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01 FILMMAKER関根 光才氏

シネマの映像表現に、驚異的な高感度と機動性が加わる。
FX6が切り拓く、映像の新たな領域とは

Kosai Sekine × FX6 × SHORT FILM

企業のCMや有名アーティストのミュージックビデオなどの映像作品を手掛け、海外の広告賞も多数受賞している関根光才氏。2018年には長年の夢だった長編映画の監督としてもデビューを果たした。映像表現にこだわる関根氏が今回手にしたのは、プロフェッショナルの現場で培われた映像技術と、αで培われた最先端テクノロジーが融合したCinema LineカメラFX6。本インタビューの後、このカメラを使って作品を制作してもらうが、ここではファーストインプレッションや自身の映像表現について語ってもらった。

PROFILE

関根光才/映像作家・映画監督 映像作家・映画監督。1976年生まれ。クロスカルチュラルなストリーテリングと思索的なビジュアルスタイルで、長編映画や短編映画、CM、ミュージックビデオなどを監督。また、ビデオアート、インスタレーション作品なども制作している。 2005年に初監督の短編映画『RIGHT PLACE』を発表し、ニューヨーク短編映画祭の最優秀外国映画賞、レインダンス映画祭Diesel最優秀映画賞などを受賞。また翌年には、カンヌ広告祭のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを含め3部門で受賞。以降、国内外で多くの短編映画、CM、ミュージックビデオを監督し、サーチ&サーチ NEW DIRECTORS SHOWCASEに選出されるなど、国際的な認知度を高めた。2012年の短編オムニバス映画『BUNGO〜ささやかな欲望〜』では『鮨』(原作:岡本かの子)を監督。また2014年の広告作品、HONDA『Ayrton Senna 1989』はカンヌ広告祭チタニウム部門グランプリなど、同年度世界で最も多くの賞を受賞した作品となった。2018年、初めて長編劇場映画の監督・脚本を担った『生きてるだけで、愛。』(原作:本谷有希子)が公開。過眠症の女性が経験する葛藤を描いた本作では、新人映画監督に贈られる新藤兼人賞・銀賞、フランス、キノタヨ映画祭・審査員賞などを受賞。同年、大阪万博から始まり現代日本社会の構造問題を問う長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』も公開された。映像制作会社NION(ナイオン)共同設立者。

フィルムの持ち味を生かして映像作品をつくりたい。
その思いを胸に業界に飛び込み、映画監督への道を模索

――まずは、映像の世界に飛び込んだきっかけを教えてください。

高校生くらいから映画はよく観ていて、映画監督という職業への憧れがありました。でも、うちは家族みんなが美術系の仕事をしていたので、美術大学に行って勉強したり、アート系の職業に就いたりすることには逆に反発心があったんです。大学進学時は「自分は違う道に進みたい」といろいろ迷っていましたが、迷いすぎた結果、哲学科に進みました。 大学では哲学を勉強していたわけですが、次第に「つまらない」と思い始めて(笑)。そのころ、我が家ではホストファミリーをやっていたのでいろいろな国の留学生が出入りしていました。その影響で「一度、海外に住んでみるのもいいかな」と思い立ち、アメリカの大学へ。ここまで来ると美術への反発心も多少和らいでいたようで、高校のころに憧れた映像を勉強したいと思うようになり、映像関連の学校に通うことにしたわけです。 そこで興味を持ったのが写真です。「フィルムで撮って現像する」ということを初めて体験したのですが、見ているものがそのまま2Dで焼き付けられていることに衝撃を受けました。フィルムというものに強い興味を持ち、映像をフィルムで撮ってみたいと思うようになったのです。帰国してからはもっと勉強するために、フィルムで映像を撮れる仕事を探しました。でも当時はミュージックビデオも映画もデジタル化が進み、「フィルムでカメラを回す」チャンスが多いのはコマーシャルくらいしかありません。そんな時代だったこともあり、コマーシャルなどを撮っている映像会社に就職を決めました。 自分のやりたいことが見えてきたのは、実際に仕事を始めてからです。予算やスケジュール管理よりも演出、監督がやりたい、と思うようになって。その道筋が見えた段階で、目指すべき方向に自分を動かしていった感じですね。

――プライベートで作品をつくることもあったのでしょうか?

学生時代の友達や先輩がセミプロのバンドをやっていたので、そのバンドの映像作品を撮ったりしていました。当時はその言葉すら確立していませんでしたが、今で言う「VJ」(= Video Jockey)みたいな感じですね。当時はパソコンでつくった映像を安いスイッチャーで操作していたんですよ。そのスイッチャーの一部を敢えて壊してエフェクトのような変なビジュアルにしたりしていましたから、今思うと恥ずかしいくらいスーパーアナログなことをやっていました(笑)。

――今は映画監督としても活躍していますよね?

映画のような長編作品はこれからも撮りつづけたいと思っています。元々、長編を撮りたいという願望がありましたし、今はそれが仕事の軸になってきていますからね。いま進行中の長編作品のプロジェクトも何かが形になるといいな、と思っています。

日本と海外ではまったく違う撮影文化。
海外のようなアート性の高いシャープな映像を目指して

――関根さんが目指している画作りは、どのようなものですか?

撮影監督主導の、DOP(director of photography)によって描き出されるようなシャープな映像をつくりたいと考えています。DOPは照明と撮影、両方の責任を担う役職で、照明と撮影に別々の責任者がいることが多い日本ではあまりみられないポジションです。日本と海外の撮影文化は違う部分がかなりあって、DOPの有無もそのひとつといえます。 自分が海外に行って海外クルーと撮影する時は、よく現地のカメラマンと仕事をします。国際標準のDOPがどのように映像を描いていくのか、知りたいと思ったからです。昔、『lost in translation』という映画を見ましたが、その中に出てくる東京や新宿の風景、画作りは日本のカメラマンが撮るそれとは全く違うなと思い、「なんでこんなに画が違うんだろう」と気になって、ヨーロッパやアメリカの画のつくりかたを勉強したいと思うようになりました。実際に海外のDOPと仕事するようになると、日本とはまったく手法が異なり、それがとても面白く感じたのです。 カメラマンがいて、照明技師がいる日本の撮影文化は、昔から続く映画スタジオ文化などの影響が大きいように思います。カメラマンがアングルを決めたら、それに対して照明技術さんが動く。つまり2人でコンセンサスを取りながら映像をつくっているわけです。でもDOPがいれば1人でアングルとライティングを決められます。DOPが光を計測し、露出を決めて立体的な画をつくっていく。日本では撮影チーフアシスタントが計測しますから、スタッフの動きかたや役割分担も変わってきます。 ちょっと前の映像を見ると、日本と海外ではライティングの方法がまったく違います。日本の映画やCMは光を回して撮ることが多いので、暗部があまりありません。でも海外は考えかたが逆で、暗部の中に光がポンとある感じの映像が多い。そのほうがドラマチックな印象になりますし、考えかたにも違いを感じるところです。 当然ですが、少ない人数で画作りの決定をしたほうが、仕上がりがシャープなんですよ。「俺はこれがいいと思うんだ」と思って撮ったほうが、意思が明確だし、アートになりやすいですからね。僕はこういったシャープな映像のほうが好みなんです。

――監督として、機材へのこだわりや、これからの機材へ期待するポイントがあれば教えてください。

こだわりで言うと、ケースバイケースですが、「体になじむ機材」を選んでいるかもしれません。例えば、僕がよく撮るドキュメンタリーでは、とにかくコンパクトで目立たない、取り回しが良いカメラであることが大事です。そうすれば、撮られているのが分からないくらい存在感を消すことができますからね。 少人数で動いたほうがいい作品を撮れると思った時は、信頼できるAF性能があると面白いですね。通常、シネマカメラとシネマレンズでのフォーカス送りは、カメラマン1人ではできません。重いカメラを担いで、自分も動きながら役者の呼吸に合わせて、さらにフォーカスまでとなると、アシスタントを1、2人は連れていかなくてはならないのです。でも、AFでフォーカス合わせができるとなると話は別です。カメラマンが1人で動けるため、フットワークが変わる。AF機構の無いシネマレンズでは難しいでしょうが、スチルレンズでならありえる時代になってきた。AFでガンガン撮れるようになればかなり革命的だと思います。

ローライトでの撮影を可能にしたFX6。
機材選びのポイントになるスペックはどれもトップレベル

――FX6のスペックを見て、実際に操作してみた印象を聞かせてください。

とにかく軽くて小さいことに驚きました。あとは高感度性能。ムービーカメラでは一般的に現場で使用に耐えうる露出は(カメラにもよりますが)ISO3200程度かなと思いますが、FX6はまったくレベルが違います。その結果、ローライトでの撮影が可能になるのは大きなメリットです。4K120fpsでスローモーション撮影ができるのもいいですね。出力や編集など、あらゆることを考えると、僕らにとっては4Kあれば十分ですから。 先ほどカメラを操作してみましたが、AFの性能もとても面白いと思います。素早く的確にピント合わせができそうなので、ソニーのレンズであれば、先ほども言ったようにカメラマン1人でもできることの可能性が増え、表現の幅が広がりそうです。 また、35mmフルサイズセンサーとS-Log3撮影時に15ストップ+のダイナミックレンジが描き出す階調も楽しみのひとつ。僕は撮影でソニーのCineAltaカメラ「VENICE」も使いますが、使い始めたきっかけは信頼しているカラリストに薦められたからです。「階調が豊かで、すごくいいよ」と言われて。それまでVENICEを推してくる人はあまりいなかったので興味を持ち、使い始めてみてその素晴らしさに気づきました。FX6も当然、VENICEの遺伝子が含まれていると思いますし、期待せずにはいられません。 僕らがカメラを選ぶ時に気にするのは、撮像素子やサイズ、ハイスピードやISO感度がどのくらいか、階調は豊かに表現できるのか、といったところです。スペック表には様々な項目がありますが、チェックする部分はほぼ決まっています。FX6は僕たちが機材選びのポイントとしている項目すべてでトップレベルのカメラだと思います。

――ローライトで撮影できることは、関根さんにとってどのような意味がありますか?

「ライトを持って行かなくても撮れる」ということが、様々なクリエイティブを可能にしてくれますし、エコロジカルな制作にも繋がります。 今の時代、エコロジカルであることはとても大切です。僕らは映像表現により、常に資源や資本を大量に消費してきました。CMでも何でも撮影する時は、太陽光のような光をつくり出すHMI照明を何灯も立ててとてつもない電力を消費している。地球環境にはあまり良くないことを長い間つづけてきたわけですよ。そこは反省し、改善が必要ではないかと僕は考えています。 やりかたを変えなければいけないと思っている時にこのような機材が出てきたことはとてもありがたいことです。クリエイティブな表現も大事ですが、環境に負荷がない機材を使って行くことも忘れてはいけません。「撮影のエコカルチャー」も時代によって変化が必要ですからね。FX6の登場により、カメラの後ろ側にあるカルチャーもどんどん変わっていくのではないかと思っています。

個性的なものづくりがソニーの真骨頂。
そこから新たな発想が生まれて映像表現が広がる

――FX6はプロフェッショナルの現場で培われた映像技術とαで培われた技術が融合した新ラインのムービーカメラになりますが、αにはどのような印象をお持ちですか?

コマーシャルやミュージックビデオなどのクリエイティブな映像表現においては、その時代の名機があるものです。時代の移り変わりとともに「デジタル一眼カメラで映像を撮る」というカルチャーが構築されました。そしてフルサイズミラーレスであるαの誕生により、多くの人がαで映像作品を撮るように変わっていった。ハイスペックを小さなボディに詰め込み、一眼レフからミラーレスへと時代を塗り替えたαは、本当に名機だと思います。 FX6はαの称号を持つムービーカメラですから、革新的なモデルになることを期待しています。このカメラもそうですが、僕の中では「ソニーの製品は個性的なものが多い」という印象です。例えば、僕が気に入って使っているグラスサウンドスピーカー「LSPX-S1」もそのひとつ。ガラス管をスピーカーにしてしまうという他にはない発想が、ものづくりでは大切ですから。 そういった発想の豊かさが日本の昔のエンジニアリングやテクノロジー産業を支えてきたと思うのですが、今は多くのメーカーが世界を気にしすぎてモノをつくるようになっている気がします。流行りのものに似た製品をつくって、追いつき追い越せという発想になってしまうと、負け戦でしかないと思うんです。それよりも違った視点からディープに突き詰めたものづくりをしたほうが、世界の人が驚くものが生まれるのではないかと。αはその代表格ですし、その遺伝子が受け継がれているFX6も「いい感じだな」と素直に思います。

――個性的な発想から生まれたカメラを使うことは、関根さんにとってメリットになるのでしょうか?

作り手の中にも新たな発想が生まれると思うので、大きなメリットになると思いますよ。ムービーに限ったことではありませんが、「実験から何かを生み出す」ということがあるものです。最高ISO409600という圧倒的な高感度を使うと何が撮れるのか、どんな映像が撮れるか、と考えますからね。本当に真っ暗なのに、ほんの少しの光だけで表現ができるとなると、ホラーの表現も変わってくるかもしれません。いろいろ考えるとワクワクしますね。

高感度性能と小型ならではの機動性を生かし
カメラによって広がった表現力をお見せしたい

――FX6が登場したことで、どのような可能性が広がると考えていますか?

ワンオペで撮れるカメラなので、カメラを動かすためのアシスタントが不要になり、ローカロリーな撮影ができるようになります。そうすると低予算でスタッフを最小限にしなければいけない時も、映像のクオリティを下げずに撮影ができるわけです。その分、カメラマンは人任せにできずにやる事が増えますが、自分のクリエイティブを自由にコントロールできるというメリットも生まれます。結果的に作品に携わる人数が少なくなり、互いの意思を明確に伝えられることで、シャープな映像を撮りやすくなると思いますよ。

――これからFX6を使って作品を撮影していただきますが、試してみたいこと、撮ってみたいものなどがあれば教えてください。

まずは、ローライトでどのくらい撮れるのか試してみたいところですね。あとは少しドラマチックな表現というか、カメラを通して見ている映像で世界観をつくり込めるかどうか、カメラの表現力も見てみたいです。それがシネマカメラで肝となる部分ですし、その表現ができなければ「αでいいじゃん」ということになってしまいますからね。「やはりシネマカメラのほうがいい」という表現になりうるかどうかは、とても大事だと思っています。FX6の機能を生かした作品に仕上げる予定ですので、ぜひご期待ください。

*画像はILME-FX6VとFE 16-35mm F2.8 GMの組み合わせです

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