Majestic TRAIN- 威風鐵道 -
鉄道写真家 中井精也 氏 × α9
Vol.12
ドラマチックな鉄道写真をコンセプトに、中井氏が撮る心に響く鉄道風景をデジタルカメラマガジンとのタイアップ企画として毎月コラム形式でお届けします![最終回]
みなさんこんにちは、鉄道写真家の中井精也です。
平成最後の撮影となった今回の舞台は、平成元年に開業し、一つの時代を走り抜いた「わたらせ渓谷鐡道」です。
群馬県と栃木県にまたがって走るこの鉄道の前身は、国鉄足尾線で、日本有数の銅山であった足尾銅山から採掘された銅を運ぶ目的で開業しました。銅山が廃坑になってからは、鉄道需要が減り廃線になりましたが、平成元年に第三セクターとして再出発してからは、観光路線として奮闘しています。
最初にご覧いただく写真です。
渡良瀬川にそって走る沿線風景は絶景も多く、僕は懐かしい集落のなかを走る里山の風景も大好きです。今はもう廃校になってしまった校舎と、その校庭に今も変わらず咲き続ける満開の桜。令和にも残したい鉄道風景です。
さて2枚目の写真になります。
撮影時は、沿線の桜はちょうど満開だったのですが、大間々(おおまま)〜上神梅(かみかんばい)にある桜並木で有名なポイントも、線路の両側に満開の桜が咲き誇っていました。
僕はその魅力を最大限に引き出したいと思い“FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS”で圧縮効果を生かし、満開の桜のボリューム感をさらに強調して撮影してみました。
走ってきたのは、可愛らしいルックスのトロッコわたらせ号。乗客の皆さんが、車窓越しの桜に感嘆の声を上げているのが聞こえてきました。
そのまま、日中の桜の絶景を撮影して終わろうかとも思ったのですが、今回の僕のテーマである「平成の終わりと令和の始まり」に、まだ何かが足りない・・・。
そこで、この桜の絶景のもとで、さらにこのテーマに相応しい1枚が撮れないだろうかと思案しました。
写真想像力をフルに稼働させて思いついたのが、夜の撮影。
桜がライトアップされている場所は、多くのカメラマンで賑わっていたのですが、僕は敢えてそうしたスポットは避けライトアップもなく周囲にわずかな街頭があるだけのポイントに向かいました。
行ってみると、当たり前かもしれませんが僕の他には誰もいません。(笑)
しかし自分の写真想像力を信じて、撮影に臨みました! まずはご覧ください。
如何でしょう?狙いは、列車のヘッドライトが照らす深淵なる夜の世界。この写真は、下り列車になります。ヘッドライトに照らされた桜並木が暗闇から浮かび上がり、幻想的なカットになりました。
感度はISO 10000!こんなに高感度であっても、メリハリと臨場感のある描写をしてくれるα9の実力に、あらためて驚かされました。
写真家が想像力を膨らませて、撮影にチャレンジしたとしても、それをカメラが実現させてくれなければ無意味です。写真家の想像力をしっかり受け止め、具現化してくれるカメラの存在は本当に大きいなぁと改めて感じました。
さて撮影はまだ終わりません!この写真は下り列車を撮ったものですが、僕がイメージしていたのは上り列車の方です。
しばらく待っていると、山々に反射して列車の音が遠くから聞こえてきました。列車が近づくにつれ、ヘッドライトが両側の桜を暗闇から浮かび上がらせます。夜の列車は安全確保のためにハイビームで走ることが多いので、周囲の明るさに合わせた露出で撮影すると、明暗差が大きすぎて写真が破綻してしまいます。
ですので、大きな左カーブを生かすことがポイントです。列車のライトを右手前の桜並木で隠せれば、列車の明るさによる破綻がなく、光輝くレールを主題にできると確信していました。
そして、桜並木から列車が顔を出して露出が破綻する一瞬前で、僕がイメージしていた世界が完成しました。
暗闇に浮かぶ桜並木の中で光輝くレールは、「令和」という新しい時代へと誘っているかのように感じました。
中井精也でした。
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