FE 12-24mm F2.8 GM 徹底レビュー
写真家 桃井一至 氏
フルサイズミラーレスのパイオニアとして進化を続けるソニーα、今やシステムの充実度も著しいが、豊富なレンズラインアップにまたひとつ強烈な個性をもった革新的な1本が加わった。このソニーが誇る最高峰レンズブランドG Master、注目のレンズをレビューする。
ソニーレンズ群のなかで、もっとも広範囲を撮れる超広角ズームレンズが、FE12-24mm F2.8 GMだ。この12mmという数値が小さなほど広範囲を写し込めるわけだが、人間の視覚に近いとされる50mm標準レンズの画角、47度に対して、122度という圧倒的な広さを誇る。手を左右に広げた状態が180度だから、どれくらいの範囲かを想像してほしい。
広角レンズは広範囲を見渡せるだけでなく、遠近感(パースペクティブ)も強く現れる。遠近感とは手前にある被写体と背景がどれくらい離れるかという視覚効果で、対比のおもしろさが広角レンズの醍醐味。
手前の木々の様子を画面に入れながら、湖畔に建つ洋館を撮っているが、すぐ近くにある枝葉と向こう側の様子が誇張され、独特の開放感が伝わる。葉っぱの描写もソニーの最高技術を結集したG Masterらしい精緻なもの。α7R IVの約6100万画素の高解像とのあわせ技で、拡大再生しても惚れ惚れするほどだ。 このようなシーンはピントを合わせる場所が困りがちだが、ここでは上部から下がる枝葉に合わせている。
本レンズでもっとも注目したいのは開放F値だ。開放F値はレンズの明るさを示す値だが、この焦点距離で全域F2.8もの大口径超広角ズームレンズは唯一無二。(2020年7月広報発表時点。ソニー調べ) レンズの明るさは暗いシーンでの手持ち撮影やぼけを生かしやすく、表現の幅が広がるのがメリット。ボディ内手ブレ補正と高感度特性の高いカメラと組み合わせれば、夕景、夜景シーンを三脚なしで軽快に楽しめる。
またG Masterは開放からの高画質に定評があるが、一般的にレンズは一定数絞り込むことでより画質向上するため、レンズが明るいとゆとりを持って表現を検討できる良さもある。広角レンズの室内などの撮影では、直線基調の柱や梁が画面端で弓なりに見える歪曲収差が気になる方もいると思うが、カメラメニューの「レンズ補正」を併用すれば、気にすることもない。
広角レンズは写せる範囲がひろいぶん、画面内に多くの情報が飛び込んでくる。画面の隅々まで気を配りながら、主題に近寄り、大きく捉えるのがうまく写す秘訣だ。そこで気になるのは近接撮影能力だが、本レンズの最短撮影距離は0.28m。
最短撮影距離はセンサーの基準位置から測るため、レンズ先端からは約12.5センチになる。夢中になるとうっかりレンズを被写体にぶつけてしまいかねない距離のため、くれぐれも注意したい。また広角では画面内の小さなものへのピント合わせが多く、フォーカスエリアは「フレキシブルスポット(S)」がおすすめだ。オートフォーカスは4つのXDリニアモーターで、半押しとほぼ同時に無音のまま、ピントが合いストレスは皆無。動物対応の瞳AFも俊敏で、ペット撮影が楽しくなることうけあいだ。
超広角ズームレンズともなると逆光時のフレアやゴーストも気になるところだが、このレンズの逆光耐性には舌を巻いた。まさに新開発のナノARコーティングIIの賜物だと思うが、これまで数多くのレンズを使用してきたが「技術の進歩は本当に凄い」と感じさせられた。
最近、楽しむ人が増えてきた動画だが、静止画とは違った性能が要求される。一例として、ピントの位置で画角が変わるブリージングを見てみよう。 映像は人形から、奥の壁へとピントを動かしている。非対応レンズでは、ピントが動くにつれて、画面周辺が徐々に広がり広範囲が見えてくる。一方、本レンズはぼけ量が変わるだけで、映像はいたって自然だ。ほかにもズーム操作でピント位置のずれるフォーカスシフト、同じくズーム操作で中心位置がずれる軸ズレなど、静止画とは違う高度な要求にもしっかり答えている。静かでスピーディ、かつ正確に動くAFだが、もともとビデオカメラの歴史が長いメーカーだけに作り込まれた印象だ。
この2-3年でレンズ交換式カメラ全体が、ミラーレスへと大きく舵を切った。そのなかでもソニーはフルサイズミラーレスを他社に先駆けて、世に送り出し、純正レンズは実に豊富な数を誇る。 スチルカメラからシネマカメラ、フルサイズからAPS-Cまで共通の「1マウント」での展開をはじめ、カメラ発展の死活を分けるレンズマウントも、仕様開示を早々に行い、レンズ専業メーカーも味方につけて、他を圧する品揃えだ。 その百花繚乱のなか、本レンズはオンリーワンの特長を持つ個性派の一本。大口径ズームレンズでありながら、小型軽量で防塵防滴も備え、作り、写りともに上質。一頭地を抜く存在であるのは間違いない。
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