国内最大の審査型SNSである『東京カメラ部』において、延べ4.5億人が選ぶその年の10枚「10選」に選出された経歴を持つ井上浩輝氏と小林修士氏が、αユーザーならではの作品づくりの魅力を語る。今回の前編では井上氏の話を中心に紹介。
井上 浩輝/写真家 1979年、北海道札幌市生まれ。札幌南高校、新潟大学法学部卒業、東北学院大学法務研究科修了後、北海道に戻り、風景写真の撮影を開始。次第にキタキツネを中心に動物がいる北国の美しい風景を追いかけるようになる。2016年にキタキツネが追いかけっこをしている写真で「National Geographic Travel Photographer of the Year」コンテストのネイチャー部門1位を獲得。写真は、国内のみならず海外の広告などでも使用され、近時は、北海道と本州を結ぶ航空会社AIRDOと提携しながら野生動物や風景など「いま生きている光景」にレンズを向けている。
小林 修士/フォトグラファー 1989年、渡米。アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン写真学科卒業。1996年よりフリーランスとして活動を開始。ロサンゼルスをベースにハリウッドのセレブリティの撮影をする。2011年に帰国し、雑誌、広告などの分野で活動中。2016年3月個展「left behind -残されたもの-」開催。2017年9月に玄光社より写真集「密会」刊行。神保町画廊にて個展「密会」(2017)及び「続・密会」(2018)開催。
2017年12月23日(土)にαプラザ(銀座)ソニーストア銀座4階カメラコーナーでトークショーが行われ、「東京カメラ部10選」の井上浩輝氏、小林修士氏が登壇しました。
司会「本日は東京カメラ部10選に選出された2名の方から、それぞれの写真について、どのように撮影されているかを作品とともにじっくりと伺いたいと思います。まずは井上さんからお願いします」
井上「こんにちは。井上です。今日はα9と最新のα7R IIIで撮った動物たちの写真についてお話していきます。まずこちらはα9で撮ったエゾリスの写真。レンズは100-400mmのGマスターで、たしか400mmの望遠端で撮った記憶があります。エゾリスの毛、1本1本が見えるほどの解像感ですね。さらにエゾリスの目にピントが合うようにフレキシブルスポットAFで撮影しています。気をつけなければならないのは、ヒゲにピントが合わないようにすること。ヒゲと目には1cmぐらい奥行きに差があるので、できるだけ目の上の方にピントを合わせています」
井上「次に、この魚はご存じですか? サクラマスと言って、生まれたときはヤマメと呼ばれています。メスのほとんどとオスの8〜9割が川の上流域での生存競争で負けて、追いやられてしまうそうです。海で4〜5年を経て川に戻ってくるときにはものすごく大きく成長しています。その戻る途中にいくつも滝があり、そこをジャンプして登っていきます。その滝登りの瞬間を撮りたいと思いまして。かつてのカメラではオートフォーカスでは間に合わないのでマニュアルフォーカスで撮っていたのですが、α9から変わりました。三脚にカメラを据えて、200mm以上のレンズでシャッターボタンを半押ししておきます。あとはファインダーやディスプレイは見ず、実際の風景を見ながらダダダッと押し込むんですね。すると写るんですよ。ファインダーのなかにサクラマスが入ってくる時間は1秒もありません。その短い瞬間もオートフォーカスがマスを追いかける。カメラの進化は非常に残酷だと思いましたね。もはやこの写真を撮ったからといってエヘンなんて言っていられません」 司会「1秒間に20コマですね」 井上「そうです。20コマ撮れるので写せると言えます。以前使っていたカメラの1秒間5コマだと、ファインダーの中に入ってきたとしても写っていないことがたくさんありました。それが20コマになると画面の中に入ってくる確率が高くなってくるんです」
井上「今年(2017年)の4月頃に生まれた子ギツネが夏、秋、そして冬を迎えて初めての雪を見ている頃の写真です。ボタン雪が降っていまして、オートフォーカス性能が高いα9だとボタン雪にピントが合ったりして、それは困りましたね。でも、不思議なことに画面のなかにキツネを入れるとα9のオートフォーカスのアルゴリズムが「撮りたいのはボタン雪でなくキツネでしょう」と言わんばかりにピントを合わせてくれます。あと、キツネのまつ毛の水滴、わかりますか?そのぐらいの解像感があります」
井上「次はエア・ドゥのボーイング767が旭川空港から離陸するところです。旭岳という北海道で最も標高が高い山の形が左右対称になるように撮影します。飛行機がうまくファインダーに入ってくれるタイミングを待ちます。飛行機が来ない間、シャッターボタンを半押しにしていると、雲と青空のコントラストが強いあたりにピントを合わせようとするのですが、飛行機が入ってきた瞬間、飛行機を追い始めています。僕のすることは、この画角を保ったままシャッターボタンを押し続けることだけでした。秒間20コマですから、あとで一番いいカットを選ぶだけです」 小林「画角は据えたまま、ということはカメラが飛行機を追ってフォーカスし続けるということですよね?」 井上「そうです。飛行機が入ってきた瞬間、飛行機の半分くらいが見えたあたりで飛行機にフォーカスして追いかけていく感じでした」 小林「自動的に、ですよね?」 井上「自動的にです。すごくラクですね。以前だと何度も半押ししてみたりとか、あらかじめ滑走路の下のあたりにピントを合わせておいて、距離が伸びる分を当てずっぽうに、ほんの少しピントリングを回してみたり、そんなことをしていましたから」
井上「また、最も明るいところが白飛びしないように測光するモードを使っています。この写真の最も明るいのは雲、太陽の光が当たっているところ、そして機体そのもの。こういうところが白飛びすると残念なんですよね」
井上「この写真は何かわかりますか?エゾフクロウの後ろ姿なんですね。なかなかフクロウが後ろ姿を見せてくれることはないのですが、このときは目の前の木の上にいたんです。肉眼ではかろうじてシルエットが確認できるぐらいで、ファインダーをのぞいても真っ暗。それがISO20000まで上げると見えてくるんです。ノイズも許容範囲で、後列から見ている方には気にならないのではないでしょうか」
司会「本当は真っ暗なんですよね?」 井上「真っ暗です。人間の目ではフクロウの羽の模様が見えません。でもISO20000では見える。かつて動物写真はキリンや象が写真に写っているだけで喜んだ時代がありました。その後フラッシュが発明されて、シルエットでしか見えなかったコウモリが見えるようになり、その後カラーフィルムができてクジャクの色彩にため息をもらし、フラミンゴが空をピンクに染めている写真に感動しました。その後は、新種の発見を楽しんだ時代もあります。現代になると生態に迫る写真。鳥の巣のなかで何が起きているか、などですね。これからは真っ暗なところで、彼らが何を見ているのかを表現する時代が始まろうとしています。“暗闇動物写真”はソニーのセンサーがこれから切り拓いていってくれる世界だと思っています」
井上「ここからはα7R IIIで撮影した写真になります。野付半島というところで撮りまして、ナラの木がたくさん生えているなか、エゾシカがいるんですね。ここはエゾシカの越冬地でもあります。200頭ぐらいいたなかから1頭だけを撮りましたが、怖ろしいほどの解像感です。横幅のピクセル数が約8Kあります。枝の1本1本が重なっている様が確認できます、このモニターは4Kですが、8Kのモニターで映したらさらにこの立体感がわかると思います。解像度が高いと立体感が出るんですね。ここが面白いところです」
井上「次は大きな木が写っていますが、皆さん何かいるのにお気づきですか?フクロウがいるんですね。ここを大きくしたのがこちらの写真になります」
井上「フクロウが住んでいる木を引きの100mmで撮ったのが前のカット。解像度が非常に高いので拡大するとこのフクロウが見えてきます」 小林「ここまで拡大してもこの画質なんですね」 井上「そうなんです。非常に有利なセンサーです。トリミングしないで撮影しなさい、という写真教室の先生もいらっしゃると思いますが、僕はそこにはこだわらない。プロセスよりも結果ですから。解像度が高いことで、後から自由に構図をつくれる。α7R IIIは約4200万画素ですから、半分にしても横幅が3800残っているので4Kに耐えうるんです。Facebookは2048ピクセルですからね。1/4にトリミングしても大丈夫です」
井上「α7R IIIの最大の特徴は明るいところから暗いところまでの豊かな階調表現だと思います。その豊かな階調のなかに精細に描き込まれる風景というのは、α7R IIIならではだと思っています」 小林「シャドーのディテールが出ているのがすごいですね。ハイライトを抑えようとするとそのままシャドーが沈んでいってしまいますよね」 井上「ここを白飛びしないように撮ると真っ黒になりますね。EVFを見ながらここは白飛びしていないな、と確認しながら撮っています」
井上「またエゾリスが出てきました。α7R IIIでも動物を撮れます。リスはだいたい2秒弱静止してくれて、その間にピントが合ってくれるのでシャッターを切りさえすればこのような写真が撮れます。α7R IIIは秒間10コマ。バババーと撮って写っているかな、というイメージでしょうか。リスの顔には精細にピントが合っているのに足元の方に行けば行くほどふわっとぼけていく。この精細な解像度とぼけの落差が立体感を生むんです」
井上「これはナナカマドに雪が積もっているなかで、なぜかアオバトがいたというヘンな写真です。なぜならアオバトは寒い時期、北海道にいませんので。でもこのときは札幌市内の公園にいました。で、さぁ撮るぞと思ったときにα7R IIIの便利な機能に気づかされたのがタッチパッドです。右の親指の当たる場所がタッチパッドになるんですね。ピントを合わせるカーソルをタッチパッドで動かせるんです。ファインダーを覗きながら画面をちょっと触ってあげることでピント合わせができる。とってもラクですね」 小林「さきほど井上さんに教えてもらって試してみたんですが、PCのタッチパッドを触るような感じですごく反応がいいですね。フレキシブルスポットAFを使うんですか?」 井上「そうです。フレキシブルスポットAFの設定にして撮影します。タッチパッドはジョイスティックよりも使い勝手がいいかもしれませんね」
井上「この写真は氷点下21℃のなか、鶴居村という北海道の道東にある鶴が寝る川です。ちなみに一番寒い撮影現場は氷点下27℃。鼻毛が凍る寒さですが、その気温になると大変なのがバッテリーです。バッテリーを5個も6個も持っていって、袖のなかで温め続けなければ電圧が降下して使い物にならない。でも、α7R III、α9の新しいバッテリーだとそんな心配がいらないんです。今回、氷点下21℃から氷点下16℃の2時間半ぐらいの間、今までのこともあったので恐る恐る電源をオンオフしながらだったのですが、100%が81%ぐらいまで下がっただけで通常使用と変わりませんでした。前のカメラだったらエラーが出て撮影ができなくなってしまうような温度にも耐えられるということです」
小林「雪への対応、防滴はどうですか?」 井上「防塵・防滴ボディなのであまり心配しないで使っています。降雪があっても気にしていません。どしゃ降りだとさすがに考えますが、小雨程度であれば平気で使っています。マウント部分から水分が入ることもないと思います」
井上「この写真は妙なライティングをしていると思われる方もいらっしゃるかもしれません。太陽はリスの向こう側、完全に逆光ですからね。実は雪がレフ板の役割をしてくれて、このような写真が撮れました」 司会「ISOはどれぐらいですか?」 井上「ISO3200です。α7R IIIは解像度が非常に高いので仮にノイズが出たとしてもノイズの大きさが画面全体の大きさとの比較で相対的に小さくなります。そのおかげで高ISOでのノイズ耐性が強く見えるという効果があるのかもしれません」
井上「珍しいですね。フクロウの2階建てマンションです。200mmで撮っています。もうちょっと近くに行きたいですね。ということで1600mmで撮影するとこんな写真になります」
井上「あれ、ソニーのレンズに1600mmってあったかな?と思ってますよね。どのように撮ったかというと、400mmのレンズに2倍のテレコンバータを付けています。そうすると800mm。さらに撮影モードをjpegだけのモード、超解像ズームにすることで最大2倍になります。つまり800×2=1600mm」 司会「すごい迫力ですね」 井上「毛の1本1本が見えるんですね。ただ、動かないものを撮るのに限ります。1600mmだと、ちょっと自分が動いたり相手が動くとどうしようもないですから」 小林「撮ってる位置はさきほどの写真と……」 井上「ほぼ一緒です」 司会「ええ!すごいですね」 井上「超解像ズームは、α7R IIIよりも前の機種から搭載されていますので、もしαを使っている方は、ズームが足りないときにお試しください。ただ気をつけなければならないのは、モードを戻すのを忘れないこと。戻し忘れるとjpegだけでその後も撮影し続けることになってしまいますから」
司会「ありがとうございました。続いて小林さんお願いします」
後編はこちら
写真家 井上浩輝 氏・フォトグラファー 小林修士 氏
東京カメラ部10選コラボトークショー 〜αが捉える“一瞬”の世界〜 後編
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