東京カメラ部2019写真展
ソニートークショー・レポート
「THE POWER OF WANDER /
夜の光を捉える魔法」
写真家・アートディレクター コーディ・エリンガム氏
2019年7月12日〜15日に東京・渋谷ヒカリエにて、ファン総数420万人超の日本最大級審査制写真投稿サイト「東京カメラ部」が主催する『東京カメラ部2019写真展世界は発見を待っている。』が開催された。14日には世界を舞台に活躍する写真家・アートディレクターのコーディ・エリンガム氏がトークショーに登壇。α7R II、α7R IIIで撮りためた作品を見せながら、好奇心を持って写真を撮り続けることの大切さを語った。そのトークショーの様子をレポートする。
Cody Ellingham(コーディ・エリンガム)/写真家・アートディレクター
ニュージーランド出身。
大学在学中に日本へ留学し、日本文学を専攻する。文学をはじめ、映画や音楽、演劇など日本文化への造詣を深める。
2018年には、クラウドファンディングで支援を集め、日本の集合住宅の夜景を集めた写真集『DANCHI DREAMS』を刊行。
近年は、東京の夜景を独自の目線で切り取った「DERIVE(ディライブ)」という活動を続けている。
Instagram:https://instagram.com/cbje_tokyo
「放浪」とはどういう意味があるのでしょうか。
“その場所を本当に見る”ということはどういう意味があるのでしょうか。
すべての旅人が道に迷っているわけではありません。
街中をひたすら放浪することで私は私自身を見つけました。
私は田舎育ちで、故郷は街から遠く離れた小さな町です。
辺り一面に山や牧場などが広がっていました。
幼いころは故郷ニュージーランドの山や川を歩きまわり、森や草原を冒険するのが私の日課でした。
その中にある木々や自然をもっとよく知るために、
私はより注意深く観察するようになりました。
振り返ってみると、私は幼いころから常に好奇心旺盛で、「この向こうにはどんな世界が広がっているのだろうか?それを見てみたい」という気持ちがありました。
その気持ちは街に繰り出して放浪するという、今の私の行動にも通じています。
初めてカメラを持ったのは22歳のころで、それまで一度も写真らしい写真を撮ったことはありませんでした。
そんな私にとって、4月の雨の中、成田空港から到着したバスから少ない荷物とともに降り立った東京は、全く新しい世界でした。
この新しい世界をもっと深く知りたい、新しい発見をしたい。
そう思った私は、その夜、街に繰り出しました。
すぐに道に迷いました。確か世田谷のどこかだったと思います。一軒のラーメン屋に入りました。外ではまだ小雨が降っていました。
その時、私は不思議な感覚をおぼえました。
私は自分が見たその景色に畏怖(いふ)、つまり畏敬(いけい)の念をいだいたのです。
地図を持たず、目的地も定めない、放浪を始めたその日から、私は街並みに誘われるがまま、自分の身を委ねることにしました。
すると、街角や通りの隅が、私に語りかけてくるのです。
街が私に“本質は何か”を見せてくれたと感じました。
いつしかこういった放浪を私は「DERIVE(ディライブ)」と呼ぶようになりました。
「DERIVE」の語源はフランス語で「放浪する、ぶらぶらする」というような意味です。
“DERIVEする”とは探求し、街が私を誘うままに歩くこと、そして世界を漂流すること。
カメラを手にした時から、私は意図せず“DERIVE”していました。
写真は単なるスナップショットではないし、つかの間のひと時を写す以上の価値があると思っています。私は自分の写真を通して答えを提示していません。写真を見る人への質問を投げかけています。
写真には技術的な側面ももちろんあります。
私は技術やISO、レンズの口径、構図といったことを独学で学びました。
でも単なる技術だけではなく、私は街を通して
“どのように本質を見極めるか”を学んだと思っています。
[ 上海へ ]
中国最大の都市、オリエント文明が真珠のように散りばめられた場所、上海の高層ビルの屋上から見下ろすと、街は赤く染まるネオンに照らされていました。
「遠い南の田舎町にいた私が、今ここに立っている」
それは特別な感情をいだいた瞬間でした。
西安(シーアン)から老西門(ラオシーメン)まで歩き、 雨の中をずぶ濡れになりながらこの美しい街を撮りました。
この経験で私は街がそれぞれ声や個性を持っていることに気づきました。
街と人々は各々に私に見つけられることを待っていたと感じたのです。
[ 台湾・香港へ ]
“次はどこへ行こうか”
私は自分自身に語りかけます。
すでに知っている世界の小さなことを覗いてみても、私にとって実のあるものにはならない。私はまだ見ぬ世界へと飛び込むべきだったのです。
次は台湾で新たな自分自身を発見しました。
台北の裏通りを散策し、さまざまな人に出会い、杯を交わし、そのひと時を共有しました。
旅は続きます。
重いカメラバッグと三脚を持ち台北で飛行機に乗り込みました。
香る港、香港に渡るためです。
到着するとすぐに私はそびえ立つ摩天楼に衝撃を受けました。
バベルの塔のような超高層ビルがそこかしこに並んでいる、今までに見たこともない光景でした。
この世界には深淵が広がっている、そう感じました。
夜に街を見渡せば、燦然(さんぜん)と輝く何百万もの光が降り注いでいます。
私はまた畏敬の念をいだき、身を震わせました。
[ 再び、東京へ ]
この世界は発見に満ち溢れています。
今回、東京へ戻った時も放浪するチャンスがありました。
私はまたこの街を撮るためにソニーのα7R IIIを掲げて街へ繰り出し、本質を捉えようとしました。
池袋から江戸川まで自転車を走らせ、見たことのなかったさまざまな景色はもちろん、私が忘れていた街並みに再び出合いました。
新しい世界に飛び出すのにそんなに時間は必要ないと思っています。
飛行機に飛び乗るのはもちろんですが、どこかを放浪するだけでも新しい発見はたくさんあります。
写真とは、世界そのものを見ること、旅することそのものだと思っています。
皆さんにも、冒険することや思い切ること、そしてただイメージを切り取るだけでなく世界そのものを見ることを強くおすすめしたいです。
[ 速水惟広氏とのクロストーク ]
速水 惟広/フォトディレクター
「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)」ファウンダー。写真雑誌『PHaT
PHOTO』前編集長。岩手県大槌町や静岡県下田市で、地域住民とアーティストによる写真を使ったソーシャル活動に取り組む。海外の写真フェスティバルなどでフォトディレクターとして活動中。
Instagram:https://www.instagram.com/ihirohayami/
速水:ここからは僕からコーディに質問をして、話を聞けたらなと思います。街を撮る時に夜を選ぶけれど、なぜ夜なの?
それと、機材選びはどうしているの?
コーディ:夜になると街そのものが生きていると感じるんだ。人がいきいきしている昼と違って、夜は街に光が出てきて、街そのものがいきいきしているように感じるんだ。だから、夜の撮影においてソニーのαは私にとって革命的だった。夜の中で光を捉えることはもちろん、ダイナミックレンジが広いから画作りの上でもかなり助かっている。夜の撮影ではαの存在にとても助けられているんだ。
速水:50mmのレンズが好きなんだよね?
コーディ:50mmもそうだけど、24mm(FE 24mm F1.4 GM)もいい。シネマティック、映像的な写真を撮ることに適していると思う。
速水:どうしてニュージーランドではなくて日本や、台北、上海で写真を撮っているの?
コーディ:僕は田舎で生まれ育ったんだけど、都市というものは光に満ち溢れている。「自分の街を撮ること」と「都市を撮ること」の大きな違いだと思うんだ。自分の街に暮らしているということは、自分自身がその街の持つ物語に気付かぬうちに囚(とら)われているということ。どうしてもそこから抜け出すことができなくなっていて、非常に主観的になってくる。決してそれがいけないということではないけれど、自分の作品については客観的に捉えていくということが非常に重要と考えているからね。街の本質を見るためには、自分が暮らしていない他の都市を見たほうがいいと思うんだ。
速水:なるほどね。小説からよくインスピレーションを受けているってことなんだけど、それはものの見方に対しても大きな影響を与えるということなのかな?
この作品に関してもそういうことはあるの?
コーディ:そうだね。自分が感化されるのは、本や書籍を読んで自分の知らない1920年代の東京や、上海の「ゴールデン・エイジ」と呼ばれた時代を想像すること。それを現代の姿からどうやって見つけ出していくかということだね。自分の知らないその物語を写真によって生み出しているんだ。
記事で紹介された商品はこちら
ワンクリックアンケートにご協力ください
αUniverseの公式Facebookページに「いいね!」をすると最新記事の情報を随時お知らせします。