映像作家 江夏由洋 氏×α7R III
特集:この一台で、挑む。すべてに応える。
〜α7R IIIが変える映像の常識〜
長きにわたりCMやプロモーションビデオなど、クリエイティブな映像作品を撮り続けてきた江夏由洋氏。いち早く4K撮影に取り組んだ先駆者としても知られ、最新技術を取り入れた革新的な撮影手順も注目を集めています。今回は、映像の世界でミラーレス一眼であるα7R IIIを使うメリットや、ムービーカメラでは成し得ない利便性など、その魅力を思う存分語っていただきました。
江夏 由洋/映像作家 1998年東京放送(TBS)に入社後、スポーツ局のディレクターとしてドキュメンタリー番組を中心に数多くの中継に携わる。2008年、兄・正晃氏とともに株式会社マリモレコーズを設立し、独立。企画・撮影から編集・配信まで映像制作をトータルに行っている。
――まずは、α7R IIIで撮影した印象を聞かせてください。
僕はα7S IIとα7R II、両方を使い分けていましたが、どちらもミラーレスで4K動画の道を開拓した画期的なモデルだと思っています。映像業界でも使っている人はたくさんいましたし、今後はミラーレス一眼が台頭する時代が来る、と予感させるほど革命的なカメラだったんです。 ただ、動画の世界ではサブカメラという立ち位置でした。僕はメインで業務用カムコーダーのPMW-F55、PXW-FS7 などを使っていますが、画質や使いやすさという点で、はっきりとした境界があったんです。 次世代のミラーレスに求められるのはLog撮影(※1)後のワークフローが簡略化されること。α7R IIとα7S IIの場合、Log撮影(S-Log)では最低感度がISO1600とやや高感度であったことで、ポストプロダクション(※2)において、ノイズ処理に若干の手間がかかっていました。一方でα7R IIIは、ISO800と低ISOでLog撮影(S-Log)ができる分、ノイズが少なく、ノイズ処理にかける時間が大きく短縮され、ワークフローががらりと変わりました。 シネマルックに仕上げられるLUT(※3)を使えば、納品までの時間を格段に短縮できるうえ、シネマルックの画質も申し分ないです。これはとても革新的なこと。α7S IIやα7R IIとも一線を画した次世代カメラが登場したという印象で、これまでαが位置づけられてきた「動画専用機のサブカメラ」というイメージから脱却したように思います。
※1 ビデオ撮影において暗部からハイライトまで黒潰れ、白飛びする事なく撮影・収録し、ポストプロダクション工程において自由度の高いカラーグレーディングを行う事ができるように設計されているガンマカーブの一種。
参考:https://www.sony.jp/ls-camera/knowledge/
※2 撮影した映像の編集や、音楽・効果音・ナレーションを入れるなど、撮影後の作業のこと。
※3 Look up Table の略。入力輝度データに対応する出力輝度データを参照(Look up)する対応表。入力データをクリエイティブなルックに変換するのに使われる。
――時間が短縮できるというのは、具体的にどういうことですか?
ポストプロダクション時のノイズ処理にかける時間が少なくて済んだ、ということに加え、今回の作品作りにおいて、イメージにぴったり合うLUT を見つけられた、というのが大きいですね。それが見事にはまり、本来LUTをあてたあとでも自分好みのトーンになるように時間をかけてグレーディングを行うのが定石ですが、それをせずに済んだというのが時間短縮の点で大きかったです。またLogは各社からオリジナルのものが開発されていますが、S-Logのガンマカーブが、私のイメージするシネマルックに相性よく設計されている、といえるのかもしれません。それが見事にハマったのでグレーディングはしなくて済むんです。 α7R IIIは画質もすごくいいんです。色深度がハイエンド機の10bitではなく、8bitである点などは出来上がりの画質を見ても気になりませんでした。Gマスターのクオリティも、今回の作品作りにおいてはぼけ描写などシネマレンズの一部を上回っているように感じますし、総合的に考えたらα7R IIIの方が優位なのではないかと思います。これは僕が断言しますが、出来上がった画はハイエンドカメラと変わりません! スペックとしては、RAWかLogか、10bitか8bitかなどの違いはありますが、出来上がりの画はそのスペックほどの違いはないように思います。もちろん、レンズオペレーションの問題は多少ありますけど、価格とのバランスを考えたら……って話ですよ。
――作品を作るにあたり、江夏さんがこだわっている部分はありますか?
今、3つのトレンドがあるんですが、その部分には気を遣っていますね。 一番大事なのは「ハイライトのロールオフ」。つまり、ハイライト部分のガンマカーブを寝かせて、ハイライト部分を飛ばさず、ローコントラストの画作りとすることをいいます。 もうひとつは「スキントーン」。肌の赤みがあると汚く見えるので黄色側に寄せる。これがメインストリームです。 最後は「暗部のコントラスト」。僕が気に入っているLUTは暗部でガンマカーブにS字がかかっていて、ポンと立ち上がるのではなく、暗部でもグッと寝かせてから伸ばしてくれます。 この3つがシネマルックでカッコよく見せるためのパターンなんです。シネマの場合はどれだけ見ている人に強く印象を残せるかということが大切。そのために、この3つの要素を駆使して現実ではありえないような映像を作り上げていくわけです。
――シネマのトレンドは今回の映像作品にも生かされていると思うのですが、どの部分で活かされているのでしょうか?
本記事の江夏氏の作品はこちら
https://youtu.be/t0pmvFzVw6g
まず、冒頭のモデルのスキントーンを見てください。今回はα7R IIIで撮影した映像のスキントーンを見せたかったので、肌を出す白のチューブトップを着てもらいました。ふつうは肩やおでこあたりの白が飛んでしまうのですが、飛んでいないんですよね。自然光が入ってきても、どこも白が飛んでいない。さらに暗部も階調がしっかり残っているから、全部がしっかり見えるんですよ。
映像を見てもわかる通り、ジンバルやクレーンも使って撮影しましたが、α7R IIIはコンパクトなので乗せるのも簡単。これをステディカムでやろうとしたら本当に大変です。
レコードや鏡台のシーンも単焦点レンズを使えばぼけ味もきれいに撮れる。正直、こういったシーンは誰でも一発で撮れます。
最後の滝のシーンは、FE 85mm F1.4 GM とPlanar T* FE 50mm F1.4 ZAのボディ内手ブレ補正が活躍しました。手ブレ補正がない85mmの単焦点レンズでは、三脚かジンバルに乗せないと撮影できませんが、これは手持ちです。カメラマンがびしょびしょになりながら川の中に入っていって撮影したんです。それでも手ブレをしっかり抑えているから本当にすごい! とにかくスキントーン、とても素晴らしいんです! 赤みのとれたスキントーンで、すごく印象的な作品に仕上がったと思います。
――やはりハイエンドカメラでの撮影と比べると、スタッフの人数も違うものですか?
この時の撮影スタッフはたったの3人ですよ。ヘアメイク、スタイリスト、アシスタントを入れても6人ですから、信じられないほど少人数で撮影ができます。 さらに編集は1日ですよ。粗編集は撮ったその日の夜に終わりました。1回、目を休ませて翌日も映像を確認したんですけど、出来がいいのでほとんど直さずに済みました。本当にびっくりするくらい短期間で完成します。これが、ミラーレスのワークフローにピッタリなんですよね。ワンマンで撮って、ワンマンで編集して、ワンマンで出す。シネマルックに仕上げたい時には、本当にベストなカメラだと思います。
――今後、αの映像に期待していることがあれば教えてください。
僕は、ワンストップでLUTを当てたような映像を撮れるようにしてほしいなと思います。撮影前からシネマのトレンドになっている「ハイライトのロールオフ」「スキントーン」「暗部のコントラスト」をカメラ上で調整できるような機能を搭載していることが、今後のミラーレスのあるべき姿なんじゃないかと。 Logの使い方を教えるのではなく、最初から近道ができるワークフローにしないといけないと思うんですよね。おそらくα7R IIIを買う人の90%以上はスチルユーザーで、4K動画を楽しんでいる人はほんの数%しかいないのではないでしょうか。 α7R IIIで4K動画を撮ることをもっと広めてほしいです。簡単にカッコいい動画を撮れるようになれば、もっと動画を撮る人が増えると思います。そのためには動画の機能を充実させて、多くの人が動画撮影に興味を持つようなカメラが必要ですね。ミラーレスの新たな扉を開くのは、もはやαの役目。今後は動画をたくさん撮ってもらえるような魅力あふれるカメラを期待しています!
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