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「G Master」の設計思想や魅力を
開発陣が解説 FE 24mm F1.4 GM編

α Universe editorial team

Concept ~開発コンセプト~

ミラーレスの新時代に求められる、広角レンズの理想形

プロダクトリーダー・メカ設計担当/青木 翔平

青木:今回のレンズ開発で目指したのは、「G Master」として、何よりも高解像性能と美しいぼけを最大化した広角単焦点レンズを開発することでした。さらに、ミラーレス特有の短いフランジバックを生かした小型化も見据え、ミラーレスという新時代にふさわしい24mm F1.4の大口径単焦点レンズはどうあるべきか、企画段階から徹底的に詰めていきました。24mmの広角レンズの存在価値である風景撮影で求められる高解像を前提とした上で、ポートレートやウエディング、さらにはドローンでの動画撮影など、さまざまなシーンでの使用を想定し、商品仕様を検討しました。また、APS-Cのカメラボディに装着すれば、ほぼ35mm相当の自然で撮影しやすい画角となります。プロフェッショナルからアマチュアまで、多くのかたに普段から持ち歩いてもらえる新時代の広角レンズのあり方を模索しました。開放F1.4でも中心から周辺部までの高解像を追求する中で、ひとつの指標として想定したのが星景シーンにおける圧倒的な解像感の実現でした。 加藤:一般的な24mmの大口径単焦点レンズでは、サジタルフレアという点像がにじむような収差を抑制することが難しいため、開放での星景撮影において、点が点として写らないことがお客様の不満としてありました。そのため星景や夜景を撮影するお客様は、絞りを一段、二段絞って撮影されている場合が多くあります。微弱な光をより明るく取り込みたいから大口径レンズを選んでいるのに、それを絞ってしまうのはもったいない。そこで開放からサジタルフレアを徹底的に抑えた光学設計にこだわりました。このサジタルフレアを抑えていくことが、画面周辺部の解像性能の向上にもつながり、結果として絞り開放から画面全域で高い解像性能を実現することができています。

Optical Design 光学設計のこだわり

点光源の像のにじみを、開放から徹底的に抑える

光学設計担当/加藤 卓也

加藤:レンズ設計では、まず開放でサジタルフレアをしっかり抑えるため、超高度非球面XAレンズを2枚採用し、その中の1枚をレンズ最前面に配置しました。XAレンズを一番前に置くことで、画面周辺に入る光を上手く補正できます。それは一方で、最前面に置かれた大きな径のレンズを非球面加工することを意味します。非球面レンズは径が大きくなるほど加工が難しく、レンズ面の精度が解像性能やぼけ味に直結するので、非球面レンズの高い加工技術がないと採用できません。中でも0.01ミクロン単位の面精度で管理されるXAレンズは、製造が格段に難しくなります。それを承知の上で、開放からの高い解像性能を実現するためにはXAレンズを最前面に使った設計が不可欠だと判断しました。さらに今回は、ぼけ像を可視化する画像シミュレーションを応用し、点像の写りも可視化することで収差を徹底的に抑える理想的な光学設計を突き詰めています。しかし、光学的な理想を追求しても、設計図通りにレンズを製造できる技術がなければ成り立ちません。これまで蓄積してきたXAレンズの製造技術があったからこそ、可能になった光学設計だと言えます。

ショートフランジバックとセンサーの優れた斜入射特性を最大限に生かしたレンズ設計

今回のレンズ設計におけるもうひとつの特長が、従来の広角大口径レンズからは想像できないほどの小型化を実現したことです。一眼レフに比べフランジバックの短いミラーレスは、レンズ設計の自由度が高く、特に広角レンズは小型化しやすくなります。ただしレンズをイメージセンサーに近づけて小型化していくと、センサーに斜めに光が入りやすくなります。実はフィルムと異なり、デジタルのイメージセンサーは本来、斜め方向の感度は高くないため、レンズからの光の入射角度に対してイメージセンサーを最適化する必要があります。その点でも、ソニーはイメージセンサーを内製化し、Eマウントレンズの特性に合わせて最適化しているため、ショートフランジバックを最大限に生かした光学設計が可能になります。この斜入射特性が優れた内製イメージセンサーと、Eマウントのメリットである短いフランジバックという2つの特長を最大限に生かすことで、光学性能を損なうことなく圧倒的な小型化を実現しています。

光学とメカ設計の両輪によって生まれる、光学性能と小型化

さらに、無限遠から至近まですべての撮影距離で高い光学性能を発揮させるため、多くの枚数のフォーカスレンズを動かすレンズ設計にしています。ただフォーカスレンズの枚数が多くなると必然的にフォーカス駆動部が重くなり、アクチュエーターへの負荷も大きくなります。負荷を減らすためにフォーカスレンズを軽くすることもできますが、そうすると光学性能を犠牲にしたり、光学系全体が大きくなってしまいます。しかし「G Master」を名乗るからには、光学性能には妥協できませんし、かと言って大きくしたくもありません。そこでこのレンズのために、重いフォーカスレンズを動かす専用アクチュエーターの開発を行うことを決断しました。今回、レンズをこれだけ小型化できたのも、この新しいアクチュエーターがあったからこそで、光学とメカ設計の両輪で開発を進めていなければ、高い光学性能と小型化の両立はできませんでした。

これまでの広角レンズにはない、解像度とぼけ描写

24mmの広角レンズはぼけにくいと思われているかたも多いのですが、開放F1.4で撮影すれば、背景をぼかしつつ広角特有のパースペクティブの効いた広がりのある背景描写ができます。そのため、今回のレンズ設計でも、高い解像度と美しいぼけ味を高い次元で両立する「G Master」の哲学そのままに、背景のぼけ描写にも徹底的にこだわっています。製造ラインでも球面収差をレンズ1本1本調整し、緻密なものづくりによって解像感を損なうことなく美しいぼけ味を両立しています。至近距離でのピント面の高い解像感により、背景ぼけの美しさも際立ってくるのですが、この描写力は他の広角レンズにはないと思います。

Mechanical Design メカ設計のこだわり

凝縮された技術が、新たな撮影体験を生み出す

青木:光学的に妥協しない設計に加えて、圧倒的な小型・軽量化を実現するため、メカ設計では大きなフォーカスレンズを動かす新たなアクチュエーターを開発しました。近年、当社のレンズでは、フォーカス群を光軸方向に直接駆動させるリニア駆動のアクチュエーターを積極的に導入しています。それはAFの高速化、高応答性を追求するためですが、一般的にこれほど大きなフォーカスレンズを動かす場合には、回転力を発生するアクチュエーターを駆動源として、リング部品の回転力を直進動力に変換してフォーカスレンズを前後に動かす構造が採用されます。しかし、連結したメカ部品を介してフォーカスレンズを駆動させるため、応答性の向上に限界がありました。特に約60回/秒ものAF・AE演算を行うα9に装着する場合、レンズ内でかなりの加速と減速を繰り返しますので、わずかなロスも致命的です。そこで速度や停止精度が確保できるダイレクト直進駆動と小型化を両立する、新たな「ダイレクトドライブSSM」を開発しました。 新規アクチュエーターの開発と同時に、これまでの3倍以上も重いレンズをすばやく動かして止める制御開発は困難を極めました。たとえば軽自動車とトラックが同じスピードで走っている場合、トラックの方が急停止して急発進させるのが難しいのと同じ原理です。それを、いままでの「G Master」のフォーカス性能と同等、もしくはそれ以上にするためには、制御アルゴリズムやメカ部品の精度を一から見直し、最終的にこの新開発アクチュエーター1本で大型のフォーカスレンズを理想的に動かすことに成功しました。

この小型アクチュエーター1本で高速・高精度なオートフォーカスを制御

内製レンズだからこそ、ボディの性能を最大限に生かす責任がある

当然重いレンズを止めたときに発生する音や振動もいままでと比べられないほど大きくなります。それを静かになめらかに動かす専用アルゴリズムも新規で開発しました。フォーカスの動かし方にも徹底的にこだわり、高い応答性はもちろん、静粛性や低振動性など、動画撮影時での心地よいフォーカシングも突き詰めました。ここまでオートフォーカスの駆動にこだわる理由は、内製レンズにはボディのAF性能や連写性能を最大限に引き出す能力が求められると同時に、将来のボディの進化も見据えたレンズを開発する責務があると考えているからです。そのため、ダイレクト駆動にこだわったアクチュエーターをさらに進化させ、それに合わせて光学設計も進化させる。これらを同時に行えるのがさまざまなデバイスを自社開発しているソニーの強みであり、FE 24mm F1.4 GMという新たな広角レンズは、これらの最先端の技術をひとつに詰め込むことで具現化できました。

小型化による操作の違和感を与えない

光学設計や新しいアクチュエーターの開発により、大幅な小型化を実現する一方で、小さくなることで操作に違和感を与えないように、各リングの配置や鏡筒シルエットなど、モックを確認しながら操作性を追求しました。たとえばマウント近くに配置された「絞りリング」は、カメラを操作する右手と、絞りリングを操作する左手が干渉しないように、ローレットと目盛りの位置関係を従来のレンズに対し逆転させています。さらに鏡筒部分の勾配を最適な形状にすることで、レンズとボディのあいだに空間を持たせるなど、デザインを含めて小型でも手にしっくりと馴染む最適な形状を見つけ出しています。

「大きなレンズ=画質がいい」という時代の終焉

加藤:この仕様の広角レンズは、一般的にレンズ径が大きなイメージがありますが、広角レンズほど全長が長くなれば、光が広がってレンズ径が大きくなります。反対に、全長が短くなれば、必然的に径は小さくなります。「レンズ径が小さいと画質が落ちたように見えるのではないか」という議論も社内ではありましたが、「G Master」として光学性能には一切妥協せず、それを実現した上で可能な限り小型化してこのサイズになっています。最高の描写を求めながら操作感を突き詰めていった結果の小型化であり、その性能はお客様に十分伝わるはずだと自信を持って開発しました。 青木:FE 24mm F1.4 GMは、新時代のミラーレスレンズであり、「レンズが大きい=画質に優れている」というこれまでの常識を覆す光学性能と小型化を両立しました。ショートフランジバックによる自由度の高い設計や最新のアクチュエーターなど技術的なブレイクスルーによって、光学もメカも相互で飛躍的な進化を遂げています。大きくて重いものほど画質がいいという時代では、もはやありません。これからのミラーレスという新時代を象徴するような広角単焦点レンズを具現化できたのではないかと思います。

最後に

加藤:このレンズを手にしたかたは、その小ささに驚かれるかもしれません。しかし「G Master」の名を冠するレンズとして、光学性能には一切妥協していません。これまでの24mm F1.4という広角レンズの常識をはるかに超える開放での圧倒的な解像感をぜひ味わって欲しいです。また開放で星空を撮影するなど、いままであきらめていたシーンも積極的にトライして欲しいです。そうすることで、このレンズが持つポテンシャルを分かっていただけると思います。 青木:風景撮影をはじめポートレートやスナップ、もちろん動画撮影も楽しめます。APS-Cのボディに装着すれば一般的な広角レンズの代表格としても使えるなど、企画していた通りのレンズを具現化できたと思います。このサイズと軽さなら、登山や旅行などいままでためらっていた場所にも持ち出せます。撮影機会を増やす一助となるレンズですので、ぜひこのレンズを手にしてこれまで以上に写真を楽しんでいただければと思います。

カメラグランプリ2019レンズ賞受賞のコメント

青木:たくさんの素晴らしいレンズの中からこのような賞をいただき、本当に驚いていますし、純粋にうれしい気持ちでいっぱいです。小さいことから大きなことまでさまざまなチャレンジがありましたが、お客様の価値に結びついたようで、非常に達成感を感じました。今後のレンズ開発に向けても、より一層お客様の期待に応えられるよう、挑戦を続けていきます。 加藤: 今回、この受賞の知らせを聞いて、私たち開発陣が妥協なく取り組んできた結果を認めていただけたのかと思うと非常にうれしく思います。今後も、魅力的な商品を開発し、お客様に「さすがG masterだ」と言ってもらえるように頑張っていきたいと思います。

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