世界各地を巡り、美しくも不思議な世界を写真に収めてきた佐藤健寿さん。トラベルカルチャー誌『TRANSIT』では、現代に残る希有な民族を取材する「SPECTRA ―越境の民―」を連載している。第3回目となる今回、α7R IIIを手に佐藤さんが向かった先は、ミャンマーのチン州。2012年まで外国人の立ち入りが禁止されていたこのエリアに住むという、顔面刺青の民族に取材するにあたり、α7R IIIはどう力になったのか。旅の裏話とともに語ってもらった。
佐藤 健寿/写真家
武蔵野美術大学卒。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・執筆。写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)は異例のベストセラーに。著書に『世界の廃墟』(飛鳥新社)、『SATELLITE』(朝日新聞出版社)、『TRANSIT 佐藤健寿特別編集号〜美しき世界の不思議〜』(講談社)など。TBS系「クレイジージャーニー」、NHK「ニッポンのジレンマ」ほかテレビ・ラジオ・雑誌への出演歴多数。近著は長崎市後援のもと端島を撮影した『THE ISLAND 軍艦島』(朝日新聞出版)。
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今回の旅の目的は、顔面刺青を施すチン族に会いにいくことでした。顔に刺青を施す民族は世界でも決して少なくありませんが、ミャンマーのチン族のものは特に図柄のパターンが多くて複雑だと聞いていました。しかしネットで調べても、どのくらいいるのか、現在も残っているのかわからない。それで実際に行ってみるしかないと思ったんです。 顔面刺青は1960年代に法律で禁止されているため、想像以上に数は少なかったです。村で刺青のある人を知っているかと聞くと、数十キロとか、かなり離れた村のどこどこにいるなど具体的に教えてくれることもありました。今ではそのくらい珍しいからこそ、このように知られているともいえると思います。いざ辿り着くと、彼女たちはとても自然に村に溶け込んで暮らしていて、それもまた不思議な光景でした。 刺青の図柄の意味を覚えている人も、今ではほとんどいないようです。刺青を入れている当事者たちも、子どもの頃に習慣として半ば強制的に入れられているので意味など考えるまでもなかった、という印象がありました。実際刺青を入れた人たちのほとんどは、その習慣にどんな意味や起源があるのか尋ねても、みんな「わからない」と言って笑っていましたね。
やはり年配の人が多いので、ファインダーを通して対面すると、顔のシワ一つ一つに刻まれているような凄みが見えるというか、刺青が消えかかっていることも含めて、歴史を感じさせてゾクゾクしました。シャイな人もいましたが、みんな穏やかで優しく、撮影はとてもスムーズでした。 村は標高1,500〜1,800mの山間部に位置し、とにかく移動、移動の旅。まともなホテルもほとんどない場所でした。夜になると発電機が消えて、充電できない夜もあったりしたので、バッテリーの持ちにはとても助けられましたね。また10日ほどの旅でしたが、デュアルスロットの1枚目はRAWでいっぱいになるので毎日交換しつつ、2枚目はバックアップでJPEGにあてて旅の間中交換せずに保存していました。長期の旅の時にはこういう使い方ができるのも便利ですね。その上山道を登ったり降りたり、ハードな行程だったので、小型軽量であることにかなり助けられました。
この女性は93歳、マカンのダー・ヤー・シェンさんです。耳に開けた巨大なピアスが印象的でした。かつてはチン族の間でもよく使われていた装飾だそうですが、今回の旅で見たのは彼女だけでした。とても穏やかな方で、まるで長老のような存在感でしたね。 電気のない暗い民家の中、ドアから差し込む自然光で、三脚を立てて撮影しました。刺青、手や顔のシワ、衣装含めて、その全身が民族の歴史を刻んでいるような姿だったので、その存在感を写したかったんです。結果としてα7R IIIは経験上私が持っていた「一般的なフルサイズ機」を遥かに凌ぐ高い解像力で、髪の毛一本一本から服の糸までワンランク上の繊細な描写を実現していました。
撮影中もずっと朗らかに笑っていたナラのイン・サー・タンさん。水タバコを吸う時にちょっとしかめっ面をするんですが、それも少しふざけているみたいで、とてもチャーミングな方でした。本撮影の合間、家の玄関に腰掛けて近所の人とお喋りしていたところです。いわばオフショットみたいな写真ですが、とても良い雰囲気だったのでそのまま使いました。 被写体との距離が1mくらいの状況で、自然光の柔らかさを生かしつつ、背景はなだらかにぼかして、かつ被写体の奥行きはすべてシャープに写したいと思いました。一つ絞ってF2.0で撮りましたが、ほぼ想定通りの画になっています。2.0なので普通は甘くなるところですが、服の質感や顔のシワなど、繊細かつシャープに切り取られていると思います。また、写真の左と右でかなり明暗差がありますが、どちらも潰れることなくきっちりと収めてくれています。
お寺の中で、参拝にきていた祖父と孫の二人です。歩いているところを声かけて、一瞬立ち止まってもらって撮影しました。後ろに次の参拝者が待っていたので急いで撮りましたが、瞳AFのおかげでバッチリ目にピントがあっています。開放で撮っており、シャープさはもちろん、少女と背景のように明暗差が大きいところでは通常フリンジが発生しやすいものですが、ほぼ見当たらないことにあとで驚きました。被写体が影になりがちな状況で、撮影時は2段ほどプラスの露出補正をかけています。被写体から背景まできっちりと拾う、ダイナミックレンジの広さも特筆に値します。
旅の中で人に声をかけて撮影することが多いので、いちいち三脚を立てて構えて、とやっている時間がない場合が多々あります。そういう時に手持ちでさっと構えて撮れるのは、強力な光学式5軸手ブレ補正と瞳AFの組み合わせならではですね。特に瞳AFは精度も抜群ですが、たとえ相手が動いていても瞳を追い続けてくれるので大きなアドバンテージです。またお寺の中などではシャッター音も目立つので、サイレント撮影も重宝しました。 旅全般を通じて、やはり1日は余裕でもつバッテリーのもちと、不測の事態に備えてデュアルスロットがあることはとても心強かったです。多くの旅人に、ぜひα7R IIIを試してみてほしいと思います。
2018年9月14日(金)発売のTRANSIT 41号ニューヨーク特集の誌面では、佐藤さんがα7R IIIで撮影した写真が8ページにわたって掲載されています。チン族の人びとについての詳しい解説も合わせて掲載されていますので、ぜひご覧ください。 http://www.transit.ne.jp/
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