αにしか表現できない「色」がある
〜しっとりとした日本の風景を印象的に描く〜
風景写真家 清家 道子 氏
美しい日本の風景を独自の視点で捉え、感性豊かに表現している風景写真家の清家道子さん。カラーコーディネーターの仕事に長年携わっていたため、風景写真でも細やかな色表現へのこだわりテーマのひとつに掲げている。αを使うようになった理由のひとつは幅広いダイナミックレンジに裏付けられた「色の良さ」で「αでしか出せない色がある」と語る清家さんに、カメラの印象をはじめ風景写真で活躍した機能、撮影時のこだわりやスタイルなどについて話をお聞きした。
清家 道子/風景写真家 福岡県生まれ。1987年よりカラーコーディネーターとして福岡で起業。20年以上、カラーデザインやカラーマーケティングなどの仕事を手がける。2009年より趣味だった写真を本格的にはじめ、地元九州を中心に日本全国で日本の美しい風景を撮影。2012年より企業カレンダーを手がけるほか、写真雑誌への寄稿、カメラメーカーでの講演、撮影会などを行なっている。2016年にリコーイメージングスクエア新宿にて「またまの宇宙」写真展を開催。同写真集を出版(日本写真企画)。2019年度QTネットカレンダー作家。日本写真家協会会員。
ミラーレスに変えて撮影がより軽快に。
「自分らしい風景」も見つけやすくなった
――初めて使ったミラーレス一眼がα7R IIIだったそうですが、使い始めたきっかけや印象について聞かせてください。
私のなかで「風景写真家は一眼レフを使わなければいけない」という固定観念が、ついこの間までありました。それゆえにミラーレスを使うことには抵抗があったのですが、仕事でα7R IIIを使って撮影する機会がありました。そこで初めてミラーレスを使い、とにかくその軽さに驚きました。撮影してみると、高解像でダイナミックレンジも広く、シャープで大人っぽい、カッコいい風景写真が撮れる。使う前は不安でいっぱいでしたが使ってみるといいことばかりで、もっと早く挑戦すればよかったと思いましたね。
一眼レフユーザーだった私は、撮影機材が重くて肩を痛めてしまった時期がありました。かなりダメージが大きかったので「軽いカメラに変えよう」と思っていた時に、ちょうど縁があってαと出合ったんです。軽いだけでなく、カメラ選びで重視する「色」の印象もナチュラルで透明感があり、私好みでしたし、さらに描写力も優れていたので、α7 R IIIの購入を決めました。
――αを使い始めて、変わったことはありますか?
フットワークは圧倒的に軽くなりましたね。重いカメラを三脚に据えると移動が大変で、移動のたびに「よっこらしょ」という感じでした。でもαは軽いだけでなく、手ブレ補正も効くので、手持ち撮影にも気軽にチャレンジできます。スピーディーに移動して好みのアングルを探せるので、自分らしい風景を見つけやすくなりましたし、表現の幅も広がりました。「こっちから見たらどうかな」「あっちも良さそう」と、思った位置にサッと動けるので好奇心も満たしてくれるカメラですね。
岩の触感まで伝わるような高解像。
DROで見たままの風景を再現できる
――高い解像感やダイナミックレンジの広さは、どのようなシーンで感じましたか?
福岡県北東部にある平尾台で撮影した下の作品は、高解像とダイナミックレンジの広さが生きた1枚です。夕日を入れて撮影したため、撮影画像を見ると、岩肌が目で見るよりも暗く写ってしまいます。そんな時に活躍するのが、明暗差が大きいシーンで明るさのバランスを自動補正してくれる「DRO(Dレンジオプティマイザー)」です。α7R IIIはLv.1〜5の5段階から選ぶことができますが、Lv.5まで上げても私には違和感なく使えましたし、細かい部分まで見たままに表現できるので、本当に素晴らしいと思います。
この作品はLv.4で撮影しました。最近の他社カメラにも同じような機能はありますが、CGのような不自然さが出てしまうことが多くて。でもαはDROを使っても、とても自然です。写真では暗くなってしまう部分をDROが補ってくれて、見たままを再現できる。私が表現したい形で撮影できた、α7R IIIでなければ撮れなかった1枚です。
ハードな石の造形と可憐な花のコントラストが、いい感じに撮れた自信作ですね。シランの花が透過光になってピンクの色がとてもきれいに出ていますし、岩のディテールもザラザラとした触感が伝わるほどの高解像で、質感までしっかり表現できました。
日本の風景はしっとりとした湿度が魅力。
苔の表情まで写し撮る描写力は圧巻
――清家さんは日本の風景をメインに撮られていますが、その魅力は?
ずばり、湿度です。日本の湿度の高さは風景写真でも表すことができます。湿度の低い国はスカッとした風景写真になりますが、日本の場合は湿度を帯びているため、しっとりした空気感まで伝えることができる。風景全体の質感も湿度によって変わるので、そこが日本で風景写真を撮ることの最大の魅力だと思います。
私は日本の湿度がより伝わる水辺の作品を好んで撮影します。上の作品もそのひとつで、熊本県・菊池市の渓谷で撮ったものです。水の流れも白飛びせず、濡れた岩や苔も細かな部分まで高解像に表現できました。いくら引き伸ばしてもディテールが非常にきれいに見えるので、苔の表情まで見てとれます。
岩や苔を主役にしたかったので、シャッター速度はスローにして水を流すような表現にしました。いろいろ試してみた結果、水の流れをなめらかに見せて、苔の岩が浮き上がって見える4秒を選択。αらしいシャープな描写で、大人っぽい作品に仕上げることができました。
この作品はAFで撮影しました。AFが生かせるようなシーンでは、躊躇(ちゅうちょ)なくAFを使います。αのAFはそれだけ信頼度が高いです。一番手前の岩の苔にピントを合わせましたが、素早く的確に合わせてくれて、思い通りの作品が楽に撮ることができました。
虹をアクセントにして個性的な作品に。
描写力に優れたSTFレンズが大活躍
――下の作品は中央に配した虹が印象的ですが、どのような意図で撮ったのですか?
これは宮崎県にある滝ですが、きれいな苔と岩の質感をうまく出したいと思い撮影に臨みました。虹を組み合わせていますが、あくまで脇役なので少しだけ入れてアクセントにしています。虹はたくさん見せてしまうと色が派手すぎてしまうので、少しだけしか見えない角度、時間を狙って撮影しました。
虹は、常に動いて撮ることが大事です。私の場合は、どこから撮れば虹が一番きれいに写るかを考えて三脚を設置し、三脚ごとカメラを少しずつ移動しながら、いいアングルを探りました。ここから10cm動くと虹は見えなくなってしまうので、本当に少しずつ、少しずつ移動していった感じです。α7R IIIはカメラ本体が軽いだけでなく、三脚も軽いもので済むので、妥協することなく理想の画を突き詰めることができました。
シャッター速度が速すぎると虹の色が出ないし、遅すぎると岩肌がベタッとした印象になってしまうので、シャッタースピードにもこだわりました。このシーンには1/2秒がベストと判断して撮っています。
――レンズは「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」を使っていますが、印象はいかがでしたか?
苔のディテールや岩の濡れた感じをしっかり表現してくれましたし、色味もとてもきれい。このレンズは美しいぼけ味ばかりが特筆されがちですが、解像感、シャープさもすばらしいです。他にもいろいろな被写体をこのレンズで撮りました。マクロで前ぼけを入れて花を撮影したり、逆光では太陽のキラッとした感じを表現できたり、レンズのパフォーマンスを発揮できるシーンはかなり多いと思います。とくになめらかでとろけるようなぼけは「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」の一番の魅力だと思うので、ぼけ表現を生かした作品を撮りたいかたにもおすすめです。
一番のこだわりは仕上がりの色。
「純色」を出せるのがαの強み
――風景写真を撮る時に、こだわっている部分はありますか?
私は以前、カラーコーディネーターの仕事をしていたので、仕上がりの色にはこだわりがあります。α7R IIIは「純色」が出るところもお気に入りポイントのひとつです。純色とは、決して強すぎず派手でもない、文字通り「純」な色のこと。混じり気のない透明感のある素直な発色は、私の心に響くものがありました。
上の作品は、平尾台で撮影した藤の花です。本当は雨で岩場が濡れるのを待っていましたが、雨は降りそうにないし、藤の花も枯れてしまいそうなので、夕暮れ時の青の時間、「ブルーモーメント」と呼ばれる時間帯を狙いました。ブルーモーメントは、天気がいい日の夜明け前と夕焼けの後のわずかな時間だけ訪れる、辺り一面が青い光に照らされてみえる現象です。この時間帯に撮影すると画に青みが出て、立体感も出てきます。撮影には難しい状況ですが、α7R IIIなら、少しパサついていた藤の花もきれいに色が出て、青い岩の質感も黒潰れすることなくディテールまで表現できる。こんな“青い時間の魔法”にかかったような1枚が撮れたのは、優秀なカメラのおかげですね。
藤の花と岩のゴツゴツした中央部分にだけLEDライトを当てて、真ん中だけを浮き上がらせるような工夫もしています。LEDライトがあると便利なシーンは意外と多いので、撮影には欠かせないアイテムのひとつです。私は両手が自由になるヘッドライトのほか、レーザービームのような強い光を放つものなど数種類を常備しています。
空が暗くなる前の薄暮の時間は、一番不思議な時間帯なんですよね。まわりの色は出ているのに空は深い青になって。そういう時間に撮影するのが好きで、ブルーモーメントの青を入れた風景写真は数多く撮っています。
抜群の機動力で見つける独自の視点。
仕上がりが見えるモニターやEVFも便利
――人とは違う、自分らしい作品を撮るために、するべきことはありますか?
被写体となる風景をよく見ることですね。全体を見るのではなく、一つ一つのディテールや色をよく観察することです。そこには必ず自分しか見つけられない「何か」があるはずですから。有名な撮影地に行った時に失敗しがちなのが、写真などで見たことがあるような写真を撮ってしまうこと。そういったありきたりの画ではなく、自分の感性にビビッとくるようなものを撮れば、自分らしさが出せるのではないでしょうか。
この大分県にある真玉海岸の干潟の作品も、観察した上で撮影テーマを決めています。干潟は砂紋の美しさに目を奪われがちですが、私は砂の一粒一粒の輝きに注目しました。この輝きをどうしたら表現できるのか一生懸命考えて、地面スレスレから撮影することに。どこから撮るかによって光の当たり方が違うので、色々な角度から見た上でベストだと思う位置を選んでいます。
地面に手の甲をつけ、手のひらにカメラを乗せて撮影したので、5軸ボディ内手ブレ補正はかなり頼りになりました。おかげでブレのないシャープな写真に仕上がったと思います。こういうアングルでは可動式モニターも便利です。α7R IIIはEVFでもモニターでもカメラ設定を反映した仕上がりの画像を見ることができますから、これで確認できたからこそ見つけられた風景ともいえます。α7R IIIは軽量で機動力も抜群なので、自分らしい被写体を見つけるには最適なカメラです。
干潟なので実際の色は茶色ですが、現像時にホワイトバランスを変えて青みを強くすることで個性を出しました。キラキラとした夢の世界をイメージしているんですよ。
固定観念が崩壊するほど
優秀な高感度撮影
――下の作品は高感度で撮影していますが、仕上がりはいかがですか?
正直なところα7R IIIを使い始める前は「感度はISO1600まで。それ以上は上げられない」と自分の中で上限をつくっていました。でもこのカメラだとISO4000まで上げてもほとんどノイズを感じないし、高感度に強いという印象。鹿児島県の湧水町にある高台から撮影した作品ですが、この写真を撮って仕上がりを見てからは、私の中の上限を撤廃しました。高感度の強さはαの醍醐味(だいごみ)といったところですね。特にα7R IIIは高解像モデルにもかかわらず、高感度にも強いのでこの点もすごいと感じます。
――現像時に暗い部分を起こしたりしたのでしょうか?
暗部はまったく補正していませんが、ホワイトバランスは少し変えています。先ほどもお話しした通り、私は色にこだわりたいので、現像の時には必ず念入りにホワイトバランスを調整します。その基本になるのが自分の「記憶色」と「希望色」。その色に合うように、上の作品では空の部分だけホワイトバランスを変えました。そんなときでもαは情報量が豊富なので自然な色表現で、思い通りにきれいに仕上げることができます。
自分にしか撮れない作品を撮るには
行動範囲を広げるアイテムも必要
――下の作品はとても幻想的な作品ですが、どこで撮影したものですか?
熊本県の黒川温泉で毎年冬に行われている「湯あかり」というイベント開催時に撮影したものです。インスタグラマーにも人気のイベントなので、自分にしか撮れない作品を目指して、川の中から撮影しました。長靴をはいて川に入りましたが、長靴の中にも水しぶきが入ってしまい、冷たさに耐えながら撮ったことを覚えています。
川辺の撮影では長靴は必須です。オリジナリティーを出すには、絶好の撮影場所を探し歩き、自分にしか撮れない場所やアングルを探すことが大切。動きの幅を広げるためにも、長靴は欠かせないアイテムということですね。
その結果、竹の灯篭(とうろう)がたくさん見える川の中に三脚を立て、ローアングルで撮影しました。川の表面をなめらかにして、光の写り込みを多くするためにスローシャッターを選択。川に映った灯篭の光が金色に輝く「ゴールデン・リバー」をイメージした作品です。
感性を研ぎ澄ませて風景を見つめ
縁を大切にすることでいい作品が撮れる
――風景写真を撮るときに大切にしている思い、信条などはありますか?
あまり情報に囚(とら)われず、自分だけの風景を見つけることでしょうか。例えば「何時何分にこの方角からだといい写真が撮れる」と、情報を頼りに撮影に出かけるかたも多いと思いますが、私としては自分の感性に響いた風景を道すがらでも撮りたい、という思いが強いです。もちろん最初は真似でもいいと思いますが、次の段階では自分が見た風景、自分が感じたこと、自分だけしか撮ることのできない風景写真、ということを追求していかなければいけないと思います。
カメラの性能が上がり、いい写真が誰でも撮れるようになっていますから、自分らしさを表現するのはかなり大変です。人と違う作品を撮るためには、人が行かない時間帯に目的の場所に行ってみるのもいいと思います。あとはアングル。三脚を立てて撮るだけでなく、いい風景や被写体を見つけたら、まずは一周してみること。そして最後は地べたから見るなど、私は日常では見ないような角度からも見るようにしています。
α7R IIIはEVFやモニターでカメラ設定を反映した仕上がりを見ることができるので、ぼけ具合や明るさなど調整して追い込むことができます。いろいろなアングルで、いろいろな設定を試すことで「こんなに素晴らしい撮り方、見せ方があったのか」と気付くことも少なくありません。このように、自分らしい写真表現を探すことができるのもαの魅力ですね。
――オリジナリティーを出すためには、情報に頼り過ぎてはいけないわけですね。
それでも情報は大事だったりします(笑)。インターネットなどで広く知られているようなメジャーな撮影スポットの情報はさておき、人から直接聞く情報は拾い集めて損はないと思います。ですから私は撮影現場で出会った人とはいろんな話をして、情報交換をしているのですよ。意外と穴場のスポットや、人には知られたくない秘密の場所なども、こっそり教えてくれたりしますから。
今はSNSが発達して情報があふれていますが、年配のカメラファンからの生の情報もあなどれません。SNSでも見かけたことがないような、誰も知らない素敵な場所を知っていたりするんですよ。そういう知り合いには結構助けられています。人の繋がりで撮らせていただいているな、という感じですね。
大切なのはカメラや写真で繋がる「縁」です。人との出会いも縁ですし、私がαを使い始めたのも縁があってのこと。これからもその縁を大切にしながら活動の幅を広げ、私らしい風景写真をαとともに撮り続けたいと思います。
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