写真家 安彦嘉浩 氏 × α7R IV
特集:先進画質×俊敏性。新しい表現領域へ
〜圧巻の階調表現で魅せる。原点「支笏湖」の多彩な表情〜
数々のコンテストで入賞を果たし、その実力が注目されている若手写真家の安彦嘉浩氏。今回、α7R IVで撮影したのは、自身の写真の原点だという北海道の支笏湖(しこつこ)。時間や天候により、変わりゆくその表情をα7R IVがどう捉えたのか、役に立った機能を含めて話をお聞きした。
安彦 嘉浩/写真家 1989年山形県生まれ。2016年、北海道千歳市に移住したことをきっかけに写真の世界に本格的にのめり込む。全ての心を包み込むような大自然と逞しく生きる野生動物が美しい光とともに紡ぎ出す物語を追い求め、道内を駆け巡っている。一方で、観光ポスター、観光パンフレットへの写真提供など、北海道の魅力を世界に発信する活動にも力を入れている。東京カメラ部10選2019選出。
北海道の雄大な自然に魅せられたことが
本格的に写真を始めたきっかけ
――どのようなきっかけで写真に興味を持ったのですか?
2011年にフィンランドのヘルシンキに留学する機会があり、その時の思い出をきれいに残したいと思い、エントリークラスのデジタル一眼を購入しました。そのころは構図やテクニックなどを何も考えず、思うがままに撮っていましたが、「きれいだね」と褒めてくれる人が多くて写真が楽しくなっていきました。 プロの道を目指して活動を始めたのは、北海道に移住してから。2016年、転職を機に北海道で暮らすようになり、車を買い、道内を旅することで改めて北海道の自然の迫力を実感。いつの間にか旅をすることが目的ではなく、写真を撮ることが目的になっていて、作品として撮ることを意識するようになりました。 なかでも僕が好んで撮影していたスポットは、今回の撮影でも訪れた支笏湖です。かなり頻繁に撮影していたものですから、共通の知り合いを通じて支笏湖観光センターのスタッフに声をかけていただき、観光パンフレットやポスターの写真を撮り始めました。その仕事をしてから自分の写真が人の役に立つことに喜びを感じ、プロとしてやっていけたら、と思うようになったのです。
広いダイナミックレンジで印象的な作品に。
繊細な光を拾うEVFも頼りになる
――風景写真を撮影するにあたり、カメラに求める機能はありますか?
一番はダイナミックレンジの広さです。風景撮影は美しい光を入れ込むために朝夕を狙うことが多いので、どうしても空が明るく、地上が暗い状態で撮影しなければなりません。その状況では、空に露出を合わせると地上が暗めに写ってしまいます。暗く写ってしまった部分をいかに持ち上げられるかが風景撮影では重要です。 αを選んだのも、ダイナミックレンジの広さがポイントになりました。αを購入した2014年には登山をやっていたのですが、山に持って行くなら高画質かつコンパクトなモデルがベターです。フルサイズセンサーのカメラに移行したいという思いもあり、当時自分が一番撮りたいと思ったものと相性がいいと思ったαを選びました。 αで最初に購入したのはα7 II。その後、α7R II、α7R III、α9とカメラも増えていきました。α9は主に動物を撮影する時に使用しますが、リアルタイムトラッキングを使えるようになって撮影が一気に楽になりましたね。それまではフレキシブルスポットで動物にピントを合わせていたので、動物が動いたらピント位置を動かすしかありませんでした。でもリアルタイムトラッキングなら一度ピントを合わせてしまえば粘り強く追随してくれるので、ピントはカメラに任せて構図づくりに集中できます。αは被写体や環境によってカメラを使い分けることができるので、総合的に素晴らしいシステムですね。
――α7R IVで撮影した、率直な感想を聞かせてください。
フルサイズでもトップクラスの高画素により、撮影の幅が広がったように感じます。6100万画素もあるので、横位置で撮影したものを縦位置にトリミングしても高画質を維持できますからね。本来であれば回避したいところですが、バリエーションを撮る時間がない場合もあります。そんな時でも、より良い作品に変えられる、撮影後も作品として昇華できる。それもα7R IVの大きな利点です。 さらに、EVFの解像感にはα7R IIIからの進化を感じました。覗いた時に、より自然に見えて、液晶モニターでは見つけられないような光も拾ってくれる。EVFを通して見ると繊細な光を見つけることができ、そこに注目して写真を撮ることができるようになりました。それが下の作品です。
いつも背面の液晶モニターで構図をつくりながらEVFで確認していますが、見え具合には微妙な差があります。この作品は光がきれいに当たっている部分がわかりやすいEVFのおかげで、そこを強調して撮影することができました。日の出前や日の出後に撮るときはAFも多用します。光が足りないシーンでも迷いなく、しっかりピントを合わせてくれるのでAFへの信頼は絶大です。
自身の原点である「支笏湖」を撮影。
水の美しさを表現できるように心がけた
――今回の作品はどれも支笏湖を撮影したものですが、その意図は?
支笏湖は、僕にとって原点の場所です。車を買って初めてドライブに行ったのも支笏湖ですし、北海道らしさを実感したのも支笏湖でした。温泉街を抜けるといきなり湖が目の前に広がり、温泉街と湖のコントラスト、人工物と大自然に切り替わるコントラストに息を呑んだほど。それ以来、時間を見つけては支笏湖に撮影に出かけています。初めて仕事をいただいたのも支笏湖ですし、原点として大切にしている場所なので、そのさまざまな表情を紹介したいと思いました。 水質日本一を何度も獲得している湖なので、水の透明度や美しさを表現できるように心がけながら撮影しています。さらに、時期によって水位が変動し、湖に沈んだ切り株の見えかたが違ってくるのもおもしろいところ。僕はライフワークとして頻繁に足を運んでいますから、昨日とは違う視点で撮ってみようかな、という心のゆとりが生まれて、いろいろな作品を撮りためることができているのだと思います。
上の作品も通い続けたからこそ撮れた1枚です。ここは晴れている時に撮りたいと思わせるスポットですが、支笏湖は曇に覆われていても魅力的に見えるもの。僕は「支笏湖のダークサイド」と思っていますが、重厚な雲、表情のある雲とともに切り株の歴史を表現することで、異世界のように見せることができるのです。 左奥には雲の隙間があり、太陽の光が漏れていてとても明るく見えます。このようなハイライトが強い場所があっても、手前の切り株から雲の表情までしっかり表現できるのはα7R IVが持つ豊かな階調のおかげですね。
明暗を美しく描き出す豊かな階調は
α7Rシリーズ最大の強み
――先ほど「ダイナミックレンジの広さが風景写真では重要」と話していましたが、α7R IVのダイナミックレンジはいかがでしたか?
画素数が上がったことで1画素あたりのセンサーの面積は小さくなっていますよね。そのためα7R IIIと同等のダイナミックレンジを維持できるのか、正直不安でした。でも実際に使ってみるとまったく遜色がないですし、高解像になったことで拡大するとびっくりするほど細部まできめ細かく写し取っている。仕上がりを見ると、その進化ぶりがよくわかります。
上の作品もダイナミックレンジの広さを物語っています。支笏湖の美笛(びふえ)キャンプ場付近で朝焼けを撮影したものですが、だんだん焼けていく空と比べると地上の湖は暗い。僕は露出を空に合わせて撮っているので、水面の表情、湖に残る今はなき桟橋の杭などは逆光で階調が破綻してもおかしくない状況です。それでもきちんと階調が残っていて、暗部を持ち上げると質感まで見えてくる。これはダイナミックレンジが広くないと表現できないシーンでした。 下の作品は上と同じ桟橋跡を違う方向から撮影したものです。これも空が極端に明るい状況ですが、ハイライト部分の情報はしっかり残っていますし、シャドー部分を上げてもノイズは気になりません。
日が昇った後、長時間露光で雲の流れを表現した1枚です。強くなってきた光を逆光気味に撮ることで、桟橋跡の杭の顔つきも違って見えます。この階調の豊かさはα7R IVに限らず、α7R II、α7R IIIと歴代のα7Rシリーズで共通の強みです。
――拡張の低感度撮影や長時間露光を多用していますが、その理由は?
長年αを使ってきて、僕のなかで風景の魅力を最大限に引き出せるのはF16くらいという結論に落ち着きました。上の朝焼けの作品はシャッタースピード優先で60〜70秒くらいで撮りたいと思いながら設定しました。ISO100にすると30数秒が適正露出になってしまう時は、ISO50にして理想のシャッタースピードになるように調整しています。長時間露光にすると雲の動きを表現でき、さらに支笏湖の水面は波がピタッとやんでいるように見える。静と動のコントラストをつけることができるので、長時間露光は手法のひとつとして使っています。
トリミングもスナップ撮影もあり。
自分の流儀で最高の作品に仕上げる
――下の作品もそうですが、支笏湖はいろいろなものが湖から顔を覗かせていて表情が豊かですね。
この作品、実は横位置で撮ったものを縦にトリミングしています。撮っている時は横位置のほうがきれいだと思ったのですが、家に帰ってパソコンで見ると縦位置のほうが前景の切り株、すりガラスのように反射している支笏湖の水面、遠くに見える恵庭岳(えにわだけ)と雲がバランス良く配置できると気づいたのです。トリミングしても画像サイズは十分ですし、以前のカメラで撮ったくらいの解像度は確保できる。このように自分の表現の幅を広げることができるのも高解像の利点です。 この切り株は、枯れた樹木の根元だけが残ったものです。支笏湖は4万年前の火山の噴火によってできたカルデラ湖なので、今は水で覆われているところにも当時は樹木が生い茂っていました。その名残や長い歴史を感じられるのも支笏湖の魅力といえます。
――こちらの作品は他とはイメージが違う感じがしますが。
ほとんどの作品は三脚を据えて長時間露光で撮影していますが、これはスナップ的に撮影した、僕の中でも珍しい作品です。紅葉がフレームになるように構図をつくり、風不死岳(ふっぷしだけ)をフレームの中に配置。FE 12-24mm F4 G を装着し、葉にグッと近づいて撮影しました。人間の目よりも広い広角で撮ることにより、画面全体の迫力を見せています。かなり不安定な場所から手を伸ばして撮っているので、この時は5軸ボディ内手ブレ補正も役立ちました。 撮影した時は黄色い葉の部分が暗く写っていましたが、シャドーを少し持ち上げるだけで、このくらい鮮やかな黄色が出てくるのですからさすがです。
――色再現性についてはいかがですか?
基本はRAWで撮影して現像しますが、仕上がりがとてもナチュラルな色味なので、記憶や思いに合わせて色をつけたり、強調したり、コントラストをつけたりと、自分で調理しやすい色が出てくるという印象です。カメラ側で「写真はこうあるべきだ」と押し付けるのではなく、「みなさん自由に楽しんでください」という開発の意思を感じます。 撮影、仕上げに関しては写真家それぞれにこだわりがあると思いますが、僕にとっては撮影した素材を最高の作品に仕上げることが重要。固定観念にとらわれず、自分が良しと思うスタイルを貫くように心がけています。
人の目を超えるセンサーの搭載など
今後はハード面での劇的な進化に期待
――今後、α7R IVで撮ってみたい被写体はありますか?
道内にはかっこいい山がたくさんあるので、山に登ってあまり世にでていない写真を撮り、世界に北海道の魅力を発信していきたいと思っています。α7R IVはコンパクトで持ち運びも楽なので登山ありきの撮影には最適です。高解像でトリミングができるので、体力と登山の難易度を加味して重くて大きい望遠レンズを持っていかない、という選択もできますからね。
上の作品はイチャンコッペ山に登り風不死岳と樽前山(たるまえさん)を撮ったものです。急登(きゅうとう)が多くて途中で心が折れそうになりました(笑)。地上からはたくさん撮っている山ですが、山の上から撮ったことはほとんどなかった。がんばって撮りに行ったのは、今後は山の写真も少しずつ撮っていこうという決意の表れです。
――αの進化は風景写真にどのような変化や可能性をもたらすと考えていますか?
リアルタイムトラッキングや動物対応の瞳AFの実装などソフト面について、ここ1年の進化はモンスター的と僕は感じました。ですから次に期待しているのはハード面でのモンスター的な進化です。個人的には、人の目をこえるセンサーが入って欲しいと思っています。そうすると、今までは撮影をあきらめていた、撮影する気にならなかったシーンも撮影できるようになり、誰も見たことのない写真、思いつかなかったような写真を撮れる時代が来るのではないかと思っています。 そんな日が来るのは楽しみでなりませんし、αならきっと実現できるはず。「αで撮りたいものばかりで寝る時間がないよ」と言える日が来るといいな、と思っています。
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