YP氏
シネマカメラに匹敵する
α7S IIIの登場が
映像クリエイティブの限界を
引き上げる
YP × α7S III × MUSIC VIDEO
名だたるアーティストや企業の映像ディレクションを手がけ、熱視線を浴びている新進気鋭の映像ディレクターYP氏。作品が公開された後も視聴者の間でどのようなコミュニケーションが行われるかまでを考えて映像をつくるのが、彼の映像クリエイティブだ。動画性能が格段に進化したα7S IIIは、彼の目にどう映り、何を期待するのだろうか。映像制作を超えた枠組みで映像ディレクション&プロデュースに携わる立場から語ってもらった。
PROFILE
YP/映像ディレクター
Forbes が選ぶ【業界を代表する30歳未満のイノベーターにインタビューを行う「NEXT UNDER 30」】に選出
(https://forbesjapan.com/articles/detail/25234)
MV、ショートフィルム、WEB CMなど多岐にわたる界隈を横断しながら映像のクリエイティブディレクションを行う。また最先端の映像ディレクションを学ぶオンラインサロンYP映像大学を開校し150人近くのメンバーと共に制作活動を行う。
映像は0→1の
クリエイティブじゃない
僕が映像制作を本格的に始めたのは17歳のころ。家にあった母のデジタルカメラやパソコンを駆使して、友だちと一緒にパロディー作品をつくって、YouTubeにアップロードして遊んでいました。今もその延長線上で、映像で“遊ぶこと”のスケールを大きくし続けているイメージです。 新しい感覚や現象に触れたら、次につくる作品で絶対に使おう、CGを入れてみよう、使ったことがない機材やテクノロジーを導入してみよう、例えば別分野のように見える建築用のソフトはどうだろうか、とやりたいことは次々と浮かんでくる。僕にとって作品づくりは、“実験”をするような感覚です。 クリエイティブは、0→1(ゼロイチ)で作品を生み出しているように思われがちですが、そうではありません。既存の掛け合わせで、一番小さい単位がこれ以上割り切れなくなるまで割り算し、 “結晶”をつくっていくのがクリエイティブだと思っています。その域に達すると、それはすでにあるものではなく、オリジナリティーになります。
成長したいなら、
カメラに使われてはいけない
「どういう映像クリエイターが世の中に必要とされていくのか」と、よく聞かれるのですが、僕は「クリエティブのゴールを描いて、そこへ導いていけるクリエイター」だと思います。これは流行に関係なくいつの時代もそうです。また映像に限った話ではなく、クリエイティブに関わる人全員が必要な視座だと思います。 近年はカメラのスペックがスピード感を持って進化しています。よくも悪くも、パッと撮った映像が、いい感じに仕上がってしまう。いいカメラを使えばクリエイターが何も考えていなくても、それっぽい作品になってしまう。でも、それはクリエイターではない。本当の映像クリエイターは、カメラの使いかたも理解して、企画をしっかり考え、課題に対してどのようにアプローチするか、ゴールを描いて導いていく力が必要です。作品の良し悪しをカメラに左右されないという意味で、カメラに使われず、クリエイティブな意識を持った映像クリエイターが評価される時代になってきていると思います。
映像のクオリティーを上げるのは
デジタル一眼カメラだ
最近の若い映像クリエイターは、インディーズバンドのミュージックビデオや、WEB CM、ショートフィルムなどの制作が増えています。そこには、常にコスト、スピードの課題が存在しています。 シネマカメラを現場に導入するとコストがかかる。デジタル一眼カメラなら、ある程度コストを抑えられる。そこで浮いたお金を、照明、CG、美術などの予算に回せるのは、とても魅力的です。 さらに魅力的なのは時間の使いかたです。大きな機材を使えば、搬入や準備に時間がかかります。その10分、20分をスタッフとの現場確認や、キャストとのコミュニケーションの時間に割ける。現場の気の回りも良くなりますし、それが最終的な映像のクオリティーとなって結果に現れる。ハイクオリティーな映像制作に必要なデジタル一眼カメラがあれば、現代の制作現場が抱えている課題を解決してくれると思っています。
α7S IIIのスペックは
シネマカメラに匹敵する
本当に忖度なしで、α7S IIIの登場を、ずっと待っていました。いや、僕だけではなく、周囲のクリエイターもそうですが映像業界が期待して待っていましたよね。α7S IIから5年くらい経っていたので「どんな壮大な開発してるの?(笑)」と、ずっと思っていました。 まずスペックを見て、シネマカメラに引けを取らないカメラだと思いました。4:2:2の10bitで、4K120pで撮れる。16bit RAWの外部出力にも対応し、オーバーヒート問題も解消できているし、動画記録時間に制限がない。スペックを見る限りでは、α7S IIIはもうシネマカメラのラインアップと考えていいのではないでしょうか。 α7S IIの時から高感度でしたが、15stop以上(S-Log3動画撮影時)と広ダイナミックレンジになり、さらに暗所撮影に強くなりそうですね。これはさまざま現場に大きなメリットを与えますよね。暗所の照明を組むのは繊細で難しいし、時間や予算を考えると「簡易的なハンドライトのみで」という判断になってしまいますが、α7S IIIでそれを捉えることができる。これまでのカメラでは暗いところがシャドー掛かっていても「カメラの性能的に仕方ない」となっていましたが、シャドー部分も描けるようになるなら、画のクオリティーで妥協することが少なくなると感じました。 インタビュー前に少しだけ映像を撮影して編集したのですが、4:2:2 10bitなので明るさはもちろん、色のグラデーションがとても綺麗でした。シネマカメラで撮った画をグレーディングしているような感覚でした。色を重ねても、複雑な編集をしても画が壊れない。グレーディングを丁寧にすればシネマカメラと同じ使いかたができそうだと、さらに期待が高まりました。
ワンオペで撮りたい
クリエイターの必携カメラになる
AFも結構精度が上がりましたよね。スピーディーで、狙ったフォーカスワークが期待できそうです。映像クリエイターのなかにはワンオペレーションで作品づくりをする人もいます。そういう人にとってAFの精度は重要かと思いますが、少し触った限りではα7S IIIは力になってくれそうな印象です。心象表現のような時はマニュアルで行いますが、それ以外ではシビアなピントに気を使わなくてもいいのはありがたいです。 ボディもグリップが大きくなって、持ちやすくなりましたよね。軽くなったかと思いました。液晶もバリアングルになって撮影の自由度が増し、撮れる画のバリエーションが増えることもうれしい進化です。YouTuberや自撮りが必須なVloggerとも相性が良さそうですね。
映像クリエイターの“やりたい”を
叶えてくれるカメラ
僕は、α7S IIIを使ってショートフィルムを撮ってみたいですね。表情豊かな作品が撮れそうだと思っています。日本では空間の狭さ的にシネマカメラのような大きいカメラではカメラワークにどうしても制限があります。海外なら環境や予算があるので、大きなクレーンを組んでカメラワークをつくれますが、日本では叶いません。日本映画の良さではあると思うのですが、日本の映像作品は意味もなく止まっている画が多い印象があります。機材がネックになっていたカメラワークや構図がα7S IIIによってアップデートされれば表現も豊かになり、クオリティーにもダイレクトに影響が出ると思います。 α7S IIIの登場で「今まで誰も見たことのないような表現ができる」のではないかと感じました。もう機材を言い訳にできない。クリエイター自身がどうカメラと向き合っていくのかが大事です。使いかたを理解せずに使うと才能を奪うカメラですが、正しく使えば才能を何倍にもしてくれるカメラだと思います。僕自身もこれからα7S IIIと作品づくりを行っていきたいです。どんな実験ができるか楽しみです。