特集:CP+で届けたかった思い
「『高画素機』を選ぶか、『高速連写、高速・高精度AF機』を選ぶか。『α』という最先端の切り口で撮る動物写真の今。」
写真家 井上浩輝 氏
残念ながら中止になってしまったカメラと写真映像のワールドプレミアショー「CP+ 2020」。ここでは、ソニーブースのスペシャルセミナーで講師のみなさんが伝えたかった思いとともに、セミナーのために撮り下ろした珠玉の作品群をご紹介します。今回は、キタキツネを中心に北国の野生動物たちの姿を豊かな感性で写し出す井上浩輝氏が、動物対応のリアルタイム瞳AFなど、αの先進機能で撮影した作品とともにその魅力を語ります。
井上 浩輝/写真家
1979年札幌市生まれ。札幌南高校、新潟大学卒業、東北学院大学法務研究科修了後、北海道に戻り、風景写真の撮影を開始。次第にキタキツネを中心に動物がいる美しい風景を追いかけるようになり、2016年に米誌「National Geographic」の『TRAVEL PHOTOGRAPHER OF THE YEAR 2016』のネイチャー部門において、日本人初の1位を獲得。自然と人間社会のかかわりへの疑問に端を発した「A Wild Fox Chase」というキタキツネを追った作品群を制作、発表してきた。写真は国内のみならず海外の広告などでも使用されている。2019年には、代表作『Fox Chase』のプリントが英国フィリップスのオークションにおいて27,500ユーロで競落され、その動物写真がコンテンポラリーアートとして取引の対象にもなりはじめている。
写真集『ふゆのきつね』日経ナショナルジオグラフィック社
写真エッセイ集『北国からの手紙』アスコム
〜Special Message〜
井上氏がスペシャルセミナーで伝えたかった思いとは
カメラとレンズの目覚ましい進化により
思い通りの作品が撮れるようになった
1年ほど前に動物対応のリアルタイム瞳AFが搭載されて以来、撮りたいと思っていた画がいとも簡単に撮れるようになったという実感があります。今までは動物の瞳にピントを合わせることに集中していましたが、今はカメラが自動的に瞳にピントを合わせてくれる時代です。個人的には特にキツネについては認識率と撮影結果がかなり良いと感じており、その結果、構図や焦点距離、被写体との距離感など、ピント以外の部分に集中できるようになりました。仕上がりを見ると、自分の想像でしかなかった素敵な光景がようやく自由に撮れるようになった、と強く感じます。 個人的にはα9 IIの連写性能が少し良くなった感じがして、以前は撮るのが大変だった決定的瞬間も撮りやすくなったという印象です。さらにミラーレス専用設計のレンズの性能が高いのもαの魅力です。 例えば「FE 400mm F2.8 GM OSS」で撮影する場合、F5.6やF6.3では被写界深度は深くなり、カメラ本体の性能がそこそこでも何となくピントが合ったような写真が撮れてしまいます。しかし、 F2.8で撮るとなれば話は別。ピントがかなりシビアになり、カメラ本体のAFの速さや正確性が必要以上に求められるからです。 カメラの性能が上がったことで、明るい開放でも難なく撮れるようになったのは私にとって大きな喜びです。撮った後、写真の中に出てくるぼけも溶けていくようにきれいですし、その美しいぼけが動物に立体感を与えてくれますからね。人間の目で見たのとは全く違う世界を表現できるのが、また面白いところです。
上の作品は前回の「CP+」が終わって最初に撮影した、晩冬の北海道・野付半島での1枚です。CP+に向けていろんなものを撮った後は、同じような素敵な作品をもう一度撮ることができるのか心配になるものです。そんな思いのなか、この1枚を撮れたことがとてもうれしかったので、「CP+ 2020」では最初に紹介しようと思っていました。 野付半島はエゾシカの越冬地になっていて、冬になると100頭、200頭という数のエゾシカたちが集まって来ます。風が強くて過酷な場所ですが、強風のため雪が積もらないのでエサとなる草を探しやすく、海藻や塩分も摂れるのでエゾシカたちにとっては過ごしやすいのでしょう。そこで夕暮れ時に大きなオスのエゾシカを見つけました。角の枝分かれが4つにもなっていて、しかも変形している。鹿は年とともに枝分かれが増えていくので、このエゾシカはおじいちゃんです。おじいちゃんが1頭だけ群れから外れて、まだ生えてこない草を探している。その姿があまりにも切なくて、愛おしくて、写真に納めたいとカメラを向けました。 いつもなら望遠レンズを使うところですが、エゾシカのシルエットも空も素敵だったので、「FE 16-35mm F2.8 GM」にレンズを変え、ローアングルで撮影しました。逆光の中でAFを効かせるのは大変な作業ですが、α7R IIIになってからはピントが合わないことがほとんどなくなりましたね。さらに解像感が高く、空のグラデーションも階調豊かに表現できました。僕はこれを大きくして見てみたくて、横1800mm、縦1200mmという畳よりもはるかに大きいサイズにプリントしました。それでも驚くほどきれいで、拡大するとシカの足元にあるハマナスのトゲまで見ることができます。この解像感は本当に素晴らしく、大きくプリントした時に写真が新しい次元でカッコよくなるのです。 α7R IIIも申し分ないカメラでしたが、今はさらに進化したα7R IVがリリースされていますので、ここからはαの先進技術により撮れるようになった作品の数々をご紹介したいと思います。まずはα7R IVで撮影した作品からご覧ください。
撮影の視点が変わるほど衝撃だった
α7R IVの驚異的な解像感
α7R IVでまず語るべきことは有効約6100万画素の解像力でしょう。下の作品は伸びをしているキタキツネです。α7R IVを手にしてからずっと、動物の毛並みを解像感豊かに美しく撮ってみたいと思っていました。たくさんのキタキツネを撮りましたが、なかでもキツネの毛を一番リアルに面白く表現できたのがこの1枚です。
以前は「目にピントを合わせよう」ということばかり考えていましたが、この時は「面白い構図で撮りたい」と思い、伸びをした瞬間、キツネの体が対角線にはまるように構図を決めて撮影しました。使用した「FE 70-200mm F2.8 GM OSS」はα7R IVとの相性がとても良く、豊かな冬毛の1本1本まで見ることができるほど解像します。背景のぼけもとてもきれいで、かなり優秀なレンズですね。
α7R IVを使うようになって、撮影の視点が少し変わったように思います。「動物たちの毛並み」に注目することは、今までの自分にはなかったこと。これは新しい発見でした。この撮りかたをするようになってからは粘って撮ることが多くなりましたが、楽しい瞬間がずっと続くようで常にワクワクしています。
最高約20コマ/秒でなければ撮れなかった
雪原を泳ぐように走るエゾリス
ここからはα9 IIで撮った作品です。下は雪原を泳ぐように走るエゾリスですがこれこそα9 IIでなければ絶対に撮れなかった作品といえます。
この冬に撮影した作品の中で個人的に「最高だったな」と思う写真がありまして、そのうちの1枚が上の作品です。雪の中でエゾリスの動きを観察していて、「あ、走る」と思った時にファインダーを覗いてシャッターを押すだけで撮れてしまうのですから驚きです。この時はリアルタイムトラッキングAFの拡張フレキシブルスポットで撮影したので、フォーカスしたリスがピント枠から少しずれてもしっかりピントを合わせつづけてくれました。 しかも最高約20コマ/秒の高速連写が可能ですから、瞬間を逃さず、確実に仕留められます。この時も高速連写で撮影しましたが、1つ前のカットも次のカットも僕が望んでいるカットではなかったので「奇跡の1枚」といっていいでしょう。いつか「飛ぶ動物シリーズ」を撮ってみたいと思っていたので、それが最初に実現できた最高の一瞬でした。
野生動物撮影では600mmのレンズが大活躍。
α6600を使えばさらに距離を伸ばせる
続いては、進化しつづけているレンズの話をしたいと思います。
昨年はずっと一緒に過ごしていた、と言っていいくらい「FE 600mm F4 GM OSS」を持って出掛けていました。動物と適切な距離感を保つことができるレンズで、特にキタキツネの撮影では大活躍。このレンズは被写体を浮き上がらせるような美しいぼけ味で、目で見たものとはまったく違う世界を見せてくれるのが魅力です。400mmに比べてAFが遅くなる、不正確になる、ということはまったくなく、むしろ重量のバランスがよくてとても撮影しやすいレンズでした。
上の作品は北海道にいるアルビノのエゾリスです。私がずっと追いかけている個体で、「いつか一面の緑を背景にこの子を撮りたい」と思っていました。白い毛は透明に近いものもあり、太陽の光が当たるととても明るく写るため撮りづらくなります。ですから直射日光が当たらない薄曇りの日を選んで撮影に出かけました。 背景のぼけがとてもきれいに溶けていて、撮影した画像を見た時は本当にびっくりしました。エゾリスが立体的に見えて、まさに浮き出てくるようですよね。この画を見た瞬間に、「FE 600mm F4 GM OSS」を使って良かった、手に入れて良かった、と実感しました。このレンズを使えばきっとこの先の撮影も楽しくなる、と期待も膨らみましたね。
上は、秋の始まりのころ、美しい逆光の中にたたずむ子ギツネを捉えた作品です。左側から強烈な太陽光が差していますが逆光耐性がとても良く、白飛びを抑えた豊かな光を撮ることができました。現像で少しシャドウを持ち上げましたが、そうするとキツネの影になっていた部分が鮮明に見えてきます。逆光をよりふんわりと見せられるのはα9の広いダイナミックレンジがあるからこそ。幻想的な写真をつくり出す、という意味でも、ダイナミックレンジの広さは非常に重要ですね。
こちらは北海道で古くから生きていると言われる動物で、げんこつよりも小さい、エゾナキウサギです。このくらい小さいと、被写体を大きく写すのはかなり大変です。そこでカメラをα6600に変えて撮影しました。αはセンサーサイズが違ってもマウントは共通なので、レンズを使い回すことができるのも利点です。α6600はセンサーがAPS-Cサイズですから600mmのレンズを装着すると1.5倍の900mm相当で撮影することができます。そうすると背景はきれいにぼけますし、エゾナキウサギを大きく撮ることができる。贅沢かもしれませんが、α6600という極めてAFが速いカメラで600mmのレンズを使うのもまた楽しいものです。 エゾナキウサギはとてもすばしこいので、高速AFはとても頼りになります。出てきたと思ったらすぐに隠れてしまいますし、ガレ場に出没するので簡単には近づくことができません。撮り手側のリーチの長さが非常に大事になってきますから、APS-C機を使うことも選択肢の1つになるわけです。
美しいぼけで場の空気感を高める
「FE 400mm F2.8 GM」の圧倒的な表現力
次はα9シリーズと、今、僕が一番気に入っているレンズ「FE 400mm F2.8 GM OSS」の組み合わせで撮った作品をご紹介したいと思います。下は雪の中にたたずむアルビノのエゾリスです。
降り積もる大粒の雪とアルビノのエゾリスの組み合わせは、僕がどうしても撮りたかった被写体のひとつです。カメラや上着に降り積もる音が聞こえるほどの大きな牡丹雪が降る中で撮影しましたが、フラッシュを使わなくても雪のぼけをきれいに写すことができました。フラッシュを使うと光が届くところまでしか表現できませんが、この作品では使っていないので、手前の大きな粒から奥の小さな粒までいろいろな大きさの玉ぼけを見せることができました。「FE 400mm F2.8 GM OSS」の美しいぼけ味が、場の空気感をいっそう高めてくれた、という感じですね。 雪の中の撮影では、AFの性能が良すぎると雪にピントを取られてしまうことがあります。しかし、α9シリーズには動物対応のリアルタイム瞳AFがあるので安心です。この機能を使うと動物の瞳がカメラの中で最優先になりますから、他のものにピントを合わせる可能性が激減します。だから雪の中でも動物の写真が撮りやすくなりました。
上の作品は、青いエゾエンゴサクの花と、紫色のカタクリの花が咲く場所でエゾリスを撮ったものです。太陽が昇った直後に撮影すると太陽の光が柔らかく、横から光が当たるので顎の影が腹にかからずに撮ることができます。とてもきれいにエゾリスを写すことができる瞬間があるので、その時間を狙って撮影に向かいました。 この時は1.4倍のテレコンバーターをつけて撮影しました。テレコンバーターをつけるとぼけが汚くなる、AFが遅くなる、といった懸念がありますが、少なくともα9+「FE 400mm F2.8 GM OSS」+1.4倍のテレコンバーターの組み合わせは、親和性が高い印象です。作品を見ていただくとわかりますが、解像感も豊かで、撮影時もAFが遅くなったという感覚はありませんでした。リスが立ち上がって顔を上げている時間はせいぜい1秒くらいですから、テレコンバーターをつけても速いAFのままで撮影できてとてもありがたかったです。 AFの速さや正確性など、カメラの性能を引き出すにはソニーのミラーレス専用設計レンズを使うのが一番です。特に動きが読めない野生動物の撮影ではAFの性能が重要になるため、カメラの性能を最大限に引き出すことができるレンズでなければいい作品を撮ることができません。そういう意味でも「レンズは純正一択」と僕は考えています。
難しいキタキツネの撮影を多くの人が
挑戦するようになったのはαの進化があってこそ
僕は長い間αを使ってきましたが、これまでに目を見張るほどの進化を遂げています。先日、たまたまデータを整理していたらNEX-5で撮った写真を見つけたのでディスプレイに映してみました。2010年くらいの写真ですが、このころはピントを合わせるのに一苦労でした(笑)。 NEX-6になった時にEVFが実装されて、被写体を望遠レンズで追いかけるのがとても楽になったことを覚えています。さらにα6000ではAFが驚くほど速くなって画素数も一気に上がりましたが、今度はノイズとの戦い。でも、α7R IIになるとノイズも減少し、ISOでいうと2段ぐらい高い設定で撮れるようになりました。このように、その後もαは時代とともにユーザーの声に応えながら、思い通りの作品が撮れるように進化してきたのです。 α9 IIはこの4月のアップデートにより、電源オフ時にシャッターユニットが閉じるようになりました。レンズ交換時にゴミやホコリがイメージセンサーに付かないようにするための機能ですが、これは僕にとってかなりありがたかった進化です。アップデートしてから1回もセンサーにホコリやゴミが付いていないくらいですからね。このようなちょっとした改善がスピード感を持って行われるところもソニーの良いところだと思います。 多くの進化のなかで、僕にとって革新的だったのは動物対応のリアルタイム瞳AFの搭載です。これは撮影シーンを変える、と思うほどの衝撃でした。今、インスタグラムやツイッターのハッシュタグで「キタキツネ」を検索すると、たくさんの人が撮影していることがわかります。撮るのが難しく、以前は誰も見向きもしなかった被写体でしたが、今は多くの人が楽しそうに撮影している。この変化は本当にすごいこと。少なからず僕もこの火付け役になったという自負がありますので、「ね、楽しいでしょう?」という感じです。 たくさんの人がキタキツネを撮影していることは、僕にとってもうれしく、楽しいことです。これだけたくさんの人が難しかったキタキツネの写真にチャレンジするようになり、思い通りの作品を撮れるようになったのはαの進化のおかげと言ってもいいでしょう。僕もこの進化した機能を駆使して、これからも誰も撮ったことがない野生動物たちの姿を撮りつづけたいと思います。
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