鉄道写真に大きな恩恵をもたらす
被写界深度の深さと動体がゆがみにくいシャッター
〜「RX10 IV」の知られざる実力に迫る〜
鉄道写真家 広田尚敬 氏
60年以上にわたり鉄道写真を撮り続け、現在も精力的に撮影を行っている鉄道写真家の広田尚敬氏。ソニーのカメラを初期から使い続けている広田氏が、今回手にしたのは24-600mmの高倍率ズームレンズを搭載し、約24コマ/秒の連写を実現したレンズ一体型デジタルスチルカメラ「RX10 IV(DSC-RX10M4)」。鉄道撮影で生きた機能を中心に、カメラの魅力をお聞きした。
広田 尚敬/鉄道写真家 1935年東京生まれ。1960年よりフリーランスの写真家として活動。1968年の初個展「蒸気機関車たち」で独自の表現世界を展開して評判となる。1988年に設立された日本鉄道写真作家協会の初代会長をつとめるなど「鉄道写真の神様」として日本の鉄道写真界を牽引してきた。2012年『私鉄特急』60分DVD付を上梓(講談社)、ナレーションも広田氏本人が行っている。著書に『永遠の蒸気機関車』(JTBパブリッシング)、『最新版 電車大集合1922』(講談社)、『Fの時代』(小学館)など多数。
幼いころから大好きだった鉄道。
その本能は今もあり、撮影を続けている。
――長年、鉄道写真を撮り続けている広田さんですが、どのようなきっかけで鉄道写真を撮り始めたのですか?
鉄道好きが高じて写真を撮り始めた感じですね。小さいころから電車が好きだったらしく、「1歳くらいから電車を見て喜んでいた」と母親から聞いています。物心もつかないうちから電車が好きだったくらいですから、僕の中にはそういう本能みたいなものがあったのかもしれないですね。 カメラを初めて手にしたのは中学3年生の時。修学旅行で関西方面に行くことになり、東京では見ることができない電車が走っていると思い、父親にカメラを借りて撮影しました。蛇腹式のカメラでしたが、当時はあまりうまく撮れなくて(笑)。でも写真のおもしろさに取りつかれてしまって、東京に帰ってからもカメラ熱は冷めやらず、夢中になって撮影に出かけました。それが、ずいぶん経った今も続いている、という感じです。 カメラは時代とともに進化を遂げているため、現在に至るまでありとあらゆるカメラを使ってきました。今もたくさんのカメラを持っていますし、気に入っているものは古いものでも現役で使っています。
――ソニーのカメラはいつごろから使うようになったのですか?
最初に使ったソニーのカメラはNEX-5です。小さいカメラで良く撮れそうだし、センサーがAPS-Cサイズだったので、鉄道撮影には向いていると思い購入しました。APS-Cサイズは被写界深度が深く、鉄道撮影に最適ですからね。使ってみて気に入ったので、その後はNEX-5N、NEX-7も使用しました。今は同じくAPS-Cサイズのα6600、1.0型センサー搭載のプレミアムコンパクトカメラRX100などを使っています。
動体のゆがみが少なくレンズ交換も不要。
新たな視点を発見できる「RX10 IV」
――今回、撮影で使用した「RX10 IV」の印象を聞かせてください。
僕がもっとも重視しているカメラの機能は、動体のゆがみが少ないことです。動体のゆがみによって列車が斜めに写ってしまうカメラもありますからね。でも今回使用した「RX10 IV」は、このゆがみがほとんどなく、しっかりと列車を写すことができました。これだけで「良くできているカメラだな」と思いましたね。 さらに、高倍率ズームレンズを搭載しているのも魅力です。24-600mmという幅広い画角をカバーできるのは本当に便利。場所を移動しなくても自由に画角を変えられるのは大きな強みといえます。 こういった超高倍率のズームレンズを使うと、予期しなかったような写真が撮れたりするものです。「この辺が標準かな」と思いながらも、自在に寄ったり引いたりできるので「こんな画もあったのか」といった発見がありますからね。新たな視点が見つかると、そこからいろいろ試すこともできるので「写真がうまくなりたい」と思っている人にも向いているカメラだと思います。 これだけ広い焦点距離をカバーしていれば、レンズ交換の必要もありません。レンズ交換に手間取ってシャッターチャンスを逃すこともありませんし、レンズを何本も持っていく必要がないので荷物も軽くて済む。荷物が重いとそれだけで疲れてしまい、撮影意欲が削がれてしまいますが、このカメラなら軽快に撮影にのぞめます。
瞬間を逃さない約24コマ/秒の高速連写性能で
選びの幅が広がり、好みの1枚を作品に
――鉄道写真では連写を多用すると思いますが、「RX10 IV」の連写性能はいかがでしたか?
走っている電車をカメラで捉えるわけですから、連写性能は高いに越したことはありません。「RX10 IV」は最高約24コマ/秒という圧巻の連写性能。これだけ細かく瞬間を捉えることができれば、選ぶ幅が広がり、より自分好みの1枚を選ぶことができます。
上の作品も連写が生きた1枚です。最高約24コマ/秒で撮ったものを繋ぎ合わせると、動画かと思うくらい滑らかな映像になりますからね。それだけ隙間なく撮影でき、ベストの瞬間を逃さず捉えてくれます。実は、連写で撮った静止画を動画にしてみました。見てみてください。連写は、このような使いかたも楽しめるのですよ。
上の作品には「北風超特急」というタイトルをつけました。見る人によっては、車窓からの風景にも見えますし、葉っぱが超特急の電車のようにも見えますよね。列車ばかりに目を向けず、列車を想像させるような被写体を見つけて撮るのも楽しいものです。 こういったシーンでも高い連写性能が不可欠です。この時はだいたいの距離を想定して置きピンで撮影しました。葉が画面の中に入るタイミングを見計らいノーファインダーで追いかけて捉えたのですが、約24コマ/秒の連写ができなければ背景も葉もいい位置で捉えることはできなかったでしょう。 下の作品は踏切を急いで渡る少年を連写したものですが、少年と影を見比べると少し違和感があるのがわかりますか?
実はこの影、少年の一歩前の影なんです。写真の少年は右足で蹴って左足で着地しようとしていますよね。ところが影は右足のほうが長く映っている。普通はこうはなりませんが、最高約24コマ/秒という高速連写で撮るとこのような状況が起こり得るので「やってみよう」と思って撮ってみました。見た人が「気がつくかな?」とちょっとワクワクするような、なぞなぞのようなものですね。普通に撮るだけではつまらないと思ったシーンでも、このような遊びができる。そんな隠れたおもしろさがあるのも、このカメラの楽しいところです。
アンチディストーションシャッターで
「直線」に写せるのが最大の魅力
――先ほど「動体のゆがみがほとんどない」という話をしていましたが、具体的にそれがわかる作品はありますか?
例えば上の作品。夕日に照らされた秩父鉄道のSL列車を撮影したものですが、こんな風に接近して横から撮影すると、車両が斜めに写ってしまうことが多くあります。でも「RX10 IV」は高速で動く被写体がゆがみにくい「アンチディストーションシャッター」なので、直線を直線として写すことができる。鉄道写真はゆがんでいては話になりませんから、こういう機能があるのはありがたい限りです。 しかも高倍率ズームレンズでありながらこれだけの透明感を出すことができ、すっきりとした気持ちのいい作品に仕上げることができました。画質的には少し硬めの表現になりますが、そこが鉄道写真には向いていると思います。
上の作品はテレ端で撮影したものです。画面手前から奥に向かって走る185系特急「踊り子」を撮影したものですが、この車両はやがて全て新車両に置き換わってしまうので、卒業を意識して後姿を撮影してみました。
この1枚は複雑な架線が特長ですが、レンズゆがみがなく、しっかりと直線に写っている。レンズ一体型のカメラなので、余計にビシッと出るわけですよ。いろいろな面がシビアになるテレ端でもこれだけしっかり撮れるのは素晴らしいことです。
「踊り子」は現在3形式で運行されていますが、今のうち(2020年内)であれば185系「踊り子」の貴重な姿を撮ることができます。
奥行のある情景までピントを合わせる
被写界深度の深い1.0型センサー
――鉄道写真において、1.0型センサーだからこその利点はありますか?
1.0型センサーは被写界深度が深いので、こちらに向かって走ってくる電車の顔から後方車両まで全体にピントを合わせることができます。フルサイズのカメラは基本的にピントが浅いですし、レンズの性能にもよりますが、あまり絞り過ぎると光の回折現象が起きてしまう。でも1.0型センサーはもともと被写界深度が深いので、広範囲にピントを合わせることができます。 下の作品も、深い被写界深度で画面奥までしっかり写すことができました。奥に江ノ電が見えますが、電車だけにとらわれず、あえて周囲の情景も大胆に入れ込んでいます。
ゴチャゴチャした感じを出すために、手前の電信柱を入れ、行き交う車を画面の中に多く入れています。でもあくまで主役は江ノ電ですから、奥までしっかりピントが合ってくれる1.0型センサーだからこそ撮ることができた被写体といえますね。
上の作品は海沿いを走る江ノ電です。層になっている砂岩から車、奥の住宅地まで深くピントが合っていますよね。僕はこういった情景を入れ込んだ電車の写真が好きです。電車だけでなく、周りの風景までしっかり写すことにも1.0型センサーは貢献しています。
それに砂岩が層になっている部分。ザラザラしている質感が見てとれて、もし触ったら少しザラっとしていて、砂が少し落ちるかもしれない。実際は触れないですけど、そういう質感が伝わるのも1.0型の高い解像度があってこそ、だと思っています。
ズームアップして手持ちで撮影しても
手ブレ補正があるので安心
――下の作品はどのような場所から撮影したのですか?
東海道線と横須賀線が並んで走っているシーンですね。これは神奈川県の戸塚駅と大船駅の間にある有名な撮影スポットから撮影しました。ちょうどカーブになっているところに歩道橋が架かっているのですが、歩道橋の上は金網が張られていて撮れないので、歩道橋の階段から撮影しました。 安全のために塀があるので、背伸びしながら液晶モニターを動かし、手持ちのハイアングルで撮っています。安定感がない体勢だったので、この時は光学式手ブレ補正に助けられました。このカメラは600mmまでの超望遠撮影が可能なので、手ブレがシビアに出てしまうこともあります。そんな時でも手ブレ補正があると安心です。 鉄道の撮影スポットは、安全を考慮して障害物が多くあります。三脚を立てられない場所も多いので、何かと手ブレ補正は役に立ってくれますね。
自分が好きなカメラで撮る。
それが楽しく快適に撮る秘訣
――今回の撮影した作品はすべて16:9の画角になっていますが、何か意図はあるのでしょうか?
最近は撮影した作品をモニターで見る人が多いと思うので、デフォルトの3:2ばかりではなく16:9の画角も新鮮で楽しいことを提案したいと思いまして。16:9で撮影するとなかなかシャープな感じがして良いですよね。
今回は目的地に行くまでに「16:9で撮ろう」と決めていましたが、普段は、「こういう画を撮りたい」と思って出かけることはほとんどありません。写真は「いただくもの」と考えているので、現場に行って「いただけるもの」を写真に収めるというスタイルです。とにかく安全第一で、どこにも失礼がないようにいただいています。
――広田さんのような写真が撮りたいと思っているユーザーのみなさんにメッセージをお願いします。
ぜひ自分に合っている、気に入ったカメラを持ってフィールドに出かけて欲しいですね。僕自身も好きなカメラで撮影することをポリシーとしていますし、そのほうが撮っていて楽しいですから。決して高価だから、人気があるから、というものではなく、自分に合っているもの。もちろん「RX10 IV」も選択肢のひとつですし、その特性を考えても「自分に合っている」と思うアマチュアカメラマンはきっと多いはず。いつもと違う写真が撮りたい、と思っている人はぜひ手にとって、操作感やフィット感などを体感して欲しいと思います。
最後に今回紹介しきれなかった、広田尚敬氏が「RX10 IV」で撮影した作品を、ぜひご覧ください。
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