Only Railway鉄道写真家 中井精也 氏
× FE 70-200mm F2.8 GM OSS Vol.9
美しき鉄道風景を、中井氏がαで撮る!デジタルカメラマガジンとの連動企画を毎月コラム形式でお届けします
みなさんこんにちは。鉄道写真家の中井精也です。
今回セレクトしたレンズは「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」です。大三元レンズの一角を担うこのレンズの実力は、もちろん申し分ありません。G Masterが謳(うた)う解像とぼけの両立を、ひときわ実感できるレンズなのではないかと思います!
さて今回の旅の目的地ですが、北海道の札沼線(さっしょうせん)です。札沼線は札幌駅から分岐する路線で、途中の北海道医療大学駅までは電化路線なのですが、そこから先は非電化となります。まるでそれに合わせたかのように、周囲の景色も美しい自然に溢(あふ)れた景色へと様変わりします。ちなみに、末端部分の浦臼から終着駅の新十津川までの列車は、1日1往復です!そんな札沼線の非電化区間ですが、本年、2020年5月6日をもって廃止になることが決定しました。実は札沼線は、学生時代から何度も訪れ撮影してきた思い出がたくさん詰まった路線でもあります。もう世の中は春ですが、そんな僕の想いがたくさんつまった冬の鉄道風景にしばしお付き合いください。
それでは今回最初にご覧いただく写真になります。
深い森の中にぽつんとホームだけがある豊ヶ岡駅。駅の近くにある跨線橋(こせんきょう)から、こんなどこか遠い国の幻想的な鉄道風景を撮影できます。ここは鉄道写真愛好家の間では人気の撮影スポットになっています。列車のライトが優しく光る、ブルーモーメントの時間帯はとても感動的です。
続けて2枚目になります。トップの写真にしたものです。
この写真では乗客が乗り込む一瞬を捉えました。乗客はとても小さく、しかも一部が写っているだけですが、人が画面に入るだけで写真の印象ががらりと変わることがお分かりいただけると思います。 1人の乗客と、うっすらと優しく灯る列車の赤いライト。厳寒の写真でありながらも、温もりを感じられる写真になったと思います。 ここでちょっとした種明かしです。 1枚目も2枚目も手前がほんわり前ぼけになっているかと思います。これは、この橋の手すりに積もった雪を前ぼけさせたものです。
解像力だけでなく、ぼけの美しさもこのレンズの大きな魅力です。そしてこの前ぼけをいれることで、写真に旅情が加わったのではないかと思います。僕がいつも皆さんにお伝えしている「写真想像力」ですが、こうした時にも力を発揮します。
そして撮影している僕です。(笑)こんな装備で撮影に臨んでいました!大型の冷蔵倉庫などで働く作業員が愛用する−30℃にも対応する作業着です!!
3枚目の写真になります。
ここは終着駅の新十津川です。雪に埋もれた車止めがなんともいえない哀愁をそそります。背景の美しいぼけが本当に綺麗(きれい)でたまりません!列車を見せたいため、ぼかし過ぎないよう、あえてF6.3まで絞ってはいますが、それでもここまで美しいぼけが得られます。
ところで、ふと駅舎にある時刻表を見ると、出発するのは10時ちょうどの上り列車のみでした。これがこの駅の始発列車でもあり、最終列車でもあるのです。
さて今回の撮影ですが、思い出がたくさんつまった路線でもあるので、沿線の日常風景を撮ることにも積極的に挑戦してきました。
4枚目と5枚目は続けてご覧ください。
鉄道は廃止になるとすぐに線路が剥がされ、その痕跡が消えてしまいます。だからこそ、確かにそこには列車が走っていたことを、しっかりと記録しておきたかったのです。のんびりと過ごす道産子や、レトロな駅前のレンガ倉庫、僕が記憶に残しておきたいと思った被写体を探しながら撮影しました。
6枚目になります。
この写真の主役は、ご覧の通り木製の電柱です。
このような電柱ならば、ローカル線に赴けば、すぐに見れると思われるかもしれませんが、実は日本中を探してもほとんど残っていない稀少な電柱です。とりわけ設備の近代化が著しいJRでは珍しく、廃止されることがほぼ決まっていた札沼線だからこそ、設備を取り換えずに残ることができた奇跡の電柱と言っても良いかもしれません。
興味のない人からすれば、ただの古い電柱かもしれませんが、僕のような鉄道ファンにとっては、国宝級の被写体なのです!わずか1日1往復しか走らない区間ですが、この電柱との組み合わせは、僕としては外せない撮影ロケーションです。
今回ご覧いただく最後の写真になります。
−10℃まで冷え込んだ朝。奥には石狩川から上がった気嵐(けあらし)が、低く流れています。そこを横切るのは、新十津川行きの始発列車にして最終列車となる、一両編成の鈍行列車。
FE 70-200mm F2.8 GM OSSは、この札沼線の最後となる冬景色を、まるで僕の心に刻み込むかのように、幻想的に描写してくれました。確かにここに線路が存在し、確かにそこを列車が走っていたこと。
極寒の大地を毎日走り続けたその姿を、僕はずっと忘れないでしょう。
それでは来月もこの場所で!中井精也でした。
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