Only Railway鉄道写真家 中井精也 氏
× FE 135mm F1.8 GM Vol.7
美しき鉄道風景を、中井氏がαで撮る!デジタルカメラマガジンとの連動企画を毎月コラム形式でお届けします
みなさんこんにちは。鉄道写真家の中井精也です。
第7回目となる今回のセレクトレンズは「FE 135mm F1.8 GM」。今の時期はどうしても草木など色味が少なくなると思い、このレンズの美しいぼけ味と、キレ味鋭い解像感を武器に撮影に挑んでみようと考えました。
撮影の舞台は、群馬県の上信電鉄です。上信電鉄は高崎駅から、こんにゃくやネギで有名な下仁田駅に至るローカル私鉄で、個性的な車両や牧歌的な沿線の風景から、鉄道ファンの間では人気の高い路線です。この沿線には世界遺産に登録された富岡製糸場があり、観光客の足としても活躍しています。
最初に訪ねたのは烏川橋梁。ここは冬の朝になると背景に日が昇るため、ドラマチックな光景が期待できるのです。まだ辺りが暗いうちから河原に立ち、寒さに震えながら日の出を待ちました。そして日の出の20分前くらいになると、河原の温度がグッと下がり、うっすらと靄(もや)のような川霧が立ちはじめました。
今回ご覧いただく1枚目はその瞬間を捉えたものです。開放F1.8にして列車にピントを合わせ、手前の川面は優しいぼけで表現してみました。
同じ場所から日の出“後”に撮影したものです。すっかり川霧は消えてはしまいましたが、凛(りん)とした空気感が素敵だったのでF4まで絞ってシャープな印象を強くしました。
このように同じ場所でも、状況は刻々と変化します。どちらが正解というわけではなく、異なる表現が撮影できると考えると良いかもしれません。自分が理想とする作品に近づけるために、みなさんもこうした時間の流れと共に表現できることが変えられることを心に留めて撮影に挑んでみてください。
ご覧いただいた1枚目と2枚目は、こんな感じで撮影しておりました。
さて、3枚目は撮影シーンから先にご覧いただきます!この写真からだけで、僕がどんな写真を撮ったのか想像できるかたはいますでしょうか?
答えはこちらです!
あの風景から印象的な1本の木を見出して、それを中心に作品を作り上げました。僕は最初にこの空き地の風景を目の前にしたとき、このレンズであれば、この写真が撮れることが想像できました。
そんなことができるのは、漫然と眺めるのではなく、自分の目を時に広角レンズ、時には望遠レンズにしたりする、レンズの焦点域の感覚が身に付いているからです。「このレンズなら、こう写せる」という感じで、レンズの持つ特長や効果を撮影の度に意識するよう心掛けることで、こうした感覚を身につけることができます。
それとこの写真を撮ってみて驚いたのは、このレンズのぼけの美しさです。大口径単焦点で中望遠レンズの場合、近くにある被写体にピントを合わせ、大きなぼけを生かして撮ることが多いと思いますが、こうした離れた被写体にピントを合わせても、奥の列車が美しくボケたことで、奥行きを感じる立体感が生まれたことに驚きました。
本当に最高の描写を実現してくれたんじゃないかと思います。
4枚目になります。
美しいぼけ味とピント面のシャープさを誇るこのレンズは、何気ない日常の光景さえも幻想的な光景に変えてくれます。ローアングルからの撮影で手前の生け垣をぼかしてみると、まるでイルミネーションのように駅のホームを飾ってくれました。生け垣の奥の赤い色の柵までも、優しくぼけて美しく彩ってくれました。
山の斜面で見つけたサザンカです。これほどみごとなボリュームのサザンカにはなかなか出会えないので、興奮しながら撮影しました。
思いきって主役はこのサザンカにして、列車をぼかしています。まるで背景の列車を、サザンカのゴージャスで美しい自然のフレームが彩ってくれているかのようです。
6枚目になります。
終点の下仁田駅に近づくと、列車は山深い場所を走ります。夕方の光線が差し込む谷で、列車が輝く瞬間を狙いました。暗闇の中で列車だけが浮かび上がる、幻想的な写真になったと思います。
暗部が潰れずに描写されていることで、谷の臨場感が伝わる写真になりました。
今回ご覧いただく最後の写真です。
南蛇井駅。「なんじゃい」と読みます。夕方の傾いた光が駐車場の雑木を輝かせていたので、これを大きな前ぼけにしてアクセントにすることで、ローカル線の優しいのんびりとした風景を幻想的に表現することができました。
何気ない日常風景を絶景に変える可能性を大いに秘めた、今回セレクトしたレンズ“FE 135mm F1.8 GM”。このレンズの魅力に、朝から夕方まで魅了され続けた旅となりました。
それでは来月もこの場所で。中井精也でした。
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