━━ 音楽プロデューサーとして日々レコーディングスタジオやライブ会場で音楽に触れている小林さんですが、プライベートな時間ではどのように音楽を聴かれているのですか。リスニングの際のこだわりのようなものがあれば教えてください。
それは聴く時の機器やシチュエーションによって変わってきます。近年はReborn-Art Festivalの関係で東北に行ったり、また別の仕事で関西方面に行ったりと、地方に行くことが多いんですね。しかも日帰りとか一泊じゃなく、何日か滞在することも多い。そうなるとどうしても気軽にBluetoothで聴けるヘッドフォンや再生機器を選びがちになります。とはいえ単に手軽であればいいというわけではもちろんなくて、その音楽が持っている"響き"をしっかり再生できているかどうかが、機器を選ぶひとつの基準としてあります。当然だけど一般的なスマートフォンレベルの再生機器でボトムの効いたロックやアナログ感にこだわった音の作品を聴いても、本来その曲から得られる快感の半分どころか10%も得られない。いくらポータブルとはいえ、それではさすがに厳しいですから。
━━ 普段ご自宅にいる時はスピーカーを鳴らして音楽を聴かれることが多いですか。
実は今ちょうど自宅の音響環境を変えたいなと思っているんですが、オーディオに関して言えばアナログからハイレゾまですべてを同じシステムで聴けるような状態、聴き比べができる環境にしたいと思っています。
━━ そういったアナログ、ハイレゾそれぞれの音の豊かさや緻密さというのは、ご自身が実際に手掛けられた作品で感じられたこともありますか。
自分の手掛けた作品で言えば、YEN TOWN BANDの最初のアルバムはレコーディングから一切デジタルを使っていない完全なアナログサウンドなんですが、それを去年初めてアナログ盤にしたんです。その音を聴いて思ったのは、アナログとデジタルというのは一見正反対なんだけれど実はそんなことはなくて、ハイレゾまで行くと実はデジタルもアナログも同じ方を向いているんだなということ。このSonyのヘッドフォンとウォークマンで今回いくつかハイレゾの音源を聴いて、そのことをあらためて実感しました。キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』なんかはいい例ですよね。これだけ再生音のクオリティが高ければ、作り手が作品に込めた思いや、やろうとしたことがそのままの形で伝わってくる。それは僕らとしてはとても望むべきことだし、ちゃんと伝わるのは嬉しいことですから。
━━ 聴き手の再生環境というものは常に意識されていますか。
それについては今よりも若い頃のほうが強く意識していたと思います。たとえばモノラルで聴いた時にどう聞こえるか、小さなラジカセで聴いたとしてもその曲の魅力はちゃんと伝わるのか、その曲を好きになってもらえるのか、そんな視点も大事にしていました。
━━ それは徐々に変わっていったのでしょうか。
そうですね。今は昔と違って聴き手の音楽体験も遥かに多様になっているので、かつてのようにシンプルなアウトプットで確認する必要もなくなってきたと感じています。たとえばの話ですが、もし僕が手掛けたSalyuの新しい作品が、ものすごく音質にこだわって作ったものだと言ったら、ちょっと興味を引かれませんか?