写真家 井上浩輝 氏 × α7R IV
特集:先進画質×俊敏性。新しい表現領域へ
〜6100万画素と動物対応の瞳AFが実現した革新の写真表現〜
地元・北海道を舞台に野生動物や四季の風景を撮影している写真家の井上浩輝氏。動物対応の瞳AFをはじめとしたAFの性能、そして広ダイナミックレンジ、超高解像だからこそ可能なテクニックなど、井上氏ならではの「α7R IV」撮影法について話をお聞きした。
井上 浩輝/写真家
1979年札幌市生まれ。札幌南高校、新潟大学卒業、東北学院大学法務研究科修了後、北海道に戻り、風景写真の撮影を開始。次第にキタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』ネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。また、北海道と本州を結ぶ航空会社AIR DOと提携しながら、精力的に北海道の自然風景や生き物たちを撮影している。これまで発表してきた作品には、人間社会の自然への関わり方に対する疑問に端を発した「A Wild Fox Chase」というキタキツネを追った作品群などがある。写真集『ふゆのきつね』を2017年に日経ナショナルジオグラフィック社から刊行。また、2017年2月には様々な分野で活躍する人物を取材し、その魅力に迫るテレビ番組「情熱大陸」に取り上げられた。
写真集『ふゆのきつね』日経ナショナルジオグラフィック社
写真エッセイ集『北国からの手紙』アスコム
1度目は現場で、2度目はパソコンの前で。
2度シャッターを切る感覚で作品を仕上げる
――実際にα7R IVで撮影した率直な感想を聞かせてください。
6100万画素という圧倒的な解像度は、とてつもなく気持ちがいいです。拡大した時に非常に繊細に写っていることが本当に気持ちよくて、撮影の充実感があります。動物写真はトリミングせざるを得ないことが多いので、これだけきれいに写っていればかなり自由自在に画角を後から調整できる。まるでパソコンの前で2度目のシャッターを切っているような感覚で、自宅での編集、セレクト作業ができるという印象です。 使用感については、小指がボディに引っかかるようになり、グリップが握りやすくなりました。そのため、必要以上に力をかけなくても快適にホールドできます。シーリングもしっかりしてきて、さらに実用性の高いカメラなりましたね。なかでも僕が嬉しかったのはボタンの進化です。僕は地元の北海道で撮影することが多いので、冬場は必ず手袋をしたままカメラを操作します。α7R IVのボタンを押したときの感覚は「カチカチ」という感じで、手袋をしていてもきちんとボタンを押していることがわかる。とても感覚が良く、撮影しやすくなりました。
動物撮影の基本を変えた!
6100万画素での最高約10コマ/秒連写
――先ほど、「パソコンの前で2度目のシャッターを切っているような感覚」と言っていましたが、具体的にはどのような作業が2度目のシャッターになるのでしょうか?
α7R IVは6100万画素の高解像で10コマ/秒の連写ができますから、まずはその中から好みの1枚が選べますよね。さらに6100万画素もあれば自在にトリミングができる。もう少し被写体に迫りたい、といった時はトリミングしても高解像のままで仕上げることができるのです。つまり、連写の中から最高の1枚を選び、思いのままにトリミングすることが「2度目のシャッター」ということです。
例えば上の写真を見てください。リスが種を食べているシーンを連写で撮影した1コマです。ほんの1秒間に撮影した10コマでも、それぞれの画が違います。でも、このままでは背景がかなりざわざわしているので、もう少しリスに迫りたいな、と思いますよね。でも使っているレンズは単焦点ですから、ズームをこれ以上することはできないし、ここは足もとが不安定なガレ場でさっと近寄ることもできない。そこで、まずは現場ではしっかりとピントを合わせて撮影して、後にパソコン上でトリミングしたのが下の作品です。
これが2度目のシャッターですね。こちらは口元から種がぽろぽろとこぼれているシーンを選びました。トリミングすることで新たな画角を生み出せるだけでなく、超高解像だからトリミングしたことさえ気づかれない。こういった撮りかたができるのはα7R IVならではですね。
――そう考えると、動物の撮りかた自体も変わってきそうですね。
その通りです。被写体をできるだけ画面の中央に置いて、動物の瞳にしっかりピントを合わせる。これさえ間違いなくやっておけば、連写で素敵な瞬間を、そしてトリミングで最高の画角を取り出すことができますからね。人間は0.1秒後、0.2秒後に種がリスの口元からぽろぽろとこぼれるなんて知る由がありません。ですから連写するしかないのです。どう動くのか、どうなるのか、まったく予測がつかないので配置も難しい。そう考えると高解像のα7R IVは、動物撮影初心者でも思い通りの作品に仕上げられる、撮れ高の良いカメラと言えるでしょう。
動物対応のリアルタイム瞳AFが
動いていても食いついて離れない
――動物対応のリアルタイム瞳AFが搭載されていますが、使った印象はいかがでしたか?
野生動物の撮影ではレスポンスの速さが重要になりますが、α7R IVは高画素機の中でもとてもAFが速く正確。そして動物の瞳をしっかり捉えてくれる。ですから撮影者は構図づくりなど、他のことに集中できます。
上のキタキツネは片目がほとんど写っていない状態ですが、最初に両目が見える状態で瞳を捉えてしまえば、顔を動かしても粘り強く動物対応のリアルタイム瞳AFが追いかけてくれます。僕の中では百発百中と言ってもいいぐらいの感覚です。連写でも1コマも瞳を逃さずに捉えていましたから。いろいろな表情を撮れるという意味でも、とても使い勝手が良くなりましたね。夏の終わりの午後、トンボが飛び始めた時期だったので、キタキツネがトンボを目で追い、ふと見上げた瞬間を撮ることができました。 僕の個人的な感覚かもしれませんが、EVFは動物をよく追随している印象です。これはα7R IIIからの高画素化にも関わりがありそうですが、野生動物をAFで追うときは、とても見やすくなったように思います。
下のクマは車での移動中に遭遇し、動物対応のリアルタイム瞳AFを使って撮影しました。目を拡大すると、白目の中に血走った血管まで見ることができます。とても穏やかな表情をしていますが、目だけを見ると野性味を感じますね。そのことがわかるくらい、しっかり瞳にピントを合わせてくれました。毛の黒い部分から明るい茶色の部分まで、階調も非常に豊か。白飛びも黒潰れもなく、毛並みを美しく忠実に再現しています。僕と出会って怯えることもなく自分の世界で何かを考えていたようですが、やはり怖さがあるので落ち着いてゆっくり撮ることはできませんでした(笑)。
動きの速い動物も瞬間を捉えるAF性能。
α7R 遠くから狙える600mmのレンズも便利
――リスのような小動物を撮る時のメリットはありますか?
AFが速いα7R IVは、動きが素早いリスなどの撮影も動物対応の瞳AFと相まってこなせるようになってきているように感じます。上の作品は、手についた松ヤニを一生懸命はがしているエゾリスを撮影したものです。画面下に松の実が写っていますよね。これを食べようと殻を外していたら松ヤニで手がベタベタになってしまい、舐めて拭いているところです。こういう動作をしていると顔を上げるのは一瞬なので、その時にパッと瞳AFが効いて撮れるのは本当にありがたい。今まではピント合わせが大変でしたが、とても簡単にできるので撮影がかなり楽になりました。
上の作品はアルビノのエゾリスです。色素がないため毛が白く、赤い目をしています。おそらく100万分の1くらいの確率でしか生まれてこない珍しい個体ですね。僕はこの個体の生息地を知っているので各季節に撮影していますが、冬に備えて一生懸命木の実を集めているところを、紅葉を背景に撮れたのがとてもうれしい。アルビノは体が弱いので来年まで生きているかわからないし、夏は目立つので敵に狙われやすいですからね。 白一色のリスですが、階調もよく出ていて見たままを表現できました。JPEGで撮ってしまうと暗い部分は沈みがちですが、RAWで撮ると暗いところからも階調がしっかり出てきます。さらにデータ上でもハイライトが粘っていたので、ここまできれいに仕上げることができました。
――今回の撮影では「FE 600mm F4 GM OSS」を多用していますが、使用感はいかがでしたか?
「FE 600mm F4 GM OSS」は被写体からかなり離れて撮影できるので、あらゆるシーンで使いました。距離をとれば動物たちは撮影者やカメラを意識することなく、自然な姿を見せてくれますからね。特にキタキツネの撮影では大活躍。彼らの嫌がるテリトリーに入り込まずに顔を大きく撮れるので、僕にとっては「新しい撮りかた」を提案してくれたレンズと言えます。 性能は、今まで使ったソニーのレンズの中でも文句なしのハイレベル。解像感、AFスピード、ぼけの柔らかさ、切れ味、どれをとっても素晴らしいレンズです。今までこの画角を得るためにはテレコンバーターを使ったり、画角が1.5倍になるAPS-Cのカメラで撮ったりと、画質面での少々の我慢が必要でした。でも「FE 600mm F4 GM OSS」を使えば、フルサイズの高画質でアプローチできる。そこは大きなメリットでしたね。
七色の虹も光のグラデーションも
豊かな階調で印象的なワンシーンに
――今回撮影した作品の中で、お気に入りはありますか?
根室海峡で撮影した、雄のエゾジカですね。雨が降ったり止んだりを繰り返していた夕方、ようやく日が差したと思ったら虹が出てきて、さらに4、5歳くらいのシカが突然姿を現しました。その時、僕は望遠レンズで違うシカを追っていたので、すぐ「FE 16-35mm F2.8 GM」に換えてカメラを構えました。助かったのが、スピードを要するこんな時でも動物対応のリアルタイム瞳AFが効いたこと。通常は手前の草にピントが合ってしまうところですが、α7R IVが捉えたのはシカの瞳。虹を写すために絞って撮影しても動物対応のリアルタイム瞳AFが効いてくれて、最高の作品に仕上げることができました。 虹の部分は階調豊かに表現できましたし、シカに当たっている光と影のグラデーションもきれいですよね。胸のあたりからお尻にかけて夕暮れの光が落ちていて、まるでスポットライトを当てたかのようなドラマチックなワンシーンです。僕が撮影した場所は少し土手のようになっているので、向こうの砂浜が日陰になり、シカを浮き立つように撮ることができました。 実はこの作品、ローアングルからノーファインダーで撮影したもの。かなり低い位置に手を伸ばしてカメラを構え、親指でシャッターを切るようなスタイルで撮っています。こんな風に撮ると、思い通りにピントを合わせることができませんからね。そんな時も動物対応のリアルタイム瞳AFは便利です。
写真表現のプロセスに革新をもたらす
風景撮影で生きる6100画素の高解像
――風景の撮影で解像感を実感したものはありますか?
それについては作品を見ながらお話していきたいと思います。まず下の作品を見てください。
晩秋に向かっていく渓谷を撮った1枚です。明るい木の白い幹から暗い渓谷の岩まで、階調豊かな美しい作品ですよね。次に下の写真。
同じ渓谷を撮影した別カットで、葉の一枚一枚までしっかり見ることができます。さらにもう1枚。
これは十勝岳が噴火した時、被害を拡大させないためにつくられた砂防ダムです。いろいろな構造物があるところで、暗部と明部の階調の豊かさが感じられますよね。上の3つの作品はどれも解像感がある印象的な作品です。
でもこの3枚、実はすべて1つの画像から一部を切り出したものなのです。その元となる写真がこちらです。
実はかなり逆光で撮影しています。多くの人は順光で午後2時ごろに撮る地元では有名な撮影スポットですが、「逆光で撮ったらどうなるのかな」と思い、日の出の時間に行って撮った1枚です。左上からとても強い光が差していて、山肌の上のほうに光が当たっているシーンですね。横に9504ピクセルもある1枚の画像から、長辺が3800ピクセルを越えた4Kのピクセル数で切り出したのが先ほどの3枚というわけです。これはもう絶対にα7R IVでなければできない、新しい写真表現、作品のつくりかたです。 現場で考えることと、家に帰ってから感じることは、やはり違うものです。常に現場ですべての事ができて、素晴らしい作品を撮れればいいですが、それができるのは奇跡に近い。だからこそ現場で撮ったものを家に持ち帰り、もっとすごい作品に仕上げることができそうだと思ったら、その表現をするべきだと思うのです。実際、先ほどの3枚を見てもトリミングしたとは思えないクオリティーですから、写真表現の方法というか、表現に至るまでのプロセスに幅を持たせたのが6100万画素の高解像なのではないかと思います。 元となる写真は白い幹もいい感じに表現できていて、解像度だけでなくダイナミックレンジの広さも物語っています。左上は白が飛んでいるところもありますが、暗いところまで広くレンジが残っているので見ていてとても気持ちがいいです。
――切り出す前の写真もひとつの作品として完成度が高いように思いますが。
当然、そのつもりで撮影しています。でもこのカメラでは「こういうこともできる」ということを知って欲しかったですし、実際に印象の違う作品を切り出すことができたと思っています。 今、若い人たちは撮影で100%の力を振り絞り、家に帰ってからもまた100%の力を振り絞っています。これがソニーのセンサーを楽しむ、クリエイティブな若者の姿です。もし本当にプロの写真家やカメラマンが「現場100%主義」だけでやっていたら、その流れについて行けなくなる時がきっと来ます。画像の後処理は、作品制作にとってそのくらい重要なファクターだと僕は思っています。
豊かなデータを閉じ込めている
驚きの広ダイナミックレンジ
――ダイナミックレンジの広さを実感した作品は、他にもありますか?
どの作品もダイナミックレンジの広さを感じられましたが、特に実感したのは下のシーンです。全体的に暗くて「なんだコレ?」と思いますよね。
実はこれ、空の雲が白く飛ばないように露出アンダーで撮ったものです。つまり白が飛ばないように撮ると、上のようになってしまいます。そして下の写真は手前の白樺の葉が見たままの緑に見えるよう、明るめに撮ったもの。
同じ場所で、同じ時間に撮影し、露出だけを変えて撮影しました。緑を生かそうとすると空が白く飛んでしまって作品になりません。そこで僕は、先ほど見せた暗い写真を現像することにしました。α7R IVの場合、オーバーで撮ったものよりアンダーで撮ったもののほうがコントロールしやすいので、あえて暗いほうを選択。真っ暗な写真を現像してシャドウを持ち上げていくと……。
上のようになりました。空には青さと雲の白さが残っていて、手前の葉の色も思い通り。これはすごいことです!シャドウを持ち上げていくと白い部分が明るくなるので、ハイライトも下げて調整したらこの画が出てきました。シャドウを持ち上げればここまで出せるセンサーの力は本当に素晴らしい!こんなに豊かなデータが閉じ込められているとは夢にも思いませんでしたからね。
今までは、露出を変えて同じ写真を2、3枚撮影し、それを重ねて補正しなければこんな作品に仕上げることはできませんでした。でも少しでも風が吹けば画像にズレが生じる。そう考えると1枚撮りで補正が可能なのは大きなアドバンテージです。データがしっかり残るダイナミックレンジの広さは「α7R IVにしてほんとによかったな」と思う、一番大きな要素ですね。
カメラの進化により広がる表現。
今求められるのは独自の世界観
――カメラの進化はプロのカメラマンや一般ユーザーに、どんな変化や可能性をもたらすと考えていますか?
ストロボの発明、カラーフィルムの登場など、時代とともにカメラは進化してきました。デジタルカメラが発表されてからは撮り直しが効くようになり、多くの人が使うようになった。撮り直しが効くということは、一枚一枚の写真の質がどんどん上がっていくわけです。さらに小型化により、世界の果てまで行って珍しいものも撮れるようになり、AF性能の進化、ノイズの低減により鮮明な写真が撮れて当たり前になっている。そうなるとプロの世界では、新しい動物写真のワールドが必要になってきます。 この数年前までの動物写真は、「苦労」して撮ったものや「珍しさ」という点が動物写真の評価に付加価値として乗じられていっそう高い評価を得やすい傾向があったように感じます。日本の動物写真愛好家には特にそういった傾向があるようです。もちろん、その付加価値には大きな価値がありますが、この数年のカメラの劇的な進化とともに「すごい瞬間」も多くの人々に撮影されるようになり、これも評価の対象になってきました。これだけ多くの人々がかつては憧れていたような素敵な写真を撮れるようになると、プロにはストーリー性や独自の世界観が求められるようになる。勝負の舞台が次のステージに移ったのかなという風に思います。 一般ユーザーの世界では、以前より少ない投資額で10年前のプロのカメラマンが撮っていたようなカメラを手にすることができるようになりました。そういう意味では、趣味のフィールドが一気に広がったと言えると強く感じます。僕もその恩恵を受けている一人です。そして、なかでもα7R IVはスペックも価格も文句なしですから、ぜひ手にしていただき、写真表現の幅をいっそう広げる楽しさをみなさまとともに感じていきたいです。
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