猛スピードで空を切り裂く戦闘機を
掴んで離さないα7R IIIのポテンシャル
航空写真家 伊藤 久巳 氏
戦闘機から民間機まで、あらゆる飛行機を撮影している航空写真家の伊藤久巳氏。今回、α7R IIIで撮影したのは、時速300kmを超えるスピードで空を飛ぶ戦闘機。その速さを捉えるAF性能をはじめ、戦闘機撮影でのα7R IIIのポテンシャルについてお話を聞きました。
伊藤 久巳/航空写真家 1958年、東京生まれ。航空写真家。学生時代から撮影の仕事に携わり、1983年に伊藤久巳写真事務所設立。旅客機の機内取材から戦闘機の空撮まで軍民航空業界のあらゆる分野を撮影、取材し、航空雑誌のほか航空会社、航空機メーカー、空港会社の広告に写真を提供。写真集『伊藤久巳×飛行機力』(イカロス出版)、『さよなら日本のジャンボ』(ネコパブリッシング)など著書多数。公益社団法人日本写真家協会会員。日本航空写真家協会会員。
驚くほどのスピードで飛ぶ小型の戦闘機。
撮影にはピントを外さない高精度AFが不可欠
――戦闘機は動きが速くて撮影が難しい印象がありますが、カメラ選びの一番のポイントは?
旅客機と比べると戦闘機は圧倒的に撮るのが難しい被写体です。旅客機は50〜70mくらいの大きさがあるので、相当離れていてもアップで撮影することができます。大きいものを遠くから撮ることは、さほど難しいことではありませんから。しかし戦闘機は20mほどと小さく、旅客機よりも速く飛ぶので難易度は一気に上がります。だからこそ、より良い写真を撮るためにはより良い機材が必要なのです。
戦闘機撮影に不可欠なのは高いAF性能です。つまり、カメラ選びでもAFの性能や精度が大きなポイントになるということ。7R IIIのAFは期待通りの高精度で、一度ピントを合わせてしまえばEVFかモニターの画面内に被写体を捉え続ける限りピントを外すことがありません。それは戦闘機でも同様。どんなに速い被写体でもピントを合わせ続けることができるα7R
IIIは、戦闘機撮影に最適なカメラです。
正直なところ、αを使い始めたばかりの頃はここまできれいに撮れると思っていませんでした。でも、撮影中には「しっかり撮れている」という感覚があったんです。戦闘機が撮れれば、地球上の飛行機はすべて撮れるといってもいいくらい戦闘機は難しい被写体ですが、α7R IIIはくっきりと高解像に写してくれました。
時速450kmで飛ぶ機体を捉える驚異のAF。
追い続ける撮影では手ブレ補正も有効
――この2台の戦闘機はとびきり速そうですね。
これは昨年秋に行われた、福岡・築城基地の航空祭で撮影した1枚です。F-2(エフツー)という戦闘機が、今にもぶつかりそうな距離感で並んで飛んでいるところを撮影しました。天地に広がって戦闘機が並んでいるので、迫力を出すために左右をトリミングしています。
この戦闘機は250ノット、つまり時速450kmぐらいで飛びますから追いかけるだけでも大変です。しかしα7R IIIのAF性能には絶対的な信頼感があるので、その部分はほぼカメラに任せて撮影に集中することができました。ばっちりピントが合って、高い解像感が見てとれますよね。このスピード性能と描写力というのはどちらかに特化したカメラが一般的ですが、これを高いレベルで両立できているα7R IIIは本当に素晴らしいと思います。
さらに5軸ボディ内手ブレ補正も大活躍。私は常時手ブレ補正をオンにするほど、その効果を実感しています。戦闘機を追っているとカメラを横に一直線に振るような撮影スタイルになりますが、多少なりとも上下に動いてしまう。そういうときも手ブレを起こさず、シャープな写真に仕上げてくれるのは素晴らしいことです。
――戦闘機は、航空機を撮影しているユーザーの皆さんにとって憧れの被写体だと思います。うまく撮る秘訣はありますか?
飛行機を撮影しているハイアマチュアの皆さんも「いつか戦闘機撮影を」と思っている人も多いと思います。ただ、初めて戦闘機を見ると、そのスピードに度肝を抜かれるようです。戦闘機の速さを間近で見ると「本当にこれを撮影できるのか?」と思うかもしれませんが、追ってみると非常に楽しい被写体だと皆さんおっしゃいます。
私がセミナーなどでよく言うのは、「戦闘機を画面いっぱいに撮ろうとせず、余白を含めて広めに撮る」ということ。皆さん、迫力ある写真を撮りたいと、どうしても戦闘機を大きく写そうと思ってしまうんですよね。でも最初は広く撮っておいてトリミングするのがおすすめです。その点でいうとα7R IIIは高解像なので、トリミングしてもきれいな写真として残すことができる。そこは大きなメリットだと思います。
専用設計だからこそ焦点距離全域で高解像。
弱点が見つからない「G Master」FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
――下の戦闘機はどこで撮影した作品ですか?
航空自衛隊の戦闘機が日常的に見られる北海道の千歳基地で撮りました。飛び立って5秒くらいのタイミングで撮影したので、これからどんどん加速していくところです。それでも200ノット弱、時速330〜340kmぐらいのスピードが出ているので撮影には少し苦労しましたが、機首にしっかりフォーカスしてくれました。冬の千歳基地は地上に雪があることが多いので、ふだんは黒く潰れがちな機体下部も雪のレフ板効果で明るく写しています。
――伊藤さんは「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」を多く使っているようですが、レンズの性能はいかがでしたか?
「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」は私がメインで使っているお気に入りのレンズです。この焦点域は多数ありますが、性能的にはトップクラス。ミラーレス専用レンズでは同等の性能を持っているレンズは他にはないほど優秀です。
100〜400mm全域で解像度が落ちることなく、弱点がどこにも見つからない。こういうレンズはかなり貴重です。とくに望遠端近くになると「これは使えない」と思うほど画質が落ちてしまうレンズもありますから。最初は「400mmまで使えるのかな?」と半信半疑でしたが、まったく問題なかったです。解像感もEVFに反映されるので、最初に映し出された画を見たとき「これはすごい!」と思いました。
「G Master」レンズらしく周辺の光量や解像力も優れていますし、アダプター不要のフルサイズミラーレス専用設計なので、α7R IIIの高解像度を最大限に引き出せるのも魅力ですね。
暗所でもEVFで的確なピント合わせが可能。
高感度もノイズが少なく安心して使える
――この作品のような暗いシーンで活躍した機能はありますか?
これは茨城県の百里基地で撮影した、戦闘機を改造した偵察機です。写真で見ると少し暗い感じに見えると思いますが、現場はほぼ真っ暗でした。人間の目ではほとんど何も見えない状態で、見えているのは後ろの炎だけ。これは推力をプラスするために使う「アフターバーナー」で、排気に燃料を噴射して火を点けています。
この状態でも構図や被写体をしっかり確認できるのはEVFのおかげです。実際はアフターバーナーしか見えない状況なのに、EVFを見てAFのターゲットを機首にしっかり合わせることができました。
機首は画面の端の方にあるので、AFポイントが画面中央に集まっているデジタル一眼レフでは簡単にピント合わせができません。でもAFのカバー範囲が広いα7R IIIなら瞬時に行えます。このピントを捕まえたときの気持ちよさはα7R IIIでしか味わえないでしょうね。ガシッと手で掴んで離さないイメージで、本当に快感です!
――ISO1250の高感度で撮影していますが、画質についてはいかがですか?
このときは撮影時の明るさを考えてISO1250で撮影しました。真っ暗だったので感度を上げないと写りませんし、画像処理で上げるならカメラの設定で上げておいた方が、いい結果を得られますから。このくらいであればノイズはほとんど気になりません。個人的にはISO3200くらいが常用の境界線という感じです。
APS-Cや1型などセンサーサイズが小さくなるとISO1600を使うのも少し怖いですが、フルサイズのα7R IIIはゆとりがある。その分、感度を上げられるのも利点だと思います。
雪や機体の白が飛ばずに粘ってくれる。
ダイナミックレンジはダントツの広さ
――下の作品はバックの雪景色も印象的ですね。
このときは晴れていたので、雪の白が飛んでしまうかと思いましたが、飛ばずに粘ってくれました。仮に飛んでしまっても後処理で戻ってくるところがすごい。白が飛んでしまっては写真として成立しませんし、仕事でも使用できません。そう考えるとα7R
IIIのダイナミックレンジの広さにはいつも助けられていますね。こんなカメラ、他にはありませんから。私は旅客機を撮ることもありますが、旅客機は白っぽい機体が多いんですよ。その場合も白飛びの危険がありますが、α7R IIIなら安心して撮影に臨めます。
この作品は千歳基地で撮影したものですが、実はAFにイジワルをしています。戦闘機の後に排気口が2つあり、排気の熱でモヤッとした部分の向こうにある排気口にピントを合わせていますからね。でも、ばっちり最高の画を写してくれました。排気によるぼけを感じさせながらも排気口にピントが合っていて、本当に「恐るべし」です。
解像力をキープする高画質。
さらに1.4倍のテレコンバーターにも注目
――これは着陸シーンでしょうか?
着陸したときにパラシュートを開き、風の抵抗を利用して止まる「ドラッグシュート」という訓練を撮影したものです。このとき、福岡の築城基地は暑さでかげろうが上がっていました。機首のあたりにピントを持っていくと、かげろうでゆらゆら揺れている状態。写真を見ると機体がしっかり見えていますが、現場では「こんな状態でピントが合うのか?」と思うくらいかげろうがひどくて。それでもベストなところにピントを持って行ってくれました。
これはクロップして600mmの状態で撮影していますが、素性の良さが出ていて、画質が素晴らしいですよね。クロップしても画質が落ちることがなく、ピントが合ったところの解像感がきちんと確保されています。これも高解像モデルの利点ですね。
――伊藤さんはAPS-C切り換え機能をよく利用するのですか?
使う機会はわりと多いです。私がベストとする焦点距離は600mmなので、400mmのレンズでもクロップすれば600mmになりますからね。ボタンカスタムはほとんどしていませんが、APS-C切り換え機能だけは「C1」に割り当てて、すぐに呼び出せるようにしています。
αなら1.4倍のテレコンバーター「SEL14TC」を使うのもおすすめです。「ズームレンズにテレコンバーターは使えない」というのがこれまでは常識でしたが、この1.4倍のテレコンは、画質もAFも仕事で使えるレベル。あまりの性能のよさに驚いたくらいです。
戦闘機撮影は優れたAF性能があって
初めてスタート地点に立てる
――伊藤さんが理想の撮影をするために、機材に求めるものは?
絶対的なAF性能です。私の場合、自分が意図するところにきちんとピントが合わないと、撮影活動ができない、と言っていいくらいAF性能は重要です。ピントが合うからいい写真が撮れるのではなく、ピントが合って初めて撮影のスタート地点に立てる。世の中にはスタート地点に立てないカメラがたくさんありますからね。α7R IIIには高いAF性能のほか、解像感、画質、機動性、スタミナなど、プラスアルファの要素がたくさんあるので、私にとっては理想の機材といえます。
一方で、レンズに求めるのは確かな解像感。さらに、ピント合わせにキレがあり、自分が合わせたいところにバチッとフォーカスするレンズが理想です。まさに「FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS」のようなレンズということですね。
――今後使ってみたいレンズ、ラインアップに加えてほしいレンズはありますか?
先ほども申し上げたように私は600mmの焦点距離が好きなので、単焦点の600mmの専用設計レンズを使ってみたいです。やはり最高のボディにはそのポテンシャルを最大限に引き出せる専用設計レンズがいいですからね。 たぶんソニーなら一切妥協しない性能でしょうから、恐ろしいことになりそうです(笑)。考えただけでワクワクしますね! いろいろ想像しながら、発売されることを楽しみにしています。
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