天体写真家/沼澤茂美 1958年新潟県神林村(現村上市)出身、在住。東京デザインアカデミー建築士科及びパース専門課程卒業。建築設計事務所勤務を経て1980年に新潟郵便貯金会館プラネタリウムに入る。1984年独立して日本プラネタリウムラボラトリー(略称:JPL)を設立。天文・宇宙のイラストや天体写真の仕事を中心に、NHKの天文宇宙番組の天体撮影や撮影指導、取材活動を行ってきた。天体撮影に関する著書多数。
まず、このレンズを手にして感じたのがその大きさと軽さだ。フルサイズ一眼用の24mm F1.4の大口径広角レンズと言えば、大きな前玉を配したある程度の大きさを想像していた。だいたいはフィルター径77mmで重さは600g超、しかしソニーのFE 24mm F1.4 GMはフィルター径が2段階下の67mmで、重さは445gだ。「G Master」レンズの中では最小最軽量(※)であり、α7R IIIに取り付けたときのバランスはすこぶる良い。これがミラーレスならではのフランジバックの短さがもたらした恩恵なのかと感心してしまう。鏡筒部分に配置されたマニュアルで調整できる大きな絞りリングも使いやすく、フォーカスリングのフィーリングもメカニカルレンズを彷彿とさせる滑らかさと即応感がある。 ※2018年9月21日時点。ソニー調べ。
そして実際の撮影では、その小さなボディに秘められた今まで体験したことの無いパフォーマンスに感嘆してしまった。その最たるところは、開放での結像性能だろう。これまで24mmほどの広角レンズで開放F値が1.4の大口径レンズを使うと、星を撮影したときに各周辺部のサジタルコマフレアが発生することは当然の現象と思われていた。これだけ設計製作技術が発達した現在においても大口径広角レンズのコマフレアはかなり派手に発生するものだ。しかしFE 24mm F1.4 GMでは、それがほぼ皆無と言って良いほどに良好に補正されている。これは驚くべきことだ。もちろん、周辺のコマ収差の有無が作品の出来を大きく左右するわけでは無いが、周辺まで星が点像として表現できる恩恵は小さくはない。目で見て点に見える星が、そのまま点に写ってくれるのだから、星空を見て感じた作者の感情はよりリアルに再現できるようになったと言えるだろう。開放で問題なく使用できる安心感、F1.4の大口径がもたらす豊富な光量は、露出時間を短縮し、星の動きを気にしないで見たままの星空をフリーズできる。また、より低感度な設定を可能とし、ノイズや粒状感の少ない高画質な作品に仕上げることができる。
もう一つの特徴は、天体ではあまり気にしてこなかったぼけの美しさという点だ。このレンズのぼけはひじょうに美しい。通常星のような点光源をアウトフォーカスで撮影すると、ぼけた星像には必ずと言って良いほどに同心円状の濃淡が見られる。これが輪線ぼけ、あるいはタマネギぼけとよばれる現象だ。おもにレンズ面上の研磨のムラ(表面が同心円状に凹凸が存在する)が原因で発生するものだが、このレンズではそれがない。たとえば明るい星や月などを風景とともに配置して、近景にフォーカスを合わせて撮影したときに、背景の光点がきれいに表現できる。このパフォーマンスは意外な新境地をもたらしてくれるかも知れない。星空風景の撮影では、一般に全面にピントの合ったパンフォーカスな画像を期待するが、F1.4の浅い被写界深度と美しいぼけ味を利用した作品作りに新しい可能性を期待せずにはいられない。
とにかくFE 24mm F1.4 GMは、その使い心地も画質に関してもかつて経験したことの無い一つ上のステージのレンズであることを強く感じるレンズだ。例えばそこに雲があっても一瞬を捉えて、星空の一つの表情にしてしまう。自然(私達の社会の営みを含めて)は多種多様で常に変化し、ゆらぎや雑味に満ちているので、そういう事象を受け入れて撮影するのは写真の本道と言えるかも知れない。 そういう撮影で、見事に作者の感情を表現してくれるこのレンズによって、新しい地平が広がって行くことを私は確信している。
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