“Look Up”が変える
コミュニケーション
2016年2月スペインで開催された見本市MWC(Mobile World Congress)においてプロトタイプが発表され、その斬新なコンセプトで話題となった「Xperia Touch」(当時の名称は「Xperia Projector」)が、この6月、いよいよ発売。壁に付けて設置した状態で約23インチの画面投影を可能とする超短焦点プロジェクターと最先端センサー類、そして最新Android 7.0搭載によって、コミュニケーションのあり方を変えるという本機の狙いを、開発者たちが語る––
「Xperia Touch」は、
“Look Up”したくなる
スマートプロダクト
「Xperia Touch」のコンセプトについて改めて確認させてください。この製品はどのような狙いのもとに企画・開発されたのでしょうか。
城重:ソニーモバイルコミュニケーションズ(以下、ソニーモバイル)は、昨年の11月に、スマートフォンと接続して利用するスマートプロダクト「Xperia Ear」を発売しました。これは音声とジェスチャーを使ってスマートフォンを操作できるようにするというもので、そこには“Look Up”というコンセプトがありました。スマートプロダクト第2弾となる「Xperia Touch」もそのコンセプトに基づいて企画・開発しています。
“Look Up”というコンセプトについて、もう少し詳しく教えてください。
- ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
- スマートプロダクト部門 商品企画課
- 城重 拓郎
城重:スマートフォンが普及して以降、皆が、屋外でも屋内でも下を向いて(=Look Down)いるようになりましたよね。これを文字通り、“Look Up”させたいというのが、基本的な考え方です。「Xperia Ear」ではスマートフォンの個人利用を“Look Up”させましたが、「Xperia Touch」では家族間コミュニケーションを“Look Up”させたいという狙いがあります。チームメンバーの間で、家族でいるのにスマートフォンの画面ばかり見ているのってちょっと寂しいよね、という課題意識があったんです。
家族間コミュニケーションを促進するために、「Xperia Touch」に盛りこまれた新しいユーザー体験とはどういったものでしょうか?
城重:家族が集まるリビングに置いてあるテレビは、皆で楽しめる反面、コンテンツが一方通行であるという弱点があります。対するパソコンやタブレットはインタラクティブではあるものの、基本的には個人で楽しむものです。「Xperia Touch」が目指したのは、双方の良いところ取り。つまり、大画面で、かつ双方向性があるものを作ろうと考えました。
大画面のスクリーンをみんなで操作できるというコンセプトは、まさにテレビとスマートフォンの「良いところ取り」と言える。
家庭内のどういう場所で使われることを想定していますか?
城重:プロモーションビデオを見ていただくと分かりやすいのですが、アイデア次第で本当にいろいろな活用法があると思っています。リビングはもちろん、キッチンなど、これまでディスプレイが置けなかった場所でも使っていただきたいですね。
家庭以外での活用はあまり意識していないのでしょうか?
城重:いえ、そんなことはありません。一昨年にプロトタイプを発表して以来、ビジネス方面からもさまざまなお声がけをいただいています。実はもう、いくつか具体的な話も動き始めているんですよ。
それらについて、可能な範囲で教えていただけますか?
城重:4月末頃からメルセデス・ベンツ日本株式会社さんのショールームに「Xperia Touch」が導入されることになりました。カフェカウンターや、ソファテーブル上にさまざまな車種の3DCG映像を表示させ、タッチ操作で自由に拡大・縮小・回転していただけます。3DCGを使うことでカタログより詳細な車両イメージをつかんでもらうことが目的ですね。現時点では、こうしたインタラクティブなデジタルサイネージ的活用法がもっとも多く、他にも多くのプロジェクトが進行中です。
また、ホテルオークラ福岡にあるラウンジ&バーHAKATAGAWAにて、「Xperia Touch」にメニューを表示して閲覧できるサービスを試験的に始めます。バーのカウンター上にタッチ操作できる電子メニューが投影されるというのは、体験として面白いですよね。会話も弾みそうです。
なるほど。確かに接客ツールとしても「Xperia Touch」は有望そうに思えます。
城重:接客以外では、工場などでの図面を広げた打ち合わせの際にも「Xperia Touch」が役立つのではないかと考えています。パソコンやタブレットよりもはるかに大きな表示が可能で、しかもタッチ操作で拡大・縮小したり、注釈を書き込んだりもできますからね。
当初は、家庭向けに開発をスタートした「Xperia Touch」ですが、発売を前に、当初の予想を超えて市場が広がっているのを感じています。
「Xperia Touch」は、“Look Up”したくなるスマートプロダクト にいいね
ソニーとソニーモバイルの
コラボが生み出した
高品質・高凝縮ハードウェア
続いて「Xperia Touch」のハードウェアについてお話を聞かせてください。ソニーモバイルとしては初のプロジェクター製品となりますが、これは独自に開発したものなのですか?
- ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社
- スマートプロダクト部門 スマートプロダクト開発部 システム1課
- シニアプロジェクトマネジャー
- 斉藤 裕一郎
斉藤:プロジェクションユニットについては、ソニーが1年前に発売したポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」のものを、ほぼそのまま利用しています。もちろん開発には「LSPX-P1」のエンジニアにも参加してもらいました。
このプロジェクションユニットの素晴らしいところは、業務用デジタルシネマ機器などで使われている、ソニー独自の表示デバイス「SXRD」のおかげで、非常に高い視認性を実現していること。広色域でコントラストも高いため、居間を真っ暗にしなくても文字を読みやすく、写真や動画などを美しく表示してくれます。
高画質は「LSPX-P1」由来とのことですが、タッチ機能は「Xperia Touch」独自のものですよね?これはどのように実現しているのでしょうか?
斉藤:本体下部に赤外線センサーを内蔵しており、それによって最大10点までのマルチタッチを実現しています……というと、簡単そうに聞こえるかもしれませんが、これが本当に大変でした。赤外線センサーは、映像の投写面の直上をスキャンしているのですが、スキャン面と映像にちょっとでも隙間が空くと、昔のぶ厚いガラスのタッチパネルを使っているかのようなズレを感じてしまうんです。これをギリギリまで近づけるのに苦労しましたね。
また、スクリーンの端まできちんとタッチできるよう、センサーの有効範囲を画面一杯まで広げるのも難易度の高いチャレンジでした。Android™のアプリは四隅に重要なボタンがあることが多いので妥協は許されません。そのため、精度の高い専用センサーユニットを1台1台、個別に調整して組み込んでいます。
そのほか、「Xperia Touch」には人が近づくと自動で画面表示をオンにする人感センサーや、温度・湿度などを測定できる環境センサーなど、さまざまなセンサーが内蔵されており、ウィジェットやアプリでリビングの環境を確認したり、本体をコントロールしたりといったことができます。
センサーの有効範囲イメージ。
10点までのマルチタッチに対応。映像投射面とスキャン面はできるだけ隙間を空けず、タッチ時に違和感が出ないよう調整されている。
こうした機能追加がなされているにもかかわらず、本体サイズが「LSPX-P1」とほとんど変わらないのには驚きました。むしろ横幅などはよりスリムになっていますよね。
斉藤:そこは、ソニーモバイルがスマートフォン開発で培ってきた集積技術の賜物ですね。プロジェクションユニットはかなりの熱を発するのですが、そうした熱対策にも私たちのノウハウが活かされています。また、横幅が約69mmとスリムになったおかげで、リビング内での持ち歩きもしやすくなりました。これなら、手の小さな方でも片手で持ち運んでいただけるはずです。
城重:モバイル機器ではないのだからそこまで小さくする必要はないと思われるかもしれませんが、リビングという生活空間に常に置かれているものである以上、大きく、悪目立ちするようなものであってはいけません。そこで大きさはもちろん、本体カラーリングや質感など、リビングとマッチするようなデザインも心がけています。
「Xperia Touch」はモバイルデータ通信機能こそもたないものの、中身はほぼAndroid™スマートフォンと同等です。スペック的にはどれくらいのものが内蔵されているのでしょうか?
斉藤:現在発売されているスマートフォンと比べても、決して劣るということはありません。最新アプリゲームなども快適に楽しんでいただけるようなスペックを備えています。また、OSも最新のAndroid 7.0を搭載しているので、「マルチウィンドウ」など、「Xperia Touch」の大画面をより有効活用できる機能をご利用いただけます。
城重:ソフトウェア面では、「Xperia Touch」だけのオリジナルウィジェットをプリインストールしました。天気や時刻、カレンダー表示を行えるほか、プロモーションビデオでご紹介した、指先で机や壁に落書きする機能、大画面スクリーンでSkype通話する機能などを盛りこんでいます。ちなみにウィジェットのデザインは、投影時に画面の継ぎ目が見えないAny Surface Designを採用しています。これもまた、先ほどお話しした生活空間とのマッチングに向けたこだわりのひとつなんですよ。
今後、こうしたオリジナルウィジェットやアプリを増強していく予定はありますか?
城重:当初想定していたビジョンはこのオリジナルウィジェットで実現できるようにしていますが、今後の皆さんの活用法によっては、何か新しいものを作って提供していくことがあるかもしれませんね。
斉藤:Android™アプリ開発者の皆さんが、「Xperia Touch」に触発されて専用アプリを作ってくださることにも期待しています。一般的にこうした製品ではOSの機能に制限をかけて自由にアプリを追加できないようにすることが多いのですが、「Xperia Touch」はあえてそれをしませんでした。それは皆さんに、自由に「Xperia Touch」を活用していただきたかったから。私たちが想像もしなかったようなアイデアが飛び出してくることに期待しています。
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楽しさを切りひらく
最後に、「Xperia Touch」発売に向けたメッセージをお願いします。
斉藤:エンジニアとしては何よりもまず“触って”いただきたいですね。本来ディスプレイではない、机や壁を触って操作するというのは、これまでになかった体験です。想像を上回る驚きと楽しさがありますので、ぜひともソニーストアの店頭などでお試しください。
城重:タッチできるスマートスクリーン×Android™の掛け合わせで予想もできないような面白さを生み出してくれるのが「Xperia Touch」の良いところ。ぜひ、いろいろなアプリやサービスを「Xperia Touch」で試してみてください。個人的には「Google Maps」がお気に入り。大画面で使うとこんなに楽しいんだと興奮しています。皆さんの“発見”もぜひ、教えてください。
ソニーモバイルは、「Xperia Touch」に限らず、長らくコミュニケーションの問題に真正面から取り組んできました。今の時代のコミュニケーションに横たわる問題を解決したい、あるいはこれまでになかった新しいコミュニケーションのかたちを提案したい、ずっとそれを考え続けています。もちろん“Look Up”に向けた取り組みも、これで終わりというわけではありません。次なるスマートプロダクトにもご期待ください。