「中学生の頃、ベートーヴェンにかなり傾倒していて、いろんな曲を聴いていました。それこそ青春の思い出というか(笑)。この言うまでもない名曲も、今回のウォークマンとヘッドホンの組み合わせで聴くと、オーケストラの演奏の中に入って、まるで音の森に迷い込んだようです。『不滅の恋 ベートーヴェン』という映画に、少年時代のベートーヴェンが森の中を駆けていく回想シーンがあって、そこでは交響曲第9番がかかるのですが、そのイメージが浮かんできました。冒頭の弦楽器の旋律からとてもきれいで、和音でちょっとずつ攻めていく感じもたまらない。クラシック音楽でありながら、僕にとっては、『ああ、かっこいい!』と心から感じられる曲のひとつです」
「ラヴェルのこの曲も、初めて聴いたときに『これはかっこいい!』と感動がありました。やはり定番中の定番といえる曲なのですが、ハイレゾで聴いてみると、弦を弾いているすぐそばに耳を寄せているような体感。コンサートで聴いたときのグルーヴ感というのも、もちろん特別なものですけど、演奏者との間に距離があることは確かで、それとは違った臨場感がある。先に紹介したベートーヴェンの曲の印象とも違って、こちらは入り組んだ枝の中に分け入っていくような情景が浮かびます。こうした小編成ではとくに、演奏時のちょっとした動きや、細かなニュアンスまで伝わってくるから面白い。生き生きと弾む調べにのって、自分まで演奏しているかのような高揚を楽しめました」
「ストラヴィンスキーにとって初期の作品で、強烈なエネルギーが感じられる曲。はじまりからダンダンダンダン!と、まさしく衝撃的で、凶暴とすら感じる演奏に、思いきり没入したくなります。さまざまな音が幾重にも重なる演奏も、ハイレゾでは、しっかり鮮明に再現されるのがうれしいですね。クラシックが好きな人は、フルスコアを見ながら、弦楽器であるとか、金管楽器であるとか、特定の楽器のパートに集中して聴いてみることがあると思います。そういうときに、ハイレゾ音源を高音質で再現できるヘッドホンで聴いてみると、それぞれの楽器の細かな音まで追うことができて、より楽しめるはず。ストラヴィンスキーのこうした曲も、繰り返し聴いてみると、いろいろと発見がありそうです」
「この頃、スティーヴ・ライヒの作品をよく聴いています。70年代、80年代につくられた実験的な名曲はもちろんですが、それ以降や最近の作品もすばらしくて。音楽の喜びを、ひたすら純粋に謳歌しているように感じられる作品があります。この曲もそのひとつ。シンプルで美しくて、明るい曲調なのに泣けてくるというか。悲劇よりも、喜劇の明るさの中でこそ、ふと涙があふれてくることがありますよね。そうした奥深さや、力強さに通じるのかもしれません。今回、ハイレゾ音源で選んだのは、指揮者のクリスチャン・ヤルヴィとのコラボレーションによるアルバムです。この曲は、彼の指揮するオーケストラによるライブ録音が収録されていて、その場限りの体験が包み込まれているような印象でした」
「ティグラン・マンスリアンは、アルメニアを代表する作曲家のひとり。古くから伝わる民族音楽と現代的な音楽の要素を合わせるバランスがとてもいいのですが、この作品では、また違った境地を見せています。死者の安息を願うレクイエムは、教会における美しい残響を、きわめて重要なものとしてとらえた音楽。インイヤータイプのこのヘッドホンで聴くと、頭の上のほうからも音が降ってきて、深い癒やしに満たされるようです。僕は小さい頃、祖父母に連れられて教会によく行っていて、神父を目指す神学生と一緒に過ごす機会なども多かった。そうした環境も一因なのか、レクイエムに惹かれるところがあるんです。アルメニアという国の歴史や文化にも、とても興味があります」
※moraでのハイレゾ商品の試聴再生はAAC-LC 320kbpsとなります。
試聴再生は実際のハイレゾ音質とは異なります
※音楽配信サイト「mora」で配信されている曲の中から選曲をしています
※ハイレゾで聴く場合は「mora」で購入する必要があります
※取材時にはハイレゾ対応のウォークマン「NW-ZX300」、ヘッドホン「IER-M7」で試聴しました
原摩利彦(はら まりひこ) 1983年生まれ。大阪府出身。京都大学に在学中に、音楽活動を本格的にはじめる。2012年、アーティストグループ「ダムタイプ」に参加し、高谷史郎によるパフォーマンス作品の音楽を共同制作。2014年、NHK-FMの番組で坂本龍一と即興によるセッションを行う。2017年、毎日放送「情熱大陸」に出演。2018年には、サニーデイ・サービス「さよならプールボーイ feat. MGF」のリミックス、NODA・MAP「贋作 桜の森の満開の下」の舞台音楽、名和晃平「Biomatrix」のサウンドスケープ、ダミアン・ジャレ「Omphalos」の舞台音楽における坂本龍一との共作などを手がける。近年のソロ作品としては、レコード版のみでリリースした『Habit』、アルバム『Landscape in Portrait』など。現在も京都を拠点とし、ピアノを中心とした自身の作品に加え、さまざまなプロジェクトの音楽制作に取り組んでいる。
原摩利彦 オフィシャルサイト
www.marihikohara.com/
※本ページに掲載している情報は2018年12月19日時点のものであり、予告なく変更される場合があります
Edit by EATer / Photography by Kiyotaka Hatanaka(UM) / Design by BROWN:DESIGN
撮影協力:ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川
DJ Licaxxxさんがハイレゾで聴きたかった10曲(後編)
DJを主軸としながら、ラジオパーソナリティーやウェブメディアの編集長を務めるなど、さまざまな活動を続けるLicaxxx(リカックス)さんが、原点である電子音楽の進化を続ける楽しさを感じれる10曲を紹介します。アーティストのためのサウンドをその手に 『IER-M9』『IER-M7』
ミュージシャンが演奏時に装着したり、エンジニアがステージ音響を確認するために作られているインイヤーモニターヘッドホン。この秋、ソニーが新開発のステージモニター『IER-M9』『IER-M7』。そこに込めた設計者のこだわりを紹介します。開発者インタビュー アナログレコード特有の音響現象をデジタルで再現「バイナルプロセッサー」
「アナログレコードも音が良い」という声が、近年、古くからのオーディオファンだけでなく、デジタル世代の若いファンからも聞かれるようになってきました。そんな中、2018年秋からソニー製品に搭載されはじめたのが、アナログレコード再生時の、音楽をより好ましい音で聞かせる音響現象を科学的に再現した「バイナルプロセッサー」です。単なるノスタルジーではない、その真の高音質を、長らく“音”と向き合ってきた、ソニーのベテランエンジニアが語ります。開発者インタビュー さらにハイレゾに迫った「DSEE HX」が登場
楽曲データが本来持っている情報を予測・復元することで、CDや圧縮音源にハイレゾ品質の臨場感をもたらす「DSEE HX」。この技術が2018年秋、ディープ・ニューラル・ネットワークによって、さらなる進化を遂げました。その進化の詳細を、開発に関わったエンジニアたちが紹介します。