長時間再生、ストリーミング対応、大画面をスリムボディに凝縮
フラッグシップの高音質技術を継承した
ウォークマン『NW-ZX707』
長時間再生、ストリーミング対応、
大画面をスリムボディに凝縮
フラッグシップの高音質技術を
継承したウォークマン
『NW-ZX707』
音質にも携帯性にも妥協したくないという音楽ファンを中心に幅広い層から支持を集めてきたウォークマンZXシリーズ。最新モデル『NW-ZX707』は、大きな5.0型ディスプレイ搭載など、これまでと大きく異なるフォームファクターを採用したフルリニューアルモデルとなりました。そんな新生『NW-ZX707』の開発コンセプトや音質、操作性、デザインなどへのこだわりを、開発を牽引した中核メンバーたちが語ります。
田中:かつてのポータブルオーディオ機器はPCから音楽データを取り込んで再生するかたちが基本でしたが、近年は端末で直接音源をダウンロードしたり、音楽ストリーミングサービスで音楽を聴くスタイルが当たり前となってきています。特に最近の動向として、音楽ストリーミングサービスがハイレゾ配信、ロスレス配信を強化してきたことを受け、音質を重視するユーザーの間でもストリーミングで音楽を楽しむ人が増えてきました。
そうした中、ウォークマンもストリーミング対応を積極的に進めており、今年3月に発売したフラッグシップモデル『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』は、従来と一線を画す高音質で音楽ストリーミングサービスを傾聴できることから大変ご好評をいただいております。
田中:その通りです。2019年に発売された先代モデル『NW-ZX507』から改めて音楽ストリーミングサービスの対応を強化しましたが、新モデル『NW-ZX707』では、そこに上位シリーズ『WM1M2シリーズ』に搭載されている高音質パーツを採用し、これまでのZXシリーズの領域を大きく越える高音質を実現しています。後ほど詳しくお話しますが、先代モデルの課題となっていたバッテリー駆動時間についても大きく改善させ、外出利用が多い方にも安心してお使いいただけるようにしています。
田中:まず、『NW-ZX507』では3.5型だった液晶ディスプレイが、『WM1M2シリーズ』と同じ5.0型HD解像度ディスプレイとなりました。これによってご自宅でゆっくりと音楽を楽しんでいただくようなシーンでもしっかりとした操作性を担保しています。しかも『NW-WM1AM2』と比べて一回り小さく薄く、軽量に仕上がっており、外に持ち出しやすいことも特長です。
佐藤(朝):ちなみにこの『NW-ZX707』ですが、開発自体は『NW-WM1ZM2』『NW-WM1AM2』と並行して進めていました。これらフラッグシップモデルのために用意した高音質パーツのうち、大きさや重さなどで許容できるものを『NW-ZX707』のために集め、音質設計の佐藤(浩)らと毎日のように話し合いながらフラッグシップの高音質を盛り込むかたちで作りあげています。
音質以外の点では、課題となっていたバッテリー駆動時間の問題を解決するため、プラットフォーム自体も刷新しました。音の進化と合わせて、システム周りも大幅に改善されているので、見た目の変化も合わせ、従来モデルとは全くの別ものと言っても過言ではありません。
佐藤(浩):まずわかりやすいところでは、オーディオブロックの電源コンデンサーですね。『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』では、ここに最新世代の「FTCAP3」を採用しており、FTCAP(高分子コンデンサー)の頂点を極めたのではないかと思っているのですが、それをそのまま『NW-ZX707』にも流用しました。
また、それぞれの部品の実装には同じくフラッグシップモデル用に新開発した金入り高音質はんだを使っています。「はんだの違いでそこまで音質は変わらないんじゃないか」と言う方も多いと思うのですが、はんだは全ての部品に使われているので、その品質が音質にかなり大きな影響を及ぼします。実際に聴いてみていただければ、音場の広さ、高さ……広がり感、そして透明感が明確に変わっていることがすぐにわかっていただけると思いますよ。
佐藤(浩):実はこれ、絶妙な調合が必要で、金をたくさん入れれば良いというわけでもないんです。我々も最適な配合量を見つけだすまで、我々も何度もトライアンドエラーを繰り返しました。最終的にできあがったものは、PPM(百万分の1=0.0001%)単位で金の含有量を調整しているんですよ。なお、この金入り高音質はんだは、『NW-ZX707』や『NW-WM1ZM2』『NW-WM1AM2』のほか、ノイズキャンセリングヘッドホン『WH-1000XM5』にも使われており、その高音質化に貢献しています。
佐藤(浩):さらに『NW-ZX707』では、『NW-WM1ZM2』『NW-WM1AM2』の目玉パーツにもなっている主源の大容量固体高分子コンデンサーも搭載しました。元々はもう少し径の細いものを搭載する予定だったのですが、試しにフラッグシップモデルと同じものを搭載してみたら明確に音が違っていて、もうこれを載せるしかないな、と(笑)。
佐藤(朝):普通だったらこのサイズにこんな大きなコンデンサーを入れるのは無理なんですけど、デザイナーの野久尾に相談して、デザイン的にも違和感のないよう、上手に収めてもらいました。
佐藤(朝):そうなんです。こうした処理はZXシリーズ初代の『NW-ZX1』(2013年発売)でも採用されているのですが、この膨らみの部分に高音質が詰まっているのだというメッセージにもなっており、とても気に入っています。
野久尾:そうですね。でも『NW-ZX707』では、設計の最初期から音質設計の佐藤(浩)と相談しながら進められたので、デザインサイドとしても、はじめから機能を意識したデザインをできました。
ちなみに、この部分、少しでも薄くするため、大型コンデンサーの部分だけ表面のラバーを薄くして内部の高さを稼ぐということをやっています。
野久尾:はい。少しでも薄くするためにこうした工夫を施してます。
佐藤(朝):それなのにこの後、コイルも従来モデルと比べて大きくしたいって佐藤(浩)が言い出したんですよ(笑)。コンデンサーを大きくするんだったら、コイルも『NW-WM1ZM2』などと同じものにしようって。
佐藤(浩):画面サイズが大きくなって本体の幅が広がっているから入るんじゃないのってメカ担当の浦谷に相談しましたね。
浦谷:私は「入りません」って回答したはずなんですが……(笑)。
佐藤(浩):でも、結局はなんとかこれを入れてもらえました。おかげで低音のどっしり感が出て、さらに良くなったと私自身は大満足しています。
佐藤(浩):デジタルアンプの「S-Master HX」自体は従来モデルと同じものなのですが、S-Master HXは周辺パーツの品質を上げるとどんどん良くなっていくという素直な性質を持っているため、高音質パーツや金入り高音質はんだをふんだんに用いた『NW-ZX707』との相性は抜群ですね。
佐藤(浩):スケール感や低音の沈みこみなどは上位モデルの『NW-WM1AM2』に一歩譲るところはありますが、広さ、高さの表現力や繊細さについてはかなり近づけているんじゃないかと思っています。
佐藤(朝):よりクリアな音になっていますよね。これまで聴いていた音楽からベールを1枚取り去ったような、そうした進化を感じていただけるはずです。
佐藤(浩):あとは、少し古めの音源についても気持ちよく聴いていただけるようチューニングしていますので、昔好きだった思い出の音源などもお試しいただきたいですね。
佐藤(浩):なお、この際できればその曲をロスレスで取り込み直してもらえると、これまで以上の体験をお楽しみいただけます。かなり面倒な作業ではあると思うのですが、かなり違いが大きいので、ぜひ!
佐藤(朝):『NW-ZX707』では、主にバッテリー駆動時間を延ばす目的でSoC(System on a Chipの略。CPUやGPUなど、デジタル機器を動作させるために必要な機能の多くを1チップ化したもの)を変更しています。具体的には『NW-ZX507』や『NW-WM1AM2』などと比べて低消費電力なSoCに差し替えているのですが、実はこれが音質にも効いてくるんです。
佐藤(朝):低消費電力ということは、電源の大元になっているバッテリーや電源ICから供給される電力が少ないということですから、電力が少ないと電源ノイズの発生も少なくなるのです。そのため、省電力なSoCを搭載するということには音質的に良い効果があります。
佐藤(朝):そうですね。でも、そうした最新のSoCは処理をハイパワーで短時間に終わらせ、処理が終わると省電力モードに切り換えることでトータルでの電力消費を抑える仕組みになっていることが多いんです。つまり、電力消費のピーク時とオフピーク時の差が大きく、その電力消費の変動が電源を大きく揺さぶってしまいます。
佐藤(朝):低性能なSoCと高性能なSoCを全く同じ条件のオーディオ回路と組み合わせて試作し音質比較をすることは容易ではないので、実際に実験した結果ではないのですが、これまでいくつものウォークマンの音質検討をしてきた中で、ノイズを発生させないデバイスを選ぶ、発生させない制御・動作をさせる、ということが高音質化に繋がることを実感してきていますので、そういう傾向があると考えています。『NW-ZX707』では、そうした知見を踏まえ、ノイズを抑えることを最優先に、あえて音楽を聴くために必要となる最低限のパフォーマンスを備えたSoCを選定して搭載しました。
佐藤(朝):その通りです。また『NW-ZX707』のディスプレイに流行りの有機EL(OLED)ではなく液晶(LCD)を採用しているのも同様の理由からです。有機ELは黒の表示時には発光を止めることで高いコントラストを発揮し、電力消費も抑えてくれるのですが、逆に白を表示している時には電力消費が大きくなります。それゆえに表示する内容によって消費電力が大きく上下するという特性があります。そこで『NW-ZX707』では、音質の観点からあえて液晶ディスプレイを搭載しました。
佐藤(浩):今回からではなく、3年以上前からやっていることなのですが、5Gのスマートフォンでも使っている低誘電率の基板を『NW-ZX707』でも使っています。これは5Gのような高い周波数帯の電波(30GHz〜300GHz帯)を扱うような機器でしか使わないものなのですが、試してみたら音が良くなったので、ずっと使い続けてきました。世の中に5Gスマートフォンが登場するよりも早くから使っていたと思います。
あと、「フィルドビア メッキ」と呼ばれる基板の表面をでこぼこさせないメッキの技術も高音質化のために採り入れています。これも高周波を取り扱う通信機器の世界では当然のように使われているものだと、Xperia開発チームのメンバーが言っていましたね。
佐藤(朝):僕らは音質のためにノイズを抑える技術を常に探しているのですが、ちょうどそれが、5Gスマートフォンのニーズとも合致していて、ここに来てスマートフォンに使われている技術がオーディオプレーヤーの音質にも効くということが起きているんですよ。
佐藤(朝):そうですね。そのあたりの技術は共有できる財産として積極的に情報交換するようにしています。
佐藤(浩):Xperia開発チームには元ウォークマン担当という者も多いので、ふだんからとても仲が良いんですよ。エントリーモデルのAシリーズに新モデルが出るたびにXperiaと音質比較検証などをしています(笑)。気がつけば、オーディオプレーヤーとスマートフォンの両方を作っているメーカーも我々くらいになってしまいました。その点は大きなアドバンテージになっているかもしれません。
田中:まず、フラッグシップモデル『NW-WM1ZM2』で好評だった「DSDリマスタリングエンジン」を『NW-ZX707』にも搭載しました。これは、W.ミュージックで再生する際のPCM音源を専用回路を通して11.2MHz相当のDSD信号に変換して再生するというもので、DSDフォーマットならではの柔らかみのある音を楽しんでいただけます。PCM音源をストレートに再生していただくのが基本ではあると思うのですが、お好みで切り換えて使っていただければと思います。
佐藤(朝):DSDリマスタリングエンジンは、ウォークマンの技術も用いて開発された持ち運びも可能な据置型プレイヤー『DMP-Z1』(2018年発売)で初搭載された技術で、それを進化させたものを『NW-WM1ZM2』に搭載していました。『NW-ZX707』ではそれと全く同じデバイスを採用しています。
田中:こちらも『WM1M2シリーズ』と同じ、最新世代の「DSEE Ultimate」を搭載しています。その最大の特長は、昨今のトレンドを踏まえ、音楽ストリーミングサービスでも配信されているCD相当のロスレス音源の高音質化が強化されていること。こちらもオン/オフを切り換えて、その効果を聴き比べていただきたいです。
佐藤(朝):また、これも『WM1M2シリーズ』からの進化ではあるのですが、こうした信号処理による高音質化を、Bluetoothを使ったワイヤレス再生時にも適用できるようになっています。
「DSEE Ultimate」によるアップスケーリング(イメージ)
佐藤(朝):はい。上位モデルで開発した技術を、次のモデルでより多くのモデルに導入していくというやり方は信号処理の面でも意識しました。
田中:なお、従来モデル同様、Bluetooth接続時にはハイレゾ品質で接続できる「LDAC」が選べますので、対応ヘッドホンではワイヤレスでも高品位な音をお楽しみいただけます。
田中:『NW-ZX507』では非搭載となっていたUSB DAC機能を今回新たに搭載しました。これはPCなどの音源をUSB接続したウォークマン内蔵アンプ経由で高音質に楽しめるようにするというものです。先ほど紹介した、DSDリマスタリングエンジンなどの信号処理の効果も活かしたかたちでお楽しみいただけますので、こちらもぜひお試しいただきたいですね。
佐藤(朝):OSのバージョンによって何か機能が追加されたということはないのですが、まず大前提としてAndroidは素の状態で内部のパスが48kHzしか通さない設計になっているので、そこに手を入れています。具体的には48kHzに加え、CD由来の44.1kHzの2つのクロックを積んで、どのような音源でも整数倍クロックにして再生できるよう、独自の改良を施しました。
佐藤(朝):そうなんです。でもこの部分はOSがアップデートされるとそのたびに作り直さなければならないので大変です(苦笑)。もちろん今回も、Android 12のために新しくパスを引き直して、Androidだからといって音が変わってしまうことのないようにしています。
寺井:『NW-ZX707』に先んじて今春に発売されたフラッグシップモデル『NW-WM1ZM2』および『NW-WM1AM2』から大きく機能が強化されています。W.ミュージックアプリの「第二世代」といっても良いのではないでしょうか。今回『NW-ZX707』に搭載されている最新バージョンでは、その世界観をさらに整えたかたちで降ろしてくることで、リッチな機能と使い心地の提供を目指しています。
寺井:まず主役の再生画面ですが、楽しさの演出として音楽再生中の背景に色が付くようになりました。技術的には再生している楽曲のジャケット画像から色を拾ってきてそれを背景に反映しているのですが、この背景色は再生中にのみあらわれます。一時停止中には消えるようになっているので、今音楽を再生しているのか、一時停止しているのかも、ぱっと見でわかりやすくなりました。
寺井:なにより画面が華やかになって楽しい気持ちになるのですが、開発中には、イメージ通りの背景色にならないこともありました。単純なルールで機械的に処理すると違和感が生まれるケースがあるんですね。これは音楽に没入するのによろしくないということで、ジャケット画像から色を拾う時のパラメーターを細かく、いろいろとカスタマイズしました。最終的には関係者たちが自分のお気に入りのジャケットを持ち込み、最もしっくりくる色がピックアップされる調整パターンを投票で選んでいます。
寺井:はい。また、再生ボタン付近を左右にフリックすることで、曲の送り戻し操作ができるようになりました。
寺井:そうなんですよ、他の画面にあるミニプレーヤーでの簡易操作が意外に気持ちよくて。そこで、分かりやすくボタンだけでの操作に限っていた再生画面でも、どうすれば違和感なくフリックで操作できるか、ミニプレーヤーと位置的関係や十字方向の操作との両立を踏まえ、操作時のアニメーションを含め試行錯誤して作りこみました。ぜひ便利に使っていただきたいですね。
一方、この十字方向の操作がW.ミュージックアプリにおける一番特徴的なところです。再生画面を中心に、上下左右にフリックすることで、大雑把な操作でもさまざまな機能を呼び出せるようにしています。具体的には上画面に「ライブラリ」が、右画面に「お気に入り」が、左画面に「再生予定リスト」が、下画面に「音質設定」がそれぞれ配置されています。
寺井:もちろん、これらの機能の配置も適当にやっているわけではありません。音楽を聴きながらすぐにやりたいことを実現するための「ソファーロジック」と名づけたルールに基づいています。部屋でソファーに座ってリスニングをするときに、何がしたいかをイメージにしたものです。たとえば「ライブラリ」は、ソファー背後の頭上にあるCDラックに手を伸ばして再生したい盤を取り出してくるイメージです。そのほか、ソファー右手にはサイドテーブルがあり、好きな曲を積み上げておく感覚の「お気に入り」、左手にはこれから再生される「再生リスト」があり、その場でこれから聞く曲の順番を編集できるようになっています。そして足下にはいろいろな音作りができる機器が積まれた「音質設定」があるというイメージです。ここにはソファーに座ってリラックスしながら大好きな曲をじっくり傾聴してもらいたいという思いが込められています。
寺井:その上で、今回は特にお気に入り機能を強化しています。お気に入りは、自分の好きな曲をサイドテーブルにいつも置いておくイメージですが、その置き方は人それぞれですよね。厳選した曲を置く人もいれば、アルバム単位、好きな曲リスト単位で置く人もいます。ですので、今回は「曲」「アルバム」「プレイリスト」それぞれの形でお気に入り登録することができるようにしました。好きな音楽を好きな形ですぐに呼び出せるので、それぞれのスタイルに合った使い方ができると思います。ぜひ活用してみてください。
寺井:『NW-WM1ZM2』『NW-WM1AM2』で初搭載し、密かにご好評いただいていたエージングカウンターを本機にも搭載しています。これは、ウォークマンを購入してから累計何時間再生しているかを計測してくれるというもの。ウォークマンで本来の音質を楽しむためには一定時間通電させてコンデンサーを安定させる必要があるのですが、その目安が200時間なんですね。エージングカウンターでは、ステレオミニ端子、バランス端子それぞれで何時間再生しているかを確認することができます。
寺井:はい。そして200時間に到達するとちょっとだけ面白いことが起きるので、ぜひご自身の目でご確認ください。
また、それに加えてウォークマン40周年(2019年)の際に作成したカセットテープを模したスクリーンセーバーも健在です。再生しているソースのクオリティに応じて、CD音質以下の音源ではノーマルやハイポジションテープ、高品位なハイレゾ音源ではメタルテープなど、全9種類のテープが表示される仕組みになっているので、いろいろな音源を再生してみて、自分が昔使ったテープに再会するのも楽しいかと思います。
寺井:ちなみにこの映像、CGなどではなく実写映像なんですよ。社内の有志から当時のカセットテープをかき集めて、社内の初代ウォークマンに装着して、再生している様子を撮影することでスクリーンセーバー化しました。
寺井:実はそうなんです(笑)。『NW-ZX707』の画面サイズだとほぼ実寸大になるので、パッと見た感じは本物のテープが回っているように感じていただけるはずです。インデックス表示も懐かしのインレタシールを再現していてリアルなので、より楽しんでいただけると思います。
佐藤(朝):標準の音楽再生アプリ「W.ミュージック」で圧縮音源(MP3)を再生した場合で、『NW-ZX507』が最大20時間(*1)再生だったのを『NW-ZX707』では最大25時間(*1)にまで延ばしています。ただ、今回特にお伝えしたいのは、W.ミュージックアプリ以外の、その他ストリーミングサービスなどの音楽サービスアプリを利用した場合の連続再生時間です。サービスによって数字が変わるため、同条件で測定したところ、従来モデルと比べて倍以上(*2)、W.ミュージックアプリ再生時と比べてそう大きく変わらない長時間、音楽を聴き続けていただけるようになりました。
*1 MP3 128kbpsモード、有線接続かつ画面オフの状態で「W.ミュージック」で連続再生時。設定条件により異なります。アプリの使用状況によっては短くなることがあります
*2 MP3 128kbpsモード、有線接続かつ画面オフの状態で「W.ミュージック」以外の音楽サービスアプリでオフラインモードで連続再生時。
設定条件により異なります。アプリの使用状況によっては短くなることがあります。動画再生時は、電池持続時間が短くなります
佐藤(朝):従来モデルではW.ミュージックアプリ再生時のみ特別なローパワーモードを用意して連続再生時間を稼いでいたのですが、『NW-ZX707』では先ほどお話したように、そもそも低消費電力なSoCを搭載したことで、再生アプリを問わない長時間再生を可能にしました。
佐藤(朝):バッテリー容量は従来モデルと変わっていません。純粋に消費電力を抑えることで長時間再生を実現しています。
佐藤(朝):はい、その通りです。ですので、市販のモバイルバッテリーなどから充電していただくことが可能です。
佐藤(浩):ちなみにUSB Type-C端子は『NW-ZX507』では本体側面に配置されていたのですが、今回は底面に移動しています。これ、『NW-ZX507』の開発者インタビューで音質のために側面に移動したと説明していたのですが、かなり多くのお客さまから元に戻してほしいという声をいただいたので、なんとか音質に影響がでないよう、内部の配線パターンなどを工夫して元に戻しています。
寺井:あとはAndroid搭載のZXシリーズとして初めて「いたわり充電」機能を実現しました。バッテリーをフル充電の少し手前で止めてあげることでバッテリーの負荷を減らし、バッテリーのライフサイクルを長持ちさせようという機能です。
野久尾:実は最初に描いたデザインは、従来モデルのデザインを踏襲した、側面が丸みを帯びたものでした。ただ、画面サイズが大きくなっている中でそれをやると思った以上に横幅が広がってしまって……。また、新しい『NW-ZX707』が従来のZXシリーズの枠を超えた進化をすることもわかっていたので、デザインの面でも既存の枠を飛び越えてやろうとゼロから考え直すことにしました。
野久尾:はい。新しいデザインを起こすにあたって音のプロフェッショナルの意見を聞いておきたいと思い、キックオフの直後から佐藤(浩)さん、そしてメカ担当の浦谷さんと3人で集まって、毎日のようにデザインについて話し合いました。
野久尾:佐藤(浩)さんからは音質のために剛性感を高めてほしいというリクエストをもらっていました。実は従来の側面が丸まった形状はその点でとても有効なもので、箱形にするとそれよりも剛性がかなり落ちてしまうんです。そこで何かしらデザインの工夫で剛性を高める必要がありました。
野久尾:近付いてよく見ていただけるとわかるのですが、ボディ側面をぐるりと取り囲むように出っ張りを付けています。これはレインフォースメントと呼ばれる自動車のボディやドラムのシェルの補強に使われている手法なんです。ほかにもいろいろなアイデアはあったのですが、単に剛性を高めるだけでなく、デザインの観点からも音質に寄与できないかと考え、楽器でも使われているこの手法を提案しました。
なお、こうしたことで手に持った時に角が直接手に食い込みにくくなったり、実際よりも薄く感じられるといった効果も得られています。
浦谷:今回、従来モデルまではリング状だったヘッドホンジャック周りの金属パーツを側面に沿うようなL字状にしたいというリクエストを受け、アルミニウムブロックから削り出したパーツにすることを提案しています。
浦谷:最初はそのつもりだったのですが、曲げ加工でやるとどうしても厳密にボディに沿ってくれず、きれいなフラットにならないんです。ここがうまくつながらないととても安っぽく見えてしまうので、キャビネットと同様にアルミ削り出しでやることにしました。そのおかげで、天面の角部をキラっと光らせるなどの細部までデザインのこだわりを実現することができています。
野久尾:フラッグシップモデルの『NW-WM1ZM2』は、ヘッドホンジャックに向かう部分をわずかに出っ張らせることで、正面(ディスプレイ側)から見た時にもしっかりと個性を感じさせるようにしていますよね。『NW-ZX707』でも同様に正面視でそれと分かる個性を盛り込みたくて、無理なお願いをしてしまいました。ヘッドホンジャックってやっぱりウォークマンならではのアイコンじゃないですか。スマートフォンとは違うことをしっかり表現したかったんです。
浦谷:また、こうして直線的な形状にしたことで、ディスプレイ周りを狭額縁にできたこともスマートな見た目の実現に貢献していると考えています。画面の周りに余計なスペースがなくなったことで片手でフリックやスワイプ操作などがしやすくなるなど、使い勝手の面も向上しているんですよ。
野久尾:ただ、ディスプレイが狭額縁になったことで、これまで本体正面に入れられていたウォークマンロゴが入れられなくなってしまいました。
野久尾:そこで『NW-ZX707』は本体背面の、先ほどお話しした隆起している部分にアルミ蒸着でキラリと輝くロゴを入れました。もちろん、色はヘッドホンジャックの金色に合わせて、きちんと一体感を感じられるようにしています。
浦谷:表からは見えないところですが、ボディ内部の形状については、これまで長らく培ってきたアルミを削るノウハウを駆使して、軽さと強さを両立させています。また、基板を支える内部のボス(ねじ止め用の突起)も今までのモデル同様に削り出しました。
佐藤(浩):なお、このボスには基板とボディを電気的に接続する目的もあるのですが、ボディは最終的に表面をアルマイト加工で絶縁してしまうので、わざわざこの部分だけを削って通電するようにしているんですよ。
野久尾:はい。画面カバー付きのレザーケースを用意しています。レザーの質感を残しつつ、どこまで薄くできるかということに挑戦しており、一枚の本革を極力オーバーラップさせずに全体を包み込むところに苦労しました。
また、レザーケースというとどうしてもエッジ部分が丸くなって本体がかなり大きく見えてしまいがちなのですが、このケースでは折り曲げ部分を限りなく直角に近づけることで『NW-ZX707』ならではのシャープな印象を損なわないようにしています。レザーケースとしてはあまり見られないフォルムに仕上がったのではないでしょうか。
佐藤(朝):一般的なレザーケースは本体サイズが2周りくらい大きくなってしまうのですが、このケースは『NW-ZX707』のコンパクトさを損なわないように作られているのがポイントです。
野久尾:あと細かいところでは側面部分に切れ込みを入れず、一枚の革で覆うようにしています。こうすることで、画面の下から上にスワイプするような操作時に指の根本が引っかかってしまうのを防ぐことができるんです。
野久尾:はい。そのためこのケースではボタン部分にエンボス加工を施すことで、カバーを付けた状態でも間違いなくボタン操作できるようにしています。なお、背面のウォークマンロゴもエンボス加工でつけています。
佐藤(浩):これまでのウォークマンのレザーケースとは大きく異なる、良い意味で違和感のある仕上がりになっているので、ぜひ本体と合わせてお買い求めいただいて、外に持ち出す際に使っていただきたいですね。本革なので育てる楽しみもありますよ。
田中:『NW-ZX707』がここまでの進化を果たしたことで、上位モデル『NW-WM1AM2』とどっちを選べばいいのか悩んでいる方も多いかと思われます。まず何よりも高音質を重視するという方には『NW-WM1AM2』をお選びいただきたいです。『NW-ZX707』は先代『NW-WM1A』の音質にはひけを取らないレベルに仕上がっていますが、『NW-WM1AM2』はさらにその先の音質を実現しています。
それに対し『NW-ZX707』は言わば万能型のモデル。バランス接続やDSDネイティブ再生、DSDリマスタリングエンジンなどの高音質フィーチャーを楽しみたい、でもサイズや重量はできるだけ抑えて気軽に持ち歩きたいし、コストパフォーマンスも気になるというさまざまなご要望を全方位で叶えてくれる製品です。ZX507シリーズで多くのご要望をいただいていたバッテリーライフも大幅に伸びましたので、出先でも安心して音楽ストリーミングサービスをお楽しみいただけます。ぜひ、これまでウォークマンを使ったことがないという方にもお試しいただければと思います。
佐藤(朝):私はこれまで『DMP-Z1』からWM1シリーズ、ZXシリーズなど幅広い製品の開発に携わってきたのですが、実際に自分が通勤中に使うことを考えると、持ち運びが苦にならない大きさ・重さのZXシリーズがいいな、と。『NW-ZX707』は、そのZXシリーズにどれだけWM1シリーズの高音質化を詰め込めるかに挑戦したモデル。開発にはとても苦労しましたが、結果として、シリーズの集大成とも言えるようなものに仕上がりました。通勤時間に最高の音を楽しみたいという人にはぜひ『NW-ZX707』で、スマートフォンで聴くのとは別次元の音を体験していただきたいです。
佐藤(浩):先代モデルから約3年。この間、ウォークマンのための高音質パーツは大型コンデンサーや金入り高音質はんだなど、劇的に進化しました。それをどうしてもZXシリーズでも使いたいというのが今回、大きなモチベーションになっています。メカの浦谷をはじめ、他の開発メンバーにはかなり無理をお願いしてしまいましたが、そのおかげで『NW-WM1AM2』に迫る音質を実現できました。デザインもものすごくかっこいいものに仕上がりましたので、少しでも多くの音楽ファンに興味を持っていただきたいですね。なお、音質設計担当としては、バランス接続の良いヘッドホンで、『NW-ZX707』ならではの音の広がりを満喫していただけたらうれしく思います。
浦谷:実は私、これまで『NW-ZX300』を愛用しており、通勤中はずっとこれで音楽を楽しんでいました。今回、そんな私が『NW-ZX707』の開発に携わるにあたりこだわったのが手に持った時のサイズ感。画面サイズは大きくなりましたが、極力大きさを感じさせないように工夫しましたので、ぜひ手に取って確かめていただきたいですね。また、その上で、画質はスマホに劣るかもしれませんが、音楽はもちろんのこと、この大画面を活かした動画再生もおすすめしたいです。YouTubeやストリーミングサービスなどで配信されているMVなどを『NW-ZX707』で再生すると、すごく良い音でより映像に没入できるようになりますよ。
野久尾:『NW-ZX707』は実際に良い音を奏でる製品なのですが、それをデザイン的に伝えることが私のミッションでした。すごい音がしそうな外観など、今までのZXシリーズから大きく変えた新しいデザインを実現できたので、実際に実物を見て、手に取っていただき、デザインからも音が良くなった感じを体験していただきたいですね。
寺井:ウォークマンに限らず、全ての製品は「価値」と「使いやすさ」の両方が必要です。機能や性能的な価値があっても使いにくかったらダメですし、価値のないものが使いやすくても意味がないですよね。さらに「価値」には、単になにか問題を解決できることだけではなく、楽しく魅力的であることも含まれます。そう考えていくと、理論をどんなに積み上げて行っても良いUI/UXは提供できないことがわかります。きちんとした理論化とそれでは説明できない魅力。その双方をバランスよく取り入れた形で設計していくことが求められているんです。私たちは音楽が大好きで、ウォークマンが大好きで、それをもっと楽しんでもらえるはずだという想いで、長らくウォークマンの体験を磨き上げてきました。今回ご紹介できなかった部分を含め、自信を持ってお届けできるものに仕上がっていますので、そこに込められた私たちのメッセージをぜひ感じていただければと思います。よろしくお願いいたします。