Impressive TRAIN Journey
鉄道写真家 中井精也 氏
Vol.10
中井氏が鉄道風景を印象的な作品にすべく旅するデジタルカメラマガジンとのタイアップ企画がスタート! 本誌では見られない撮影裏話を毎月コラム形式でお届けします!
こんにちは。鉄道写真家の中井精也です。 なんと今回の撮影地は日本を飛び出して、中国は四川省にある芭石鉄路という軽便鉄道をたずねました。この鉄道はもともと炭鉱鉄道だったのですが、廃坑になった後も沿線住民の足として活躍してきました。驚くべき点は、全列車を蒸気機関車牽引による客車列車で運行していることです。中国の山奥を蒸気機関車が走る風景は、とても今のこととは思えません。さらに、沿線は菜種油の原料となる菜の花が栽培され、3月になるととても鮮やかな春の風景になります。 最初の写真ですがα7R IIIにSEL70300Gを装着して撮っています。焦点距離は94mm。臨場感溢れる美しい描写の写真が撮れたと思います。 一面の菜の花畑をゆくSL列車。思い切って機関車そのものを画面から除き、立ち上るSLの煙だけを主役にしてみました。 この写真だけで「作品」として見せることは少し難しいとは思いますが、たとえば組写真の1枚として作品群の中に入れると、こういう写真はいい味を出してくれます。鉄道写真で組写真を考える時の参考にしてみてください。 つい絶景写真になるような構図を狙いがちですが、僕はこういうカットも、積極的に狙って残すようにしています。
ところで最近ではこの鉄道がすっかり観光地化されており、菜の花のシーズンになると中国全土からたくさんの観光客が訪れるようになっているそうです。 SLに乗るのもSLを撮るのも、どちらも大混雑という状況になるとの情報を事前に得ていたので、間違いなくフットワークが求められると思い、機材を可能な限り少なく軽量化することを最優先としました。皆さんご存知の通り僕は普段、あまり高倍率ズームは使いません。お気に入りはGマスターレンズのSEL1635GMやSEL100400GMなんですが、今回の撮影では前回の秩父でのことを思い出して、思い切ってSEL24105Gと機動力を考えて望遠はSEL70300Gの2本をメインで臨みました。
次の写真もSEL70300Gで撮影した1枚です。 撮影した芭石鉄路という場所も観光地化が進み、ほとんどの列車が新型の客車に置き換わってしまいました。またSL型のディーゼル機関車も登場し、どんどん雰囲気が変わりつつあります。そんな中、朝夕の1往復だけは昔ながらの簡素な客車を引くSLが健在です。ここは起点の石渓駅。子どもたちのはしゃぐ声が響く炭鉱町の素朴な駅の風景は、まるでタイムスリップしたかのようです。ここではノスタルジックな印象で撮影したかったのでクリエイティブスタイルを「モノクロ」に設定して、懐かしい雰囲気に仕上げてみました。
そしてこちらもSEL70300Gで撮影した写真です。このレンズは、ぼけ味もとても美しいです。 菜の花に囲まれて、夕刻の一般列車がやってきました。その素朴でありながら美しい佇まいの汽車がある風景に、思わず涙が出そうになります。鉄道が観光化されると、旅情感が薄れてしまうのは仕方がありません。それに観光化されたからこそ、この鉄道は廃線とならずに今もその美しい姿を見せてくれているとも言えます。 そう考えると、この奇跡のような風景に出逢えたことに感謝しながら、シャッターを押している自分がいました。
SEL70300Gで撮影した写真が続きましたので、最後の写真はSEL24105Gで撮影した1枚です。前回の秩父での撮影の時にも感じましたが、高倍率標準ズームでコンパクトなレンズながら、解像感のある高い描写力だと思います。前回の秩父に続いて、ここ中国でも重宝しました。
それではまた次回もこの場所で!中井精也でした。
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