レンズが真価を発揮する
芸術的な花の世界
〜 FE 135mm F1.8 GM、FE 100mm F2.8 STF GM OSSの卓越した表現力〜
写真家 並木 隆氏
花や植物の美しさを追求し、独自の感性で自然の美を表現し続けている写真家の並木隆氏。誰もが知る花々から奥に秘めた美しさを写し取り、イメージ通りに表現するために選んだカメラはα7R III。さらに描写性能に優れたレンズを用いることで、ぼけ味を活かした芸術性の高い作品を完成させる。今回は「FE 135mm F1.8 GM」と「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」、2本の「G Master」レンズで撮影し、それぞれの性能や使い分けについてお聞きしました。
並木隆/写真家 1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。花や自然をモチーフに各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人 日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。
花撮影では雰囲気づくりも大切。
上達のきっかけにもなる135mmのG Master
――今回は「FE 135mm F1.8 GM」と「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」で撮影していますが、それぞれの特性、また、どのようなユーザーにおすすめしたいか聞かせてください。
「FE 135mm F1.8 GM」は花を撮りたい、ぼけ味を活かした作品が撮りたい、というすべての人におすすめです。とにかく簡単にきれいなぼけが得られるので、最高峰ブランドながらも花撮影の入門レンズにも最適。花を撮影するとき、多くのかたは画面いっぱいに花を写す傾向にありますが、周囲の風景も入れた作品としての「雰囲気づくり」も大切です。そのためには花を小さくして空間を入れる必要があります。一般的には「花=マクロ」というイメージがあると思いますが、マクロレンズは被写体に近づくことでぼけるので花を小さく撮ることができません。でもこのレンズは最短撮影距離が70cmですから、寄っても小さく写すことができる。結果、いつもと違ったイメージの写真が撮れるようになり、上達のきっかけになると思います。ぼけもコントロールもしやすいので、ビギナークラスのような人からハイアマクラスの人まで長く、飽きることなく使えるレンズです。 一方、「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」は、ずば抜けた解像感が特徴です。僕も商品の物撮りに使うくらい、周辺まで高い解像力を見せてくれます。さらにぼけ味も独特で、被写体の一つ一つが丸いぼけになり、それが重なるとなめらかに溶けていく。光の強さの微妙な違いでぼけ具合が簡単に変わるのでシーンや被写体を選ぶレンズではありますが、作品性を高めたい、突き詰めていきたい、という方におすすめしたい1本です。
感動するほど美しい「ぼけ」が
目には見えない花の魅力を際立たせる
――「FE 135mm F1.8 GM」で撮影した率直な感想を聞かせてください。 初めてこのレンズを装着して構えたとき、まずその軽さに驚きました。望遠側の明るい単焦点、しかも「G Master」レンズでこの軽さは大きなメリットです。さらに、ミラーレス専用設計ならではのAFの速さでまたビックリ。僕は、条件さえ合えば基本的にAFを使います。普通ならピント合わせは「スー」という感じですが、「シャッ」という感じ。そのくらい感覚の違いがありました。レンズに使用しているモーターはFE 400mm F2.8GM OSSと同じものですから、かなり贅沢(ぜいたく)な仕様ですよね。
画質は思った以上に解像力があって、ぼけも感動するほどきれいです。上の作品はナズナを真上から狙い、F1.8の開放で撮影しました。背丈が30cmくらいあったので、背景はどのくらいぼけるかな、と撮ってみたら思った以上にきれいにぼけてくれました。今までは、ここまで引いた状態で30cm離れた背景がこんなに大きくぼけることはなかったので、このレンズでしか撮れないでしょうね。 さらに、最短撮影距離が70cmと短いのも魅力です。このクラスのレンズは90cmぐらいが一般的なスペックですから70cmということは20cmの差があるわけです。この差はかなり大きい。上の作品も90cmだったら僕の身長では真上から撮れなかったと思います。 あと、逆光にも強い。普通、太陽を画面の端に入れると少なからずフレアが出るものですが、それがほとんどありません。やはり「G Master」レンズらしく、しっかり細かいところまでつくり込んでいるな、という印象です。ピントの山もわかりやすく、開放で寄れば大きくぼけるし、離れて絞ればぼけを小さくできる。簡単にきれいに撮れるので、数あるレンズラインアップの中でも僕の一番のお気に入りになりました。
ぼけがなめらかなのに驚きの高解像。
相対する要素を高いレベルで両立
――お話を聞いていると「FE 135mm F1.8 GM」には多くの魅力があるようですが、なかでも並木さんが「一番の強み」と感じた部分は? やはり解像感とぼけ、どちらも高いレベルで両立しているところですね。下の作品は節分草ですが、主役にした花は茎の産毛が見えるほど解像しているのに、背景はふんわりとぼけている。すぐ後ろにある花もきれいにぼけていて、ぼけのバランスも背景の色のバランスも絶妙に仕上がったと思います。
花を撮る時は、「かわいいな」「きれいだな」と思ったところを強調することが大切です。この節分草は群生していたので、花が開き切ったものや開きかけのものなど、いろいろな形のものがありました。僕はこの開き具合のものを横から見た姿に魅力を感じたので、そこに狙いを定めたわけです。花の撮影にセオリーはありません。花を目の前にしたら「どう撮ったらいいか」を考えるのではなく、どこに美しさやかわいさを感じたのかを考えて撮影に臨むといいと思います。 「FE 135mm F1.8 GM」はなんでも撮れるレンズです。ズームレンズに慣れてしまっているかたもいるかと思いますが、小さく軽く、写りがいいのが単焦点のいいところ。広く写したければレンズを遠くに向ければいいし、ぼかしたければ手前にピントを合わせればいい。実は花だけでなく、風景も人物も商品も撮れる、オールマイティーなレンズなのです。
作品性を高めるなら100mmSTF。
緻密なつくり込みで実力を発揮する
――ぼけ感が美しいレンズといえば「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」も忘れてはならない存在ですが、どのような撮影で力を発揮できるレンズでしょうか? 先ほどもお話したように、「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」は作品性を高めるレンズです。ピント位置からぼかす被写体までの距離が少し違うだけで印象も大きく変わりますから、緻密につくり込んでいくような撮影で飛び抜けた性能を発揮すると思います。
例えば上のような作品。これは前ぼけを生かしてサザンカを撮影したものです。手前ぼけの中に滲(にじ)みをつくりたい。できればカラフルな滲みにしたい。そのような完成型のイメージがあり、それに近いものが撮れる場所を、時間をかけて探しました。サザンカの花がたくさん咲いていて、その下に1つだけポツンと咲いている花がある。さらにその間の距離感も近すぎず離れすぎず、いい感じでぼける。そんな限られた場所を求めて北関東をひたすら探し回り、ようやく撮ることができました。 濃いピンクから光に反射した淡いピンクへのグラデーション、そして雄しべの黄色。この色のバランスと計算されたぼけがあってこそ成立します。もしこのレンズでなければ、ただ前ぼけがたくさん入っていて黄色が強調された、うるさい画になっていたと思います。手前に4つ、5つ花が咲いていて、2cmほどの隙間から下の花が見えている。そんな繊細な撮影でも、つくり込むことで思い通りに仕上げてくれるのが「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」なのです。
想定したイメージを凌駕し、
発想の転換にも対応する素晴らしいレンズ
――下の作品はとても幻想的ですが、どのような状況で撮ったのでしょうか?
パッと見は月に見えると思いますが、実はこれ、太陽なんです。最初は逆光で背景を暗くし、穂の輪郭を際立たせた作品にしようと思っていましたが、なんだか寂しい画になってしまって。それなら太陽を画面に入れてしまおうと思いチャレンジしてみました。「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」では太陽を直接入れて撮影したことがなかったので興味本位でやってみた結果、きれいに丸く写りました。これは露出をアンダーにしたら月に見えると思い、ホワイトバランスを白熱球にし、露出をマイナスに補正して仕上げました。 月夜に穂が浮かび上がっているように見えませんか? 先ほどのサザンカはイメージ通りに仕上げるための繊細なつくり込みでしたが、こちらは発想の転換でイメージとはまったく違うものをつくり上げる作業でした。このレンズにはイメージを凌駕(りょうが)し、状況に応じてさらにいい作品をつくり上げる力があります。輝く穂も高解像で表現されていて、レンズの実力を物語っていると思います。 画面の端に太陽を入れてもフレアやゴーストが出ないことにも驚きましたね。モヤッとすることなく、クリアに表現できたのもよかったです。
花のどこに惹かれたのかを考え、
イメージを膨らませて撮影を
――並木さんが花を撮影するときに大切にしていることは?
とにかく自分が「きれいだな」と思ったものを形にするだけです。被写体を見て「あっ」と思ったら、「あっ」と思ったのはなぜか、どの部分に惹(ひ)かれたのかを考えます。その部分を引き出せるようなレンズを選び、最終的なイメージをつくり上げるのが僕の手法です。
上のバラは花びらの広がりに美しさを感じたため、そこを強調した作品です。花の外側に注目して欲しかったので、あえて中心部は黒く潰しています。背景には木漏れ日を入れました。「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」 のフィルターは真ん中が明るく、周辺に向かってだんだん暗くなる性質があります。そのため、滲んだぼけというよりも、強い光源で光のグラデーションが出るように撮影しました。 クリエイティブスタイルをビビッドにして、色温度を上げて、露出補正をマイナスに振って。仕上げのイメージに合わせてつくり込んでいきますが、α7R IIIはEVFで仕上がりの状態を確認しながら変更できるのも便利です。僕はほとんどの作品でクリエイティブスタイルをビビッドにしていますが、ソニーのビビッドは彩度が上がってもくどくならず、自然な色合いに仕上がるので安心して使えます。
――どんな作品に仕上げるか、イメージすることが大切ということですね。 今はカメラもレンズも性能がいいので、イメージを膨らませれば、それに応えてくれる力があります。みなさんもイメージを膨らませて花と向き合い、あらゆる角度から花を眺めて隠れた魅力を引き出してあげてください。そうすれば必ずいい写真が撮れますよ。
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