光の魔術師・イルコ氏が伝授する
フラッシュ活用テクニック〜HVL-F60RMが描き出す光と影〜
フォトグラファー イルコ・アレクサンダロフ 氏
フラッシュの光を自在にコントロールし、芸術的な作品を生み出していることから“光の魔術師”と称されるイルコ・アレクサンダロフ氏。そのテクニックを駆使し、被写体に新たな命を吹き込むような作品は、いったいどのように撮られているのか。今回は大光量フラッシュHVL-F60RMとα7R IIIを使って撮影した作品を見ながら、機材の魅力とともにイルコ氏独自のフラッシュ術を教えてもらった。
イルコ・アレクサンダロフ(Ilko Allexandroff)/フォトグラファー
2008年に政府特待留学生としてブルガリアから来日。神戸大学を卒業後、関西大学のMBAを取得。芸術やカメラとは無縁だったものの在学中にカメラに興味を持ち、暗いところを明るくするためではなく、魅力的な作品をつくり上げるためにフラッシュを活用。神戸を拠点に芸術的なポートレートを撮影している。
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αに乗り換えて無駄な動きも瞬間を逃すこともなくなった
――イルコさんはα7R IIIからソニーのカメラを使い始めたそうですが、他社からソニーに乗り換えたきっかけを教えてください。 4000万画素超えの解像度やバッテリー性能の向上など、α7R IIIになって進化したスペックがとても気になっていました。そんな時、海外カメラマンの知り合いがソニーのカメラですごい写真を撮っていて、ソニーのカメラを絶賛していたんです。それで自分も試してみたいという思いが強くなり、ソニーに乗り換えることにしました。 デジタル一眼で使っていたレンズもアダプターを介せば使うことができましたから、それも乗り換えを決断した大きな理由です。そのレンズ群は今でもα7R IIIにつけて使っていますが、まったくストレスなく使えます。 α7R IIIはEVFもすごくきれいで、ここで撮影した画像を素早くきれいに確認できるのですごく便利です。太陽光の下でも確認がとても楽。αにしてから無駄な動きがなくなり、絶好の瞬間を逃すこともなくなりました。もちろん35mmフルサイズセンサーを搭載しているのに軽くて小さいのも最高で、ボディ内手ブレ補正もしっかりしているから、安心してどんどん撮れるのも大きな魅力ですね。
2灯のフラッシュが生み出す芸術的な雨のポートレート
――イルコさんといえば、雨を光の粒のように捉えた芸術的なポートレートが代表作のひとつですが、この作品はどのような経緯で生まれたのですか?
フラッシュを使った撮影に興味を持ち始めてから、その手法をいろいろと模索し始めました。僕は科学的なことを考えるのが好きなので、「雨粒を瞬間的に照らしたらどうなるかな」と思ったことが雨の中で撮影したきっかけですね。 はじめはスプレーを使って、霧状の水滴がどう写るか実験しました。フラッシュで照らすと水滴が光って写っていて、これはおもしろいと思って。それで雨が降った日に屋外でフラッシュを使って撮ってみたんです。僕には師匠がいないので、完全に独学。だから自分で実験して、失敗を繰り返しながら経験を積んでいくことで、自分にしか撮れない作品を見つけ出していきました
――HVL-F60RMを使用した雨の作品ですが、どのようなライティングで撮影しましたか?
この作品は、2灯のフラッシュを使っています。ひとつは被写体から6〜7m離れた真後ろに立てて、光量は最大に。フラッシュの光が被写体で隠れるように、逆光状態でカメラをセットします。このバックライトが雨を捉えて光の粒を表現しています。 バックライトを10m以上離れたところにセットしてしまうと、ピントが合っていないところにフラッシュが当たってしまいます。その結果、水滴がぼけて写ってしまうのでフラッシュの位置はとても大切です。 もう1灯は被写体の前、斜め45度くらいの位置にセットし、被写体の目線より上から光を当てています。これは被写体自体をきれいに見せるための光で、ソフトボックスを使って光を拡散させ、柔らかくしています。 背景が少し青みがかって見えますが、フィルターなどは使っていません。夕暮れ前の17時30分くらいに撮っていますが、この時間帯は自然の光も冷たい感じに写ります。 ちなみに、シチュエーションは違いますが、バックライトがある場合とない場合ではこんなに写りが違います。
雨による光の粒を写した作品は、フラッシュがないと撮れないですね。
他人には撮れない作品を目指してフラッシュを使い始める
――そもそもフラッシュを使った撮影に興味を持ち始めたきっかけは? カメラを始めたのは8年くらい前で、最初は誰もが撮るようなストリートスナップや風景、猫などを撮っていました。でも、同じカメラ、同じレンズを持っている人が同じ被写体を狙ったら、同じような写真しか撮れないことに気づき、「それでは、おもしろくない」と思って。
そんな時、たまたまインターネットでおもしろい作品を見つけました。どうやって撮っているのか気になって調べてみたところ、フラッシュを活用しているということがわかって。フラッシュをホットシューから外して、違う角度から光を当てたらおもしろい作品が撮れることを発見しました。いわゆるオフカメラライティングですね。 当時、アメリカではフラッシュを使用したロケ撮影は当たり前でしたが、日本ではあまりメジャーではなくて。だから、他人と違う撮影ができるチャンスはフラッシュにあると思いました。それ以来、フラッシュで印象的に見せる作品を撮り続けています。
――最初はプロを目指していなかったと聞きましたが、結果的にプロになったのはなぜですか?
大学を卒業する前に、大きな企業から内定をもらっていました。でも写真は続けたかったので、その会社に就職するか悩んでいました。就職したら忙しくて写真を撮る時間もなくなると思っていたので。でも、卒業と同時にプロになるのはまあまあ恐いですよね。貯金も2、3万円しかなかったですし(笑)。 いろいろ考えた結果、写真への思いが勝って、内定を断ってカメラの道に進みました。自分でもかなり思い切った決断だったと思います。 その時にカメラ以外の仕事は一切しないと決めました。作品を撮る時間をつくるためにアルバイトもしませんでした。僕は人見知りなので営業もしませんでしたし、モデルに撮らせてほしいとお願いしたこともありません。とにかくいい作品をたくさん撮って、それを見た人に「撮ってほしい」と依頼してもらうことを目指していました。 あるカメライベントでは、有名なカメラマンにボコボコに言われたこともあります。「プロでやっていきたいならそういう撮り方はやめたほうがいい」「顔に影をつけるような撮り方はあり得ない」と。それでも僕は自分が楽しいと思う作品を撮りたかったので、自分のスタイルを貫いて撮影を続けました。 当時、僕のスタイルの写真はそんなに求められてはいなかったと思います。でも2年後には、仕事のオファーが多くなってきました。その後もだんだん仕事が増えてきて、今も仕事として写真を続けることができています。
被写体だけでなく背景にも光を当てて表現の幅を広げる
――フラッシュを使った作品の魅力はどんなところにあると思いますか? どんなシーンでも自分の思い通りに光をつくり出せるところですね。複数のフラッシュを使った多灯ライティングでは、被写体、背景、前景、それぞれを別のものとして表現でき、立体的に見せることができます。
例えば上の作品は、3灯のフラッシュを使って撮影しています。背景の葉の部分に光を当てるために被写体の後ろに1灯、さらに被写体に向かって右側に顔を明るく写すためのライトを1灯、左側にエッジを立たせるためのライトを1灯、というセッティングです。
このように背景の色をしっかり見せると、被写体と背景を分けて表現できるんですよ。この時は背景を照らすフラッシュにカラーフィルターを入れて、色味を変えて撮ったりもしました。被写体と分けることで、いろんな表現に気軽にチャレンジでき、同じ被写体でも雰囲気の違った作品を撮ることができます。
さらに、フラッシュの置き方を変えるだけでも雰囲気はガラリと変わります。被写体の表情をしっかり見せたり、エッジを効かせたり、目的によって設置場所や光量を変えたりして撮っているわけです。
LEDライトを組み合わせて、柔らかい光をアクセントに
――レース越しに撮った女性の作品も印象的ですね。
これは女性に向かってフラッシュを1灯だけ当てて撮っています。アンブレラを使って光を回していますが、LEDライトも組み合わせて使っているんですよ。
フラッシュとLEDは一緒に使うとけっこうおもしろい。フラッシュがメインですが、アクセントとして少し光を柔らかくするためにLEDを使っています。 実は、最初はレースを背景に使おうと思っていました。そうすれば柔らかくておもしろい写真になりますし。でも途中から、被写体を全部見せるのではなく、レースを通して見るとまたいろいろ考えさせられるな、と思い始めて。結果的にレース越しでも光をきれいに入れることができました。イメージに囚われず、柔軟に考えて「こんな使い方もあるかもしれない」と発見することは、すごく大切なことですね。 フラッシュ初心者の場合、フラッシュはカメラの上につけるもの、というイメージがあるかもしれません。でも僕は、カメラの上につけて使うものではないと考えています。カメラから被写体に向けて直接光を当ててしまうと、全部を見せてしまいますから。それではおもしろくないので、できればカメラから離して使いたい。もちろん、たまに上につけてバウンスすることもありますが、バウンスもオフカメラでのライティングが多いですね。
ワイヤレスで設定も簡単。発光方向を変えられるクイックシフトバウンスも便利
――今回の作品は、すべてフラッシュ<HVL-F60RM>を使って撮影してもらいましたが、実際に使用した感想を聞かせてください。 ワイヤレスは設定が面倒なイメージがありますが、設定も簡単にできましたし、通信もかなり安定していて、毎回しっかり光ってくれました。これって意外と大事なこと。ワイヤレスの場合、通信不良で時々光ってくれないものもありますから。
今回はホットシューにコマンダー〈FA-WRC1M〉をつけてフラッシュをワイヤレス制御しましたが、操作がしやすく、どんな環境下でも数字がきれいに見えるところが良かったですね。僕はフラッシュをマニュアルで使うので、手元で複数のフラッシュの光量を自在に変えられるのはとても便利です。 HVL-F60RMは、クイックシフトバウンスで縦横の切り替えが簡単にできるのもいいですね。縦にするか横にするかで光の具合がまったく違いますから。ミニスタンドに付けて縦位置にしてもバランスを崩して倒れることがないように設計されているので、オフライティングで使っても安心です。 意外とうれしかったのはLEDライトの光量がけっこう強いこと。夜、動画を撮影するときにも使えたのでビックリ! きっといろんな撮影で使えるんじゃないかと思っています。
フラッシュは人物だけでなく興味がある被写体すべてで活用できる
――最後に、フラッシュ撮影に挑戦したいと思っているカメラファンに、ひとことアドバイスをお願いします。
フラッシュ撮影は難しいと思っている人が多いかもしれませんが、難しく考えずにまずは使ってみることが大切です。フラッシュをカメラから離すだけで、いろいろなおもしろい作品を撮ることができますから。フラッシュのほかに電波式ワイヤレスコマンダーや電波式ワイヤレスレシーバー、スタンド、アンブレラがあれば、オフカメラライティングの醍醐味を十分に味わえるので、ぜひチャレンジしてみてください。 最初は、被写体から見て45度くらいの位置にフラッシュをセットして、被写体の目よりも上から光を当てるのがおすすめ。撮っていくうちに、そのフラッシュを直に被写体に当てるのがいいのか、アンブレラを使った方がいいのか、どういう設定がいいのか、いろいろわかってくるものです。何を買えばいいか迷ったら、発光量が多く、どんな被写体でもカバーできる最新モデルHVL-F60RMを選ぶのがベストですね。 僕の作品を見てもらってわかる通り、フラッシュは暗い時にだけ使うものではありません。日中の人物、花や物、風景など、あらゆる被写体を印象的に見せてくれる魔法のアイテムです。自然光とはまったく違う世界を見せてくれるので、まずは興味のある被写体にフラッシュを当てて撮影してみてください。きっと、あなたが意図的に発したフラッシュの光が、被写体をより際立たせてくれるはずです。 最後に、今回の撮影でイルコ氏が撮影した作品をまとめてご覧ください。
光の魔術師イルコのスペシャルトークショー
【αプラザ(大阪)】
◇開催日時
2018年7月14日(土)
11:30〜12:30 「ミラーレス一眼で撮る〜ポートレート撮影(日中編)〜」
14:00〜15:00 「私がα7R IIIを選んだ10個の理由〜ミラーレス一眼の世界〜」
16:00〜17:00 「ミラーレス一眼で撮る〜ポートレート撮影(夜編)〜」
※予約不要。各回開始時間までにご来店下さい。
◇開催場所
〒530-0001 大阪市北区梅田2-2-22 ハービスエント4F
ソニーストア 大阪 イベントスペース
https://www.sony.jp/store/retail/osaka/?tab=cat-aPlaza#event
【αプラザ(福岡天神)】
◇開催日時
2018年7月29日(日)
12:30〜13:30 「ミラーレス一眼で撮る〜ポートレート撮影(日中編)〜」
15:00〜16:00 「私がα7R IIIを選んだ10個の理由〜ミラーレス一眼の世界〜」
17:00〜18:00 「ミラーレス一眼で撮る〜ポートレート撮影(夜編)〜」
※予約不要。各回開始時間までにご来店下さい。
◇開催場所
〒810-0021 福岡市中央区今泉1-19-22
ソニーストア 福岡天神 1階特設ステージ
https://www.sony.jp/store/retail/fukuoka-tenjin/?tab=cat-aPlaza#event
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