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01 FILMMAKER関根 光才氏

FX6の機動力と映像表現を生かし、短編作品を制作。ストーリーテリングで魅せる「不穏」な空気感

Kosai Sekine × FX6 × SHORT FILM

映画監督のほか、企業のCMや有名アーティストのミュージックビデオなどの映像作品を手掛ける関根光才氏が、FX6を使って短編作品を制作。作品のコンセプトをはじめ、実際に現場で使用した印象や、ストーリーテリングへのこだわりについても語ってもらった。

SHORT FILM “ZENON”

PROFILE

関根光才/映像作家・映画監督 映像作家・映画監督。1976年生まれ。クロスカルチュラルなストリーテリングと思索的なビジュアルスタイルで、長編映画や短編映画、CM、ミュージックビデオなどを監督。また、ビデオアート、インスタレーション作品なども制作している。
2005年に初監督の短編映画『RIGHT PLACE』を発表し、ニューヨーク短編映画祭の最優秀外国映画賞、レインダンス映画祭Diesel最優秀映画賞などを受賞。また翌年には、カンヌ広告祭のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを含め3部門で受賞。以降、国内外で多くの短編映画、CM、ミュージックビデオを監督し、サーチ&サーチ NEW DIRECTORS SHOWCASEに選出されるなど、国際的な認知度を高めた。2012年の短編オムニバス映画『BUNGO〜ささやかな欲望〜』では『鮨』(原作:岡本かの子)を監督。また2014年の広告作品、HONDA『Ayrton Senna 1989』はカンヌ広告祭チタニウム部門グランプリなど、同年度世界で最も多くの賞を受賞した作品となった。2018年、初めて長編劇場映画の監督・脚本を担った『生きてるだけで、愛。』(原作:本谷有希子))が公開。過眠症の女性が経験する葛藤を描いた本作では、新人映画監督に贈られる新藤兼人賞・銀賞、フランス、キノタヨ映画祭・審査員賞などを受賞。同年、大阪万博から始まり現代日本社会の構造問題を問う長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』も公開された。映像制作会社NION(ナイオン)共同設立者。

古代ギリシャの哲学者が提唱したパラドックスなど
複数の要素を組み合わせてストーリーを構築

――今回はFX6を使用して『ZENON(ゼノン)』という短編作品を制作していただきましたが、作品のコンセプトやテーマから聞かせてください。

『ZENON』というタイトルは、古代ギリシャのエレアに住んでいた哲学者の名前からとったものです。ゼノンは有名なパラドックスをいくつか提唱していますが、そのひとつに「アキレスと亀」という話があります。 足が速いアキレスと、足の遅い亀が競争をしようということになった。亀は足が遅い分、先にスタートした。アキレスは亀に追いつこうとするのだが、アキレスが進む中で亀も進んでいる…それぞれの地点を分割していくと、理屈上はいつまでたってもアキレスは亀に追いつくことができない、という矛盾についての話です。現実にはそんなことありえないじゃないですか。でも、ゼノンが提唱したこのパラドックスを、人類は2000年も解決することができなかったんです。近代になり微積分が生まれるまで、彼の理論が現実と違うことを証明できなかった。この「無限の運動」みたいな話に僕はずっと興味を持っていました。 「走り続けているけれど、何かに追いつけない」という夢を見たことがありましたし、「アキレスと亀」の話はその感覚に近いかも、とぼんやりと思っていて。同時に別のアイデアがあって、「自分の知っている人が知っている人ではないような振る舞いをした時、ゾワッとするような怖さがあるな」と思うことがあって、この2つの話を結びつけることができたら面白いのではないかと考えていました。 それで今回、FX6での撮影が決まった時に、この「無限の話」と、「自分が知っているはずの誰かを追い求める」という話を組み合わせて、「求めているけれど辿りつけない」みたいな話を作品のコンセプトに据えられないかなと思ったわけです。

――制作にかかった期間はどのくらいだったのですか?

1ヵ月ぐらいでストーリーを考えて、ロケハンなどの準備と撮影で1ヵ月ぐらいだったので、ほぼ2ヵ月で撮り終えた感じですね。かなりバタバタでしたし、今の状況で使えるロケーションにも限りがあっていろいろと大変でしたが、構想を練る時間を1ヵ月もとることができたのは本当によかったと思います。編集やグレーティング、その後は音楽制作などもありましたが、ポストプロダクションも1ヵ月半ほど使うことができました。

スタッフもキャストも意識した「不穏」な空気感。
単なるホラーではなく、良い不快感のある作品に

――「目指す表現」は構想の段階であったのでしょうか?

最初から、不穏な映画、気味が悪い映画をつくりたいと思っていました。僕は韓国のイ・チャンドンが監督した『バーニング』という映画がすごく好きで。作家・村上春樹さんの短編小説をテーマにした作品ですが、とにかく不穏な気持ちにさせられっぱなしで「なんなんだろう、この映画」と思っていたんですよ。でも、不思議と良い不快感があって。この作品のように、単にホラーやサイコスリラーではなく「何かよくわからないけれど不穏な作品」をつくりたいと、ずっと考えていました。 ですから、FX6を使って短編作品をつくる、となった時に、不穏な表現にチャレンジしようと思ったわけです。事前にFX6を触って、ローライトでの撮影に使ってみたいと思っていたので、暗い場所で光量が少なくても撮れるようなシーンがあれば撮影してみたいと思い、撮影にのぞみました。

――この作品のストーリーテリングのポイントを教えてください。

こだわりは多岐にわたりますが、「どうやって不穏な空気感を出すか」というところが一番こだわったところかもしれません。関わったスタッフは、みんながその部分を意識してつくってくれたように思います。特にカメラマンの光岡さんはまだ若いですが素晴らしい技術があり、ストーリーを十分に理解してくれて、前のめりに取り組んでくれました。「妙な感じ」を出すことに頑張ってくれたので、この作品には彼からもらったアイデアも生きています。 その意識はおそらく役者さんたちにも浸透していたと思います。例えば、キッチンのシーンで夫役の毎熊克哉さんが、妻役の黒澤はるかさんの背後に近寄っていく芝居は良い意味ですごく奇妙なんですが、毎熊さんのアイデアですからね。

機動力と映像のクオリティーを両立するFX6は
ドキュメンタリーなどで能力を最大限に発揮する

――実際にFX6で撮影した印象を聞かせてください。

映画撮影時には小型であることが重要になるシーンが結構あります。例えば「車の中の撮影では引きがもっと欲しい」とか、「ここにバッテリーがあるとダメだからつける場所を変えよう」とか、数センチでも稼ぎたい、という時も詰めることができるので、そういうシーンでは助けられましたね。シネマカメラでもこういうことができるコンパクトさは魅力です。

また、FX6に限ったことではありませんが、電子式可変NDフィルターが内蔵されているのもよかったですね。状況に応じて実際のフィルターをカシャカシャ変える必要がないので、撮影がスピーディーにでき、時短にも繋がりました。 今回使ってみて思ったことは、本格的な映画撮影というよりは、ドキュメンタリーなど、ビデオグラファーらしい作品で使う用途に最適だということ。おそらくそういったターゲットを見据えてつくられているのではないか、ということは撮っていて伝わりました。 FX6は少人数のクルーで動ける現場で、なおかつライティングにも時間をかけられないような時、機動性やスピード感を重視しながらもクオリティーのある映像を撮りたい、という時に能力が最大限に発揮されるカメラだと思います。

――先ほど「不穏な感じ」を表現する、という話がありましたが、FX6ではどのように不穏感を出したのですか?

昔から使われている「Day for Night」という撮影方法があります。つまり、日中にフィルターなどで露出や色を変えて撮影をして、それをグレーディングでグッと絞って使うわけです。そうすると日中でも月明かりに照らされているような映像になる。現実に見る映像とは違うので、違和感が生まれるわけです。そういった「ちょっと気持ち悪い」と感じるものを少しずつ積み上げることで、不穏感を増幅させるように心掛けました。

目指した画を描くことができ、楽しく撮影。
寒さが厳しかったロケ先では思わぬトラブルも

――撮影、編集を終えて作品が完成した今、関根さんのやりたかったことはFX6で成し遂げることはできたのでしょうか?

撮りたいと思っていた映像をほとんど撮ることができたので、やりたいことは実現できました。カメラの性能も申し分なく、撮っていてとても楽しかったです。もちろん、スタッフがいろいろ工夫して撮ってくれたことで満足できた部分もあると思いますが、グレーディングも問題なく、なんのストレスもなく作品を完成させることができました。センサーサイズが大きいので美しいぼけ表現のある画を撮ることができましたし、ルックに関しても十分に満足です。

――作品の中でお気に入りのシーンや思い出に残っているシーンはありますか?

小屋のシーンはとてつもなく寒かったので、「これはヤバイ」と大騒ぎになったことを覚えています。

たしかマイナス3度くらいでしたし、山梨、静岡あたりの標高の高い場所で撮影していたので風も強くて。最後の方は照明さんも体が凍ってしまって「大丈夫かな」と心配しましたし、妻役の黒澤さんはピンマイクをつけていたので僕に震えが聞こえてしまうくらい寒かったんですよ。でも本番になるとパッと震えを止めて演じられていたので「さすが!」と思いましたね。 草原のシーンも小屋の近くの別の場所で撮影したので、寒さによる機材トラブルがありました。走っているシーンはワイヤレスの機材を使ってリモートコントロールで撮影していたのですが、その機材がダウンしてしまって。カイロなどを使ってみんなで機材を温めて、なんとか無事に撮影することができました。

そのうち雪まで降ってきましたからね。本当の雪のシーンを使うことから逃げられなくなってしまったので、もう雪を降らすしかないな、となって。それでポストプロダクションでは素材をうまく合成して雪のシーンに統一しました。ですから走っているシーンは雪のシーンと合成を使ったシーンを組み合わせているんですよ。

ストーリーテリングで大切なのは「多角的な視点」。
考え抜いてつくったものは必ず作品に結実する

――関根さんのようなストーリーテリングをするためには、どのような経験を積めばいいのでしょうか?

僕の場合は、世界のいろいろな場所を巡り、いろいろな人たちと会ってきたことからすべての作品ができているような気がします。だから海外に行って、現地の人たちとぐちゃぐちゃに混じり合いながら、それぞれの土地の固有の体験をすることをおすすめします。僕は、そういった様々な本物を知ることが映像言語にも生きる部分は大きいと思っています。 写真や映像に携わっている人は、「見たことがない風景を撮りに行きたい」と海外に行くことが多いと思いますので、その中でいろんな人たちと話したりしてみる、とりあえずやってみる、ということを何度も繰り返すと、ストーリーづくりに大事な「多角的な視点」を養うことができると思います。日本の中でわかることだけを伝えるのではなく、「いろいろな人たちがどう世界を見ているのか」という感覚をつかんだ方がストーリーをつくる上でも役に立つのではないでしょうか。

――最後に、関根さんのような作品を撮ってみたいと思っている若い世代の映像クリエイターに向けて、アドバイスをお願いします。

自分の場合ですが、とにかく考えまくることが一番大事だと思っています。自分のアイデアに厳しく、考え抜くことが大事だなと。監督はひとりではなかなか映像をつくれないですから、沢山のスタッフの方や俳優の方に一緒に協力してもらうためには、当たり前ですが、自分の熱量を注いで考え抜いたものでないとならない。必死に考えたものでなければ作品に携わるチームも気持をのせることができませんから、「全員がしっかり能力を発揮できるステージを用意する」ということがとても大事です。だから、一緒につくってくれる人たちへの労力や情熱、能力に敬意を払うという意味でも、よく考えてアイデアを練る、ということに尽きるかな、と思います。

*画像はILME-FX6VとFE 16-35mm F2.8 GMの組み合わせです

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