカワリュート/
フォトグラファー
1985年東京生まれ。2019年よりフリーランスのフォトグラファーに。人物や商品撮影を中心に、広告、アーティスト、アパレルなどを撮影。以前、ディレクターだった経験を生かし、配色提案やコンテ、各種アサイメントまで行う。一貫しているのはポップでキュートな作風で、カラフルなシリーズ「♯SugarMePop」は大きな支持を集めている。
https://www.instagram.com/ryuto_kurokawa/ https://twitter.com/ryuto_kurokawa高澤: フリーになったのが去年とは驚きです。もうずっと写真を撮っているイメージでした。
クロカワ: 副業としてはずっと写真を撮っていましたし、SNSに作品を上げたりしていたので、そういうイメージなのかもしれませんね。高澤さんは動画を本格的に発信し始めてどのくらい経ちますか?
高澤: 仕事をやめてフリーランスになったのは2018年の10月です。今はYouTubeをメインに活動していますが、ブログは学生の時に始めました。ブログは働きながら続けていたので、会社をやめてからは他のコンテンツも始めてみたいと思い、YouTubeでの動画配信を開始。今はブログとYouTubeで、カメラやガジェットのこと、映像制作のことなどを発信しています。
高澤 けーすけ/
デジタルライフクリエイター
1992年和歌山県生まれの東京育ち。写真と旅とガジェットを愛し、レビュー、ライフスタイル、テック、旅行など、“日々の生活が少しでも楽しくなる”ようなコンテンツをYouTubeなどで発信。月間約21万PVの「Webledge」を運営中。レビューは初心者でもシンプルでわかりやすく、旅行動画や必要最低限の情報を押さえつつもワクワクする作品に仕上げることを心がけている。
https://www.youtube.com/channel/UCxR3l8_ZzI2PMG4ajG7ouRw https://twitter.com/saradaregendクロカワ:ということは、高澤さんは2年生ですね。
高澤:そうです。年齢はリュートさんのほうが上ですが、フリー歴は僕のほうが1つお兄さんです!(笑)
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お互いの個性を出すためにモデルを立て、
スタジオ撮影を前提にテーマを決めていった
撮影のテーマはどのように決めたのですか?
高澤:クロカワさんが「人物モデルを入れたほうが、僕たちらしい作品が撮れそう」と提案したところから始まった感じですよね?
クロカワ:そうそう。室内でモデルありきの撮影のほうが、互いの個性が出せるような気がしたので。そこからスタートして、動画を撮るなら動きも必要だから、料理とかしてもらうといいかも、という感じで詰めていきました。
高澤:ある程度のストーリーが欲しかったので、料理をするなら豚汁とかおにぎりとか、誰でも簡単につくれるものがいいかな、とか、それなら包容力がありそうな雰囲気のモデルを選んで、「彼女のおうちで料理をふるまってもらう」みたいなテーマはどうだろうと、話が進んでいきました。
クロカワ:「室内に人がいる」という軸があり、そこから組み立てていった感じですよね。
高澤:いろいろと話し合いましたが、その軸が決まってからはトントン拍子に進んだ感じです。最終的に、スタジオやモデルの手配はクロカワさんにお願いしました。
クロカワ:スタジオはなるべく家のようなキッチンがあり、自然光がたくさん入るところを選びました。今回は「RX0 II」という小型でありながら高性能なカメラで撮影できるので、このカメラでしか撮れないアングルなど、いろいろな遊びができる。その遊びを強調するためにもスタジオはノーマルなところにしました。
高澤:本当はスタジオでなく、どこかのお宅を借りてもよかったのですが。
クロカワ:うちは無理です(笑)。
高澤:うちもキッチンはちょっと……(笑)。
クロカワ:ということでスタジオになりました(笑)。ストロボや定常光を使うような環境でなくても、動画やスチールは撮れることを発信したかったですし、さらに言えば、「我々プロがやったらこうなる」みたいなことも表現できると思ったので。
ファーストカットは買い物帰りのシーンですが、ここをファーストカットにしたのはなぜですか?
高澤:クロカワさんからの提案です。今回の作品撮りは動画よりも写真のほうが難しそう、という印象があったので、最初のシーンのセレクトはクロカワさんにお任せしました。いくつかご提案いただいた中で、僕の中でもぴったりハマったのがこのシーンです。
クロカワ:撮影当日は天気がよく、気持ちのいい日だったので、せっかくだから外で撮りたい、というのもありました。日常によくあるシーンですが、買い物から家に帰ってきて、料理をつくって、お腹いっぱい、みたいなストーリーにしようかと。
高澤:時間軸でも最初のシーンだったので、買い物帰りのワンシーンをファーストカットにした感じですね。最初は寒かったせいもあって、モデルさんに笑顔はありません。僕の場合はそこから動画を積み上げていき、料理をしたりしてだんだん笑顔が増えていく、という流れを意識して作品をつくりました。
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小さいからこそ自由度が高く、つい撮りすぎてしまう!
逆光でも変なクセが出ない素直なカメラ
クロカワさんにお聞きします。「RX0 II」の印象はいかがでしたか?
クロカワ:僕は今回、初めて「RX0 II」を手にしましたが、細かいところにまで配慮されていて驚くほど撮りやすいカメラでした。この小ささでチルト液晶が上方向に約180度、下方向に約90度動くので、これも、あれもと普段は撮らないようなアングルからもたくさん試した感じです。
クロカワ:例えば下の2点のように、下からあおって撮ったり、真俯瞰(まふかん)で撮ったりすることも普段めったにないですから。
クロカワ:ISOはオートで撮影したので上の作品ではISO4000という高感度になっています。画質的に少し不安があったので現場でパソコンに入れて画像を確認しましたが、まったく問題なし。それからは高感度撮影でも確認せずに進めました。逆光で撮っているものも多いですが、解像感が悪くなることもなく、レンズフレアも抑えられていて、描写としては素直な優等生という感じです。
クロカワ:上の作品は一発撮りですが、シャッターを押した時のタイムラグがなく「これが一発で撮れるのか」と驚きましたね。ラフに撮ってもここまできれいに仕上がるのなら彼女の細かい仕草も撮り逃さないようにしようと、いつもより撮りすぎてしまいました。
高澤:たしかにシャッターを押す精神的なハードルが低くなりますよね。他にも、いつも使っているカメラではしないようなことをしましたか?
クロカワ:「RX0 II」は24mmの単焦点ですが、普段はここまでの広角を使うことがありません。だから24mmという画角をうまく使いたいと思っていました。24mmは人との距離感が出やすい画角。近寄ろうと思うと、物理的にも人との距離が近くなります。このカメラなら近づいても圧迫感がないので、全体的に自然な動きや表情を撮ることができました。だからこそ、普段は撮らない笑顔も今回はずいぶん撮りましたね。
クロカワ:上の作品も、モデルさんがカメラを意識せずに違和感なく撮れて、撮れた画も良かったので文句なしです。「RX0 II」はカメラに撮らされているのではなく、より“撮る側の意図を邪魔しないスペック”を持っている感じがします。
高澤:モデルへの声かけも、かなりしっかりされていましたよね。「こういう風に声をかければ、この女の子はニコッとしてくれる」という技はしっかり盗ませていただきました(笑)。彼女のキャラクターを引き出すのも上手で、ほめかたもとても上手で。
クロカワ:そういえば、撮影している時は高澤さんにかなり見られていたような気がします(笑)。
高澤:クロカワさんが撮るところを見ていると、イメージが明確に決まっている感じですよね。上の作品では「リンゴをこう持ってほしい」ということが明確に決まっている感じで、それがとても新鮮でした。僕の場合は撮りながら組み立てていくことが多いですが、写真はベストなイメージを持って撮影していた印象です。
クロカワ:そこはスチールと動画の差ですね。高澤さんは流れを意識していて、ストーリーを1つ1つ汲み取っていくような撮りかたをしていましたから。僕にとってはそれがとてもおもしろく感じましたよ。
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カメラの性能をフルに生かして動画を撮影。
「遊び」ができることで表現の幅が広がった
高澤さんは、以前にも「RX0 II」を使っていたと話していましたが、どのような撮影で使っていたのですか?
高澤:以前はフルサイズミラーレス一眼のサブカメラや、大きな荷物を持っていくのが面倒な時などに使っていました。友達と朝ごはんを食べに行く時に持っていって、朝ごはんの写真を撮ることも多かったです。本格的な撮影に使うことはあまりなかったので、今回改めて使ってみて、実際に出てきた映像の美しさに驚きました。この小さな筐体に大型の1.0型センサーが搭載されているので、きれいな映像を記録でき、編集も気持ちよくできるという印象です。
クロカワ:今回の作品の中で、お気に入りのシーンはありますか?
高澤:個人的に撮っていておもしろいな、と思ったのは下のシーンです。ネギを切っているだけですが、音までよく録れていて感動しました。
高澤:外部マイクもつけていないのに、しっかりザクザクと切る音が入っています。ネギを切る、リンゴの皮をむく、といった音は素材サイトから持ってきて、映像に音を重ねるのがオーソドックスな手法です。でも今回は音がよかったので生音でつくることができました。この時はグッとネギに寄りましたが、「RX0 II」はAF-Sで最短撮影距離が20cmなのでここまで近づけたわけです。
クロカワ:高澤さんは、かなりいろいろなことにチャレンジしながら撮影していましたよね。
高澤:そうですね。鍋の中に入るネギに見立てて、カメラをモデルの手から落として360度回転させたり(動画30秒〜)、モデルさんにカメラを持ってもらって、僕がスマートフォンで遠隔操作しながら撮影したり(動画43秒〜)、防水機能を生かしてコップの中にカメラを入れて水を注いだり(動画47秒〜)。こういうことができると表現の幅も広がりますね。こういった撮影は、スマートフォンでも、フルサイズミラーレス一眼でも難しく、このカメラだからこそ表現できた「遊び」だと思っています。
クロカワ:ピンボケのシーンが入っているのも、おもしろいですよね。
高澤:これ、実はOKシーンもあったのですが、あえてピンボケの素材を使いました。全体としてかっちりとした作品したくなかったので、こういったピンボケシーンや僕の声が入ってしまっているシーンも「生きがいい」感じがして入れたわけです。 一見悪い素材に見えますが、とても素敵な笑顔なので、僕にとってはいい素材です。日常をつづるようなVlogでは、こういったシーンが見ている人に好感を持たれたりするもの。作品だからNGシーンは入れない、ではなく、直感的に「いいな」と感じたシーンは例え失敗シーンでも入れたほうがいい。それが僕の持論です。
クロカワ:お互いに、「今日はどういう風に撮ろう」という脳内コンテを持ってきていましたが、現場ではそこをベースに楽しくアレンジできた感じですよね。僕は4割くらい脳内コンテ通りを無視してアレンジで遊びましたが、高澤さんはどうでした?
高澤:僕も4割くらいは現場でアレンジしました。
クロカワ:そうですよね。脳内のコンテはいつも使っているカメラのイメージでつくっていたので、現場で「RX0 II」を触っているうちに「もっと遊べるな」と気づいて、いつもより表現の幅を広げることができたように思います。
高澤:お互いにいいチャレンジができて、とても楽しい現場でした。
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好きなものを使うとスイッチが入るもの。
カメラは撮る意欲が湧く特別なアイテム
高澤さんは最新のカメラ性能を搭載したスマートフォンをお持ちのようですが、スマートフォンで動画を撮ることはありますか?
高澤:作品制作でスマートフォンを使うことはまずありません。スマートフォンでもいい映像は撮れますが、作品を撮る時は自分のモチベーションを上げる「カメラ」というオブジェクトが欲しくなります。「RX0 II」は小さいですが、紛れもなく「カメラ」ですから。撮る時の腰の入れかたが、スマートフォンと比べるとまったく違うわけです。
クロカワ:それ、わかる。例えばスマートフォンでもメモはできる、でも手帳に自分で書きたい、というのと同じかも。好きなものを使うだけでスイッチが入る感じ。何かやる時は自分がこだわっているもの、気持ちが良いものを使いたいですからね。
高澤:僕も手帳派なので、まさにそんな感じです!
クロカワ:スマートフォンは手軽で使いやすいですが、日常の延長線上にあるもの。だからこそ写真を撮る時には使いません。「撮るぞ」というスイッチは自分で入れたいですから。専用のものは、それなりに何か心をくすぐるものがありますね。
高澤:撮った後の写真も、スマートフォンで撮影したものは雑に扱ってしまいがち。ストレージに保存して終わり、ということも少なくありません。でもカメラで撮影した写真はきちんと扱う習慣があります。
クロカワ:そうそう。仕上げも雑になる。そう考えると「カメラ」という物理的なものでスイッチを入れることが大事なのかもしれませんね。
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こだわりが強いのは大きな魅力。
自身の世界観を大事に、動画をつくって欲しい
クロカワさんの作品の中には、静止画を繋げて1つの作品にしたものがありました。少し動画の要素が入っているようにも思うのですが。
クロカワ:「いいな」と思ったものを何で表現しようと思った時に、それがスチールではなかった、というだけですが、動画を意識した部分はあるかもしれません。今は僕が撮った写真が動画に使われる仕事も多いので、脳内ではスチール、動画、イラスト、写真などのくくりはあまりない、というのが正直なところです。
高澤:たしかに静止画を繋げた作品は、動きがあるほうがおもしろい感じがしますよね。
クロカワ:「カクカク動いてもかわいいな」と思って、GIFをつくっただけ。「いただきます」のシーンもペコペコしたらかわいいなと、本当に直感的な部分を優先しただけなので。
クロカワ:僕はもともとプログラマーだったので、当時はフラッシュなどもつくっていました。アニメーションをプログラミングすることもあったので、基本的には動くものが好きなのだと思います。昨年は動画のことを少しかじった程度なので、今年は本格的に始めないといけない雰囲気です。実際、仕事での動画制作のオファーも多くなっていますし。
高澤:クロカワさんがどんな動画をつくるのか、とても興味があります。
クロカワ:僕はこだわりが強いので、動画をやるならそれなりの機材を揃えたいですし、音楽も自分でつくることになると思うので、投資のことを考えてタイミングを見計らっているところです。
高澤:クロカワさんが動画を始めるとなると、まずそこからなのか(笑)。でもこだわり派のクロカワさんだからこそ、自身の世界観を大事に、強いこだわりを持って動画をつくって欲しいですね。最初はこんな作品をつくってみたい、というビジョンはありますか?
クロカワ:自分のスチールの世界観をシンプルに短い動画にしたいなと思っているので、まずはそこからですね。
高澤:職人気質のクロカワさんの動画作品、楽しみにしているので早めに着手してくださいね!
クロカワ:懐と相談しながら、なるべく早く披露できるようにがんばります!