ファッションフォトグラファー
中川昌彦
溶けていくような圧巻のぼけ
描写が、被写体を引き立たせ、深みを表現するレンズ
〜FE 100mm F2.8 STF GM OSS〜
ソニーが送り出すEマウント最高峰のレンズ「Gマスター」シリーズに、息をのむような美しいぼけ味を実現するSTFレンズが登場した。プロの目にはEマウント初のSTFレンズはどう映ったのか。ファッションフォトグラファー中川昌彦氏にインプレッションをお願いした。
ファッションフォトグラファー
中川昌彦
1962年、大阪生まれ。ファッション雑誌をはじめ、主にアパレル企業のブランド広告を数多く手掛ける。フィルムカメラの時代から第一線で活躍、多くのモデルを撮り続けているフォトグラファー。
被写体を浮かび立たせる程好い焦点距離
――レンズの使用感を具体的にお聞きしたいと思います。まずは、ススキの草原で撮ったポートレートですが。 風が強くて寒い日、朝10時頃の撮影でした。モデルを包み込むようなやさしい逆光が、透明感のある肌や風に流れる繊細な髪の毛をライトに表現してくれています。100mm中望遠の焦点距離が背景をぼかしつつ、しっかりした解像力で被写体のエッジをシャープに浮き出させています。STFレンズのぼけ描写がやわらかく滑らかなので、真冬の黒く朽ちぎみのススキでしたが、とても素敵なトーンの背景にしてくれました。 ピント合わせはフレキシブルスポットオートフォーカスの一番小さい枠[S]を使っています。
前ぼけ、後ろぼけを高い次元で両立しながら
じわっとやさしく溶け込む光を表現
――2つ目は、夕闇が迫る水際で撮影したポートレートです。光と影の描写が幻想的ですね。 他のレンズだと、手前の電球の灯りはもっとゆがんだ形状になったり、周辺は欠けた形(口径食)で表現されることが多いですが、STFレンズならではの効果で綺麗な真ん丸になっています。背景の灯りは、肉眼で見れば建物の四角い窓から漏れる硬めの灯りでしたが、形もさることながら、じわっと周りにとけ込むやさしい光として表現できました。前ぼけと後ぼけが両方とも美しいのは、このレンズの強みだと思います。
Gマスターとα7R IIの組み合わせが
光と影、ぼけ味に深みをもたらした
――こちらは、女性の表情に寄ったスタジオ撮影のポートレートです。 中川:顔のシャドー部分の輪郭もしっかりと描写され、闇から浮き出す、立体感のある深み、重厚感が表現できました。背景の点光源が、端の方まで見事に丸く、溶けるようにぼけているのが綺麗ですよね。暗い微妙なグラデーションの中、やわらかい光で表現したいときにとくに相性がいいレンズだと感じました。
――こちらの作例は特に、α7R IIの4240万画素の描写力とGマスターの解像性能が発揮された1枚かと思います。 中川:瞳AFでフォーカスはばっちり、瞳の中の涙のにじみまで見えます。ポートレート撮影の基本通り瞳にフォーカスを置いたうえで、バングルにも合うように腕の位置を調整しています。バングルの質感やデザインもびしっと描写されていて、高い解像性能が発揮されています。
100mmという焦点距離の高解像描写と
マクロ撮影が1本で楽しめることの可能性
――α7R IIと、Gマスターの組み合わせで撮影して、いかがでしたか。 中川:今回はα7R IIを使用しました。ミラーレスは記録される画像が電子ビューファインダーを覗いた見た目に反映されるので、安心して撮影できますね。そのうえ記録画像の諧調は、覗いた画以上にしっかりと表現されています。 とくにロケで撮った2作品のような、雲の多い逆光や日没ぎりぎりの刻々と光が変わる状況での撮影では、露出を測って絞りやシャッタースピードを調整していたのでは、せっかくのチャンスを逃してしまいます。かと言ってそれらをオートに任せると表現したい画と違ってきてしまうので、トーンやボケをファインダーで確認しながら、感覚で露出を合わせて撮影できたのはとてもありがたかったです。
――この100mm STFレンズで、今後どんな撮影をしたいと思いましたか? 中川:試してみたいのは、やっぱり0.57mまで寄れるマクロ撮影ですね。例えばコスメやジュエリーの仕事で、モデルや商品の細かい部分に寄った写真が必要なときがありますが、ふっと画が浮かんだ瞬間にレンズの付け換えなしで寄ってシャッターが切れる、フットワークを生かしたおもしろい撮り方がいろいろできそうですね。今までのマクロレンズだと、当然マクロ撮影にあわせた構造をしているので、引きを同じレンズで撮ろうっていう気にはなれなかったですが、このレンズならポートレートもマクロも両方いける、すごく可能性を秘めているレンズだと思います。
αUniverseの公式Facebookページに「いいね!」をすると最新記事の情報を随時お知らせします。