もはやサブカメラではない。
α6600が描くスナップ・ポートレート
写真家 ハービー・山口 氏
海外や日本の大物ミュージシャンをはじめ、市井(しせい)の人々も温かく細やかな視線で撮影し続けているハービー・山口さん。40年以上にわたり、世界各国で出会った人々の日常をモノクロームで表現するスナップの巨匠が、α6600を手に撮影に出かけた。フィルムからデジタルまでさまざまな機材を使って撮影してきたハービーさんが、α6600ならではの特性や魅力について語った。
ハービー・山口/写真家 1950年、東京都生まれ。23歳で渡英。10年間の在住中に劇団員を経て写真家になる。「人の心をポジティブにする写真」をテーマとし、アーティストから市井の人々までを幅広く撮影。モノクロームのスナップ・ポートレートというスタイルで多くの作品を残している。その清楚な作品を好むファンは多く、もっとも親しまれている写真家の1人。写真の他、エッセイ執筆、ラジオのパーソナリティー、作詞家などジャンルを越えて幅広く活躍。2011年度日本写真協会賞作家賞受賞。
日常に滑り込む万能なカメラは
「撮る勇気」も与えてくれる
――実際にα6600で撮影してみて、印象はいかがでしたか?
今回は、α6600に「E 16-55mm F2.8 G」のレンズを装着して撮影しました。普段はフルサイズを使うことが多いのですが、APS-Cサイズのセンサーを採用したα6600は小ぶりで取り回しがとても楽。さらにレンズはF2.8通しで、妥協のないクリアな描写が得られる。これならば、すべてをフルサイズで撮る必要はない、とα6600を使って初めて思いました。 とくにコンパクトさは何よりもありがたいです。小さなカバンに入るし、持ち運びも負担にならないのでどこにでも持っていけます。実はここまでタクシーで来たのですが、タクシーを下りる時に運転手さんを撮影させてもらいました。薄暗い車内でも素早くピントが合いましたよ。こんな風に、あまり構えずにサッと撮るのが僕の撮影スタイルです。そうすると自然体が撮れますからね。α6600はとても万能で、日常に滑り込ませるには最高のカメラです。そう考えると、僕にぴったりですね。
――ハービーさんにとって、APS-Cサイズのカメラはどのような立ち位置になりますか?
一般的にはフルサイズのサブ機という立ち位置だと思いますが、僕が北海道を旅行した時はα6600だけを持って行き、メイン機として使いました。α6600と「E 16-55mm F2.8 G」の組み合わせで撮れば、写真展で使う16×20インチ、14×11インチの印画紙にプリントしてもフルサイズに引けを取らないので、APS-Cサイズのセンサーでも安心です。世の中は不思議なもので、フルサイズはプロが使うもの、マイクロフォーサーズやAPS-Cはアマチュアが使うもの、という固定観念がありますが、そういう誤解も、今回僕が撮った写真を見ていただいて徐々に減っていくといいなと思います。 人間に人格があるように、カメラにもキャラクターがあります。「カメラだったらどれでもいいじゃないか」と割り切る人もいれば、「日常的に手にするものなので、愛する対象物として自分に合ったカメラを選びたい」という人もいます。もちろん僕は後者で、相性のいいカメラを選びたい。自分が惚れた機材との出合いは、とても大事です。青春時代に好きな人の手をそっと握ったら、そっと握り返してくれたかのような青春のときめきですね。それをカメラに感じられたら本当に楽しく、愛を持ってシャッターを切ることができます。それが理想であり、写真を長く続けるコツです。α6600は人の心を表現するいいキャラクターを持っています。性能、サイズはもとより、外装のマットな仕上がりも含めて「格」が上がったような、とても素晴らしいカメラです。また、F2.8通しというレンズ設計思想もいい。グリップの形状もホールドしやすく、快適に撮影できます。
僕にとって「良いカメラ」の条件は「撮る勇気を与えてくれるカメラ」です。人にカメラを向けると、躊躇(ちゅうちょ)してしまう要素がいっぱいあります。でも、撮れた時の喜びと、それが将来作品になりうる「やったぜ!」という感覚は人生の充実感に繋がるものです。「撮っていいですか?」と声をかけるかどうかの一線で、カメラが「撮れよ」と言ってくれれば勇気が出ます。そういうカメラが実際にあり、α6600もそのひとつです。
優秀なAFなど“IQが高い”カメラを使うと
撮影者のEQ(感情指数)が上がる
――人物の写真を撮るとき、意識していることはありますか?
僕は1969年から99%、人物を撮ってきました。当初から「人が人を好きになる写真」をテーマに撮り続けています。「人間っていいよね」と思い、人の心をポジティブにする写真。美しい心や、信じる心、絆といった「人のいいところを撮る」ことが、写真の神様が僕に与えてくれた責務、仕事かなと思っています。
――今回、α6600で撮影した、この少女の写真もハービーさんの人への思いが感じられますね。
この少女は17歳の高校生で、茨城県で行われたワークショップに参加してくれた写真部員です。若い世代に写真の良さ、自分を表現すること、そして独自の工夫、写真のセンスなど、いろんなことを教えるワークショップでした。写真家は、あらゆる場面、世代、行動にカメラを向けるチャンスに恵まれています。その人が輝く一瞬を捉えるのが僕の毎日です。 これは自然光が差し込む教室で撮影したものです。後ろに黒い模造紙を置くだけで、光のドラマがつくれることを生徒に教えるために撮影しました。こういったポートレート撮影では、リアルタイム瞳AFが確実に瞳を捉えてくれます。ピント合わせに神経を使わずに済むくらい性能が良いカメラはIQが高い。すると、撮影者はEQ、つまりエモーショナルなことに頭を使うことができるのです。
「君にはどんな夢があるの?瞳だけ、上げてみて。遠くに、いい景色を思い浮かべて。そうそう、いい顔だね」といった感じで、この子の気持ちに触れる会話に集中できる。カメラを信頼できればできるほど、撮影者はEQを使えるわけです。相手との対話、さらには光や表情の読みかたにエネルギーを使えるので、当然写真のクオリティーも上がります。リアルタイム瞳AFは単にピントを正確に瞳に合わせるだけでなく、いい作品をつくることにも一役買っているということですね。
撮影の幅を広げた標準ズームレンズ。
ノーファインダーでは手ブレ補正が活躍
――これは影を使ったかわいらしい作品ですね。
これもワークショップの流れで撮影した作品です。影を使うポーズは女子高生がよくやるので、彼女たちが遊んでいる時に「何をやっているの?」と声をかけながら撮りました。右下には、スニーカーを履いた僕がちゃっかり写っています(笑)。
世代が違う彼女たちの中に入り込んで、その空気に溶け込むように手軽に撮れるカメラだと実感しました。しかも、これは広角ですよね。普段だったら35mmや55mmの単焦点を使うことが多いので、小回りが効きません。でも「E 16-55mm F2.8 G」はズーム域がちょうどよくて、とても便利。1ヶ月半、毎日持ち歩きましたが、撮影の枠を広げてくれたレンズでしたね。これを50mmの単焦点で撮影していたら、星印と靴ぐらいしか写りませんが、ここまで引くと足や服まで入れることができます。ローファーに写り込む光もきれいで、楽しそうな雰囲気が伝わってきますよね。
――このシーンだけでなく、ひとつの被写体に対していろいろなアングルから狙うと思いますが、手ブレ補正は使いましたか?
手ブレ補正は常にオンにしていました。片手で持って頭上から撮ったりする時もありますから。ファインダー越しに狙っていると常に見られているという緊張感を被写体に与えてしまいますが、ノーファインダーだと安心するんですよね。ノーファインダーでは5軸ボディ内手ブレ補正がしっかり効いてくれるので、かなり頼りになりました。軽くて取り回しがいいので、いろんなアングルから狙えるのもよかったです。
相手の幸せを祈ってシャッターを切る。
それが自分らしいポートレートを撮るコツ
――この作品も同じ女子高生を撮影したものですね。木の向こうから顔を出すポーズは、リクエストしたのですか?
木の向こうに行って顔だけ出して、とリクエストしました。時にはいつもと違う演出も必要ですからね。とっさの演出力もいい作品を撮るのには欠かせません。 ポートレートでは背景をぼかすために開放近くで撮影することが多いですが、このレンズは絞り優先で開放にしてもピント面がしっかりしていて、いい対応をしてくれます。滑らかなぼけ味があり、印象的な画づくりができるレンズです。 モノクロの階調もいい感じですね。肌のトーンも滑らかだし、白飛びもしていない。やわらかい影や皮膚の描写も好印象です。最近の人はパソコンに画像を取り込んで、モニターで見て終わってしまう人も多いと思いますが、ぜひプリントまでして欲しいところです。α6600で撮影した写真はプリントしてもとてもきれいです。僕の場合、ラボで印画紙にプリントしてもらうこともありますが、そうするとかなりフィルムに近い描写に仕上げることができますよ。
――ポートレートを撮る時に意識していることはありますか?
ずばり「相手の幸せをそっと祈ってシャッターを切る」ことです。そういった気持ちが、僕の所作や立ち居振る舞いに出るのかな、と思っています。若い学生にはこんなことをよく言います。「私たちは被写体をよく観察しているつもりだけど、被写体は我々カメラマンをもっと観察している。だから、我々が良い心を持っていないと被写体はいい表情を見せてくれないよ」と。だから、人が人を好きになるような写真を撮るには、相手の幸せを願うような清らかな心を常に持っていなければならないのです。
頭上に空があると希望が写る。
緻密に練り上げた構図の妙
――この作品はどのような状況で撮影したものですか?
長野県の小海町高原美術館で写真展をやらせてもらった時、遊びに来ていたトロンボーン奏者の東條あづささんにお願いして撮らせてもらった作品です。美術館の屋上に連れ出して、風景の中で演奏している様子を撮影しました。 ポイントは手前に入れた白樺の葉。風景写真の場合は作画の時に「近景、中景、遠景」という三拍子が揃うと空間に奥行きが出ると言われています。それを意図的に入れて構図をつくりました。近景は白樺の葉。中景が人物、遠景が雲です。この3つがあると、人は安心するんですよね。 ポートレートを撮る時は、頭上に空があると希望が写り、靴まで写すとリアリティが写るというのが僕の持論。ハイヒールを履いているのか、スニーカーなのか、想像させるためにあえて見えないように撮りました。さらに、横位置は状況を述べる、縦位置にすると人の本質に迫る、と思っています。今回は状況を強調し、広くとった空に音を届けるかのように、楽器を上に向けてもらいました。天候が変わりやすい山あいにあるため、雲のグラデーションもいい感じです。 ここでは、コーラス隊を並べたり、女の子に1人でポツンと歩いてもらったり、元野球部の男の子に投げるポーズをしてもらったりと、モデルを変えつつ、いろいろな構図で撮りました。そのくらい被写体を選ばずにいい写真が撮れる構図ということですね。ですから「幸せの構図」ということで、小海町のフォトスポットにしたらどうかと提案しているんですよ(笑)。
――いろいろな構図で長く撮影しているとバッテリーが気になるところですが、バッテリー性能はいかがでしたか?
まったく問題ありませんでした。北海道に4〜5日行った時にもα6600を持って行きましたが、1日かなりハードに使っても、バッテリー切れになることはなかったです。コンパクトなボディの割にはバッテリーが大きいので、スタミナは十分です。
一生を添い遂げたいと思うカメラが
αだという人はもっと増えるはず
――50年近く写真を撮り続けているハービーさんですが、撮り続けることに機材選びは影響するものですか?
そう思います。一番大切なのは、いい写真を撮ることです。それには心が納得するカメラ、愛情を注げるカメラが必要だと考えています。僕には33歳の時にやっとの思いで買ったカメラがあります。このカメラだったら人の心まで写るな、と思いましたし、そう思うからこそ一生添い遂げたい。そういうカメラがみなさんにもあるはずです。それが、ある人にとってはαかもしれない。サイズ、重さ、性能など、心から愛すべきカメラ、人の心まで写せると思うカメラがαだという人は、これから先、たくさん出てくるでしょう。 ソニーの強みは性能の安定感と、あくなき探求心です。今後、ソニーユーザーのプロカメラマンが増えていくことで信頼性が高まりますが、写真活動の相棒としての愛情は後からついてくるものです。αは自然とソニー愛が出てくるような十分な性能を持ち合わせているので、やがて世界中で「αがベストマッチのカメラ」だと気づく人が増えてくるのではないでしょうか。
――ハービーさんのような魅力的な写真を撮りたいと思っているαユーザーに、アドバイスやメッセージをお願いします。
自分の心に則したもの、好きなものを撮ることかな。僕は幼い頃にいじめられた経験もありますが、それでも人間が好きだった。「人の幸せを祈って」というのも印象的な写真を撮るための一つの方法だと思いますし、その人に自然な風が吹くようにアプローチをしてその場の空気に溶け込むのも一案でしょう。とにかく、そのカメラを持つのに恥じない人格を持つことですね。僕の場合、人の心に生きる勇気を与えられているならば、写真家としてとても幸せなことだと思っています。
ありのままの姿を本格的に撮る。
カメラや写真の本質に気付けば時代も変わる
――スマートフォンで撮影する人が増えていますが、ハービーさんはこの状況をどのように考えていますか?
カメラが一般人の手に渡るようになったのが昭和の中盤あたりで、写真表現によって思い出や記録を残すのが一般的になりました。文章も音楽も表現手段ですが、学校には国語や音楽の科目はあるのに写真の授業はないですよね。写真教育がなかったために、今、理性と表現が本来目指すべき方向とは違う方向に向かっている。そんな人が増えています。だから我々は、学生に向けた教育にも尽力しています。 スマートフォンのカメラ機能は非常に便利ですが、本格的に撮るとなったら、やはりカメラの必要性が出てくるものです。突き詰めれば、どんどん良い機材になりますからね。そのためには我々がきちんと写真の楽しさや面白さ、人の役に立つものであることを教えることが大切だと考えています。今、音楽業界でもレコードの価値が見直されているという時代と逆行した現象が起こっています。ある時、アナログなレコードの良さに気づいたんですね。写真もやがて、「スマートフォンよりも本格的なところを目指すならカメラだ」ということに気づく時代が来ると思いますよ。
――世の中に、レタッチ、合成、トリミングを取り入れた新しい価値観を持った作品が見受けられるようになってきましたが、これに対してもハービーさんの思いを聞かせてください。
架空の世界をつくる快感に目覚めたのは、2000年代の始めですよね。でも絶対に飽きる時が来ると思うし、本物が求められる時代が来ると思っています。プリクラでも目が大きくなったり痩せたりする加工ができますが、それは真実の姿ではありません。いつか本物であることの意味が重要視される時代が来るはずです。僕は写真家としてレタッチやトリミングは一切しません。飾らなくても心を打つものは必ずあります。僕は今の時代の波に乗ることなく、時代を超越した写真表現を目指してがんばっていくだけです。いつかみなさんが本物の良さに気づくことを信じて。
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