2024年9月24日(火) 、東京・品川のソニー本社にて、My Sony会員向けの特別イベント「もっと知る。もっと好きになる。宇宙感動体験事業「STAR SPHERE」イベント」が開催されました。
「STAR SPHERE(スタースフィア) 」とは、宇宙をすべての人にとって身近なものにし、みんなで「宇宙の視点」を発見していくプロジェクトです。わたしたちの身近にあるもの、こと、文化をそれぞれの「宇宙の視点」で楽しむことで、毎日の生活も地球の未来も豊かになっていく。そんな未来を目指しています。
この取り組みの第一歩として、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の協力のもと、東京大学とともに超小型人工衛星『EYE』(以下、『EYE』)を共同開発。2023年1月に打ち上げられた『EYE』には、ソニー製フルサイズカメラが搭載されており、地上約500kmから地球や宇宙のすがたを美しく撮影することができます。専門的な知識なしに、『EYE』からの宇宙撮影ができる体験を一般のかたがたに提供し、地球上のさまざまな場所を撮影できるようにした「宇宙撮影体験」サービスが宇宙ファンの間で話題になったことをご存知の方も多いのではないでしょうか?
本イベントでは、そんなSTAR SPHEREプロジェクトの中核を担ったエンジニアと企画担当のふたりが、事業立ち上げ当初の苦労から『EYE』開発秘話、そして、これからに向けた熱い想いまでを語るトークセッションなどを実施。ここでは、そのようすを詳しくレポートします。
今回、イベントのナビゲーターをつとめるのは本プロジェクトの企画を主導してきた見座田(みざた)と、衛星のミッション部(人工衛星がミッションを遂行するのに必要な機器のこと。『EYE』でいうとカメラやレンズ部などが該当する)の開発に携わってきた久保のふたり。STAR SPHEREに向けた取り組みがソニー社内で正式に組織化されたのは2020年5月のことですが、本プロジェクトに最初期から関わってきたというふたりは、実はそれよりも3年早く、2017年ごろから、勤務時間終了後に有志チームで行う自主研究開発、いわゆる「机の下活動」に参画していたと言います。
「そのきっかけとなったのが、ソニー社内で不定期に行われていた異業種交流会です。ここでJAXAの方と知りあったことをきっかけに、STAR SPHEREの前身となる活動が始まりました」(見座田)
「もちろん私たちはこれまで人工衛星なんて作ったことがありませんから、交流会でお会いしたJAXAや、東大の皆さんに関係者を紹介してもらい、いろいろなことを教わりながら、ソニーとして何ができるのか、何をすべきなのかを模索するところから始めました。ユニークなところではソニーのデザイナーと共同で、丸くて透明な人工衛星のモックアップを作ったりもしましたね。もちろん、実際にそんなデザインの人工衛星を打ち上げるのは難しいと分かってはいるのですが、とにかくいろいろなことを試して形にしてみよう、と」(久保)
そんな足かけ4年間にも渡る机の下活動の末に見いだした「ソニーができること」とは何だったのでしょうか?
「STAR SPHEREは『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』 というソニーのパーパスにも通じるプロジェクトです。この取り組みを通して、テクノロジーの力で、宇宙の中での感動体験を世の中に広げて、それによって宇宙を身近に感じてもらいたい。これは、テクノロジーとエンタテインメントの双方に通じたソニーだからできることだと考えています。この活動を通じて、普通の人たちと宇宙の距離がグッと縮まり、『宇宙DJ』など、宇宙を舞台にしたいろいろな仕事や趣味が生まれていくと楽しそうだと思いませんか? まずは、STAR SPHEREの活動を通じて、『スペースフォトグラファー』を生みだしていきたいですね!」(見座田)
その後、会場では2023年1月に行われた実際の打上げ映像や、『EYE』が宇宙空間に放出されていくシーンの映像が流れ、参加者の目を釘付けに。打上げを見届けるためにフロリダまで足を運んだという見座田は、その時の感動を次のように話します。
「ロケットの打上げって、実際に見学ができる場所では、打上げから20秒くらい経ってから地響きみたいにドドドドドッッ!!って轟音が聞こえてくるんですよ。もちろん動画の音声としては聞いたことがあったのですが、実際に体感すると、打上げのパワーみたいなものを肌で感じられて、本当に自分たちの人工衛星が打ち上げられたんだっていう感動を強く実感することができました」(見座田)
ソニーと東京大学の共同開発に、JAXAがアドバイザーとして関わるという形で進められた『EYE』の開発。人工衛星の構造はミッション部とバス部(人工衛星の基本的な機能や動作に必要な機器のこと。通信アンテナや太陽電池パドルなどが該当する)に分けることができ、本プロジェクトにおいてはソニーが主にミッション部を、東京大学がバス部を開発しています。
「ミッション部にはソニーの民生用カメラと同等の部品が搭載されているのですが、当然ながら通常のカメラは宇宙空間での使用を想定したものではありません。そこで、宇宙空間でもきちんと動作させられるよう手を加え、それが実際に機能するか、たくさんの試験で確認する必要がありました」(久保)
その試験一つひとつに一口には語りきれないほどの苦労やドラマがあったと言う久保。たとえば、『EYE』の最終出荷の前に判明した「残留磁気」の問題では、測定条件が厳しく苦労したそうです。
「残留磁気試験って、ものすごく繊細な試験なんですが、ソニー本社って、電車の駅が近いんですよ。だから昼間ずっと磁気が発生していて、それを測定機が拾ってきてしまうんです。そのため、終電が終わった後にしか試験ができなくて、一時期、夜中になるまで待機してメンバーで試験をしていました(笑)」(久保)
そのほか、宇宙放射線の影響でレンズが黄色く変色していく問題や、真空下で有機材料などから放出されるガス(アウトガス)でレンズを曇らせてしまう問題など、地上では想像もできないような問題が数多く発生したとふたりは当時の苦労を振り返ります。ただし、そうした中でも遊び心を忘れないのがソニー流。その一例が、本体内部に仕込まれた宇宙人へのメッセージパネルです。
「打ち上げた後、何かの失敗で他の惑星にたどり着いてしまっても、ちゃんと返してもらえるよう、見つけたら僕らに連絡してね。って書いておいたんです(笑)」(久保)
多くの試験を乗り越え、2023年1月、宇宙ファンにはおなじみスペースX社のファルコン9に乗り入れるかたちで打上げに成功した『EYE』。しかし、打上げ後も大きな試練が待ち受けていました。なんと、姿勢制御を行うための装置の一部が故障してしまい、向きの制御が思い通りに行えないことが判明したのです。
「これによって当初予定していた、一般のかたがたに向けた『宇宙撮影体験』サービスを断念せざるを得なくなってしまいました」(見座田)
しかしSTAR SPHEREメンバーたちはあきらめません。不幸中の幸いかミッション部のカメラは正常に動作していたため、「宇宙撮影体験」サービスの実現に向けてさまざまな手法を試し、半年ほどの試行錯誤の末、ゆっくりながらも撮影のための姿勢制御を行えるようにしたのです。
「東京大学や関係者の皆さんのご尽力もあり、予定よりも姿勢制御の自由度は低く速度もかなりゆっくりとしたものなのですが、ある程度の条件であれば宇宙からの撮影体験が可能になりました」(見座田)
その後、3回に渡って行われた「宇宙撮影体験」サービスでは、『EYE』と繋がるためのWebアプリ「EYEコネクト」を通して多くの一般のかたがたが地球上の思い思いの場所を撮影。ついに『EYE』の夢を実現することができました。なお、「EYEコネクト 」はWebで公開されており、サービス参加者が撮影した写真を見たり、疑似的にサービスを体感したりといったことができるようになっています。興味のある方は、ぜひお試しください。
『EYE』の「宇宙撮影体験」サービスは期間限定の提供でしたが、イベントでは特別に1枚だけ「EYEコネクト」を通した実際の撮影を行えることになりました。貴重な1枚でいったい何を撮るべきか? 事前のアンケートを元に、エジプト、エベレスト、マウナ・ケアの3つの場所に絞り込み、最後は、それぞれを推す参加者から「なぜ、そこを撮りたいのか」をその場でアピールしてもらうことに。
「エジプトなら多少アングルがズレても地中海が撮れたりしてがっかりせずにすむのでは?」「今度仕事でエベレストに行くので、宇宙からのようすも見ておきたい」など、参加者の皆さんからさまざまな「推し」コメントが上がる中、最終的に選ばれたのは、海と大地のコントラストが美しいマウナ・ケアでした。すばる望遠鏡などもあり、天文学の聖地のような場所だからという意見に多くの人が共感したようです。
なお、「宇宙撮影体験」サービスでは、「EYEコネクト」によるシミュレーションに基づき撮影地やアングルを設定し、地球上の基地局から撮影予約コマンドを『EYE』に送信して撮影が行われます。『EYE』と基地局の通信は1日に数回しかできないため、撮った写真をダウンロードして確認できるのはおよそ数週間後になります。
会場でもスクリーンに映し出された「EYEコネクト」の画面で実際に撮りたいアングルを検討。せっかくだから地球のかたちが見えるように撮りたいという声があがり、遠くに地平線(リム)がみえるようなアングルが設定されました。ただし、これはあくまでシミュレーション上のもので、実際にはズレてしまうことや、当日の天候次第で全く別モノのような写りになってしまうこともあるのだとか。これも宇宙撮影体験ならではの醍醐味と言えるでしょう。
一通りの設定が終わった後、久保が「誰かシャッターを押したい方はいますか?」と問いかけると、若い男性が勢いよく挙手。その指で『EYE』に撮影リクエストを送信していただきました。いったいどんな写真が撮れているかワクワクしますね!
撮影当日はあいにくの天気で雲が多かったようです。写真の左部に地球の縁(リム)が見えますが、その方向にマウナケアがあります。漆黒の宇宙と、リムに広がる水色の薄い大気の層。そして、青い海原に浮かぶ白い雲。普段目にしている雲もよく見ると、様々な種類があることがわかります。イベント参加者のみんなで撮影した、この世に一枚しかない特別な写真です。
画像ダウンロードはこちらその後、会場では『EYE』に関する質疑応答も実施。今年度中には運用が終了することが決まっている『EYE』がこの先どうなるかなど、さまざまな質問に、見座田・久保が丁寧に回答していきました。「UFOが撮れちゃう可能性はあるんですか?」という質問には「あると思います。だから宇宙人へのメッセージボードを載せているんです」と大真面目(?)に回答する一幕も。
最後は、イベントを企画・主催した部署の部門長から、参加者の皆さんに向けて御礼の挨拶が行われ、無事、閉会となりました。ご参加いただいた、約30名の宇宙ファン、ソニーファンの皆さま、ありがとうございました!
なお、来場されたMy Sony会員の皆さんにはおみやげとして『EYE』のクラフトペーパー、STAR SPHEREオリジナルステッカー、STAR SPHEREオリジナルポストカード、そしてソニー特製タンブラーをプレゼントさせていただきました。ソニーでは今後も、My Sony会員向けに情報を発信していきますので、ぜひメルマガ登録をお願いいたします。
「今回、このイベントを通して、ソニーファンの皆さんが「宇宙」に対する取り組みに興味津々と言うことが肌で感じられ、うれしく思いました。また、参加された皆さんのアンケート結果がほぼ『大変満足』と聞き、安心しました。イベントでもお話ししたよう、『EYE』は2024年度中には運用が終了してしまいますが、これまで撮影体験で楽しんでいただいた方も、それ以外の方も一緒に楽しんでいただける企画も進めていますので、ぜひXの公式アカウント をフォローしていただければ。最後まで一緒に盛り上がっていければと思います」(見座田)
「イベントに参加してくださった皆さんがすごく楽しんでくれているのが伝わってきて、僕も明日から頑張ろうっていう元気をもらいました。ありがとうございます。今後も『EYE』を通じて宇宙を身近に感じていただく企画をご用意していますので、すでにSTAR SPHEREのことをご存知だという方だけでなく、ソニーが宇宙事業をやっていたことを知らなかった人にも楽しんでいただきたいです。今からでも十分間に合いますので、ぜひご参加いただきたいですね。今後のイベントなどで皆さんにお会いできることを楽しみにしています」(久保)