近年のソニーは、音楽や映像を楽しむエンドユーザーだけでなく、それらコンテンツを創り出すクリエーターにも近づく製品展開を行う方針を打ち出している。そんなソニーが、「プロやセミプロから趣味用途まで、高品位な音楽・音声レコーディングを実現する」とアピールするのが、ハイレゾ対応リニアPCMレコーダー「PCM-D10」だ。
では、そんな「PCM-D10」を実際にプロミュージシャンが使ったらどうなるのか?かつてX(後のX JAPAN)のアルバム『BLUE BLOOD』『Jealousy』のCo Producerを務めるなど豊富な経験を持つ津田直士さんと、そんな彼が見出したシンガーソングライター井上水晶さんによるユニット『ツダミア』のふたりに製品を試してもらった。
なお、記事の最後には実際にツダミアの演奏をPCM-D10でハイレゾ録音したサンプル音源も無料ダウンロード可能にしてある。そのクオリティをぜひ耳でも確かめてほしい。
「PCM-D10」は、PCM 192kHz/24bitのハイレゾ録音/再生に対応。ソニーのラインナップのなかではDSD録音対応のフラグシップ機「PCM-D100」(2013年発売)に次ぐモデルという位置づけだが、XLR/TRS入力端子装備によるバランス入力対応など機能面で充実している。音質面でもブラッシュアップが図られており「PCM録音においては最高峰の音質を目指したモデル」(ソニー 商品企画担当スタッフ)だという。
津田さんは開口一番、「感想を一言で言えば、『ひたすら欲しい』ですね(笑)」とPCM-D10を絶賛。「持っていてとにかくワクワクするんですよ。なんでもかんでも録音したくなりますね」と語る。
ミアさんも「ハンディサイズなのに、こんなにキレイに録れちゃうんだとびっくりしました」とコメント。「録音した音源を聴いてみて、(想像以上の音質に)感動して思わず涙がこぼれちゃいました」と、こちらもPCM-D10を絶賛した。
その音質傾向については「ナチュラルですよね」と津田さん。「ナチュラルなことって、実は音楽家にとって非常に重要なんです。特にボーカルの録音はナチュラルに録れないと困るんですよ。今回PCM-D10で録ってみて『あっ、自然だな』と感じましたね」と言葉を続ける。
そんな“ナチュラル”な音質を実現するために可動式の高感度ステレオマイクロホンを内蔵。「伸びのある低域やバイオリンの倍音を含む広域の音源も豊かに録音可能」(ソニー)という。
そしてADコンバーターには、AKM製「AK4558」をデュアル搭載することで高いSN比を実現。また、3,300μFの大容量電源コンデンサーを2基搭載することで動作時の電源変動を抑え、供給電源を安定化することで、精度の高い高音質レコーディングを実現している。さらに、基板レイアウトはアナログ回路とデジタル回路のエリアを分ける最適化を行い、ノイズの影響を受けにくい高音質回路の実現につなげるなど、挙げ始めたらキリがないほど数々のこだわりが詰まったモデルだ。
今回の取材では、曲作りや練習時を想定してPAを通さない生声と生ピアノでの演奏(※楽曲名「52nd Floor」)と、ライブ(コンサート)での録音を想定してPAを通しての演奏(※楽曲名「Dear〜時を超える贈りもの」)という2種類の録音を実施。どちらの録音に対してもツダミアのふたりは非常に高い満足度を得られたようだ。
「この音で録れているというのが本当に幸せですね。実際よりももっと広いステージで歌っているような印象も受けました」とコメントするのはミアさん。「曲を創り出すというのは命を生み出すということだと思っているのですが、PCM-D10は、そんな命を余すところなくまるごと録音してくれるんですよ」と、称賛のコメントが次々と飛び出した。
本体側面にはアナログ式の録音レベルダイヤルを搭載。デジタルボリュームとは異なり小音量時でもビット落ちせず、MIC入力の広いダイナミックレンジに対応できることに加え、無段階調節が可能なためレベル変更時のノイズが発生しない。また、レベルダイヤルは引っ張る/押し込む操作により、レベル調整をLR同時に行うか、それぞれ個別に行うかを選択することが可能と、かなり細かい調整ができる。
また、今回は使用しなかったが、過大入力による音の歪みを防ぐ「デジタルリミッター」、AD変換時の機器内部のノイズを低減させて、通常ではノイズに埋もれて聞きづらくなってしまうような小さな音を録音した際、その部分をノイズ低減したデータと差し替えることで微小な音もクリアに録音できる「高S/Nモード」などの様々な特長も装備。かなり総合力の高い製品に仕上がっている。
津田さんは「音楽的にもすごく安心感がありますね」とコメント。「この手の製品って、マイクの性能はいいのに操作性がイマイチだったりだとか、ものによっては一長一短がありますが、PCM-D10はそんなことがないんです。録音クオリティも高いし『これを持っていれば大丈夫』という安心感は大きいですよ。XLR/TRS端子も男ゴコロをくすぐりますしね(笑)」と語る。
「ふつう、録音というと様々な機材を用意してそれらを繋いで…といろいろな準備が必要じゃないですか。その機材のどこか一部に不具合が出てしまうとアウトですからどうしても不安がつきまといます。一方、PCM-D10なら一台でクオリティの高いものが録れます」と述べ、「バッテリーも電池(アルカリ単3形乾電池4本)で動くというのもいいですよね。コンビニでも調達できますから」と続けた。
ツダミアのふたりには、上記2曲の演奏以外でも、様々なシーンでPCM-D10を試してもらった。「実は最初、初期設定のまま44.1kHz/16bitで録ってしまっていたのですが、『それでもこんなにいい音で録れるのか!』と驚かされましたね」(津田さん)という。
「海の音や森での鳥の鳴き声なども生録してみましたが、そこにある音を余さずそのまま録れるんです。カメラで例えるとものすごく高級な一眼レフカメラを持っているようものかなと。一眼レフカメラならスマートフォンでは撮れない写真が撮れるのと同じで、スマホの録音アプリでは捉えられない音を、PCM-D10はしっかり録ることができます」 今後は「ラジオ番組も持っているのですが、その公開録音での演奏を録ることにも使ってみたい」とのこと。ミアさんも「たしかにそれはいいかもしれないですね」と同調し、「録音が悪いと歌を歌うのも抵抗があるんです。伝わるものが半減してしまうというか。でもPCM-D10なら安心ですね。むしろいっぱい歌いたい(笑)」と語った。
そのほか、インターフェースは物理キーや物理ボタンを本体前面に配置することで、メニュー画面から設定項目を探す手間を減らし、直感的な操作ができるよう配慮。スマホアプリ「REC Remote」によるワイヤレス操作や録音状態の確認も行えるなど、使い勝手においても妥協がない。
「まだ触っていないボタンもたくさんありますから、いろいろ試してみたいですね」と津田さんはコメント。「今後の活動で考えているアイディアがあるのですが、それに使えそうだなと感じています。もう我々の音楽制作に必須のアイテムになりそうです」と、改めてPCM-D10を高く評価した。
ライブ演奏録音取材協力:ライブホール「TheGLEE(ザグリー)」
アクセス:東京都新宿区神楽坂3丁目4 AYビルB1F(東京メトロ飯田橋駅B3出口より徒歩3分/JR飯田橋駅西口より徒歩4分)