「Gレンズ」の設計思想や魅力を
開発陣が解説
FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS編
Concept ~開発コンセプト~
ミラーレス専用設計で、かつてない超望遠の世界を身近にする
柳沢:近年、一眼レフカメラ向けにさまざまなタイプの超望遠ズームレンズが市場に出てきており、超望遠の世界が以前よりもさらに身近なものになりつつあります。そのため、このFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSは、ミラーレス専用に開発された「Gレンズ」ならではの高性能と600mmまでをカバーする超望遠ズームレンズとして設計することで、ミラーレスカメラとの組み合わせによる新たな撮影体験を、より多くのお客様に味わっていただきたい、という思いから開発をスタートさせました。 采女:開発スタートにあたって、すでに世の中にある超望遠領域をカバーするズームレンズをベンチマークしていく中で、このクラスの超望遠ズームレンズは、野鳥や野生動物など動きの速いものを狙うときに、AF性能が被写体に十分に追随しきれないという課題がありました。また、広い競技場で行われるサッカーやラグビーなど、攻守の切り換えが速いスポーツの撮影では頻繁にズーミングが繰り返されます。しかし、従来の繰り出し式のレンズは、ズームリングの回転角が大きく、ワンアクションで広角端から望遠端まで操作できません。そのためズーム操作時にフレーミングに集中できないことも、もうひとつの課題としてありました。そこで、すばやく動く被写体を捉える高いAF性能を実現するとともに、撮影中のズーム操作が容易な全長固定型の超望遠ズームレンズの開発に挑みました。
Optical Design 光学設計のこだわり
インターナルズーム方式による操作性と高い解像性能を
高次元で両立させた望遠ズームレンズ
柳沢:超望遠ズームレンズの開発にあたり、さまざまな光学エレメントの構成や解像性能、ズームの重さなどを検討しました。その結果、多くのユーザーの要望に応える200-600mmの画角と、ズーム時に鏡筒の長さが変わらない「インターナルズーム方式」を選択しました。インターナルズーム方式の場合、レンズの前玉が動かないためズーム操作を軽くできる一方で、内部で動かせるレンズ群の数が限られてきます。ズーム倍率を確保するためには、より多くのレンズ群が動かせる方が設計も容易なのですが、レンズの使い勝手の良さを重視して、あえてインターナルズーム方式の採用に挑戦しました。そこで限られたレンズ枚数の中で、ED(特殊低分散)レンズや非球面レンズを駆使し、レンズ配置や屈折率などのパワーバランスを見直すことで、高い光学性能をキープしながらズーム倍率を達成しました。また、600mmという超望遠域をカバーしながらレンズの全長を抑えるためには、部品や組み立てに対する要求精度もかなり厳しくなるのですが、ソニーの高い製造技術を結集することで課題をクリアしました。
考え抜かれたレンズ配置で、隅々までの高解像とぼけ描写を両立
柳沢:レンズ構成としては、EDレンズを前方に2枚、後方に3枚の計5枚を配置し、一般的に超望遠ズームレンズで問題となりがちな色収差を極限まで抑える設計にしています。最後部には非球面レンズを配置することで、像の平坦性を保つように補正し、すべてのズーム領域において画面の隅々まで高い解像性能を発揮する光学性能を実現しています。また、野鳥や野生動物などの場合、超望遠ズームの浅い被写界深度で背景をぼかし、被写体を浮き立たせて撮影することが多くなります。そうすると、ぼけも重要な要素になってきますので、ぼけ像のシミュレーションを幾度となく繰り返し、ぼけの質を突き詰める設計を施しました。製造上でも、ぼけ味と解像に影響する球面収差もきっちり管理することで、レンズ一本一本で美しいぼけが表現できるようなものづくりを実現しています。
1200mmの超望遠域でも可能にした、高速・高精度なAF追随連写
柳沢:今回のFE 200-600mm F5.6-6.3 G OSSでは、600mmの望遠域までカバーするだけでなく、さらに撮影領域を広げていただくためにテレコンバーターに対応することは開発当初から決めていました。そのため、設計段階からテレコンバーターの使用を想定して収差を徹底的に抑え込む設計を施しています。これにより、2倍のテレコンバーターを装着して、最長1200mmまでの超望遠撮影を可能にしました。しかもαシステムの場合は、テレコンバーター装着時に像面位相差AFを使った高速AFができることも重要なポイント。そのため、α9シリーズと組み合わせた際にも、そのスピード性能を犠牲にすることがないように、アクチュエーターやAF制御も最適化することで最高20コマ/秒の連写にも耐えられる高速・高精度なAFを実現しました。
Auto Focus ~AF制御のこだわり~
限られた光学全長の中で求められた、精緻なフォーカス駆動
宇川:焦点距離が600mmともなると、本来は光学全長を伸ばしたいところなのですが、今回はインターナルズーム方式で、できる限り全長を短縮した光学設計。フォーカスを駆動させるアクチュエーターも、狭い範囲でよりフォーカスレンズを正確に停める必要がありました。しかし、従来の回転式のアクチュエーターでは、駆動するためにカム環などのメカ部品点数が多数介在するため、高速・高精度化することが非常に困難でした。そこで採用したのが、ソニー独自の「ダイレクトドライブSSM(DDSSM)」です。このダイレクトドライブSSMは、フォーカスレンズ群をカム環などのメカ部品を介さずにダイレクトに駆動させることができ、動きのロスもなく駆動効率を向上させます。ただし、このダイレクトドライブSSMは超高精度かつ制御難易度が高いため、そのまま使用すると安定したAF性能を確保することが難しくなります。また、600mm時には被写界深度が浅くなり、ミクロンオーダーの停止精度が求められます。そのため個体ごとに調整をかけることで、高効率かつ高速なダイレクト駆動と高精度な停止位置精度を両立し、今回のAF制御に要求される精度を確保。これにより600mmで激しく動く被写体にも余裕を持って追随できるAF性能を実現しています。
さらにアクチュエーターの精度だけでなく、温度や使用状況など外部環境の変化に応じてダイレクトドライブSSMを最適に制御できるよう、位置センサーや温度センサーなど複数のセンサーを搭載。そこから検知された情報をもとに最適な条件で駆動させることで、600mmまでの超望遠域において、過酷な環境下やテレコンバーター使用時など一段高い要求精度が求められる場面においても、安定かつ高速・高精度・高応答性を実現させています。また、α9の最高20コマ/秒のブラックアウトフリー撮影時には、撮影時だけでなく合焦に至るまでのフォーカス駆動がすべて見えることから、違和感なく静粛に駆動させることが求められるため、ダイレクトドライブSSMに対してメカ・デバイス・制御が連携することで、最高のパフォーマンスを実現。さらに、急激に動かし停めるという動作を繰り返すと、どうしても駆動ノイズが気になってきます。そこで、実際に出ている音の周波数帯を分析し、その音の帯域を抑え、静粛性の高いオートフォーカスを実現しました。ボディのサイレントシャッターと組み合わせたときも、音が気にならずフォトグラファーが撮影に集中できるような静粛性を実現しました。
最小絞りでのAF追随連写に対応した、高速化した絞り駆動機構
流し撮りでの連写や、被写界深度を深くして被写体を追随しながら連写したいというユーザーの要望に応えるため、高速かつ静音な絞り駆動を実現するためのモーターを採用。これにより、絞り値に制限されることなく動体を高速・高精度のAF追随連写で捉え続けることを可能にしています。さらに、α9シリーズの高速連写に対応するためには、絞り駆動の高速化とともに、絞りを速く動かした際の駆動のばらつきやノイズを低減させる制御も同時に行い、最小絞りでの連写にも対応することで、被写界深度を生かした写真表現の幅を広げています。
Mechanical Design ~メカ設計のこだわり~
三脚座からボタン配置まで、細部にわたる操作性の追求
采女:前玉が繰り出すタイプのレンズは、ズームのストロークが長くなる分、ズームリングの回転角が大きく、腕ごとひねりながらズーミングを行う必要があります。そうすると撮影時にカメラを安定して保持しづらくなり、なかなかフレーミングに集中しにくいという面がありました。インターナルズーム方式は、前玉を動かさなくていいため、ズームリングの回転角を抑えつつリング操作を軽くでき、指先だけで無理なくズーミングを行うことができます。また、ズーム時もカメラ全体の重心が変化しづらく、フレーミングを保てるため、すばやく動く被写体もストレスなく追い続けることが可能です。また、ズームリングの操作感についても、プロのかたが使われることを想定して吟味を重ねました。たとえば、プロカメラマンがサッカーを撮影する際、試合中ずっとズーミングを繰り返し行うシチュエーションが考えられます。そのため、単にズーム操作の感触が良いだけでは不十分で、長時間の撮影でも疲れにくい「軽さ」を目指しました。
今回、このレンズに合わせて三脚座も一からオリジナルで制作しました。開発初期では、小型・軽量化を図るためにデザイン的には小さめですっきりさせた造形にしていました。しかし試作品を使ってみると、手持ちの際にフォーカスホールドボタンに指が届きづらく感じることがありました。そこで、三脚座の高さを抑えて指先がフォーカスリングやボタンに届きやすくし、手の小さな方でも操作しやすくするなどの改良を重ねました。また、三脚への取り付け面を大きくすることで、撮影時のブレを防ぎ、安定性も向上させています。コストを抑えるためにも既存のものを流用するという選択肢もありましたが、インターナルズーム方式で操作性を突き詰めた設計ですので、最適なボディバランスや使い勝手をメカ設計でも追求し、三脚座を一からつくり直しました。この三脚座だけで完成までにおよそ3カ月の期間を要しました。
また、ズームリングやボタン配置にもこだわり、超望遠撮影に最適な位置や軽さを追求しました。レンズのAF性能が格段に向上しているので、使用頻度としてはズームリングの方が多用されると想定し、前側にズームリング、後ろ側にフォーカスリングを配置。さらにフォーカスホールドボタンは、ピント位置を固定するだけでなく、瞳AFやクロップ機能などを好みで割り当てられるため、瞬時に操作できるようにズームリングとフォーカスリングの間に、90度ごとに3カ所配置しています。これにより、レンズを持ち替えることなくいろいろなホールディングスタイルで手軽に操作できるようにするなど、操作性を高めるための工夫を随所に施しました。
最後に
柳沢:ついにEマウント初※となる望遠域600mmまでをカバーする超望遠ズームレンズを開発し、ミラーレスカメラとの組み合わせによる新たな撮影体験を提供できました。設計段階からカメラボディの設計者たちとも検討を重ね、最もAF速度・精度が出るように光学構成自体も見直すことで、ボディの性能を最大限に引き出すレンズができたと自負しています。この超望遠ズームレンズとミラーレスが描きだす世界を、プロのかたはもちろん幅広いお客様にご体感いただけたらと思います。 宇川:今回のレンズ開発では、光学・メカ・デバイス制御が三位一体となって綿密に連携することで、小型・軽量でありながら光学性能とAF制御を両立することができました。テレコンバーターにも対応したことで撮影シーンがさらに広がり、α9シリーズを組み合わせれば最高20コマ/秒連写で撮りたいシーンを逃さないなど、ソニーのミラーレスならではのユーザー体験を提供できますので、ぜひお試しください。今後ともレンズ技術を磨きつづけ、最高の商品をお届けできるようチャレンジしていきます。 采女:「G Master」をはじめ、これまで培ってきた先進の技術を結集することで、まるで自分の体の一部のように使いこなせるレンズに仕上がりました。実際に使っていただくと、被写体を追いかけながらズーム操作ができ、これまでの同クラスの一眼レフカメラ用ズームレンズとは撮影スタイルもリズムも全く異なることに気づかれると思います。インターナルズームによる軽いズーミングや高速AFなど、このレンズによってスポーツや野生動物など撮れるシーンが格段に増えると確信しています。また、今後登場するボディへの対応も見据えた設計となっていますので、ぜひ多くの皆様に長くご愛用いただけましたら幸いです。
記事で紹介された商品はこちら
ワンクリックアンケートにご協力ください
αUniverseの公式Facebookページに「いいね!」をすると最新記事の情報を随時お知らせします。