自身の視点で切り取る
「見たことのない風景」。
青の表現が印象的な写真家・岩倉しおりが
四国・仁淀川への旅で見つけた
瞬間のきらめきを、光とともに表現する。
表現への想いを語る
同じ風景でも視点によりまったく違う写真になる。
旅先では「光」と「季節感」を入れ込み自分らしい表現に
子どものころから何かを表現する人、何かをつくる人になりたいと思いが心の中にありましたが、何が自分に合っているのかわからず、絵を描いたり、物をつくったりしていました。そんな中、写真を撮っているうちに、自分が思い描いているものを形にできるのは写真が一番近いのではないかと気づいたんです。それ以来、ずっと撮りつづけていますが、自分の表現が見えてきたのはだいぶ経ってからですね。「自分の視点で撮ることが自分の表現に繋がる」と気づいた時期があって。写真は同じ場所を撮っても、その人の視点によってまったく違う写真になるのがおもしろいところです。その時に「何か自分らしい表現ができるのではないか」と思い始めたのです。
その時にしか撮れないような季節感のある風景を探し、季節の色が映えるような光を追いかける。どちらかというと重要なのは風景ではなく光かもしれません。光がある場所を探し、光を捉えることで季節のきらめきを表現する。感覚的に「その日、その時間にしか見えない光景」を探しているように思います。
光の角度や水の深さで変わる「仁淀ブルー」。
刻々と変わりゆく多彩な表情を求めて
今回はα7Cを持って、高知県と愛媛県を流れる「仁淀川」を撮りに1泊2日の旅に出かけました。透明感が高い「仁淀ブルー」と呼ばれる神秘的な青色を、私の視線で表現してみたいと思ったんです。仕事で一度訪れたことがありますが、「まだ知られていないところが撮りたいな」という思いがあり、予備知識や事前情報は一切入れずに、仁淀川の中でも行ったことがない場所を探しに行ったのです。
上の作品は「水晶淵」と呼ばれる場所の作品。水の揺らぎの美しさにひかれてカメラを向けました。岩の上に立って下をのぞき込むように撮影し、細かな水面の揺らぎを美しい描写で捉えた1枚です。ここまできれいに光の模様が出るとは「さすが仁淀川だな」と思いましたし、α7Cの表現力にも感動しました。 基本的にはマニュアルフォーカス(MF)で撮ることが多いですが、この時はオートフォーカス(AF)を活用。不安定な岩の上ではピントを合わせる余裕がなかったので、試しにAFで撮ってみたのです。そうしたらとてもきれいに撮れてびっくり。ピント合わせも素早く、思い通りに撮ることができました。MFで合わせていたら、たぶんここまできれいにピントは合っていなかったと思います。おかげで、仁淀ブルーと呼ばれる水の美しさと、きらめく光が際立つ作品に仕上げることができました。 実は、今回の旅は天気が微妙で、2日間とも晴れ間が出たのは数時間程度。さらに仁淀川周辺は山に囲まれていて太陽が真上にある時にしか日が当たらないので、水面に日が当たる時間がとても短いのです。1日目は太陽が真上にある時間に曇ってしまったため。ほとんど川を撮れずに終了。2日目は早朝だけ晴れるという予報だったので朝5時に出発。確実に日が当たるであろう時間帯に訪れるスポットを決めておいて、順に回っていきました。お昼まで川を撮ることができましたが、午後からは土砂降り。天候の変化が激しい場所でしたが、いい瞬間を撮ることができてよかったです。
今回の旅では、αによって仁淀川が魅せるさまざまな「青」を撮ることができました。色が実に美しく多彩で「仁淀ブルー」を表情豊かに描くことができました。 もちろんホワイトバランスやカラーバランスはこちらでコントロールしますが、α7Cはフルサイズのセンサーを搭載しているので色の表現がとても幅広いですね。私の場合、あまりレタッチせず、カメラの中で完結させるスタイルなので、色再現の高さはとても魅力に感じました。
フレーミングやピント位置を変えながら
「心ときめく瞬間」を探すのが私の撮影スタイル
下の作品は川沿いに自生している緑の植物を撮った1枚ですが、撮っている時にとてもテンションが上がった1枚です。私は「ときめいた瞬間」にシャッターを押していますが、フレーミングやピント位置を変えていくと、どこかに心ときめく瞬間があるもの。少し角度を変えただけでも見えかたが変わるので、いろいろなアングルでその感覚を楽しむことができたワンシーンです。
旅の1日目、日が差し込んだわずかな時間に撮影しました。1枚の葉にピンポイントで太陽の光が当たっていたので、その素敵な光景を撮りたかったんです。葉の間から太陽が見える逆光の状態ですが、白飛びもなくきれいに表現できました。過去に使用していたデジタルカメラは画の中の明暗がはっきりしてしまう印象があったので、それがデジタルカメラをあまり使わない要因にもなっていました。でもα7Cは私が好んで使っているフィルムカメラに近い感じで全体の色を出しつつ、ピンポイントで光が当たっている葉も白飛びすることなく、美しい黄緑色に写してくれます。 しかも、拡大すると葉脈まで見ることができて、フルサイズならではの解像感も感じることができました。こういうシーンもα7Cなら安心して任せることができますね。
使うたびにAF性能の高さを実感。
瞬間を逃さずきれいに撮るためにも積極的に活用したい
下の作品は1日目の終盤に撮ったものですが、ここまでの撮影でα7CのAF性能の信頼は揺るぎないものになっていました。そのため、このシーンでもAFを選択。波紋をつくっているつま先にフォーカスしたかったので、ピント合わせがとてもシビアになります。この状況では、自分でピントを合わせるよりAFのほうが確実に合うと思ったわけです。そのくらいα7CのAF性能を頼りにしていました。
空はすっかり曇ってしまったので、川以外で撮れるものを探していました。そんな時に見つけたのが、この水たまりです。川の淵にある水たまりも水がとてもきれいで、「雲と空がいい感じに映っていて素敵だな」と思い撮影しました。水に映っている人物のシルエットは黒く潰れそうなところですが、ワンピースが白いことまでわかるので「これはすごい」と思いましたね。 下の作品は、仁淀川からの帰り道で見つけたレースフラワーです。繊細な白い花に魅せられて道ばたに咲いていた花を摘み、緑と光がある背景を選んで撮影しました。この旅ではツァイスレンズ「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」を使っていますが、この作品も私が好きなツァイスらしい描写です。
自分の手で花を持ち、できるだけ腕を伸ばした状態で撮っているのでなかなか被写体が安定しない状態でした。そこで活用したのが連写です。モニターを見ながら撮影できる体勢ではなかったので、リアルタイムトラッキングでピントを追いかけながらパシャパシャ連写しました。このような厳しい体勢でもきれいにピントが合った写真を撮れたのはAFと連写性能のおかげです。きっとフィルムカメラではここまできれいに撮れなかったでしょう。
映画を観るような感覚で風景を眺め
「止めたい」と思った瞬間とアングルを探す
この旅で2日間、α7Cを使った率直な感想は、まず「驚くほど軽い」ということ。サイズも小ぶりで持ちやすく「このくらい軽ければ、旅にぴったりだな」と思いました。軽量コンパクトなので機動性も高く、無理な姿勢で撮ったり、足場が悪いところで撮ったりする時にもとても楽です。私はデジタルカメラの場合、背面のモニターを見ながら撮影することが多いのですが、バリアングルモニターなのでアングルも自在でした。 さらにこの大きさでフルサイズの高画質を持ちあわせているのがすごいところ。色表現の幅広さや光を入れても白飛びしないところは、フルサイズならでは。描写が本当にきれいですし、AFを使えば簡単に、的確に瞬間を捉えてくれるので、カメラ初心者でもクオリティーの高い写真が撮れると思います。 私の撮影ではフィルムカメラが多く使われますが、今回、α7Cを使ってみて、デジタルカメラでも表現できるシーンがかなり多いことに気づきました。デジタルカメラとフィルムカメラではそれぞれに向いているシーンがあり、今までは「フィルムカメラでなければ撮れない」と思うシーンのほうが多かった。でもαは便利な機能だけでなく、描写が本当に美しいので、撮れる範囲が広く、今後の作品づくりでは使用頻度が高くなりそうです。しかも、このα7Cは動画撮影でも高い性能を持っているようなので、動画も撮りたいと思っている私にとっては、さらに可能性が広がる1台になると感じています。
コンパクトで機動性の高いα7Cは、いろいろな場所に気軽に持ち出せるのが魅力です。もちろん旅先もそのひとつ。旅先では絶景や名所などにこだわらず、「いいな」と思った瞬間を撮るようにしています。名所は誰もが撮る場所なので、自分らしさが出ませんし、私よりいい写真を撮っている人がたくさんいますから。私の場合はとにかく「歩くこと」を大切にしています。常にいろいろなところに目を向け、「ここから見たらこう見えるんじゃないかな」と想像する。そうやって、みなさんが見たことがない風景を探すわけです。 撮影する時は「きれいだな」「いいな」と思った時に、きちんと切り取れるようにスタンバイしておくことも大切です。私の場合は映画を観ているような感覚で景色を見ていって、「この瞬間を止めたい」と思ったらそこで立ち止まり、止めたかったアングルを探して撮る、という感じ。言葉で説明するのはとても難しいですが、光の角度やアングルによって見える画はまったく違いますから、「いつでも見られる景色」より「止めたいと思った瞬間」を撮るように心掛けています。 私の作品では、「私の視線が見つめる世界」を見てもらえたら、と思っています。世の中、きれいなものばかりではありませんが、目を凝らして探し、少し視点を変えるだけで美しく見えるものはたくさんあるもの。それを自分の視点で切り取ってみなさんに見ていただき、「そこにある美しさ」に気づいてもらえたらうれしいです。