高解像で階調豊かに写す
「光と影」。
ポートレートの芸術性を高めるα7R III
〜 ラトビアの光と少女たち 〜
写真家 山元 彩香氏
アートフォトの分野で期待の写真家として注目を集める山元彩香氏が、α7R IIIを使った作品制作に挑んだ。彼女が描くアーティスティックなポートレートの世界で、α7R IIIの実力が際立ったシーンとは? 東欧を中心に、現地で出会った少女を撮り続けている山元氏に、ラトビアで撮影した作品を見ながら独自の撮影法やα7R IIIの魅力ついて解説してもらった。
山元 彩香/写真家
1983年神戸生まれ。2004年California College of
the Artsに留学。2006年京都精華大学芸術学部造形学科洋画コースを卒業。2018年に写真集『We are Made of Grass, Soil, and Trees』を発表し、タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて同作品の個展を開催した。
個性を削ぎ落とし、その奥に潜む
潜在的な可能性を引き出すのが私の手法
――山元さんといえば芸術的なポートレートが代名詞ですが、ポートレートを撮影するときのポリシーを教えてください。
人間の内側にあるさまざまな要素や個性をすべて取り払ったときに見える、本人すら気づいていない姿を捉えたい。そんな思いを胸に撮影に臨んでいます。無意識の下にある人間の姿を目にすると潜在的な力や可能性を感じられ、常に驚きの連続です。
その人に潜む力を最大限に引き出すために、単独で言葉すら通じない国を訪れ、モデルも撮影地も衣装もすべて自分が現地で選びます。ロシアや東欧諸国の田舎町まで行くので、現地の言葉しか話せない方も多くいます。私は現地の言葉が分からないので、撮影は言葉なしでのコミュニケーション。指で導いたり、モデルに直接触れたりしながら撮影しています。
撮影場所は廃墟や、古い空き家がほとんど。壁のシミなど、人間がいた痕跡、時間の蓄積が感じられる空間も私の作品には不可欠です。人間はいろいろな経験や時間を内包しているので、同じように歴史を感じる場所が、その姿を引き出す力になってくれると考えています。
――モデルを素の状態にして、内包しているものをさらけ出せるような環境に置くわけですね。
そうですね。余計なものをすべて削ぎ落とし、内包しているものを撮影の中で探していくという感じです。そのため、ストロボは使わず自然光のみ。もちろんスタイリストやヘアメイクもつけません。パッと見たときの印象からできるだけ意識が遠ざかるような状態をつくり、モデルの自意識が遠のいた瞬間を逃さずに撮影しています。
陰影の中でも鮮やかな発色。
とくに透明感のある青の色味がいい
――作品制作でα7R IIIを使った感想や印象を聞かせてください。
私はこれまで中判のフィルムカメラを中心に作品制作をしてきましたが、α7R IIIは小型軽量のフルサイズミラーレスということでとても興味を持っていました。使ってみたいという気持ちが高まったのは、解像度が高くて、色味がきれいだと多くの人に聞いていたから。そして今回、初めて作品制作で使うことにしました。
実際に使ってみたら期待以上で、仕上がりにとても満足しました。上の作品を見るとわかると思いますが、光が少ない暗い場所でも陰影の中の色彩が潰れることなく鮮やかに出ていて、とても美しいと思いました。
α7R IIIは基本的にどの色もきれいに出ますが、個人的には透明感のある青が気に入っています。私は背景に青を多用するので、青がきれいに描写されるαはとてもありがたいです。設定はほとんどデフォルトの状態ですし、撮影後もトーンカーブを少し調整する程度です。
それで上の写真のようにきれいな色が出るというのは本当に素晴らしいと思いました。背景の光のグラデーション、光で青みを帯びた壁と、より絵画的な作品に仕上がったと思います。
壁紙の細かな模様や光の柔らかさを
繊細に写し撮る高い解像感
――山元さんの作品では、壁や衣装のディテールを表現するために解像力も必要だと思いますが、そのあたりはいかがでしたか?
デジタルカメラを使う上で一番不安だったのは解像力です。東欧らしい壁紙の模様や衣装、薄い布やレースの質感など、ディテールの再現力で作品の印象は大きく左右しされます。ただ解像していればいいというわけではなくて、エッジが立ちすぎているような、かたい印象のものは好きじゃないんです。どちらかというとやわらかさを感じるような繊細ながらも高い解像感を望んでいました。α7R IIIはまさにそういった解像感をもっていて、とてもいい印象を受けました。
例えば上の作品。ここは使われていない部屋を借りて撮影したので、壁紙もベッドカバーも当時使われていたものをそのまま使わせてもらいました。どちらも細かな模様が描かれていますが、細い線や柄もくっきりと表現しています。
これはモデルをカーテンの中に入れて、逆光気味のいい光を捉えて撮影した作品です。カーテンをまとうことで光が柔らかくなり、繊細な雰囲気に仕上げることができました。カーテンの柔らかな素材感がリアルにわかるほどの高解像で、光の濃淡も印象的に描写しています。
私の場合、撮影前にしっかりとしたイメージがあるわけではなく、現場で「ピッ」とくる瞬間を探りながら撮っています。このときも、最初はカーテンの手前に座ってもらっていましたが、途中でカーテンの中に入ってもらいました。そうしたらすごくキレイで。あとはモデルの身体を動かしながら調整して、表情を待ってシャッターを押しました。現場での感性に瞬時にこたえてくれるα7R IIIはすごく頼もしいです。
光から影へのグラデーションも豊かに表現。
広いダイナミックレンジが撮影をアシスト
――コントラストが強い場所での撮影も多いと思いますが、階調についてはいかがでしたか?
自然光のみでの撮影は、コントラストを調整できない場面が多くあります。でも、強いコントラストによって光を印象的に見せたり、独特な陰影をつくり出したりできるので、とくに気にはしていません。ただ、こういうシーンでもしっかり表現できる、カメラの性能は必要になりますね。
上の作品は白い衣装を着ていることもあって、コントラストが強い1枚です。窓越しの光を受けていますが、白い衣装も飛ぶことなく粘っていてレースの質感までわかります。金色に輝くまつげの先まで、とてもきれいな描写です。影となっている部分も衣装の質感や髪のディテールが残っていて、ダイナミックレンジの広さは一目瞭然。光から影へのグラデーションも階調豊かに描いてくれました。
上の作品は少女のほぼ正面から光を当て、少しうつむきながら横に向くことで表情と赤い衣装を際立たせた作品です。物憂げな表情がとても印象的で、まるで人形のような美しさ。こちらも光から影までを滑らかに表現しています。
このモデルは、クリスマスマーケットでスカウトした10歳の少女。年齢に関係なく、人間は見た目からは計り知れないものを宿していることがあります。この少女も向き合って初めて気付くことがたくさんあって、とても興味深い体験でした。お気に入りの作品で、αでなければこの繊細な表現はできなかったと思わされた1枚です。
私の表現の幅を広げてくれる高感度撮影。
手ブレ補正と併せて動きが自由に
――自然光だけでは光量が足りないシーンもあると思いますが、高感度撮影はしましたか?
今回撮影を行った冬のラトビアは日照時間が短く、さらに曇天続きで常に薄暗い感じでした。室内に入ると本当に暗くて、これで撮影できるのかと心配になった場所もあります。でも、α7R IIIはここぞとばかりに高感度性能を発揮してくれました。
フィルムカメラではISO400が最大感度ですから、上の作品くらいの暗さではシャッタースピードを1〜2秒に設定しなければなりません。そうするとブレてしまうので、モデルを動かさないようにするのがかなり大変です。でもこの作品のようにISO2500まで上げればシャッタースピードを速く設定できる。ブレによる失敗が少なくなるので、高感度撮影にはかなり助けられました。
上の作品もISO2500で撮影しています。今まではISO400までしか使ったことがなかったので、どのくらいまで上げられるのか、手探りの状態で撮影を進めました。フルサイズだけあってISO2500でもノイズは気にならなかったので、「感度を上げても大丈夫なんだ」と確信につながり、私の表現の幅を広げてくれました。
こういったシーンでは手ブレ補正も役立ちましたね。α7R IIIの5軸ボディ内手ブレ補正はかなり強力なので、撮影中はずっとオンにしていました。最初は三脚に固定して撮影していましたが、高感度撮影もできるし、手ブレ補正もあるということで、途中から手持ちに変更。スピーディーに構図を変えられて、いつもより自由に動けましたし、設定を変えて何度も撮影する必要がなくなり撮影時間も短縮できました。ここでも自分の表現の幅が広がったと思いました。自由度の高い撮影で、構図や被写体に集中できるのも魅力ですね。
精度の高い瞳AFで効率よく撮影。
アップデートもうれしい
――今回の撮影で「これは便利」と思ったα7R IIIの機能はありますか?
「瞳AF」はとても便利でした。瞳AFを使うとモデルが動いても瞳にピントを合わせ続けてくれます。いつもは暗い中、マニュアルでピントを合わせているのでかなり苦労しますが、瞳AFはカメラがその作業を自動的に行ってくれるのでとても楽でした。薄暗いところでも、きちんと人の目を判断して追ってくれるので、精度はかなり高い。ピント合わせに気を取られてしまうといい作品が撮れなくなってしまうので、ポートレートを撮る人にとっては本当に不可欠な機能だと思います。
瞳AFが使えない状況のときは、タッチパネルで目の部分を押してピントを合わせていましたが、これもかなり便利でした。αはうわさ通り、ピント合わせの利便性が高かったです。
α7R IIIの瞳AFは、アップデートでシャッターボタン半押しで瞳AFが作動するようになるので導線上の煩わしさもなくなりますし、速写性も上がると思うので今後使い込んでいくのが楽しみです。
あと、想像以上によかったのはバッテリー性能です。寒いところだと持ちが悪いと言われていましたし、デジタルは消耗が早いイメージだったので、たくさん持って出かけたんです。でもバッテリー交換なしで丸1日撮影することができて驚きました。
イメージがつくりやすい便利なEVF。
撮影前に完璧なイメージが掴める。
――撮影前と今では、α7R IIIの印象は変わりましたか?
使う前は少し不安でしたが、撮影や編集を終えた今は、とても頼もしい存在に思えます。α7R IIIは高解像なだけでなく、暗い現場でも撮影を快適にしてくれる機能が満載でした。モニターだけでなくEVFでも設定を反映した画を見ながらつくり込みができるなど、撮影前に完璧なイメージが掴みやすかったように思います。
私の作品に重要な色も自然な形でしっかり出ていて、今は純粋にいいカメラというイメージ。α7R IIIは私にとって相性がいいと感じます。今後は作品制作でαも生かしていけたらと思っています。
絶対的な現実を写し撮るのが写真の魅力。
誰かの助けや救いになる作品を目指して
――山元さんにとって、写真はどのような存在ですか?
学生時代は絵画やパフォーマンスなども勉強していましたが、一番自分に向いていると思ったのが写真でした。絵はイメージをつくるテクニックも必要ですし、制作にも時間がかかります。でも、写真はシャッターを押せば誰でも完璧で均質なイメージが手に入る。さらに絵画はファンタジーというか虚構の世界ですが、写真はどんなに作りこんでも被写体となる人やものは現実のもの。そこが冷徹でありながらも魅力だと思っています。
作品制作の方法も、絵画をやっていた影響があるのかもしれません。私の場合、年に1回、1〜3ヶ月を海外で作品制作に費やすということを2009年から続けています。ある意味、絵画を描くようなスタンスですよね。たくさん写真を撮ることが修行ではないので、自分の感性や制作意義を大切にしながら今後も撮影を続けていきたいと思います。
――今後の目標、撮ってみたい被写体などがあれば教えてください。
今回α7R IIIを使って、フィルムとは違う可能性を感じました。今一番興味があるのは動画制作です。動画もきれいに撮れると聞いたので、次に海外に撮影に行く時には動画作品にも挑戦したいと思っています。
私は小さい頃、おしゃべりが苦手で絵を描くことが好きな子どもでした。思っていることは上手に口にできないけれど、何かの形で自分を表現したいとずっと思っていたので、絵や写真との出合いがとても救いになりました。すぐに誰かの役に立つものではないですが、自分の存在意義を見つけることができたような気がして。だから、いつか巡り巡って、私の作品が誰かの助けや救いになるといいな、と思っています。
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