山田 智和氏
FX6の機動力とAF性能がワンオペ撮影を可能に。
「このカメラだから撮れるもの」で魅せる、優しい世界
Tomokazu Yamada × FX6 × SHORT FILM
有名ミュージシャンのMVを数多く手がけ、話題性のある作品を続々と世に送り出している気鋭の映像作家・山田智和氏。自身もカメラを回す山田氏が、今回はCinema Line カメラ FX6を手に作品を制作。MVで魅せる表現とはひと味違った作品のコンセプトや、撮影で生きたカメラの性能、今後このカメラで撮ってみたいものなどを語ってもらった。
SHORT FILM "Somewhere in The Snow"
PROFILE
山田智和/映像作家・映画監督 東京都出身。日本大学芸術学部映画学科映像コース出身。TOKYO FILM主催。Caviar所属。2013年、映像作品「47seconds」がWIRED主催WIRED CREATIVE HACK AWARD 2013グランプリ受賞、2014年、同作品が国連が共催する世界最大規模の国際コンテスト、ニューヨークフェスティバル2014にて銀賞受賞。同年、映像作品「A Little Journey」がリコー主催のGR Short Movie Awardにてグランプリ受賞。MTV VMAJ 2020では「最優秀ビデオ賞“Best Video of the Year”」を受賞し、SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2019において、最も優れたミュージックビデオ・ディレクターに授与される「BEST VIDEO DIRECTOR」を受賞した。シネマティックな演出と現代都市論をモチーフとした映像表現が特色。
カメラの機動力を生かして作品を制作。
ドキュメンタリーのように心に響くものを拾い集めて
――まずは、作品のテーマやコンセプトを教えてください。
「機動力のあるCinema Line カメラ FX6の特性を生かした映像作品を何かつくれないかな」というところからテーマを考えていきました。小型でAFも使えて、高感度性能をもつ、このカメラには多くの魅力がありますからね。 僕は最近スチールも撮影しているので、映像監督とスチールカメラマン、両方のモチベーションがこのカメラと融合するだろうなとも思っていました。今はなかなか外に出られない状況で、鬱屈とした空気が漂っていますから、見ている人を少しだけワープさせることができれば、というモチベーションもありましたね。ですから、「このカメラの機能をフルに使い、FX6を自分で回しながら一本のショートフィルム、もしくは映像作品を撮る」というのが制作のテーマです。 ストーリーは、人生に戸惑い、立ち止まってしまった女の子が主人公なのですが、こういう経験は誰にでもありますよね。僕も含めてキャストやスタッフも同じ経験をしていると思いますから、みんなでカメラを持って、前向きに生きるためのヒントになるようなものを集めていく、というのが一番のテーマだったかもしれません。
――今回の作品では脚本も山田さんが手掛けていますが、何か意識した点はありますか?
もちろん作品には脚本と企画がありますが、このカメラの特性を生かせるのはドキュメンタリーだと思ったんです。機動力があり、瞬時に反応する力があるカメラなので。一昔前は映画を撮るとなると、大掛かりな準備が必要だったり、RECまでに何人もの人が必要だったりしましたが、このカメラならドキュメンタリーを撮るように映画を撮ることができるのではないかと思いました。 だからこそ、「前向きな人生を送ることができるヒント」みたいなものをみんなが意識して、それを集めに行くというスタイルにしたかったんです。脚本はあるけれど、ある種のドキュメンタリー感を楽しみたかったので、その場でフッと出たアドリブも多く採用しています。景色も同じで、心に響く景色があればどんどん撮影し、その場の情感も拾っていく。現場は常にそんな感じでしたから、撮影もスピーディーで、撮影も北海道ロケを含めて4日間で終えることができました。
「G Master」レンズを使い、AFも多用したワンオペでの撮影。
シャープな描写力で効率よく撮影できることを実感
――カメラもご自身で回したそうですが、カメラの印象はいかがでしたか?
アシスタントがレンズを交換してくれたりしましたが、基本はワンオペレーションで撮影しました。ですからAFにはとても助けられましたね。シーンによりAFのトランジション速度やエリアの設定に迷うところですが、最適な設定にできればかなり使える、という印象です。200mmの焦点距離で奥から手前にずっと歩いて来る人物を撮る、となるとおそらく人力でのフォーカスは難しくなりますが、AFでは一発OKでしたからね。さらに、リアルタイム瞳AFを使えば高精度で人物の目を追い続けてくれるので、人物を追う時にはかなり有効です。
今回はジンバルに載せた状態でもAFを使ってみました。ジンバルに載せた状態ではマニュアルでフォーカスを送ろうとすると基本的にフォローフォーカスをつけてリモートでフォーカスを送らなければならないので、バランスが崩れてしまう可能性があります。でも、AFならリモート不要でそんな心配もありません。使用してみて、「ジンバルとの相性もめちゃくちゃいいかも」と思いました。 あと、電子式可変NDフィルターも便利で使いまくりましたね。通常、NDフィルターを一人で替えるのはとても手間なので、ワンオペでの撮影ではかなり重宝します。今回はオートではなくシーンに応じて自分でNDを調整しましたが、ダイヤルを使って調整できるので操作も楽でした。
――使用したレンズの中でお気に入りのレンズはありますか?
かなりいろいろなレンズを持って行きましたが、FE 16-35mm F2.8 GMがよかったですね。フルサイズで16-35mmのズームレンズは僕がいつも写真を撮っている時の感覚に近かったですし、迫力があるんですよね。大自然をダイナミックに見せることもできますし、もう少し寄りたい時はレンズ交換なしで35mmまで寄ることができるので一番使えたレンズかもしれません。
あとFE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSSのAF性能にも感動しました。テレ側でもAFはかなり強力でしたからね。ここまで焦点距離が長くなるとプロでもフォーカスが難しいですから、こんな時もAFは頼りになります。描写力も期待通りで、レンズはとてもシャープでキレがあり、オールドレンズとは違う潔さがありましたね。単焦点のFE 85mm F1.4 GMやFE 135mm F1.8 GMは開放時の鋭さもあって、ワンランク上のクオリティーを得られる感じがしました。
雪の中や電車内での撮影で持ち前の機動力を発揮。
ソフトフィルターとの掛け算でよりシネマな映像に
――FX6の機動力が生きたシーンがあれば教えてください。
ひとつが電車のシーン。人物撮影ではFE 24-70mm F2.8 GMを使ったのですが、カットをかけずに寄りと引きの2種類を撮影し、車窓の風景も2〜3種類撮ることができました。2駅分の10〜15分くらいの間でこれらを撮れるわけですから、とてもスピーディーですよね。もうひとつが雪山のシーン。作品の中に印象的な橋が出てくるのですが、この場所に行くには1時間以上も雪道を歩かなければならなくて。こういった時でもコンパクトなカメラはありがたいです。
また、雪の中をジンバルで並走して撮影する時も、FX6の機動力がものをいいました。やりかたによっては、通常のシネマカメラよりも撮れるカットが増えるかもしれませんね。
――画質のクオリティーはいかがでしたか?
撮影してみて「ソニーにはソニーの良さがあるな」と思いました。言葉では説明しづらいですが、ソニーは割と色が出ていて、ソフトフィルターとの相性が良かったという印象です。ソフトフィルターとの掛け算というか、「いいとこどり」になるというか。階調が豊かなので表現が柔らかく、結果、しっかりコントロールすればよりシネマの表現に仕上がる感じがします。特に部屋の中ではソフトフィルターを多用して、柔らかい印象に仕上げることができました。また、白の中の階調表現など「シンプルな良さ」を求められる自然風景の撮影でも、このカメラの表現力が生きたように思います。
今回はすべて内部収録で、ガンマはS-Log3、XAVC-I 4:2:2 10bit Class300で収録。4K120fpsのスローモーション撮影なども使用しました。CFexpress Type Aカードを2枚、デュアルスロットに入れて同時記録で使いましたが、一日に1回替えるくらいで済んだので予想以上に長時間撮影をすることができた印象です。
現場で起こる奇跡に反応し、映像として残せる楽しいカメラ。
「このカメラだからこそ撮れるもの」を狙って撮影を
――作品を撮り終えて、率直な感想を聞かせてください。
めちゃくちゃ楽しかったです。雄大な大自然に自分がカメラを持って反応できましたからね。反応するということはRECするということですが、出演者のお二人や仲間たちのサポートがあったからこそ被写体としっかり対峙でき、その反応が結果としてカメラに記録できた。それが一番の収穫でしたね。おかげで心に響くいい景色やシーンをたくさん集めることができたので、大満足です。
――実際に撮影してわかったことがたくさんあると思いますが、FX6はどのようなシーンに活躍の場があると思いますか?
費用がない、人材も確保できない、リハーサルもできない、といった理由で撮れなくなるものがあるとすれば、ワンオペで撮影できるFX6は大きな武器になります。この機動力やAF性能を生かせば撮れる場所も増えるし、限られた時間の中で撮れるカットも増えるわけですから。あらゆる理由で諦めていたシーンも撮れるようになる可能性は大いにあると思います。 また、高感度撮影に強いことも活躍の場を広げる要素のひとつです。今回の作品では夜にライトアップしたシーンを入れていますが、基準感度がISO12800の高感度モードを使って撮影しました。夜はけっこう攻めましたね。
FX6を使って作品づくりを楽しむのであれば、「このカメラだからこそ撮れるもの」を狙っていったほうがいい気がします。ライトを用意できるのであれば、感度性能に長けていなくてもバシッと撮れるもっといいカメラを使うべきだと思いますし。今回の場合は高感度性能に長けていることがわかっていたので、ライトはあまり持って行かず、「その場で撮れるものを撮ろう」という意識で撮影にのぞみました。 結局、何を撮りたいかによって、ガジェットや体制を決めていくものだと思いますが、それが逆転することもありますね。ちょっと寂しい気もしますが、テクノロジーありきでアイデアが生まれることもありますから。今回は、自分自身が最初に投げた「問い」があり、その答えをみんなで一緒に見つけに行きたいというドキュメンタリーの欲望があったので、その表現に一番向いているカメラがFX6だった、ということです。
FX6で撮ってみたいのは大人数の会話劇。
今後は「誰かの何かになる」ような映像をつくりたい
――今後、FX6で撮影してみたいものはありますか?
家族の団らんのシーンや5〜6人の会話劇などのグループショットを7カメくらいで撮ってみたいですね。こういった会話劇は狙って良くなるイメージがないんですよね。絶対に好き勝手にしゃべる人がいるじゃないですか。いきなり横から会話に入ってきたり。そういった大人数のアドリブの会話劇をマルチカメラで撮ったら費用対効果も含めてすごく面白そうだなと思います。 あと、人数が多いアーティストグループのドキュメンタリーにもいいですね。バンドやアイドルの密着などにも相性がよさそう。ドキュメンタリーなら暗いところもこのカメラで撮ったら画になりますし。気合いを入れたいシーンではVENICEを使いたい、と思ってもS-Logで統一できますから、FX6をサブ機にしてソニーのCinema Line内で使い分ける、という方法もプロの現場ではあると思いますよ。
――シネマカメラのバリエーションが増えつつある今、今後の映像作品はどんな風に変わっていくと思いますか?
生活の中に、よりカメラが入ってくるのではないでしょうか。そうすると描くことができるリアリティのレベルが変わってくるので、「今後はより人の心に刺さる作品が増えていくんだろうな」と思いますね。生活の地続きにカメラがあるので、ストーリー上も必然的にそうなってきますし、ストーリーもロケーションも自分の家族を撮るだけでも作品になるというか。そういう意味で映像が身近になり、表現も豊かになり、心に届く作品が多くなっていくのではないかと思います。
――今後はこんな作品を撮っていきたい、という映像作品に対する思いを聞かせてください。
やはり人を追いかけていきたいですね。人の感情や顔、表情にしっかりと向き合える作品をつくっていければと思っています。今は、人の心を前向きにして、背中を押してあげられるような作品に興味がありますね。実際はアーティスティックなことも、人を驚かせることも、自己実現もしていきたいですが、僕は心に触れるような「優しさ」を大事にしたい。「誰かの何かになる」ようなものが、その結果としてあるといいですね。