「SPECTRA ―越境の民―」Vol.2
ボンダとその周辺の民族/インド オディシャ州
写真家 佐藤健寿 氏×α7R III
これまで世界各地を巡り、美しくも不思議な世界を写真に収めてきた佐藤健寿さん。トラベルカルチャー誌『TRANSIT』では、現代に残る希有な民族を取材する「SPECTRA ―越境の民―」を連載している。今回、α7R IIIを手に佐藤さんが向かった先は、インド中東部のオディシャ州。4,200万人ほどの人口のうち約23%を62の少数民族が占める地域だ。インドでも少数民族の多いこの地で取材するにあたり、α7R IIIはどう力になったのか、旅の裏話とともに伺った。
佐藤 健寿/写真家
武蔵野美術大学卒。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号〜美しき世界の不思議〜』(講談社)など。TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。近著は長崎市後援のもと端島を撮影した『THE ISLAND 軍艦島』(朝日新聞出版)。
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ーー連載2回目の民族の取材地域として、オディシャ州に入りました。ボンダ族とその周辺の民族を取材されましたが、なぜ彼らを選んだのでしょうか。
インドのあまり知られていない民族を探していてボンダ族を知りました。まず見た目が個性的であることと、文化的にもとてもユニークだと思ったからです。
ーーボンダ族について、事前に多くの情報を入手できていたのですか?
連載1回目のブロクパ同様、事前情報はかなり少なかったですね。ネットなどで調べてもほとんど情報がありませんでした。おそらくインド国内でも同地以外ではあまり知られていないんじゃないかなと思います。
ーー実際に交流してみて文化的な面に気づいたということでしょうか。
そうですね。インドは国民のほとんどが、お酒を飲むことが好ましくないとされるヒンドゥー教を信仰していますが、ボンダの人びとはお酒も飲みますし、顔つきもどこかエチオピアに暮らす人びとにも似ている。生活文化も衣装も、独自の世界観をもっています。
ーー1枚目の写真は逆光での表現が幻想的で美しいですね。
インドは朝と夕のもやが美しいんです。大きな太陽がもやを照らし出すので、とても幻想的な景色を見ることができます。α7R IIIはダイナミックレンジが広く、このような逆光時でもシャドーが潰れず白飛びもしにくいので、ほとんど設定を変更せずに、さっと構えたまま撮影することができました。こうした信頼性の高さが、α7R IIIで撮影するときに抱く安心感につながっていると思います。
ーー逆光などの眩しいシーンはEVFにとって苦手な印象があります。α7R IIIのEVFの印象をお聞かせください。
EVFはいまどんどん進化していて、光学ファインダーでは難しいようなシチュエーションでも、α7R IIIのEVFならほとんど問題はないです。更に、暗い場面などではEVFだから思い通りに写せるといったこともありますね。
ーー力強いポートレートですが、この女性もボンダ族ですか?
彼女は違う民族ですね。特徴的な首輪はひとつ2kgあって、結婚以来数十年、眠るときもずっとつけているそうです。こういうアクセサリーをつけているのは、彼女を含め今はもう4人ほどだそうです。このあたりの民族はみんなアクセサリーの微妙な違いで民族のアイデンティティーを表現しているのですが、正直なところ、こちらからするとほとんど違いがわからない。でも現地のガイドはこの人はあの民族、あの人はあの民族、と簡単に言い当てていくのが面白かったですね。
ーー絶妙な瞬間と表情を捉えた魅力的な一枚ですね。
今回はいろいろな場所でそこに暮らす人びとのポートレートを撮影したのですが、当然、彼らは撮影されることに慣れていないので、どんどん動いてしまいます。だから勝負は一瞬です。そんな撮影状況では、α7R IIIの瞳AFがかなり有効に働いてくれました。この写真も瞳を認識するには結構難しい角度だと思いますが、すぐに認識してくれましたね。
ーー前回はインド北西部でブロクパの人びとを、今回はインド中東部でボンダ族といくつかの民族を訪ねています。インドには少数民族が多く存在するのですか?
あまり知られていませんが、インドは多民族国家で、アーリア、ドラヴィダなど主要民族の他に約660の少数民族が住むと言われています。こうした民族はインド憲法第342条に基づき、大統領令で保護すべき民族(指定部族)として指定されています。今回取材したボンダ族は、指定部族のなかでも人口増加率が少なく、文化的アイデンティティーや伝統的生業の基盤が脆弱で、特に保護していく必要がある民族のうちのひとつにも指定されています。こうした民族には教育や政治的権利の優遇を含む少数民族優遇措置がとられているようです。
ーー少数民族を維持していくためにそのような措置まであるのですね。ブロクパとボンダの暮らす場所は距離にして約1,800km、北海道の稚内から九州の鹿児島市ほど離れた地域で生活しています。連続して取材をされましたが、違いを感じましたか?
同じインドという国に暮らしている人びとですが、まったく違う独自の文化を持っています。写真を見比べてみていただければ一目瞭然なように、見た目はもちろんのこと、宗教的にも生活文化的にもまるで違います。両者ともヒンドゥー文化の影響を受けていますが、その文化には日本人からすると想像のつかない振れ幅がありました。
ーーボンダ族はボンダヒルと呼ばれる丘陵地帯に住み、外部との接触を余り持たず、生活しているそうですね。彼らの暮らしぶりで、そういった影響を感じる部分はありましたか?
外界というか、外国人とはあまり接していませんが、市場で定期的に他部族と交流はしているので、我々を見ても別に驚くといったこともなかったですね。彼らにしてみれば、市場に来ているちょっと変わった連中くらいの印象だったのかもしれません。
ーーこの写真からは、佐藤さんがおっしゃるようにアフリカで暮らす少数民族と同じような雰囲気を感じます。掲載している作品は、女性を撮影したものが多いのですが、何か理由があるのでしょうか。
連載テーマが土着的な民族の姿なので、結果的に女性の撮影が多くなりました。というのは、主に取材したのは市場のある村なのですが、そこまで降りてくるのは女性が多いからです。また、男性は基本的に現代的な普通の服を着ていて、民族衣装や独自の装飾品を身につけいる人は女性が多いという事情もあります。
ーー実直そうな女性の目線とポーズ、背景に広がる村の様子など、決定的な瞬間が集約された写真で非常に印象的です。
旅の最中ってこういう「あっ」という瞬間によく出会いますし、それが旅の撮影の面白さでもあるのですが、こんなときにパッとピントを合わせることはなかなか難しい。これは開放F値1.4のレンズを使って、開放付近で撮っています。こういった場面で、瞬時に構えて撮影しても薄いピント域にきっちりと合うAFに助けられました。α7R IIIの基本性能の高さは、旅のスナップ撮影にも重宝しました。前にもソニーさんのインタビューでお話しましたが、α7R IIIは高画質で軽量、高いAF性能に加え、バッテリーの持ちが良く、防塵防滴も対処されていて、撮影時の環境を気にせず使えるようになりました。旅のカメラに求められる要素がすべて備わっているといってもよいくらいです。ぜひ多くの方に、α7R IIIを試してみて欲しいですね。
2018年6月19日(火)発売のTRANSIT 40号ポルトガル特集の誌面では、佐藤さんがα7R IIIで撮影した写真が8ページにわたって掲載されています。ボンダの人びとについての詳しい解説も合わせて掲載されていますので、ぜひご覧ください。 http://www.transit.ne.jp/
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