兼田:Eマウントカメラをお使いのお客様から「超望遠域をカバーするレンズが欲しい」というご要望をたくさんいただいておりました。我々もいち早く400mmまでの焦点距離をカバーするレンズを出したいという思いがあり、「お客様の期待に応える1本を作り上げよう」とFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS の開発が始まったわけです。 このレンズは「G Master」初の超望遠レンズとして開発を行いましたが、開発スタート時は「G Master」ブランドの超望遠レンズに求められる商品像に関して設計者と企画担当者で徹底的に議論を行いました。その結果、この超望遠ズームレンズを「G Master」として商品化するためには、高い解像力と美しいぼけの両立を広角端100mmから望遠端400mに至るまでのズーム全域で実現しなければならないと考えました。 その上で、超望遠レンズに求められるハイレベルなAFパフォーマンスや、プロの現場にも耐えられる高い操作性と信頼性を確保する必要がありました。そのためには、設計としてクリアしなければならない高いハードルがいくつもありました。それでも「『G Master品質』で超望遠ズームレンズを実現したい」という設計者と企画担当者の共通の強い思いは変わらず、それを実現する為にこれまでの制約にとらわれないあらゆる方法を議論、検討しました。 最終的には、最先端の光学エレメントの最適配置、新しい調整方法、更にフローティングフォーカス機構等の最先端技術を導入すると共に、内部のメカユニットの細部に至るまで専用設計を行いました。さらに設計だけでなく製造現場においても、これまでにない製造技術の導入と高い要求レベルでの検査技術を実現しました。これらにより、「G Master」としての高い設計基準である高い解像力と美しいぼけを両立しながら、超望遠レンズに求められる最高レベルのAF性能や操作性を実現できるという設計・製造的な結論にたどり着き、「G Master」として商品化できるという判断に至りました。
丸山:「G Master」として開発するからには、光学性能では絶対に他のレンズに負けるわけにはいきません。また、高い解像力と美しいぼけ味を高次元で両立するという、シリーズ共通のハードルの高い設計目標を掲げることになります。超望遠レンズにおいてこれらの課題をクリアするためには、光学設計上押さえなければならないポイントが幾つかあります。
1つ目に、光学エレメントの面精度です。超望遠レンズでは光学エレメントの面精度が解像性能やぼけ味に大きく影響を及ぼす性質があります。「G Master」のアイデンティティである高い解像力と美しいぼけ味の両立を実現するには、光が光学系を乱れなく通る必要があります。FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS では、ワンランク精度の高い光学エレメントを採用し、かつ、今回新たに導入した調整手法によりレンズ1本1本を理想的な状態に調整する工程を組んでいます。設計的にぼけ味を意識した収差設計を行っているのは勿論ですが、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS の高い光学性能はこうした最先端の製造技術にも支えられています。
2つ目に、色収差です。超望遠レンズでは焦点距離の長さに起因する色収差の抑制が課題となります。レンズ構成図をご覧いただくとわかりますが、このレンズではスーパーEDガラスやEDガラスを要所に配置することで色収差を徹底的に抑制しています。
3つ目に、抜けの良さです。超望遠ズームレンズはガラス枚数が多くなるため、その面数に比例する形で反射成分も増えます。いわゆるフレアやゴーストです。FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS は、ナノARコーティングによりガラス表面での反射を抑え、抜けが良く逆光耐性に優れたレンズになっています。また、レンズ最前面にフッ素コーティングを施し、プロユースにも応える防汚性も確保しています。
最後に、機動力実現のために光学設計を工夫した点についてです。超望遠ズームレンズは、クラシカルな設計ではフォーカスレンズ群が重くなり、高速AFには程遠い光学系になってしまいます。そこで、このレンズではフローティング機構を採用することにしました。フォーカスレンズ群を2つに分割することで各群を軽量化し、高速AFが可能な光学系を実現したのです。また、2つのレンズ群を個々のアクチュエーターで完全に独立して動かすことができるため飛躍的に収差が補正でき、ズーム全域・フォーカス全域の光学性能の底上げ、最短撮影距離の短縮に繋がっています。近くの被写体が撮れるというのは大きな利点ですし、400mmでは最大撮影倍率が0.35倍あるため、テレマクロ的な撮影も可能です。
兼田:AF高速化と高い解像力の両立を実現するために検討を進めたところ、フォーカス群を分割して個別に動けるフローティングフォーカス機構にたどり着きました。それぞれの群は、光学的な役割・特性が異なるので、光学、メカ機構共に一番優位性が出せるフォーカスアクチュエーターの最適な組み合わせを様々なパターンで検討した結果、ダイレクトドライブSSMとダブルリニアモーターを採用するという答えにたどり着きました。応答性の優れるダイレクトドライブSSMとダブルリニアによるフローティングフォーカス構造採用により、超望遠レンズで最も重要なAFの被写体追従性能をこれまでにないレベルで実現する事が可能になりました。また、完全に独立して制御することが可能なフローティングフォーカス構造を採用することにより、各ズーム域の多様な被写体距離で変化する様々な光学収差を理想的に補正する事が可能となり、ズーム全域で至近から無限遠まで高い光学性能を実現しています。 さらに、ダイレクトドライブSSMとダブルリニアモーターをそれぞれの撮影モードで最適に協調制御する事で、静止画撮影だけでなく、動画時のノイズを最大限に抑えることができ、動画撮影にも適したフォーカス機構となっています。静止画と動画の両方で高い性能を発揮できるのは、このアクチュエーターの組み合わせだったわけです。
伊藤:今回のFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSでは、高い応答性を持つアクチュエーター機構を活かすため、あらゆる環境で最高の性能を出す新しいアルゴリズムを導入しています。これまでに培ったフローティングレンズ制御のノウハウに、さらに超望遠レンズ特有のアルゴリズムをアドオンするように設計しました。フローティングレンズの構成はレンズごとに異なりますが、それぞれに最適なアクチュエーターとアルゴリズムを採用し、最高の性能が出るように設計しています。 α9は最高20枚/秒のブラックアウトフリー連写が可能で、連写中であっても最大60回/秒の演算を行っております。その演算結果を生かすために、フォーカスレンズ群は短い時間の間に「動いて、止まって」という動作が要求されます。それを実現するためには、「アクチュエーターが俊敏に応答して、素早く動かして素早く止める」ということが重要となります。
例えば、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS の2つのフォーカスレンズ群を、カーチェイスしている2台の車になぞらえるとします。2台が時速100キロのトップスピードで走っていようが、急発進しようが急停止しようが急カーブしようが、2台の車の車間は1円玉くらいの誤差で常に動いていることになります。フローティングフォーカスを用いたレンズで最高のAFパフォーマンスを実現させるためには、そのくらいシビアな精度での制御が求められます。 また、α9に限らず、5年後、10年後もレンズのパフォーマンスが出せるようにボディ担当者とは常に話し合いの場を設けています。「将来的にここまでのスペックが必要」という目標を持っていますので、どのレンズも未来を見据えて開発しています。
兼田:軽量化は開発当初からの目標でした。軽くて丈夫な素材としてはアルミニウム合金が一般的ですが、マグネシウム合金はアルミニウム合金に比べて軽量化を実現しながらより高い強度を実現できる理想的な材料です。機動性と、過酷な環境でも使える信頼性を両立させるためにマグネシウム合金をキーとなるパーツに積極的に採用する事で、軽量化と堅牢性の両立を実現しています。 ただ、マグネシウム合金はアルミニウム合金とは材料の特性が異なり、マグネシウム合金を使って精度の高い部品を作ろうとすると非常に複雑な加工工程が必要となってくるため、部品の加工難易度もかなり高くなります。試作段階で何度も試行錯誤を繰り返し、各部品の精度を確保する製造プロセスを確立していきました。またαシリーズはカメラボディが非常に軽量化されているため、望遠レンズ装着時の最適な重量バランスを実現するためにも、レンズ側の軽量化は非常に重要になります。今回はレンズ単品の軽量化だけでなく、様々なカメラボディを想定して、レンズ装着時の重心位置を配慮しながら各部材ごとのレイアウトや軽量化をつめていきました。
丸山:テレコンバーター装着時はフォーカスレンズ群に求められる停止位置精度がさらに厳しくなります。フォーカスレンズ群を単位量動かしたときにピント位置がどれだけ動くか、というのは光学設計によって決まるパラメータなのですが、AF速度とピント精度の双方を高レベルでバランスさせるためには、このパラメータが非常に狭い条件内に入るよう設計する必要がありました。高い光学性能の実現と同時にこの条件を満たさなければならなかったので苦労しました。 伊藤:制御も速度と精度を両立させるために非常に苦労しました。本来、速度と精度はお互い相反するパラメータですが、メカ設計者やアクチュエーター設計者を含めて試行錯誤を繰り返し、アルゴリズムを設計し、達成することができました。 丸山:テレコンバーターを装着するとその倍率に応じて主レンズの収差が拡大されます。つまり、主レンズの光学性能がより厳しく問われる状態になるわけです。「G Master」の高い設計基準を満たすよう主レンズの性能を突き詰めたことが、テレコンバーター装着時の性能の高さにも反映されています。α9では2倍テレコンバーター装着時も開放F値で、最望遠800mmでも像面位相差AFが使えることもあり、お客様からは「テレコンバーターを付けていることを忘れる」といった感想もいただいています。大変うれしいお言葉ですね。
兼田:いろいろな苦労はありましたが、ユーザーのみなさまの声に応えた超望遠400mmまでをカバーするズームレンズを完成させることができたと自負しています。圧倒的な解像力、描写力と「G Master」ならではの美しいぼけを400mmという焦点距離で存分に味わっていただけるとうれしいです。本当に軽く、機動性が良いため、手持ちで撮影しても扱いやすいレンズです。今まで重いカメラとレンズを持ち出さなければ撮れなかったものが、αとの組み合わせでストレスなく撮れるようになります。ぜひご活用ください。 丸山:「最高峰の超望遠ズームレンズを作る」という目標を掲げて設計したレンズなので光学性能には自信を持っていましたが、いざ完成したレンズを評価した際、その性能の高さに我々自身も改めて驚かされました。解像・ぼけ味、いずれをとっても私自身お気に入りの1本で、皆様にもお勧めしたいです。高画素機にも対応する性能ですので、α7R IIIなどの40Mオーバーのイメージセンサーのポテンシャルも引き出せます。ぜひ、お試しいただければと思います。 伊藤:α9との組み合わせでは音に敏感な野生動物の写真が撮れるようになるなど、新たな撮影領域を切り拓くポテンシャルも備わった1本に仕上がったと思っています。アクチュエーター制御担当の私としては、このレンズのフォーカス性能を最大20枚/秒のブラックアウトフリーAF追従連写でフルに引き出して頂きたいです。また、α6500などのAPS-C機を選ばれる方もいらっしゃると思いますが、35mmフルサイズ換算150-600mmの超望遠レンズとして4Dフォーカスをお使いいただけます。どんな被写体も逃がさない自信がありますので、ぜひフィールドにお持ち頂いて撮影を楽しんで頂きたいと思います。今まで撮れないと思っていたものが撮れると思います。また、先ほども述べましたが、レンズはすべて将来のカメラも見越して開発しておりますので、長くご愛用いただければと思います。
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