水滴写真家 浅井美紀氏
女性の感性で愛らしく描く
幻想的な「滴」
〜α7 IIとマクロレンズ(SEL90M28G)で
表現する小さな世界〜
滴の中に写る花をメインに、マクロならではのアーティスティックな世界を写真で表現している浅井美紀氏が、α7 IIとSEL90M28Gを使って撮影。マクロの世界に魅入られた経緯、そしてカメラとレンズの魅力について、思いを語っていただいた。
浅井美紀
北海道帯広市生まれ。
幼い頃から写真鑑賞に興味を持ち、2012年5月より一眼レフカメラの購入をきっかけに、写真投稿サイト「500px」で自身の写真を投稿。マクロレンズを通して撮影された神秘的な作品は、イギリスのカメラ雑誌等で取り上げられ、その後日本でもさまざまなメディアで紹介される。2015年2月には、初の写真集『幸せのしずく World of Water Drops』(扶桑社)を刊行。現在も会社員として働きながら、仕事を終えた後や休日にカメラを手にし、肉眼では見えにくい小さく輝く世界を撮り続けている。
陽差しを浴びて輝く朝露の美しさに感動して
「滴」に着目
――現在、「滴」をテーマに創作活動をされていますが、どのようなきっかけで滴を撮り始めたのですか? 写真投稿SNS「500px」を見ていて、あるマクロ写真にとても衝撃を受けたんです。それをきっかけに、自分もマクロの世界を撮ってみたいと思うようになりました。一眼レフカメラを初めて買ったのは、今から5年前の2012年。マクロレンズもほとんど同時に購入しました。 最初は庭先の花を撮っていましたが、その頃から「なにかいい被写体はないかな」と探していたんです。そんな時、見つけたのが朝日を浴びて輝く朝露。カメラを通して見た朝露があまりにも美しくて。これは撮らなきゃと思って、カメラの使い方もわからない状態でしたが夢中でシャッターを切りました。でも、撮った写真は、見たままの印象とは全く違うものだったんです。 その日から、「どうしたら見たままの美しい滴が撮れるのか」と、カメラをいじりながら試行錯誤しました。カメラを持って数週間後の話です。そして、思い通りの写真が撮れるようになった今も、もっといろいろな表情の滴を撮りたいと試行錯誤しています。
独学で生み出した芸術的な「滴」の撮影法
――滴に花を写し込んだ写真はどのように撮影しているのか教えていただけますか? 用意する機材はカメラ、マクロレンズ、三脚、レリーズです。マクロ撮影ではピントがシビアになるため、三脚は必須です。さらにブレを抑えるために、私はレリーズを使って撮影しています。そのほかに滴をつくるためのスポイト、花びらや茎の部分に滴が乗りやすい花、滴の中に写す花があれば準備OK。 滴は、スポイトでたらして作ります。これはなかなか難しくて、滴を落とす位置は頭で覚えるというより、体で覚える感じ。ガーベラの花びらや、アリウムコワニーの茎など、水滴が安定しやすいものを選ぶのも上手に撮る秘訣です。 カメラの設定は「絞り優先」が基本。感度はその時の状況によって変えますが、低ければ低いほどキレイに撮れます。ホワイトバランスはオートか日光。ちょっと色気を出したいときは蛍光灯に設定しています。
滴の中に花を写り込ませる場合のポイントは、カメラ、滴、写し込む花の3つを水平に一直線に並べること。少しでも高かったり低かったりすると滴の中の花の位置がズレてしまいます。滴はレンズと同じで、上下左右が逆転しますから、画を見ながら花の位置を調節して真ん中に写り込むようにします。これだけで印象的な滴の写真が撮れるので、実は誰にでも簡単に撮れるんですよ。
90mmマクロのぼけ味が実現した
芸術的な「滴」の世界
――今回、撮影で使われたレンズと、その印象をお聞かせください。
ご紹介する作品は、すべて90mmマクロレンズ(SEL90M28G)で撮影しました。90mmくらいの中望遠レンズが滴の撮影には合っていると思います。使ってみて、まず驚いたのはぼけ味のなめらかさ。私がふだん使っているマクロレンズとは、やわらかさが全然違うんですよ!
本当にとろけるようなぼけ表現で、滴をより印象的に見せることができました。
例えば上の写真は白い花を前ぼけに入れているんですが、やわらかく透け感があってとてもきれい。後ろに置いた黄色とピンクの花もやわらかいぼけ味で、滴の輪郭や、滴の中に写った花を強調することができました。ぼけ表現に優れたレンズだからこそ撮れた1枚です。
上の写真は、「水の表面張力を表現できないか」と水と花で遊んでいた時に思いついた表現法です。 薄いお盆に水を張って、そこにアリウムコワニーを一輪乗せて糊で固定しました。背景のオレンジは色紙の色で、お盆の水に写り込むように配置しています。最後にスポイトで滴を作り、レフ板でバウンスさせたLEDライトの光をアクセントに入れた1枚です。これも背景のオレンジがとろけるようにぼけて、階調豊かに表現できました。 滴の作品はマクロの世界を表現するため、背景のぼけ味は作品の印象が変わるほど重要です。でも、SEL90M28Gを使えば、難しい設定を考えなくても自動的に美しいぼけを作ることができて、ワンランク上の作品に仕上げてくれる。そのくらい素晴らしいレンズです。
花や綿毛の繊細な質感まで表現する
解像感と描写力に感動
――使用したカメラについてもお聞かせいただけますか? α7 IIで撮影しました。フルサイズの一眼レフと比べてα7 IIはフルサイズなのに小型軽量で取り扱いがラクですね。女性の手にもしっくりきますし、三脚が多少頼りなくてもフラフラしない。画質も素晴らしくて、花びらの表情や質感、タンポポの綿毛までしっかり再現できました。
タンポポの綿毛を撮りたいと思ったのは、雨上がりのお散歩がきっかけでした。雨粒をまとった綿毛がすごくかわいらしくて。それから家に綿毛を持ち帰って、どこにどう滴をつけたらかわいいかな、と実験をし始めました。綿毛を1本だけ粘土に挿して滴を乗せてみたらかわいくて、そこからいろいろ撮り始めたんです。 上の写真も水を張ったお盆を使って撮影したものですが、綿毛の1本1本まで再現されているだけでなく、ふわっとした綿毛のやわらかさまで表現できました。質感まで表現できるのはフルサイズのセンサーと高解像度のたまもの。綿毛についた小さな滴まで印象的に見せてくれます。 下の2点の写真はガーベラの花びらに滴をのせて、背景の花を滴の中に写し込んで撮影しました。写真を撮るきっかけになった朝露を見つけた時、向こう側の景色が滴に写り込んでいたのを覚えていたんです。それなら花を滴に入れられないかな、と思い撮り始めた被写体です。 花びらの質感、やさしい光、滴の中の花まで繊細に描写できていて、見事のひとことです。
α7 IIは、5軸ボディ内手ブレ補正も魅力ですよね。私は三脚を使って撮影することが多いのですが、自然光がきれいな時間帯は屋外で手持ちで撮ることもあります。三脚を外に持って出るのは汚れるし手間なんですけど、これなら手ブレ補正があるから三脚なしでも安心。マクロ撮影はブレが大敵ですが、α7 IIなら気軽に手持ちで撮ることができます。
ピントがシビアだからこそ頼りになった
「MFアシスト」
――なかでも「これは便利だな」と思った機能はありますか? 私はほとんどマニュアルでピントを合わせています。滴の中の花を撮る場合、AFで撮ると滴の輪郭にピントが合ってしまいますから。それだけピントはシビアなんです。そんな時に役立ったのが「MFアシスト」。カメラ設定で「MFアシスト」をオンにすると、レンズのフォーカスリングを回した時、自動的に液晶モニターが拡大表示に切り替わる、という機能です。
滴撮影の場合、とても小さな部分に的確にピントを合わせなければなりません。だから、そのままの状態ではピントの山がどこにあるのか確認できないんです。だからピント確認のために拡大表示は必須です。 私の場合、まずは被写体の中から「ここにピントを合わせよう」という位置で測距点を決めてフォーカスリングを動かします。そうすると測距点の部分が自動で拡大表示になるので、そこで細かなピント調整を行う、という感じ。この機能はかなり役に立ちました。 さらに、フォーカスリングを前後させるだけでAFとMFが切り替えられるのも便利でしたね。普通はレンズの横に切り換えスイッチが付いているので、ちょっと手間がかかりますが、これは素早く変えられて重宝しました。
目を凝らして探さなければ見えない
美しい世界を作品に
――「滴」のように、作品のテーマを見つけるのはとても難しいことだと思います。見つけるためのヒントはどんなところに隠れていると思いますか? 当たり前のものを見ていても、当たり前のものしか探せないと思うんです。だから、私は先入観を持たずに物事を見るようにしています。例えば、雨上がりの土なんて誰も見ないですよね。だけど、夕立後の日光が注いで光っている土というのは意外ときれいなんですよ。でも、そんなところは誰も注目しないじゃないですか。そういう「誰も目を止めない部分」にテーマのヒントが隠れているものです。まずは先入観を捨てて、物事を広い目で見ることが大切だと思います。
―――最後に、ご自身がこだわり続けるマクロ撮影の魅力を教えていただけますか? 肉眼では見えない世界が見えるところですね。光の加減で見え方もまったく違ってきますし。マクロレンズを通すと、そこは別世界なんです。 お花や宝石など、目に見えて美しいものもたくさんありますが、目に見えない光の加減、光の魔法で、美しくなるものもたくさんあります。ダイレクトに伝わる美しさではなく、目を凝らして探さなければわからない美しさも、世の中にはたくさんあると思うんです。そんな世界があることを、作品を通してみなさんに伝えていければと思っています。
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